2019年06月08日

骨董品店

これは知人から聞いた話。



彼は今でこそ、金沢市に住んでいるが、元々は九州の生まれだという。



東京の大学に進み、東京での生活にも慣れ、卒業と同時に東京の会社に



就職した。



しかし、仕事に馴染めず、半年ほどでその会社を辞めた。



勿論、すぐに次の仕事が見つかると思っていた。



しかし、その頃は、転職など侭ならないほどの不景気。



当然、次の就職先など簡単に見つかるはずはなかった。



しかし、故郷の九州に戻るつもりなど無かった彼はそのまま東京に残る決断をした。



ただ、やはり生活の為のお金というものは稼がなくてはいけなかったので、



取り敢えずはバイトをしながら良い就職先を探す事にした。



しかし、いざ、バイトを探そうとするとなかなか良さそうなバイトは見つからない。



これはという時給の仕事は内容がハードだったり、また逆に内容が良さげな



バイトは時給が安かった。



そんな時、彼は大学自体の先輩からバイトの仕事を持ちかけられたという。



そのバイトは以前、その先輩がやっていたものらしく、仕事内容が楽な割に



時給はすこぶる良いという。



そして、そのバイトはどうやら人間性の信用が必要らしく、公の求人は



一切行わず、人づての紹介でのみ、バイトを採用するのだという。



そして、どうやら最近までそのバイトをやっていた先輩は、故郷に帰る



事になったらしく次のバイト候補を探していたという事だった。



それなら、ということで彼は先輩に連れだって早速その骨董店に向かった。



骨董店は古い街並みが並ぶ下町の一番奥に店を構えていた。



こんな辺鄙な所に店を出してもお客さんなんか来るのか?



彼はそう思いながら、先輩の後について店の中に入った。



店の中は、何個かの裸電球がぶら下がっているだけの薄暗い空間だった。



所狭しと置かれた何処の国の物とも分からない様な不思議な形の物が乱雑に



並べられ、そこには一応値札らしきものも掛けられている。



彼と先輩の後について店の一番奥まで行くと、そこにはどう見ても年齢が



80歳・・・・いや、そろそろ100歳に近いのではないか、と思えるような



容姿の老婆が店番をしていたが、先輩の顔を見ると、ニタリと笑って、



それが、お前の代わりになるのかい?



と気味の悪い顔で笑った。



先輩は、



はい。そうです。これで約束は守りましたから・・・。



そう言うと、彼を残してその場から逃げるように立ち去ったという。



1人残された彼は、何処を見たら良いのか、視線を泳がせていたが、



老婆は、年齢には似つかわしくない程のギラギラとした眼で彼をじっと



見つめていたのが彼には恐ろしかった。



だから、彼はその時、そのバイトを断ろうと思っていた。



しかし、店主の老婆がすぐにバイトの説明を始めてしまう。



勿論、聞く気など無かった彼なのだが、その内容を聞いているうちに気持ちが



揺らいでしまったという。



その仕事内容の楽さと、それに相反する様な高額のバイト料。



それは彼にとっては、とても魅力的なものに感じられた。



なにしろ、バイトに来る日数も自由、そして仕事といえば、店主の代わりに



椅子に座って店番をすることだけ。



そして、その対価としてのバイト料は、通常の時給の5倍ほどもあった。



だから、彼はその場ですぐにバイトとして雇ってもらう事にして、その日から



働き始める事にした。



そして、彼が店番の椅子に座るのを見届けると、店主は、それじゃ!という



言葉を残して店から出て行ってしまった。



本当にあの店主が言っていた通りのバイト料が貰えるのだろうか?



そう思いながら、彼は真面目に椅子に座ったまま、じっとお客さんが



訪れるのを待った。



しかし、そろそろ外も暗くなるというのに、まだ客は一人もその店に来る



事は無かった。



こんなに客が来ないのに、この店はやっていけるのか?



