2019年06月08日

金庫

これは知り合いの社長さんから聞いた話である。



彼の会社は、社員数はそれほど多くはないが、売り上げに対する利益率



がとても大きいらしく、いつも潤沢な資金を誇っている。



金沢市の中心部にあるビルの2階フロアー全てを占有しているのだが、



その1室が社長室になっており、そこには巨大な金庫が置かれている。



最初、その金庫を見た時には、思わず、



会社の規模に似つかわしくない金庫ですね!



と、歯に衣着せぬ言葉を言ってしまったのを覚えている。



ただ、実際、その金庫はいったいどうやって運び入れたのかも想像出来ないほど、



大きくて重そうなのだ。



まあ、本当によくある普通の金庫とは異質なものだ。



そして、ある時、社長室に置かれている金庫がもう1台増えた。



そんなに儲かっているんですか?(笑)



と問いかける俺に、彼はこんな話をしてくれた。



ある月曜日、会社に来て、いつものように金庫からその日の支払いに使う



お金を取り出そうとした時、不思議な事に気付いたという。



それは、金庫の中に10本ほどの長い髪が綺麗に揃えて置かれていた



のだという。



とても長い髪で、1メートル弱はあったという。



おかしいな・・・。



うちには、こんな長い髪の社員はいないのに・・・。



それに、この金庫を開ける為の暗証番号を知っているのは自分しか



いないはずなのに・・・・。



そう思ったが、忙しい朝の時間ということもあり、その場はその長い髪を



ゴミ箱に捨てて、通常業務に戻ったという。



そして、それからしばらくの間は何事もなく日々が過ぎていった。



ところが、週明け、月曜日の朝、彼が出社して金庫を開けると、また金庫の中に



長い髪が落ちていた。



しかも、前回よりも大量の髪の毛が・・・・。



土曜日の帰り際に金庫をチェックした時には間違いなく金庫の中には髪の毛など



落ちてはいなかった。



しかも、その時、金庫の中に落ちていた髪の毛は、100本嫌いの髪の毛が束になって



きちんと揃えられて置かれていたのだという。



さすがに気持ち悪くなった彼は、社員と一緒に金庫の中を綺麗に掃除し、



整頓した。



長い髪の毛も、ビニール袋に入れて、そのままゴミ箱に捨てた。



掃除が終わってからは、出来るだけ気にしない様に仕事に没頭した。



そして、お客さんとの電話が終わった時に、それに気付いたという。



声が聞こえるのだ。



細く高い女の声だった。



最初に聞いた時は、何処かで誰がが歌の発声練習でもしているのか、と



思った。



しかし、良く聞けば、その声は間違いなく彼がいる社長室の中から



聞こえていた。



彼は耳を澄ませて、その声がどこから聞こえてくるのか、を探る。



そんな筈はない、と何度も自分に言い聞かせながら・・・・。



しかし、その声は間違いなく、例の金庫の中から聞こえてきていた。



さすがに怖くなった彼は、社員数人を呼んで、もう一度金庫の中を



整頓するように指示を出した。



まあ、単に自分で金庫を開ける勇気が無かっただけなのだが・・・。



そして、社員が社長の指示通りに金庫を開けると、中には何もいない。



在るのは、通帳と現金だけだったという。



やはり、気のせいだったか・・・。



そう思い、彼はほっと胸を撫で下ろしたという。



そして、それは次の日曜日に起こった。



彼は社長という立場上、日曜日に1人で出社する事も多いというが、



その日も、残務処理の為に、日曜日の午後から会社に出社した。



そして、駐車場に車を停めてから何気なく会社の窓を見ると、会社の中に



誰かが居るのが見えた。



休みの日にいったい誰だ?



一瞬、そう思ったが、良く考えれば会社の鍵は社長である彼一人しか持っては



いない。



だとしたら、いったい・・・・・。



しかし、時間帯は、真夏の日の午後。



そして、天気は晴れ。



そんな状況だからなのか、彼には会社の中を動き回っているのが人間に



しか見えなかったという。



人間ならば・・・。



大学時代、スポーツでならした彼にとって、人間ならばそう怖くは



感じないのだという。



彼が真っ先に頭に浮かんだのは泥棒。



それならば、月曜日に長い髪の毛が落ちているというのも説明がついた。



もっとも、彼は金庫からは現金も何も盗られてはおらず金庫の暗証番号も



自分以外は知らないのだという事をその時は、すっかり忘れていた。



彼は車のトランクからゴルフのドライバーを取り出すと、静かに彼の会社が



在る2階まで上がっていく。



そして、ドアを開けようとすると、何故かドアの鍵は閉まったままだった。



このドアから侵入したんじゃないのか?



そう思いながら、静かにドアの鍵を開けて会社内へと入った。



車内は静まり返っていた。



感づかれたかな?



そう思いながらも彼はゴルフクラブを握りしめてゆっっくりと進む。



その時、突然、思い鉄の扉が閉じる様な音が聞こえた。



それは、彼にとっては聞き慣れた音だった。



金庫の扉を閉める時の音だった。



まずい!



やはり金品目当ての泥棒か・・・。



彼はその時、金庫の中の長い髪の事などすっかり忘れていた。



もう静かになど歩いていられなかった。



お金が盗まれる・・・・。



それしか、頭になかった。



彼は走って社長室に向かった。



そして、ドアを思いっきり開けて、室内へと飛び込んだという。



しかし、社長室の中には誰の姿もなかった。



もう隠れる場所は金庫の中しか考えられなかった。



彼はゆっくりと金庫の前にしゃがみ込んで暗証番号を入力した。



しかし、何故か、いつもの暗証番号では金庫の扉は開かなかった。



そんな筈はないのに、どうして!



彼は万が一の為に、机の中の手帳に書いておいた暗証番号を確認しようと



机の椅子に座り、引き出しをまさぐった。



と、その時、突然、金庫の扉がゆっくりと開いた。



そして、その中には着物を着た長い髪の女がニタニタと笑って座っていた。



長い髪の間からは、人間とは思えない様な長い舌が垂れていたという。



彼は完全に腰が抜けてしまい、その場にへたり込んだ。



すると、金庫の中の女はゆっくりと中から這い出して来て、彼の方へと



近づいてくる。



彼の体は硬直して動かず、何故か目だけはその女から視線を外す事も出来なかった。



女がゆっくりと近づいてくる。



そして、女の顔が彼の顔のすぐ近くまで来た時、彼は意識を失ったらしいが、



その瞬間、その女は、ある数字を彼に囁いたという。



そして、次に彼が意識を取り戻したのは夕方になってから。



その日は逃げる様にして会社からそのまま帰宅し、月曜日になってから



金庫のメーカー担当者を呼んだという。



そして、その担当者の立会いのもとで、金庫に、その女が言った暗証番号を



入力すると、なんと、金庫の扉は開いてしまったという。



勿論、彼がいつも使っていた暗証番号でも金庫は開いたのだが・・・。



そして、彼はその場で新しい金庫を注文したらしい。



だから、現在では彼の社長室には金庫が2台置いてあるらしいが、元々



使っていた古い金庫には、鉄鎖が何重にも巻かれており、絶対に



開かないようにしているのだという。



聞けば、古い金庫が大きく重すぎて、外へ運び出せないのだそうだ。



それにしても、その女はいったい何者なのだろうか・・・。



そして、どうして髪の毛を金庫の中に置いておこうとするのか?



いまだに、その謎は解明できていない。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:39│Comments(0)
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