2019年06月08日

山奥の電話ボックス

それは以前から知る人ぞ知る電話ボックスだった。



携帯やスマホの普及で、あれほど町中に乱立していた電話ボックスが



今では見つけるのが困難な程にその数を激減させてからもう久しい。



それでも、たまに町中で公衆電話ボックスを見つけると懐かしい気持ちに



なってしまうし、更にその電話ボックスを使って電話している人を



見かけたりすると、”あの人・・・携帯とか持ってないのかな?



と余計な心配までしてしまう。



そんな数少なくなった電話ボックスがとある山奥にあるのである。



しかも、その場所には民家も無く、人が集まる様な施設も無い。



だから、最初、その話を聞いた時は眉唾物だと思った。



いくら不便な場所だからといって、採算の取れない場所に電話ボックスを



設置し続ける事など在り得ないと思ったからだ。



だから、俺達はその電話ボックスを確認しに行った事がある。



まあ、どれだけ暇人だったかは容易に想像できるとは思うが・・・。



その場所を知っている方に、手書きでそこまでの地図を描いてもらい、



現地に向かった。



しかし、目印なども的確に書いてくれたにも拘わらず、その場所に



辿り着くまでに3回も道を間違えて引き返した。



そして、車の通行も困難な道に差し掛かり、もうこれ以上は無理だから



引き返そうと話していた時に、その電話ボックスは目の前に現れた。



まさに、森の中に隠れるようにしてポツンと1台の電話ボックスが



立っていた。



俺達はその意外性に嬉しくなってしまい、車を降りると、その電話ボックスを



調べ出した。



どこから電気を取っているのか?



そう思って色々と周りを見るが、電源が取れそうな物など何も無かった。



もしかして、もう使えないんじゃないのか?



そう思って、受話器を取ると、ツーという連続音が聞こえた。



確かにこの電話機は生きている。



どこから電気を供給しているのかは分からなかったが、確かにその電話は



使用する事が出来るようだった。



そして、実は俺達がそこまで執拗にその電話ボックスを探したのには



理由があった。



それは、その電話ボックスにかかって来た電話を取った者は必ず死ぬという



噂であり、その電話ボックスから電話をかけると、目的の相手にはつながらず、



霊と話が出来る、というものだった。



在りがちな話ではあった。



しかし、そんな意味不明の場所にいまだに設置され続けている電話ボックス



という事実が、その話の信ぴょう性を後押ししていた。



俺達の中で一番度胸があり、いつでも真っ先に現場に飛び込んでいくSという



友人がポケットから10円硬貨を取り出すと受話器を外し、効果を投入した。



そして、自分の携帯に電話をかけた。



ボックス内の電話機は相手を呼び出している音が聞こえている様だが、



Sの携帯はいっこうに電話がかかってきた様子は無かった。



そして、次の瞬間、Sが、あっ!と声を出した。



どうやら電話が繋がったようだった。



勿論、それはSの携帯ではなかった。



そして、Sは



この電話はどこに繋がってますか?



ちょっ・・・ちょっと待てよ!



そう言ったきり、黙りこむ。



そして静かに受話器を電話機に戻した。



何故か投入した10円硬貨がそのまま戻ってきた。



俺達はSに駆け寄って、いったい誰に電話がつながったのか、を尋ねた。



すると、Sは、少しこわばった声で、



いや、分からないんだ・・・。



でも、女の声だった。



そして、最後にこう言った・・・。



あんた・・・・死ぬから・・・・。



そう言って電話が切られたんだ・・・・。



Sの顔は少しだけ蒼褪めていた。



俺達は、さすがに気味が悪くなり、もう二度とその場所に近付かない事にして



その場でその電話ボックスをバックに記念撮影をした。



そして、来た道を戻ったのだが、やはり何度か道に迷い家に到着したのは



3時間以上、後の事だった。



それから、俺はすっかりその電話ボックスの事など忘れてしまっていた。



そして、それは他の友人達も同じだった。



Sを除いては・・・・。



Sは、それから毎晩、あの電話ボックスの夢を見るようになったという。



いつもSは一人きりで森の中の電話ボックスの前に立っている。



すると、突然、ボックス内の電話が鳴り始める。



そして、受話器を取って、耳に当てるS・・・。



すると、電話は既に切れており、彼が入っている電話ボックスのガラスに



顔を持たれ掛けるようにして、女が中を覗いている。



彼は必死で電話ボックスから逃げようとするが、ボックスのドアが



全く開こうとしない。



すると、その女はボックスの下の隙間から何故か体を滑らせるようにして



ゆっくりとボックスの中に入って来る。



そして、ボックスの中でSの顔を覗き込むようにして自分の顔を



近づけてくる。



いつも、そこで彼は夢から目覚めた。



体中がびっしょりとするくらいに大量の汗をかき、呼吸も乱れていた。



そして、その毎晩続く悪夢のせいかもしれないが、Sの体が会う度に



どんどんと痩せていくのが分かった。



そして、俺は悪夢の話を聞いた時、もしかして?と思い、その場で撮影した



記念スナップを拡大プリントしてみた。



すると、電話ボックスの前でポーズを決める俺達の後ろ、ちょうど



Sの斜め後ろに、Sの顔を見つめている女の姿が写り込んでいた。



これなのか?



