2019年06月08日

危険な噂

これは仕事関係の知人から聞いた話。



彼女は現在は石川県に住んでいるが元々は広島県の、とある島の出身である。



幼い頃から豊かな自然の中で育った彼女は、今では一児の母親であり、



夫とは離婚しシングルマザーとして頑張っている。



たまに、故郷を懐かしむ言葉をつぶやく彼女に、



たまには故郷に帰省したら?



と言うと、



もう故郷には帰れないんです・・・・・。



絶対に・・・・・。



と返してくる。



そして、その理由を聞いた時に話してくれたのが、これから書く話になる。



彼女は両親と祖母、そして1人の兄と一緒に生活していた。



通常はしまで生まれ育った者は、そのまま島内で就職し、結婚して人生の



殆どを島から出ないで過ごすのだという。



しかし、今現在、彼女の家族で広島県内に住んでいる者は一人もいない。



皆、出来るだけ、その島から離れるようにして離散していき、それぞれの



生活を送っている。



そして、家族間での連絡ごとも必要最小限にしているのだという。



では、いったいその島でなにがあったのか?



それは彼女が高校生の頃に遡るのだという。



当時、彼女は毎日船で広島市内に渡り、県立の高校に通っていた。



理由は単純で、その島には高校が無かったから。



島の人口はそれほど多い物ではなく、毎朝、船に乗って広島市に渡るのは、ごく僅かな



人数だった。



勿論、学生の他にも広島市内に会社に働きに出掛けている者もいたが、船の便数も



限られており、行きの船も帰りの船も、同じ顔ぶれの客が乗る程度だった。



そして、ある時、高校の友達が島に在った彼女の家に泊まりに来た。



土日を利用して、親元を離れてのんびりと羽を伸ばしたかったらしい。



しかし、その島には遊ぶ為の施設など皆無だった。



やる事といえば、釣りをしたり泳いだりというのが、せいぜいだった。



しかし、その友達はある目的を持ってその島にやって来たのだという。



それは、島にある、山に続く道にある川に架かっている古い橋に関する事。



どうやら、広島市内でもそれなりに有名だったその橋は、深夜12時を



回ってからは、絶対に



徒歩や自転車で近づいてはいけないという噂があった。



もしも、近づけば、そのまま川の底に連れていかれてしまい、二度と



この世には戻って来られなくなる・・・・。



そんな噂だった。



勿論、彼女もその噂は知っていたが、特に興味も無かったので気に留める



事は無かった。



そもそも、そんな時刻に外出など出来る筈も無かったし、現実主義者の彼女に



とって、そんな噂など単なる暇つぶしにもならなかったから。



だから、泊まりに来た友達にその噂を確かめに行こう、と言われた時は



思わず言葉を失ってしまった。



そんな事を検証してどうなるというのか?