そう思って、本当にバイト料が貰えるのか、心配していた時、ちょうど店主が



戻って来た。



そして、御苦労さん!と言いながら、その日のバイト料を支払ってくれた。



バイト料が日払いで貰えるとは思ってもいなかった彼は、とても喜び、



しかも、その額はほんの3~4時間ほどしか働いていないというのに、かなりの



金額であり、彼は驚いたという。



そして、それからは、毎日出来るだけ多くの時間、その店で働く事にした。



しかし、相変わらず、彼がその店で働きだしてから客というものは一人も来た事が



無かった。



しかし、バイト料がきちんと支払われている以上、彼が心配する事でもなかった



から、彼は、出来るだけ余計な事は考えないようにしてバイトの時間を過ごした。



お客さんが来ない以上、やる事など限られていたが、それでも店内に並べられた



骨董品のすすを払ったり、店内を掃き掃除したりして過ごした。



さすがに、それくらいはしないとバイトとして働いていると実感出来ない程



暇でしょうがなかった。



だから、毎日、必ず文庫本を持ってバイトに行った。



読書でもやっていなければ、とても時間を持て余してしまう。



しかし、毎日持っていく本を用意するのもなかなか大変であり、そのうち、



彼は店番の椅子に座りながら居眠りするようになった。



薄暗い店内は、寝るにはちょうど良い暗さで、更にお客さんも誰も来ない



のだから、まさに昼寝のし放題だった。



しかし、ある日、いつものように昼寝をしていると、何処からか鳴き声のような



ものが聞こえてきた。



それは、人間の物とは思えない声であり、『泣く』というよりは、『鳴く』と



いう表現がぴったりくる感じだった。



彼は思わず立ち上がり、その声が聞こえる方へと歩き出した。



沢山の骨董品の間を声を殺して静かに進んだ。



何か店の中から沢山の視線が自分の事をじっと見ている気がしたという。



そして、しばらく進むと小さな鉄製のドアの前に出た。



鍵がかかっており中の様子は窺え知れなかったが、どうやらその声は間違いなく



その鉄のドアの向こうから聞こえてきていた。



と、その時、突然、店主が戻って来た。



彼は店主の老婆の元に行くと、鉄のドアの向こうから声が聞こえてきた事



を説明し、そのドアの向こうにはなにがあるのか、と尋ねた。



しかし、店主は表情一つ変えずに、



あそこには入ってはいけないよ・・・・。



もし、入ってしまったら命の保証は出来ないからね・・・。



なあに…大したことじゃない。



お前が、変な好奇心さえ起こさなければそれで安全なのだから・・・・。



そう言われてしまったという。



さすがに彼も気味が悪くなり、そのドアには近づかない事にした。



本当は店主の存在自体、得体の知れないところがあり、まるで、いつも自分の



行動を監視しているかのようにタイミングよく戻って来る。



何かがおかしい・・・・。



彼はそう感じ始めていた。



ただ、やはりそのバイトの高時給は魅力的であり、彼にはそのバイトを続けるしか、



今の生活を維持していく方法は無かった。



そんなある日、彼が店の中を掃除していると、何故か店主が戻って来て



彼に向ってこう言った。



私はこれから少し遠方まで行かなくてはいけない・・・。



だから、もしもその間に、○○○さんというお客が来たら、お前は例のドア



の鍵をその人に渡しておくれ・・・。



そして、鍵を渡したら、お前はしばらくの間、店の外で待機して居て欲しい。



呼ばれるまで絶対に中に入ってはいけないよ・・・。



もしも、入ってしまったら、あのドアの中を見てしまう事になる。



そうなったら、私にはお前を助ける術は無いんだから・・・。



そう言うと、ドアの鍵を椅子の上に置いたまま、そそくさと何処かへ



出掛けてしまった。



彼は、初めて客が来るという事で店内を色々と掃除して回った。



そして、その店に働くようになってから初めて店に陳列されている骨董品



なるものをまじまじと見ることになった。



其処には、中国や中東、エジプト、そして日本と世界中から集められた



であろう、不気味としか言いようのない品々が並べられており、そのどれもに



彼にはとても手が出ない程の高価な値札がぶら下がっていた。



まさに、ホラー映画に出てくるような気味の悪い物ばかりだったという。



こんな物を高い値段を出して買う奴なんているのか?



まあ、そもそも客が1人も来ないんだから、どうしようもないけどな・・・。



そんな事を思っていると、突然、店の引き戸が開けられた。



そこには、とても背の高い大柄な男が立っていた。



その男は、



○○○ですが・・・・。



とだけ告げると、どんどん彼に近づいてきて彼の手から鍵を受け取った。



そして、彼をじっと見つめていた。



彼は、きっとこれは、早く店の外に行け!と言っているのだろうと思い、そそくさと



店の外に出た。



そして、店の外で電柱にもたれかかりながら時間をつぶした。



ただ、彼の心臓はかなりドキドキしていた。



何かヤバい危険なものにでも遭遇したかのように・・・・。



確かに、その男は大柄で物腰は柔らかかったが、その眼はギラギラとした、



ある意味、常軌を逸した目であった。



そう、彼が依然、テレビで見た事のある連続殺人鬼と同じ目。



しかし、店が普通でないのだから、その店に来る客も、きっと普通ではない



のだろうと思い、彼は余計な事を考えない様にした。



その男はなかなか出てこなかった。



それにしても、この店の前の道というのは誰も通らない。



通行する人がいないのに、どうして、こんな辺鄙な場所に店を出したのだろうか?