嫌な予感がした俺は、急いでAさんの元を訪れた。



相変わらず、面倒気誘うな対応に少し腹が立ったが、それでも頼れるのは



Aさんしかいない俺は、必死で頼み込む。



すると、Aさんは、こう言った。



これって、多分、誰かが作為的にこの場所に設置した電話機じゃないですかね?



ほら・・・電話機の色がピンクでしょ?



これって、公衆電話機の色ではないんですよ。



つまり誰かが管理している電話機って事ですね。



誰かを呪い殺す為に・・・。



しかも、無作為に相手を選ばずっていうのが驚きですけどね!



そう言った。



そして、



まあ、誰が人間がこの電話ボックスを設置したのは間違いないんでしょうけど。



でも、ここに写っている女は間違いなく悪霊ですからね。



このままじゃ、Kさんの友達・・・・間違いなく死にますよ・・・。



その女が言ったとおりに・・・。



Aさんに、そう言われると、さすがに背中に寒気が走った。



ただ、Aさんは、こうも言った。



まあ、でも、ここ数日で死ぬという事も無いと思いますから、時期を見て



その場所に行ってみる事にしますかね!と。



俺は一安心して、その場から帰った。



しかし、その後、すぐに俺にSから連絡が入った。



あっ・・・Kか?



実は、例の女から今、電話がかかってきた。



もう一度、電話ボックスのある場所まで1人で来れば助けてやる、って。



だから、俺はこれから1人であの場所に行こうと思う。



だから、もしも、明日になっても俺と連絡がつかなかったら、あいつらと



一緒にあの場所まで俺を探しに来てくれないか?



もしかしたら、その時には俺はもう死んでるかも知れないけど・・・。



そう言って電話は切れた。



とても思い詰めた様な口調だった。



俺は急いでAさんに電話をかけて、その事を伝えた。



すると、Aさんは、



Kさんの友達だけあって、本当に呆れるくらいの馬鹿揃いですよね?



まあ、類友ってやつですかね・・・。



1人で電話ボックスに来いっていうのは、さっさと殺してやるから今すぐ



そっちから来い!



って言ってるんだってどうして分からないんだろ?



これじゃ、楽しくて呪いの幽霊稼業も辞められませんよね・・・。



そんな嫌味を言われた。



ただ、その後に、面倒くさそうではあったが、



それじゃ、これから行くしかないですよね・・・。



せつかく見たいドラマがあったのに・・・・。



と言ってくれたので、俺は急いでAさんのマンションまで迎えに行く事にした。



マンションに着くと、Aさんが前に待っていてくれていた。



そして、車に乗り込むと、



急いだ方が良いですよ・・・。



手遅れになる前に・・・・。



そう言われ、俺は車を飛ばし、山奥の電話ボックスを目指した。



しかし、昼間でもあれほど迷った道だ。



いったい何回道に迷えば辿りつけるのか・・・。



そう考えていたが、今回はそうはならなかった。



なんとAさんが道案内をしてくれるのだ。



あっ、ここの先は左に行ってください・・・。



次の分れ道は右ですから・・・。



といった具合に・・・。



俺はAさんに、



凄いね・・・もしかして以前行った事あるの?



それにしても、カーナビより便利じゃん!



と思わず口にしてしまうと、Aさんから思いっきり頭を叩かれた。



そして、その理由を聞いてみると、霊的に大きな乱れが存在する場所は



行った事が無くてもなんとなく行き方が頭に浮かぶのだそうだ。



それじゃ、今度から心霊スポットに行くときにはAさんを連れていけば



便利かも知れないね!



と言うと、



いつまで馬鹿な事を続けるつもりなんですか?



これ以上、私の時間を浪費させるのは勘弁してくださいよ!



とたしなめられてしまった。



そうこうしているうちに、目の前に電話ボックスが現れた。



車を停止させて車外へ出る。



何故か異様に空気が冷たく、そして重たい。



そして、電話ボックスの中を見ると、Sが1人で電話ボックスの中で



もがいているのが見えた。



俺とAさんは電話ボックスに走り寄った。



すると、Aさんは、そのまま電話ボックスの扉を開けて、中に居たSを



ボックスの外へと引きずり出した。



そして、おもむろに受話器を掴むと、



あんた・・・・こんな事して何になるの!



ほんと、馬鹿ばっかりなんだから・・・。



私と本気で喧嘩する気あるの?!



あんたのせいでドラマが見れなかったんだからね。



責任取りなさいよ?



大声でそう怒鳴りつけると、Aさんは、そのまま受話器でガラスを叩きだした。



そして、しばらくそれを続けていたが、やはりムカついていたのか、もう一度



受話器を握ると、大声で受話器に向かって、”馬鹿!”と叫んだ。



すると、それまでは暗い森の中にぼんやりと浮かび上がっていた明かりが



ゆっくりと消えていった。



そして、それから車のライトの前でSの背中を何度も叩いてから、



まあ、こんなもんですね・・・。



はい・・・終わりましたよ!



そう言うと、さっさと俺の車の助手席に乗り込んでしまった。



すると、Sも、我ら帰ったかのように急いで車に乗り込んでその場から



立ち去っていった。



俺は帰りの道すがら、このAさんがそれほど観たかったドラマとは



一体何なのか、と思いを巡らせていた。



まさか…恋愛ドラマ?



そう思ったが、聞けなかったのは言うまでもない。


ちなみに、それ以後、怪異は発生していない。



Posted by 細田塗料株式会社 at 22:37│Comments(0)
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