2019年06月08日

帰宅した夫

これは霊感がある知人女性から聞いた話。



その日、彼女は仕事を早めに切り上げて買い物をして自宅に戻った。



まだ7歳の1人娘の誕生日がその日だったから。



だから、彼女は誕生ケーキを買い込んで、そして、いつもの誕生日よりも



豪華な料理を作った。



精魂こめて・・・・。



料理作りは娘さんも手伝ってくれたという。



そして、二人で料理を全て完成させると、テーブルに座って娘と二人で



夫の事を色々と話した。



こんな事があった、あんな事もあった、と。



お父さんの事、好き?



と尋ねると、



うん!大好き!お母さんとおんなじ位に!



と答えてくれた。



夫は数日前から出張に出掛けていたが、彼女の携帯に、連絡が入っていた。



今日は誕生日だから、絶対に帰るから・・・と。



出張の予定が入った時から、夫は娘の為に誕生プレゼントを事前に買って



家の納戸に隠していた。



娘にはばれないように・・・。



テレビを観る気にはなれなかったという。



彼女は、テーブルで娘と二人きり、夫の帰りをじっと待っていた。



すると、突然、玄関のチャイムが鳴った。



いつもは、必ず聞こえる、駐車場に車を停めている音は聞こえなかったが、



彼女はそれにも、気付かないふりをした。



玄関の向こうから声がする。



ただいま・・・・・遅くなってごめん・・・・。



間違いなく夫の声だった。



彼女はすぐに玄関のドアを開けて、笑顔で夫を迎えた。



おかえりなさい・・・・ご苦労様でした!



そう声を掛けると、部屋から娘も走って来る。



おとうさん、おかえりなさい!



ずっとおかあさんと二人で待ってたんだよ!



そう言うと、夫は満面の笑みを浮かべてくれた。



家の中に入り、部屋へ行くと、夫は着替えようともせず、そのままいつも



自分が座っているテーブルの席に座った。



彼女は娘と二人で料理をテーブルに運び、最後に大きな誕生ケーキを



テーブルの真ん中に置いた。



部屋の電気を消して、ケーキに7本のキャンドルを立てた。



そして、その間に彼女が隠してあったプレゼントを夫に手渡した。



娘は、キャンドルの火を一生懸命に吹き消した。



そして、再び、部屋の明かりを点けて、ケーキを取り分けた。



それから、夫から娘にプレゼントが渡された。



ずっと欲しがっていた大きなぬいぐるみ。



娘は、満面の笑顔で、そのぬいぐるみを抱きかかえて部屋の中を走り回る。



とても、静かで出幸せな時間だった。



と、その時、娘が夫に言った。



ねえ、おとうさん、着替えないの?



いつもはすぐに着替えるのに・・・・・。



それに、お風呂だっていつもなら先に入るのに・・・・。



また、お仕事に行かなくちゃいけないの?



夫は少し困った顔をしていたが、すぐに笑顔に戻って、



○○の誕生パーティの方が大事だから・・・・。



だから・・・・。



そこまで言い掛けて、彼女が割って入る。



ほら・・・せっかくの料理が冷めちゃうぞ~



早く食べて!食べて!



その言葉に娘もいつもの笑顔に戻って、ケーキと料理を交互に食べ始めた。



こらこら・・・・そんなに慌てなくていいから・・・・。



夫は嬉しそうな笑顔で、そう優しく言った。



彼女も、娘と一緒に料理に手を伸ばす。



夫は優しき笑っているだけで、料理にもケーキにもいっさい、手をつけなかった。



でも、彼女は、何も不思議ではなかった。



それで十分だと思ったという。



この時間が永遠に続いてくれれば・・・・。



そう思っていた。



そして、お腹が一杯になった娘は、彼女に抱かれながらスースーと



寝息をたて始める。



夫はしばらくの間、その様子を幸せそうに見ていた。



そして、彼女の方へと向き直り、真面目な顔でこう言った。



もう、君はきっと知ってるんだろうな・・・・。



賢い女性だからさ・・・・。



今日は本当にごめん・・・。



もう疲れちゃったよ・・・。



君には本当に悪いと思うけど、○○の事、お願いしてもいいかな?



僕はもう行かなくちゃいけないみたいだから・・・・。



その言葉を聞いた途端、彼女の眼からは大粒の涙がボロボロと



流れ落ちた。



それを見て、夫はそっと優しく肩を抱いてくれたという。



そして、彼女がひとしきり泣き終えると、



それじゃ、いかなくちゃ・・・・。



そう言って夫は娘の頬を指で優しく撫でた。



彼女は、娘を抱いたまま、夫の顔をただ見つめていた。



ごめんな・・・迷惑ばっかり掛けてしまって・・・・。



本当に駄目な夫であり父親だったよな・・・・。



夫にそう言われて、彼女は首を横に大きく振るしか出来なかった。



そして、彼女は、



今までありがとう・・・・。



大丈夫だから心配しないで!



今日だって約束を守ってくれたし、最高のお父さんだったよ!



そう言うと、夫は少し照れくさそうに笑った。



そして、その笑顔のまま、夫は少しずつ薄くなっていきやがて



見えなくなっていったという。



しかし、彼女は少しも驚かなかった。



昼間、彼の夫が車の事故で死亡したという連絡が入っていたから。



すぐに現地に行かなければいけないとは思ったが、彼女はそれを



一日だけ延ばした。



きっと、真面目な夫が娘の誕生日の為に、家に戻って来るという確信が



あったから。



そして、夫はその通りにしっかりと家に戻ってきた。



そして、彼女や娘と最後の団らんの時間を作ってくれた。



それが、何より嬉しかったという。



確かに短い時間ではあったが、間違いなく夫は自分達のすぐ近くに居て、



そして、大切な最後の思い出を作ってくれた。



それは、彼女にとっても娘にとっても、かけがえのない宝物になるはずだから。



娘は、そのまま朝まで寝かせる事にした。



彼女自身、夫との思い出に浸りたかったから。



朝になり、彼女は泣きながら暴れる娘に一苦労したが、それでも何とか娘を



説得して、二人で現地へと向かった。



彼女を待っていた夫の遺体はとても幸せそうな顔をしていたという。



しかし、それから困った事がひとつだけあった。



それは、夫がそれから毎年、娘の誕生日になると、突然戻って来て彼女と娘を



驚かせているという事。



勿論、彼女には再婚する気など無いというから、いったい何が困るのかと聞けば、



どうやら、それからも娘さんは父親が死んだという事は信じられず、



ずっと、友達にこう話しているのだそうだ。



私のお父さんは仕事が忙しくてずっと遠くまで行ってるんだけど私の



誕生日にだけは毎年きちんと戻って来てくれるんだよ!と。



自慢げにそう話す娘さんの幸せそうな顔を見ていると、いったいどうやって



父親が本当に死んでいるのだという事を説得すれば良いのか、迷ってしまう



のだそうだ。



それに私はどんどん歳をとっていくだろうけど、夫はずっとその時のまま



なんだもん・・・。



なんか、不公平だよね・・・・。



そう嬉しそうに話してくれた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:34│Comments(2)
この記事へのコメント
また泣かされました。素晴らしいお話ありがとうございます。
Posted by マサヒロ at 2019年06月11日 16:10
残された人はどんどん歳を取るんですよね。

「このオバサン誰だよ、なんて言わないでね」
って
女のキモチf^_^;
Posted by とも at 2019年06月08日 22:45
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count