2019年06月08日

隣家

これは知人が体験した話。



彼は、その時引っ越し作業に汗を流していた。



それまで住んでいた家の老朽化が激しくなり、一時は建て替えようとも



思ったらしいのだが、何気に中古の住宅を見てみると、とても中古とは



思えないような綺麗な物件が思っていたよりもかなり安い金額で



買えるのだと分かった。



そこで、急きょ、予定を変更して、建て替えるのではなく中古の家に



移り住もうという事になったらしい。



そこで彼が見つけたのは郊外にある2階建ての中古物件だった。



その家自体は、とても綺麗にリフォームされて新築と見まがうほどだったが、



その家の隣には、かなり古い2階建ての家が隣接していた。



その郊外の街並みというのは新興住宅地の様に新しい家が立ち並んでいたが、



何故か、彼が購入した家の隣家だけが、とても古めかしい造りと傷み具合



であり、築50年以上は優に経過している様に見えたという。



しかし、元々、近所付き合いが苦手の彼は、そんな事など微塵も気にしては



いなかった。



彼ら家族がその家に引っ越してきた時、隣の家の前から老婦人がこちらを



凝視していた。



彼らは隣家の住人だと思い、急いで挨拶に向かうと、その老婦人の姿は



もう其処には無かったという。



玄関の呼び鈴も押してみたが、何の反応も無く、仕方なく引き揚げたそうだ。



引っ越しも無事に終わり、いよよい生活が始まる。



特に不便も感じない快適な生活だった。



隣家の住人の姿をそれ以後見る事は無かったが、時折、2階の窓から隣家の中を



移動する人影を見かけたり、夜になるとぼんやりと明かりが点いていたから、



彼ら家族は、



きっと、隣の住人は、うちと同じで人付き合いが苦手な人なのだろう・・・・。



そんな風に思っていたという。



それからも、何度か窓から隣の住人のシルエットを見る事はあったが、結局



一度も話させないままに月日が流れた。



そんなある日の夜、彼は真夜中に目が覚めた。



時刻は午前3時頃だったという。



彼が寝る前までは台風の様な強い風が吹いていたがそれも既に止んでいるようで



外は静寂に包まれていた。



彼は外の様子を見ようとして、部屋のカーテンを開けた。



彼は心臓が止まりそうになった。



そこには彼の部屋の窓に張り付くようにして中を覗いている老女の顔があった。



うわぁ!



彼は思わず大声を出して尻もちをついた。



その音で家族が起きて彼の部屋にやって来た。



しかし、その時には既に老女の姿は跡形もなく消えてしまっていた。



ただ、その老女の顔には見覚えがあった。



引越しの際、隣家の前から彼らを見ていたあの老女だった。



彼は朝になるのを待って、文句を言いに隣家に向かった。



真夜中の午前3時に我が家の窓に張り付いて、いったい何をしていたのか?



と聞きただす為に。



玄関の前に立ち、呼び鈴を押すが、壊れてしまっているのか、何もそれらしい音は



聞こえなかった。



それでも、腹の虫が収まらなかった彼は、近所を回って、隣家の住人の事を



聞いて回ったという。



そこで、返って来たのは、



あの家は空家になっていて誰も住んでいない・・・・・。



そんな言葉だった。



以前は年老いた母親と息子二人が住んでいたらしいが、いつしか2人の息子の姿は



見かけなくなり、その後、その母親もあの家で孤独死しているのが見つかった、



という事だった。



そして、その母親が亡くなってから既に10年以上経過しており、電気も水道も



通ってはいない、というものだった。



あまりに古い家なので、買い手が付く事も無く、そのまま放置されていたのだと。



彼はキツネにつままれた様な気分で自宅に戻ったが良く考えてみると、



回覧板にも隣家の名前は無く、そして、昨夜の件に関しても、普通の人間が



足場も無い窓にべったりと張り付くようにしていられる筈もなかった。



ただ、2階の窓から見える人影や、夜に灯るぼんやりとした明りは家族の誰もが



目撃しており、思わず彼は背筋が寒くなったという。



その後も相変わらず、家族が隣家の人影や、ぼんやり灯る明かりを目撃する事が



続いた為、今では隣家との間の窓のカーテンは閉めたままにし開ける事が



無くなったという。



そんなある日、彼が仕事の飲み会で遅くなり、なんとかタクシーで帰宅した。



時刻は、やはり午前3時頃だったという。



家に入ろうとした彼は、何かの視線を感じて視線を上げた。



すると、其処には彼の家の壁にヤモリのように貼り付いて、こちらを見ている



老婆の姿があった。



その姿はとても人間とは思うないほど不気味なもので、彼は何も出来ず



逃げるようにして家の中に入ったという。



彼は先ほど見た老婆の姿があまりにも不気味だったので、すぐに着替えを



済ませてベッドに潜り込んだ。



恐怖で体が硬直していたが、酒を飲んでいた事もあり、何とか眠りに就く



事が出来た。



普通、彼は酒を飲んだ日は一度寝たら朝まで起きる事は無かった。



しかし、その夜はうなされるように目が覚めた。



体中にびっしょりと大量の汗をかいていた。



すると、彼の耳に、コンコン・・・・コンコンという音が聞こえてきた。



それは明らかに誰かが部屋の窓を叩いている音だった。



彼は先ほど見た老婆が窓に貼り付いて窓を叩いている姿を想像して恐怖し、



そのまま布団の中に潜り込んだ。



あれは何なのかは分からなかった。



いや、きっと隣家の死んだ母親の変わり果てた姿だというのは何となく分かっていた。



ただ、どうして、その母親が、隣に建つ彼の家の窓に張り付いているのか?



