2019年06月08日

夜回りの男

これは知人が体験した話である。



知人の趣味は音声の収集。



と言っても、誰かが喋っているのを録音したりするのではなく、海や山、



そして、森や川に出掛けて行ってはその場所でマイクを設置して自然の音を



録音する。



それぞれの場所にはそれぞれの音というものがあるらしく、例えば川の音



にしても、その場所その場所で全く違う雰囲気を持っているそうだ。



だから、彼は休みになると近くの自然の中に出掛けて行っては,其処で貴重な



自然の音を録音する。



その為に彼はかなり感度の高い高級なマイクを買い揃えている。



そうして、その土地その土地で録音した音を聞いては悦に入っている。



そういう自然の音を録音したものは、CDになっていたり、インターネット



でも無料で聴く事が出来るそうだが、それでも、やはり自分が録音してきた



音を聞いていると、その時に実際に観た風景も思いだされて、とても



癒されるのだそうだ。



そんな彼がある時、長期休暇を利用して遠方まで出かけて録音旅行を



してきたそうだ。



その場所というのは関東にある、日本で一番有名な樹海。



その場所は有名な心霊スポットであると同時に、日本に現存する太古の



地殻が今ね剥き出しになっており、そして沢山の植物と動物、そして



野鳥が生息する場所でもある。



彼はその場所で、早朝の朝靄の風景と同時に、そこで聞こえる大自然の息吹



を録音したいと思ったのだ。



勿論、そんな酔狂な趣味に付き合ってくれる者などいるばすもなく、彼は



1人車でかなりの距離を運転し、漸くその樹海に辿り着いた。



現地に到着したのは既に夕方だった。



彼は近くの食堂で夕食を食べると、その晩泊る所を探してみた。



しかし、良く考えてみると既に夕食は食べ終わっており、翌日は早朝から



録音作業に取り掛かる予定だったのでなんだか勿体なく思い、結局その日の晩は



車中泊をする事に決めた。



少し離れたコンビニでビールとつまみを買い込むと、翌日の早朝から入る地点



に車を停めて酒盛りを始めた。



勿論、昼間にはそれなりに車の通行量もあるような安全だと思える場所に。



やはり彼にとっては心霊スポットや自殺の名所としての樹海の方がイメージが



強かったらしく、とてもではないが、奥に進んだ場所で一晩明かす勇気は



無かったという。



彼は車のエンジンを掛けたまま、好きな音楽を聴きながら買ってきた



酒とつまみを口に運ぶ。



やはり大自然の中で飲む酒は格別なものに感じたという。



気持ち良くひりとで酒を楽しんでいた彼だったがやはり昼間1人で長距離を



運転して来た疲れもあったのだろう・・・。



酔いが回り気持ち良くなってきた彼は、そのまま知らぬ間に寝てしまったという。



とても心地良い眠りだった。



エンジンは掛けたままだったし、ガソリンも満タン。



そのまま朝までぐっすりと寝られる筈だった。



しかし、彼は誰かが窓をノックする音で目が覚めた。



ハッとして目覚めた彼は寝ぼけ眼で窓を見た。



そこには、一人の中年男性が立っていた。



片手には懐中電灯を持っており、彼はきっと警察による職務質問だと思った。



確かに、こんな道路脇にエンジンを掛けたまま車がポツンと停まっているのだから、



不審車と思われても仕方なかった。



しかし、良く見るとその男性は警察の制服は着てはいなかった。



その時彼は、こう思ったという。



きっとこの地域の自警団の人が、自殺防止の見回りでもしているのだろう、と。



その男性は運転席の窓を相変わらずノックしており、片手で持った懐中電灯で



彼の顔を照らしてきた。



彼は出来るだけ自殺者に間違われないように明るく元気な声で、



ごんばんは!



ご苦労様です!



と言いながら窓を開けた。



すると、その男性は、



すみません・・・。



もしかして、自殺しに来られたんですか?



と聞いてきた。



彼は、



ああ、やっぱりな・・・。



それにしても、単刀直入な聞き方だな・・・。



と思ったらしいが、



いいえ…自殺するつもりなんかありませんよ(笑)



そんな度胸もありませんし・・・・・(笑)



とまた、出来るだけ明るく答えた。



すると、その男性は一瞬、残念そうな表情を浮かべて、



そうですか・・・・。



自殺しに来られたんじゃないんですか・・・・。



と返してきた。



彼は少し戸惑って、



そんなに自殺する方って多いんですか?