そんな事を万が一にも信じている者など本当にいるのか?と。



しかし、確かに、その島では娯楽というものが全く無かったから女の子同士で



遊べるとしたら、もしかするとそのような都市伝説的なものしか無いのかもしれない、



と思い直し、その提案に渋々同意した。



彼女の部屋は家の離れの様な造りになっていたから深夜に抜け出す事自体は



造作も無い事だった。



家族で夕食を済ませ、友達と部屋に戻ると昼間に用意しておいた懐中電灯と



兄から借りてきた木製のバット、そしていざという時の為?に用意した



食用塩の袋を各自が持って、とりあえず仮眠をとる事にした。



最初はあまり乗り気ではなかった彼女だったが、いつもは真面目で勉強も出来、



在る意味、優等生的な存在の友達がこんな子供じみた事にワクワクしている



姿を見ていると、とても可笑しくなってしまい次第に彼女自身もその噂



というものを確かめたくなっていく。



まるで、修学旅行の夜の様な気分だったという。



そして、午前0時にセットした目覚ましが鳴り、彼女たちは静かに起きた。



そして、静かに部屋から庭に出るとそのまま塀の外へと出ていく。



彼女の家から、その橋までは歩いて30分ほどの距離だった。



学校の事や好きな男子の事などを話しながら荒れたアスファルトの道を歩いていく。



いつも歩き慣れた道だったが、その時刻に歩くのは初めてだった。



車も通行人も誰もおらず、まるで全く別の世界にでも迷い込んだ様な錯覚を覚えた。



30分という時間は話し込んでいるとすぐに経過するものらしく、気が付いたら



噂の端の手前まで来ていた。



その時点で持参した懐中電灯を初めて点けた。



それほど強い光ではなかったが暗闇の中をまっすぐに伸びる光が探検気分を



盛り上げてくれた。



友達は、バットを素振りしたり、塩の袋に手を入れて確認したりと、まるで



これから何かと対峙するのだという気合に満ちていて、それがとても滑稽で



心の中でクスッと笑ってしまった。



2人はライトの光で前方を照らしながら橋へと進んでいく。



半分くらいまで来た時、友達が残念そうに、



何も起こらないね・・・・。



やっぱり単なる噂だったのかなぁ・・・・。



と呟いた。



その時、突然周りの空気が変わった。



何か押し潰されそうな重い空気感に息が苦しくなった。



すると背後から



うあぁぁぁ・・・・・うぁぁぁ・・・・・。



といううめき声が聞こえてきた。



彼女達は思わず後ろを振り向く。



そこにはまるで泥で出来た人間のようなモノが立っていた。



眼も無く耳も無かったが口だけが大きく開かれていた。



それはゆっくり近づいてきた。



それまで固まっていた友達が、ハッと我に返ったように、ポケットから



塩を振りかける。



しかし、何の反応も無く、友達は今度は手に持っていたバットを振り回し始める。



バットは確かにソレに当たった。



しかし、まるで水の様にそのままバットは体を通り抜けて空を切った。



彼女はその友達とは違い、いまだに固まったまま動けなかった。



しかし、友達が、



前!・・・・前から来てる!



と叫んだ。



前を見ると、友達が対峙しているのと同じような泥の様な人間が彼女のすぐ前まで



迫っていた。



塩もダメ、バットもダメ、というのは先ほどから見せつけられていた。



彼女はライトの光をその泥人間の顔めがけて照らした。



目くらましになれば・・・・そう思った。



しかし、そこで彼女が見たのは泥が買えの部分だけ削げ落ち、そしてそこから見える



般若の様な顔だった。



悲鳴も出なかった。



彼女は何も出来ず、ただ友達の方へと駆け寄って、



助けて!助けてよ!



とその場にしゃがみこんだ。



しかし、友達の声ば聞こえなかった。



彼女が友達の方を見ると、まさに2体の泥の塊に押し潰されそうになっていた。



そして、友達の手だけが必死に彼女に助けを求めているのが分かった。



しかし、彼女にはそれに応じる気力も体力も無く、精神的に既に限界に



達していた。



彼女はそのまま立ち上がると一気にその場から走りだした。



後ろなど一切振り返らず、ひたすら前だけを見て走り続け、何とか家まで



辿り着いた。



自分の部屋に戻ると、部屋中のドアと窓にしっかりと鍵を掛けた。



そして、そのまま一睡も出来ず、朝が来るまで震えていたという。



彼女の頭の中は完全にパニックになってしまい何も考えられなかった。



ただ、高校生が1人行方不明になったのだから、相当の事件として扱われる



のだろうと覚悟していた。



朝になってもやはり友達は戻っては来なかった。



しかし、彼女は昨晩の事を家族には一切話さなかった。



もしかしたら、月曜日に学校に行けば友達も元気に登校してくるかもしれない。



そんな根拠の無い淡い期待が在ったから・・・・。



そして、月曜日になって学校に行くと、まさにその友達が学校にちゃんと来ていた。



ただ、それまでの優等生的な友達とは異質なものだった。



それでも、彼女は、その友達に近づいて、



あの時はごめん・・・・。



気が動転しちゃってて・・・・。



と伝えた。



すると、その友達は、



貴女もちゃんと、あの場所に戻らないと・・・・・。



待ってるから・・・・。



来ないなら迎えに行くよ・・・・・。



そう言われたという。



その時の友達の眼は、友達といつもの眼ではなかった。



いや、もっといえば、それは友達ではない別の何か・・・・。



人間ではない、別の・・・・・。



彼女はその後、体調が悪くなったと高校を早退した。



そして、家に帰ると、祖母にその夜の事を話したという。



話を聞くうちに祖母の顔はどんどんと絶望的な顔になっていき、話を聞き終えると



いつもは怒った事の無い祖母が本気で彼女を叱責した。



そして、急いで家族を集めて、一刻も早くこの島から逃げなくてはいけない、と



説明した。



それも、可能な限り、遠くの方へ、と。



昔からあの橋には、妖魔が住み付いており、深夜其処を通る者を川の中に



引きずり込んだのだという。



そして、数年に一度、その禁忌を破る者がいるらしく、それらの家族は全て



この島を出て、ひっそりと暮らしているのだと。



だから、助かる道はこの島から出て出来るだけ遠くに逃げるしかない!



私がこの家で時間を稼ぐから、その間にお前達はいますぐにこの島を出ろ!



悲痛な顔でそう言われた。



そして、どうやら、両親もその話を知っていたらしく、すぐに最低限の荷物を



持って、その島から離れる事になった。



親戚の所には行ってはいけない・・・・。



その親戚にまで犠牲者が出てしまうから・・・・。



だから、見知らぬ土地に行って出来るだけひっそりと暮らすんだ・・・。



そう言って、祖母は彼女たち家族を見送ってくれた。



そして、その後、祖母とも連絡が付かなくなり、それを確認しに行った



両親とも、今は連絡がつかないのだという。



これが、彼女が故郷の島に帰省出来ない理由である。



そして、その島の曰くつきの橋は、現在でもしっかりと実在しているという事だ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 22:42│Comments(0)
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