2019年06月08日

お仕置き

彼ら夫婦には現在、子供がいない。



それは、以前、悲しい出来事があったからなのだという。



彼らは周りからはかなり遅れて結婚した。



しかも、二人が心から欲した子宝にも恵まれる事が無かった。



それでも、不妊治療にお金をかける余裕など無かった彼らは、毎日、近くの



神社でお参りをしてから会社に向かう事に決めていた。



そして、その御利益があったのか、40歳の時に奥さんが妊娠した。



ようやく授かった子宝に、二人は大喜びして、生まれてくる日を心待ちにしていた。



奥さんはかりなギリギリまで仕事を続けていたが、特にトラブルも無く



赤ちゃんはお腹の中で順調に大きくなっていった。



そして、いよいよ出産の予定日が近づいた。



自然分娩ではなく、帝王切開を選んだ。



奥さんの体にも赤ちゃんの体にも負担が少ないと聞いていたから。



そして、予定日よりも少しだけ早く奥さんは無事に赤ちゃんを出産した。



元気な男の子だった。



それからは、二人の生活はその全てが赤ちゃん中心に回っていった。



何をするにも赤ちゃんが最優先だった。



男の子は彼ら夫婦の愛情を一身に浴びながら、元気にすくすくと育っていった。



彼ら夫婦には一つの願いがあったのだという。



それは我が子には、強い心を持った、相手の痛みが分かる優しい人間に



なって欲しいという願いが。



だから、彼らは愛情をいっぱいに注ぎながらも、時折厳しく接した。



叱るときにはしっかりと厳しく叱り、悪い事をすればしっかりとお仕置きをした。



そして、勿論、良い事をした時にはしっかりと褒める事も忘れなかった。



そんな二人の願いが通じたのか、男の子は本当に強く優しい子に育っていった。



そんな矢先、不幸な事件が起こった。



それは、いつもと変わらないお仕置きだったという。



保育園で友達に暴力をふるった男の子に両親は厳しく対応した。



いつものように2階の物干し部屋で正座させたまま部屋の鍵を掛けた。



暴力はいけない事。



それを分かって欲しかっただけ。



ただ、いつもと違っていたのは、ちょうどその日、男の子は保育園で友達から怖い話



を聞いていたという事。



物干し部屋に鍵を掛けられた男の子は、泣きわめく事もせず、2階の窓から



脱出しようとした。



余程、友達から聞いた話が怖かったのか、男の子には一人きりの物干し部屋は



耐えられなかったのだう。



2階の窓から身を乗り出し、近くの小屋根に飛び移ろうとした男の子は



バランスを崩し、そのまま地面に落下した。



外から異音が聞こえ、それを確認した彼らは半狂乱になって男の子を病院へと



連れていった。



救急車を呼んでいる猶予は無いと判断したらしい。



しかし、結局、男の子は一度も意識を取り戻す事も無くそのまま息を引き取った。



悲しい事故というしかなかった。



誰もそんな結末を望んではいなかっただろう。



夫婦は、親戚も誰も呼ばず、二人だけで葬儀をおこなった。



2人はまるで抜け殻のようになっていたのだろう。



葬儀が終わると、小さな仏壇を買い、毎日、手を合わせたが、その悲しみが消える事



は無く、夫婦はずっと泣き続ける生活だったという。



何度、子供の後を追おう、と思ったかしれない。



しかし、子供の為にも生きなければ、と二人で話し合い、少しずつだが普通の



生活を取り戻しつつあった。



そんな矢先だった。



彼ら夫婦は死んだはずの男の子の姿を見るようになる。



ただ、それは生前の様に明るく元気な姿とは全くの別物だった。



それでも、夫婦は、死んだ子供が姿を見せに来てくれた、と喜んだという。



しかし、どうやら、その男の子の目的は姿を見せて安心させるというような



ものではなかったようだ。



家で掃除をしている時、奥さんが階段から突き落とされた。



怪我自体は大したことはなかったが、それでも夫婦にはかなりのショックだった。



そして、車を運転している時、男の子が現れて、ハンドルを握り、車を電柱に



激突させた。



スピードが出ていなかったのが幸いしたのか、車は全損だったが、夫の怪我自体は



