2019年06月08日

存在しない集落

これは友人が体験した話である。



彼は休日ともなればバイクで色んな場所に出掛けている。



その日が休日だった彼は朝早くから荷物を整理しバイクに



積み込んだ。



そして、まだ夜も明けきらぬ午前5時頃に自宅を出発した。



彼の目的地は岐阜県。



まあ、目的地といっても、特に目標は定めずに、行き当たりばったりで、



とりあえず走り出してみる、というのが彼のいつものパターンなのだが、



その時も、目的地が岐阜県という以外は何も決めずに走りだした。



特に岐阜県で生きたい観光地があるわけでもなかったが、その時は何故か



気分が岐阜県だったのだという。



彼が乗るビックツインの大型オフロードバイクはかなりの悪路でも



走は出来る為、彼が目的地として設定するのは、いつも山深い



場所ばかりだ。



出来るだけお金をかけないツーリングを身上としている彼は、



高速道路などは一切使わない。



その時も、福井県から九頭竜湖を通って岐阜県に入った。



朝から何も食べていなかった彼はコンビニを見つけると、パンと



コーヒーを買い、店の前で食べた。



そして、前方に見えた山を今日の目的地に決めた。



山に向かって走っていたが、しばらくの間はずっと



綺麗な舗装がされた道が続いた。



しかし、ちょうど上り坂が終わり、下りに差し掛かった頃、道は



完全に砂利道へと変わった。



普通なら砂利道に出くわすと、バイクとはいえ、引き返すか、速度を落として



慎重な運転に切り替えるものなのだが、、



彼は全く違っていた。



砂利道とか泥道こそが彼の求める道であり、彼は喜び勇んで



バイクを走らせた。



元々、彼が大型のオフロードバイクを買った理由もそうなのだが、彼はいつもバイクで



未開の地に踏み込んでいく事を夢見て、そしてそういう自分に酔いしれるタイプの



ライダーだった。



彼は舗装路よりもさらにスピードを上げ、砂ほこりを巻き上げながら砂利道を



走った。



すると、道路が再び、舗装された道に出た。



彼は内心、少しがっかりした。



わざわざ悪路を走りたいという目的で買ったオフロードバイク



なのだから、その気持ちも分からなくはないのだが・・・。



彼は、そのまままっすぐバイクを走らせた。



この道が何処に続いているのか、知りたくなった。



何しろ、その道はナビゲーター上では、完全な森の中であり、



道が無い事になっていたのだから。



もしかしたら、また砂利道に戻るかも・・・・。



彼はそんな期待を抱きながらバイクを走らせる。



すると、前方に開けた道が姿を現わす。



そこは、山の中だというのに、かなり沢山の家が建っていた。



古い木造家屋ばかりだったが、そのどれもがきちんと整備されており



人間の生活臭が感じられた。



ちぇっ、つまらない場所に出ちゃったかな・・・・・。



彼はその時、そう思った。



彼の目の前には、いたるところに人間が溢れ、話したり笑ったり



している日常が映し出されていた。



子供達は走り回り、家には型こそ古いが、車も停まっていた。



それは何処にでもある日常の風景だった。



ただ、その家々には何故か葬式のような白と黒の幕がかけられており、



それだけは少し不気味に感じたという。



しかし、秘境を求めていた彼にはとんだ拍子抜けだった。



こんな山奥にも事が住んでるんだよなぁ・・・・・。



それに、あの白と黒の幕があるって事は集落の誰かが亡くなったのかもな・・・・。



そんな事も考えたりしたが、彼にはそんな事には興味は無かった。



だから、早くその村を抜けてしまおうとバイクの速度を上げた。



広く舗装されたその道は彼にとってはとてもつまらないものだった。



そして、どれだけ走ったのだろうか・・・。



突然、彼の目の前に、通行止めの標識が現れた。



ご丁寧にコンクリートとバリケードで固められており、どう考えても



そこを通貨する事は不可能だと判断した。



だから、彼は一旦バイクを標識の前で停めた。



そして、そこで、荷物の中からペットボトルを取り出すと、



スポーツドリンクを一気に飲み干した。