そして、どうして死んだ者が真夜中に徘徊しているのか?が理解出来なかった。



彼は上下の歯が噛み合わない程、ガチガチと音を立てて震えていた。



それほどの恐怖だったという。



暫くして蒲団から顔を出すと、窓から聞こえていた、



コンコン・・・・コンコン・・・・



という音は聞こえなくなっていた。



彼は体から緊張が抜けていくのが分かり、少しだけホッとしていた。



しかし、次の瞬間、何かが1階の廊下を歩いている音が聞こえてきた。



いや、その音は歩いているというよりも、軽くスキップでもするかのように



飛び跳ねている・・・・。



そんな感じの音だったという。



そして、その音は、次の瞬間、階段へと移った。



まるで、体重の軽い何かが、ふわりと浮きあがっては次の段に移動している。



そんな音だった。



彼はまた、あの老婆が廊下をゆっくりと、そして軽快にのぼってくる姿を想像して



恐怖した。



誰も、その音には気付いていないのか、起きてくる様子は無かった。



その足音が階段をのぼりきった音が聞こえた。



このまま布団の中に隠れていても、きっと見つかってしまう。



あの老婆は、真夜中に2度も、隣家に貼り付いている姿を見られて怒っている



のかもしれない。



そんな思いが想像から確信へと変わっていた。



だとしたら、間違いなく、あの老婆は自分の所にやって来る筈だ・・・。



彼は、ゆっくりとベッドから起き上がった。



そして、護身用のゴルフクラブを握りしめると、部屋のドアの前に立った。



ドアを開ける勇気がなかなか起きなかった。



しかし、こんな事をしていて、もしも彼以外の家族の所へ行ったら・・・。



そう思うと、恐怖は少しだけ消えて、彼はドアのノブに手を掛けた。



ゴルフクラブ1本だったが、持っているだけで少しだけ勇気が持てた。



彼はノブを回してゆっくりと押す様にしてドアを開けた。



心臓が止まるかと思った。



其処には、不気味な姿の老婆が、上目遣いで気味の悪い笑みを浮かべこちらを



見ていた。



それは、まるで積年の恋人にでも出会えたかの様な笑顔に見えたという。



彼は恐怖のあまり、その場で固まり立ち尽くしていた。



腰が抜けてしまい、その場に建っているのが精いっぱいだった。



すると、老婆は彼の前へとにじり寄り、そして彼に抱きつくようにして



両手を彼の背中にまわし、自分の顔を彼の胸に密着させた。



何かベトベトした感触だったという。



そしてそれよりも、彼の背中にまわされた両手の力は凄まじく、彼の



肋骨はミシミシと音を立てて今にも折れそうだったという。



やはり、見てはいけなかった・・・・・。



俺はこのまま死ぬんだろうか・・・・・。



そんな事を考えていた時、突然、何かが老婆の背中を蹴りあげた。



妻だった。



きっと、妻も恐怖で震えていたのだろう・・・・。



猟目は充血し、涙が流れた跡がはっきりと残っていた。



しかし、きっと恐怖心よりも、自分を助けなければ、という気持ちが強く



なったのだろう・・・・。



妻は老婆の背中を掴んでは、彼から引き剥がそうとしていた。



そんな妻の姿を見た彼は、恐怖も何処かへ飛んでしまったという。



膝で老婆を蹴りあげると、自分の体から老婆を引き剥がした。



そして、



他人の家で何やってんだ!



出て行け!



そう叫んでいたという。



すると、老婆はゆっくりと起き上がり、フラフラと窓の方へと歩いていき、



そのまま窓を通り抜けるようにして消えていったという。



それから、彼と妻は恐怖のあまり、2人で抱き合って泣いたという。



そして、しばらくすると、外から



火事だ~、という声が聞こえてきた。



彼らが起き上がり、外を見ると、隣家に建つ老婆の家が燃えていた。



彼らは何か起きているのか、理解出来なかったが、どうやら火事が起きているのは



現実の事の様だった。



すぐに消防車がかけつけ、消火にあたったが、結局、隣家はそのまま全焼して



しまったという。



そして、消防が火元を調べている時、焼け跡から2人の遺体が発見された。



その後の調査で、2つの遺体の身元は行方不明になっていた老婆の2人の



息子だという事が分かったという。



結局、彼ら夫婦はその後、すぐに別の場所へ引っ越ししたらしいのだが、



今でも、どうして、その老婆が彼の家に固執するように貼り付いていたのかは



分からないそうである。



この家は、今でも金沢市南部に実在している。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:04│Comments(0)
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