腕の骨折程度で済んだという。



夫婦は確かに恐怖したが、それも自分達が息子にしてしまつた過ちのせいだと思い



その男の子を恨む事は決してしなかったという。



それからも、夫婦の身二は、事故が続いたが、それも自分達のせいであり、因果応報



というものだと己に言い聞かせ、毎日、仏壇に手を合わせては泣きながら謝り



続ける日々だったという。



だが、それは夫婦の間だけで処理できるレベルをすぐに超えてしまう。



保育園で、死んだ男の子の姿を見たという噂が流れだす。



そして、それと同時に保育園でも不可解な事故が多発するようになった。



滑り台から突き落とされて大怪我をした子供。



ジャングルジムから足を滑らせ落下し大外科をした子供。



そして、道路に突き飛ばされて車に轢かれた先生。



その他にも沢山の事故が発生したが、その被害者の口から一様に語られたのが、



死んだ○○君の姿を見た・・・・。



○○君に突き飛ばされた等、事故の瞬間、必ず死んだ男の子の姿を見たという



話だった。



その話が耳に入った時、夫婦は初めて、



このままではいけない!



なんとかしなければ、と気付いたという。



全ての罪は自分達に在る・・・・。



だから、他人に被害が出るのだけは何とかして防がなければ・・・・・と。



しかし、夫婦にはどうすれば良いのかすら分からず、今度息子の姿を見る事があれば、



その時には、何とか説得して他の人達の代わりに自分達の命を差し出す事で



この怪異を納めようと思っていたという。



霊能者やお坊様には頼む事はせず、自分達の撒いた種は自分達で刈り取ろう、と。



しかし、誰かが掲示板に書き込んだその話が思わぬ人物の目に留まった。



それは姫だった。



その話を掲示板で読んだとき、悲しくて居ても経ってもいられなくなった。



自分で色々と調べ、その夫婦が何処に住み、そしてどこの保育園に通って



いたのかも突きとめる事が出来た。



そして、行動に出る。



自分の力で何とか助けてあげたい、と。



男の子はすぐに姫の前に姿を現した。



俺としては予想外だったが・・・・。



通常、姫ほどのオーラがあれば、どんな相手でも決して近付こうとはしない。



しかし、その男の子の霊は違っていた。



男の子の前に立ち、必死に説得しようとする姫をあざ笑うかのように好き放題を



繰り返し、決して除霊などを行おうとしない姫を傷めつけ、そして次第に



姫はボロボロになっていく。



そして、それを見ていたAさんも何も言わなかった。



これも、姫ちゃんにとっては勉強ですから・・・・・。



そう言いながら。



そう言われてしまうと俺もただじっと見守るしかなかったのだが。



そして、そんな日が続いたある日、姫が大怪我をして病院に運ばれたと聞いた。



その夫婦の家の2階から突き飛ばされて階段を転げ落ちた。



肋骨と右足、そして右手の指を骨折する大怪我だった。



急いで病院に駆け付けた俺とAさんに対して、姫は痛々しい姿で懇願した。



あの男の子には手を出さないでくださいね・・・・。



きっと、少しだけ寂しいだけだと思います。



だから、浄化なんかしないでくださいね・・・・。



そう弱々しく呟く姫に対して、Aさんが初めて口を開いた。



姫ちゃんのそういう優しい気持ちって大切だと思うよ。



でもね、姫ちゃんさ・・・・・・もしかして見誤ってない?



その男の子は本当に、その夫婦の子供なのかな?



その夫婦は死なせたくて子供を折檻したんじゃないでしょ?



いえ、例え、殺意があって子供を殺したとしても、きっと子供は親を恨んだり



しないと思うけどね・・・・。



私の事を嫌いなのかな?と思って悲しむ事はあるかもしれないけど、多分、恨んで



怪我をさせようとするのは違うと思うよ・・・・・。



そう言って、病室を出ていった。



慌てて俺はAさんの後を追った。



そして、



これからどうするの?と聞くと、



そんな事決まってるじゃないですか?



私の大切な仲間を傷つけられてこのまま放っておける筈が無いじゃないですか?