そして、おもむろにバイクを方向転換すると、また走り出した。



彼は思っていた。



目的地を誤ってしまった、と。



そんな事を考えながら彼がバイクを走らせていると、先程通った



集落に出た。



彼は思わず急ブレーキを掛けた。



そこには、先ほどとはまったく違う光景が広がっていた。



ボロボロで今にも崩れそうな木造家屋が立ち並んでおり、車も駐車



されてはいたが、既に錆びて原型を留めては居なかった。



そして、先ほどはあれだけ居た人間の姿が今はひとりもいなかった。



それどころか、集落の中は、怖いくらいに静まり返っており、



バイクのエンジン音だけが、響いている。



彼が走っていたのは単純な一本道であり、脇道などは存在しなかった。



だから、道を間違うはずはなかった。



だから、今、彼の目の前に広がっているのは、先程、あれだけ



賑わっていた集落に違いなかった。



しかし、どう見ても同じには見えない。



人間がそこで生活している匂いは一切存在してはいなかった。



彼は得体の知れない気持ち悪さを感じ、急いでその場から離れる



決心をした。



すると、バイクで走っている彼の背後から、



ひそひそと話している声が聞こえてきた。



彼が走っている道の脇に在る森の中から沢山の顔がこちらを覗いている気がして



仕方なかった。



彼は思わずアクセルを開けスピードを上げた。



しかし、どうも落ち着かなかった。



何かに追いかけられている様な焦燥感を感じながら必死に



バイクを走らせた。



転んだりバイクのエンジンが停止してしまったら、もうお終い・・・・。



そんな緊張感があったという。



そして、何とか、山を降りて、街中に入った彼は、逃げ込むようにして



ガソリンスタンドに入った。



そして、給油の間に、従業員の男性に聞いてみた。



この山の中には、集落が幾つか在るのか?と。



すると、その従業員は不思議そうな顔で、



いえ、この山には、廃村が1つだけ残されているだけですね。



でも、もう誰も住まないようになって20~30年以上経つと思いますよ!



そう言ったという。



そして、給油を終えた彼は再びバイクを走らせたが、もう一度、



先ほどの集落に向かう勇気は無く、結局そのまま帰路に就いたということだ。



もう一度行ったら、今度こそ、生きては戻れない・・・・。



そんな気がしたのだという。



そして、無事に帰宅した彼だったが、その夜、急な高熱が出てしまい、次に



眼が覚めた時には病院のベッドの上だったという。



高熱で意識が無くなり、突然、生死の境を彷徨う事になったらしいが、突然



彼が意識を取り戻した事で、家族は泣いて喜び、医師は奇跡だと言った。



家族には、このまま脳死状態になる可能性が高い、と宣告されていたそうだ。



そして、当の彼自身は、意識を失っている間、ずっとあの時の村の夢を



見ていたという。



白と黒の幕を持った人外のモノ達が、彼を追いかけてきたらしく、彼はずっと



そのモノ達から山の道を逃げ回っていたという。



そして、そのモノ達が持っている棺桶には誰も入ってはおらず、それはきっと



彼の為に用意された棺桶なのだと確信出来たという。



逃げまわっていても全く疲れる事は無かったが、逃げれば逃げるほど追いかけてくる



モノ達の姿が、どんどんと化け物じみた姿になっていき生きた心地がしなかった



らしいが、突然、崖の下から妻と子供の彼を呼ぶ声が聞こえ、思い切って



その崖から飛び降りた途端、意識が戻ったという。



ちなみに、彼が意識を失っていた期間は、約2週間にも及ぶ。



そして、彼は言っていた。



もしも、あの時、妻や子供の声が聞こえてこなかったら、俺はきっと今でも



あいつらに追いかけられているのかもしれない・・・・と。



ちなみに、退院した後も彼はバイクに乗っているが、山に行く事はしなくなった。



そして、それ以来、怪異は発生していない。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:38│Comments(0)
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