2019年06月08日

事故死の真相

これはIさんという知人から聞いた話。



ある日曜日、彼はいつものようにベランダで煙草を吸いながらぼんやりと



外の景色を眺めていた。



マンション住まいの彼にとって部屋の中での喫煙は、家族全員から敬遠



されており、マンションのベランダの手すりにもたれ掛かって吸う煙草が



彼の至福の時間となっていた。



彼の部屋はマンションの8階にあるらしく、立地条件にも恵まれていたから



川や大きな池、そして近くを走る国道の様子も良く見えた。



いつもそのベランダから見える景色に、彼は心癒され仕事の疲れすら



忘れる事が出来た。



ただ、その時は何故か向かいに在る同じくらいの高さのマンションの



ベランダが気になってしまい、ついついそちらばかりを見ていたという。



その部屋というのは、彼の部屋と同じく8階に在る部屋であり、そのベランダで



彼よりはかなり若い男性が同じように手すりにもたれ掛かって煙草を吸っていた。



あの男性も家族の手前、家の中では煙草が吸い難くてベランダで吸っているのかな?



そんな風に思って見ていると何故か急に親近感が湧いてきたという。



しかも、その男性は片手に缶コーヒーを持って、煙草とコーヒーを交互に



楽しんでいた。



急に彼もコーヒーが飲みたくなり、急いで部屋の中に戻ると、お湯を沸かし、



インスタントコーヒーを作って再びベランダに戻って来た。



彼がベランダに戻った時、向かいのマンションの男性もまだベランダにいた。



ただ、彼のすぐ隣には同じく手摺にもたれ掛かるようにして年老いた女性が



並んで立っていた。



家族かな?



最初はそう思ったそうだが、どうも様子がおかしい。



その女性は顔だけ見ればどう見ても80歳近い老婆にしか見えなかった。



それだけなら、その男性の母親か祖母かな?と思うのだろうが、とにかく



その全体像がおかしかった。



長い髪を後ろで縛ったその老婆は、まるでドレスの様な真紅の洋服を身にまとい



真っ直ぐに伸びた背筋とも相まって、その身長はその男性より優に20センチは



高く見えた。



そして、何より違和感があったのは、その男性が、その老婆の存在に全く気付いている



素振りを見せなかったこと。



相変わらず、ぼんやりと景色を眺めながら、コーヒーと煙草を楽しんでいた。



その顔には平穏という言葉がピッタリくるようなリラックスした様子が窺えた。



それに反して、その老婆はと言えば、忙しなく彼の周りを動き回ったり、更には



彼の顔を覗き込んでりしていた。



それでも、その男性は、何も変わらずぼんやりと外の様子を眺めている。



彼は何か得体の知れない不安感を感じながら、向かいのベランダから目が



離せなくなっていた。



すると、次の瞬間、彼は思わず、



うおっ!と声を出してしまったという。



向かいのベランダにいる老婆が、まるで宙に浮かび上がるかのように体を



浮き上がらせ、次の瞬間には後ろから抱きつくようにしてその男性の背中に



覆いかぶさった。



リラックスした男性の顔は急に恐怖で引きつった顔に変わり、次の瞬間には



バランスを崩し、そのまま手摺を超えてベランダから落下した。



ちょっと、待て!



彼は思わず大声をあげると同時に手に持っていたコーヒーカップをベランダの



床に落とした。



彼の家族がその声と音を聞きつけてベランダに来た時には、既に嫌な音を



立てて、その男性の体が硬いコンクリートの地面に叩きつけられた後だった。



彼は思わず手すりから身を乗り出す様にして向かいのマンションの地面を見た。



先ほどまでのんびりと寛いだ時間を過ごしていたその男性は、あり得ない姿勢のまま



コンクリートの上でただの肉塊になっていた。



そして、其処には、先ほどまで、その男性に纏わりついていた老婆の姿は



何処にも見つけられなかった。



誰かが救急車を呼んだのか、すぐに救急と警察がやって来たが、そこにもう



助けられる命は存在していない事だけは明らかだった。



彼は、そのまま部屋の中に戻ると、洗面所で嘔吐した。



そして、ガタガタと体が震えているのが自分でもよく分かった。



結局、その男性は即死だったそうだが、後から聞いた話では、その男性は向かいの



マンションに1人で住んでいる会社員であり、その日も1人でのんびりと



過ごしていたそうであり、自殺する動機は見つからなかったそうだ。



結局、警察が彼の所にもやって来て目撃者として事情を聞いていった。



彼も見た通りを話したらしいが、結局、その男性の死因は事故死という事で



片付けられた。



決して事故死ではないというのに・・・・・。



そして、それから彼は二度とベランダに出る事は無くなった。



煙草を吸う時には、いつも1階の公園に行き、其処で吸う事にしたのだという。



そして、彼は恐ろしいのだと言った。



人が死ぬ瞬間を目撃してしまったのだから仕方ないさ、と言うと、



それは違う・・・・。



と返してきた。



どうやら、彼は見てしまったようだ。



その老婆が男性に抱きつきながら地面へと落下していく際、満面の笑みを湛えながら



彼の顔をじっと見ていたのを・・・・。



Posted by 細田塗料株式会社 at 22:45│Comments(0)
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