そう言って、停めてあった車に乗り込む。



俺も慌てて助手席に乗り込み、



一緒に連れてってよ?



と頼むと、呆れながらもOKしてくれた。



その夫婦の家は病院からさほど遠い場所ではなかった。



それにしても、どうしてAさんがその夫婦の家を知っていたのか?と疑問に思った



俺はすぐにAさんに聞いた。



すると、Aさんは、



本当にうるさい人ですよね・・・・・。



こんな事になるんじゃないか、と思って私なりに調べただけですけど?



と、ぶっきら棒に答える。



それを聞いて、俺は思った。



なんのかんのと言ってみてもやはりAさんは姫の事が心配でしかたないのだ、と。



そして、その夫婦の家に着くと、Aさんは軽く挨拶だけ済ませると、さっさと



家の中を色々と見て回った。



そのうえで、夫婦にふたたび会い、こんな会話を交わした。



夫婦は少し怪訝そうに、



あのお嬢さんは大丈夫でしたか?



変な事に巻き込んでしまって・・・・。



だから、もう私達の事は構わないでください・・・。



これ以上、関わっていたらあなた達の身が本当に危険になりますから。



これは私達が犯した罪ですから、私達だけで償います!



とAさんに告げる。



すると、Aさんは、真剣な顔で、



あの…勘違いされると困るんですけどね。



私が此処に来たのは、あなた達の為ではなくて、その男の子の為ですから。



この家の中には、陽の気と陰の気が交錯しています。



圧倒的に強い陰の気に、男の子は必死で抵抗しています。



大した力も持っていない状態で・・・・。



それは何の為だか、分かりますか?



あなた達をその陰の気から護るため・・・。



そして、あなた達ご夫婦から教えられた他人を傷つけてはいけないという



教えを護る為・・・・・。



でも、もうその男の子の気も相当弱っています。



このままでは、陰の気に飲み込まれてしまう。



私の仲間が傷つきながら必死で護ろうとしたものを、そんな奴に渡す訳には



いかないんですよね。



だから、私は今日、その男の子の想いを護る為に此処にやって来ました。



そして、陰の気を出して、厄災を引き起こしているモノを断ち切る為に・・・。



そう言うと、Aさんは、優しい声で、



もういいよ…出てきても大丈夫だから・・・・。



後は私がきっちりと片をつけてあげるから・・・・。



あなたの大切なパパとママもを私がしっかりと護らせてもらうから・・・・。



そう言うと、うっすらと弱々しい光が目の前に現われて、その中に透ける様に



小さな男の子の姿が見えた。



笑っていた。



かわいらしい笑顔で・・・・。



そして、小さな体でAさんの方を向き、大きなお辞儀をした。



そして、小さな声で、



ママ、パパ、大好きだよ・・・・。



そんな声が聞こえた。



その場で泣き崩れる夫婦に、Aさんは、



あれは悲しい事故。



あなた達が悪い事をした訳じゃない・・・・。



それをしっかりと認めないと、死んだ男の子も報われないですよ・・・。



男の子はあなた達夫婦を恨んだりなんかしていません。



今でも大好きだから、必死であなた達を護ろうとした。



辛い思いをして痛みに耐えながら、この世に戻ってきて・・・。



だから、もう自由にしてあげてください・・・。



あなた達が、もう大丈夫って姿を見せてあげないとずっとその子は悲しみと



寂しさで呪縛されたまま、転生出来なくなってしまいますから・・・。



そう言うと、男の子に目配せして、両親の元に行くように合図する。



すると、淡い光が夫婦の方へと近づいていき、3人が一体になって抱き合った。



それは、ほんの数秒の事だった。



やがて、光が次第に弱まっていき、その場には夫婦二人だけが残された。



しっかりと抱いてあげる事が出来ました・・・・。



ありがとう、ありがとう・・・・・。



そう言って泣きながら礼を言う、夫婦に、Aさんは優しい声で、



あの子も弱っていたので、あまり長時間は無理でした・・・。



でも、あの子の気持ちは伝わりましたよね?