だとしたら、大変ですね。見回りを去れるのも・・・・。



と返したそうだ。



すると、男性は、



この土地は神聖な場所ですから、自殺も意義があるんです・・・。



そもそも自殺する方にもそれなりの事情がありますから・・・。



と変な事を言ってきた。



だから、彼も、寝起きで機嫌が悪かったせいもあるのだが、



なんか、自殺を肯定されてるみたいに聞こえますね。



と返すと、



この樹海にはまだ発見されていない方が沢山いらっしゃいますから・・・。



きっと、寂しくて仲間を増やしたいと思ってるんでしょうかね・・・・。



と訳の分からない事を言ってきた。



そんな問答の様な会話がしばらく続くと彼もさすがに面倒臭くなってしまい、



ああ・・・そうですか。



そんなに自殺ってもんが良いものなら一度自殺してみるのも悪くないかも



しれませんね・・・。



そう言ってしまったという。



すると、その男性は突然、顔を車内に入れるようにして、



本当にそう思いますか?



と、突然、語気を強めたという。



その男性の顔があまりにも近かったため、さすがに彼も気持ち悪くなって、



あっ・・すみません。



明日は早いもので・・・・。



そう言い終えると急いで運転席の窓を閉めて、ドアをロックした。



窓が閉まっている間も、外にいる男性は何かを喋っていたらしい。



しかし、彼にはもう、の男性の言葉を聞く気にはなれなかった。



彼は車のカーステレオの音楽の音量を上げて、外の男性を完全に無視する



事にした。



その男性に拘わってはいけない・・・・・。



そんな気がしたという。



彼はしばらく運転席の窓に背を向けてシートを倒し、音楽を聴く事に集中した。



そうすれば、そのうちにその男性も帰るだろうと思っていた。



するとね突然、車が何かの重みでギシーッと音を立てて沈み込むのが分かった。



彼は思わず、シートを起こすと再び運転席の窓を見た。



彼は凍りついた。



そこには、先ほどの男性と同じ服を着た何かが車の窓に両手を掛けるように



して、体重を車に預けていた。



何かと書いたのは、それが明らかに人間ではなかったから・・・。



顔は腐って膨れており、白と緑がまだらになった皮膚からは顔の骨の一部が



見えていた。



彼は多声で叫びだしそうになったが、何とか我慢した。



それは彼がそれまでホラー映画の世界でしか見た事が無かった、不気味としか



言えない顔だったのだから。



そして、良く見ると、彼の横には沢山の何かが並ぶ様にして立っていた。



彼の車を囲むように・・・・。



そして、それらは、その男性と同じように車に手を掛けるとぐっと車を



沈みこませるようにしながらゆっくりと車を揺らしていた。



そして、突然、車のエンジンが止まった。



彼はその場にうずくまるようにしながら、自分の耳を両手で塞いだ。



しかし、それでも聞こえてきたのだという。



ねぇ・・・・死のうよう・・・・・・。



一緒に・・・・行こうよぅ・・・・・。



そんな声が。



彼は必死に心の中でお経を唱えたらしいが、その声はいっこうに



消えようとはしなかった。



そして、彼はその声と揺すられる車の中で必至に耐えた。



どれくらいそんな状態が続いだろうか・・・・。



突然、車の揺れが収まり、声も聞こえなくなった。



恐る恐る彼が上体を起こし周りの様子を確認すると、そこには車からゆっくりと



滑る様にして離れていく先ほどの男女の後姿が見えた。



彼はそのまま車のエンジンを掛ける事も出来ず、ただ、じっと夜明けが来るのを



待ったという。



そして、朝になり、他の車が通る音が聞こえるのを確認して、ようやく車の



エンジンを掛け、その場から逃げるように立ち去った。



もう、録音をしている余裕など無かった。



一刻も早くその場から離れなければ・・・・。



そう思い、彼はそのまま1回も休まずに、家まで戻ったという。



そして、これも不思議な話なのだが、彼はその場所で一度も録音機の



スイッチも入れてはいなかったし、マイクをセットした記憶も無かった。



しかし、帰ってから機材を確認してみると、何かが録音されていた。



もしかして・・・と思い再生してみると、そこには得体の知れない唸り声や



叫び声、そして鳴き声などがはっきりと記録されていた。



そして、その声はどうやっても決して消去出来ないのだという。



やはり、あの場所では自殺した者達が夜な夜な仲間になる者を探して



彷徨っているのかもしれない。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:01│Comments(0)
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