そんな事を考えながら彼は時間を潰していた。



すると、1時間ほど経った頃、店の引き戸か開いて、その男が出てきた。



更に、常軌を逸した目で彼を見て、口ま中にはクチャクチャと何かを



噛んでいるのが分かった。



男は無言で鍵を彼に渡すと、そのままフラフラと何処かへ消えていった。



男が去り、店の中に戻った彼だったが、店の中には何か錆び臭い匂いと



ナフタリンの様な匂いが混ざり合った匂いで充満していた。



彼は思わず、店の引き戸を開けて空気の入れ替えをしようとした。



しかし、どうにも匂いは消えてくれなかった。



その時、彼は思った。



もしかしたら、鉄のドアの向こうにある物が匂いの原因なのだとしたら、



そのドアも開けなくては匂いは消えないのではないか?と。



いや、実際はそうではなかったのかもしれない。



やはり彼はその鉄のドアの向こうが見たくて仕方が無かったのだから。



そして、ほんの少し前に、先ほどの男が間違いなく、そのドアの向こうに



入ったのだ。



きっと、あのドアの向こうにあるのは、そんなに危険なものではないの



ではないか?



そんな気持ちに彼が駆られていたのだから・・・・・。



彼は急いで、店の引き戸を閉めると中から鍵を掛けた。



そして、店主から渡されていた鍵わ持って、その鉄のドアに近づいた。



鍵は簡単に開いた。



中は薄暗かったが、そのうちに目が慣れてきた。



何か、オブジェの様なものが置かれているのが分かった。



彼は手探りで明かりのスイッチを探すと、それはすぐに見つかった。



スイッチを入れる。



それは店内の明かりとは全く異質の、眩いばかりの明るい空間になった。



そして、彼はそこで固まってしまった。



そこに置かれていたのは、オブジェなどではなかった。



干からびたミイラの様な物が、鎖に繋がれた状態で其処に立っていた。



彼は唇が震えているのを感じたが、何故か、そこから視線を外せなかった。



どうやら、其処に立っているのは何かのミイラで間違いなかった。



そして、それは女性の様であり、長い髪の毛がかなり抜け落ちて床に



散らばっていた。



そして、その腕の肉が何かにそぎ落とされた様に大きくえぐれていた。



と、その時、一瞬、その女性のミイラらしきものの口が動いたような気がした。



彼はすぐに明かりを消して、再びドアに鍵を掛けて、店内に戻った。



彼の心臓は早鐘の様に鼓動を速くしていた。



彼は必死に、今見たモノを忘れようとしたがそれは叶わなかった。



あれは何なんだ?



人間なのか?



それとも、別の何かなのか?



そう考えていて彼はふと、あの男の事を思い出した。



一体、あの男は、あの部屋で何をしていたんだ?



男が出てきた時、何かを咀嚼している様にクチャクチャと口を動かしていた。



そして、大きくえぐられた腕の肉。



それを繋ぎ合わせた時、彼は突然、強烈な吐き気に見舞われた。



トイレに行き、吐ける物全てを胃から吐き出した。



それでも、吐き気は収まらず、彼は胃液を吐き出して、その苦しさに



もがいた。



彼は知らぬ間に涙を流し続けていた。



それは、悲しさでもなく、辛さでもなく、自分でもよく分からない涙だったが、



彼にはもう、その場にとどまる事は出来なかった。



彼は急いで店の引き戸に向かうと、閉めてあった鍵を開けて外に出た。



そして、一気に走りだした。



少しでも早くその店から離れたかった。



自分でも訳が分からない程の大声を出しながら走っていたが、周りの目は



全く気にならなかった。



そして、無意識のうちに彼は自分のアパートに戻り、そして、それから数日間



寝込むことになった。



そして、数日後、ようやく正気を取り戻せた彼は、すぐにあの店に電話して



バイトを辞める事を告げた。



店主は、



それじゃ、バイト料だけでも貰いに来ればいい・・・・。



と言って、彼を店に来させようとしたらしいが、彼はそれを即答で断った。



すると、店主は、彼に向ってこう言ったという。



やっぱりお前も見てしまったんだね・・・・。



そうだとしたら、ちゃんと次のバイトを探してきて貰わないと・・・。



じゃないと、本当に命を落とす事になるから・・・・と。



そこで、彼は全て理解できた。



どうやら、彼にそのバイトを紹介した先輩も、きっとあのドアの向こうを



見てしまったに違いなかった。



そして、自分の命を守る為に、俺を引き換えとして差し出したのだ、と。



しかし、彼には次の犠牲者を探す事は出来なかった。



そんな事をしてまで生き残りたくないとさえ思った。



それに、次のバイトを連れて、再びあの店に行く事だけは絶対に避けたかった。



それから、彼は引っ越しをし、携帯の番号も変えて、ひっそりと暮らしている。



そして、彼にバイトを紹介した先輩というのが、全く連絡がつかなくなってしまい、



そのうちに、人づてに行方不明になっているのだと聞いた。



彼は言っていた。



あの店は、絶対に普通の店ではない。



そして、あのドアの向こうにあったミイラのような女は、何者なのか、は



分からない。



ただ、あの女はいまだにミイラになっても生き続けており、そして、あの男に



少しずつ、食べられているのではないか・・・・。



そう言っていた。



もしも、いまだにその店がその場所に存在しているのだとしたら、是非



一度訪問してみたいと思っている。



もしかしたら、俺も既にそのドアの向こうのモノに魅入られてしまっているのかも



しれない。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:32│Comments(0)
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