というと、夫婦は大きく頷いた。



すると、Aさんは急に真剣な顔になって、



それじゃ、すみませんけど、ここからは私が此処を使わせて貰いますね。



あなた達のお子さんを苦しめていた元凶を此処で断ち切りますから、すみませんが



家の外で待っていて貰えますか?



そう言うと、夫婦は、すぐに家の外に出ていく。



そして、俺は聞いた。



どうするの?



相手はかなり強いの?と。



すると、Aさんは、



あの・・・Kさん、どうして姫ちゃんがあんなに大怪我したのに左手だけは怪我



しなかったのか、分かりますか?



と聞かれ、俺が首を横に振ると、



姫ちゃんは本当に左利きなんですよね。



Kさんは、今まで姫ちゃんが左手を使ったのを見た事が無いと思いますけど・・・。



だから、姫ちゃんも、きっと分かっていたのかもしれませんね。



だから、最後の最後まで左手だけは必死で護り続けた。



きっと、こんな時が来るのを見越して・・・。



そして、私は今日、姫ちゃんの代わりとして此処にやって来ました。



そして、Kさんは知らないと思いますけど、私も左利き・・・です。



だから、今回はKさんも、いつもよりはかなり離れた距離にいた方が



良いかもしれません!



そう言うと、一歩一歩階段をのぼっていく。



そして、夫婦の寝室らしき部屋の前まで来ると、



もう止めようね?パパもママも心配してるから・・・・。



と声をかけた。



すると、突然、寝室のドアが開いて、そこには小さな男の子が立っていた。



その姿は先ほど見た男の子に瓜二つではあったが、明らかにどこかが違う。



そして、Aさんは、その男の子に向かってしゃがみ、



もう止めよう?私達が悪かったから・・・・。



と泣きそうな声で呟く。



俺は何が起こっているのか?



Aさんはどうなつてしまったのか?と理解不能になった。



すると、突然、ドーンという音がしてAさんと俺はその場から引き飛ばされた。



離れていた俺とは違い、Aさんは、その衝撃をまともに受けてしまう。



俺は凍り付いてAさんの方を凝視した。



ゆっくりと起き上がるAさん。



ふぅん・・・・こんなもんなの?



やっぱりよく分かった・・・・。



お前が大怪我させた相手は、こんなもんじゃなかったよ?



まともにやっていれば、お前は一瞬で消し飛んでたでしょうね!



しかも、もうあの男の子は、ちゃんとあっちに返したから・・・・・。



それでも、まだそんな姿をして出てくるなんて馬鹿丸出しだよね。



そろそろ、本気出した方が良いんじゃないの?



そう言うと、その男の子の姿は解ける様にして消え、次の瞬間、黒い煙の様な



女がユラユラと立ち上がった。



Aさんの1.5倍程はある大きさ。



俺は、さすがに、



おいおい、さすがにまずいんじゃないの?



そう思った。



しかし、次の瞬間、Aさんは、



Kさん、かなり離れていてくださいね・・・。



怪我しても、責任持てませんからね・・・。



そう言うと、その黒い女の方へ近づいていく。



黒い煙の様なものがAさんの体に振り下ろされる。



しかし、全く動じないAさん。



あのね・・・姫ちゃんの名誉の為に言っておくけど、あの娘の力はこれの



数倍はあるから・・・・。



そう言うと、Aさんは、自分の左手をその女の方へとかざす。



一瞬の出来事だった。



雷の様な光が辺りを包み、そして次の瞬間、その女の姿はその場から消えていた。



周りの窓ガラスは全て割れ、壁にも亀裂が走った。



そして、Aさんの背後に立っていたにも拘わらず、その場から後方へと



吹き飛ばされてしまう俺。



そして、そのまま意識を失ってしまった。



それからどれだけ意識を失っていたのか・・・。



意識が戻った俺は、その場に焼きつけられたように壁に人型に残されたあの女の



骸を見つけた。



慌てて階段を降りようとして、左足が捻挫しているのが分かった。



ゆっくりと階段を降りていくと、リビングでご夫婦とAさんが歓談している



のが聞こえてきた。



どうやら、家の修繕なども全てご夫婦が負担するという事だった。



そして、その場から帰る際、俺はAさんに聞いた。



今回はなかなか難しい内容だったよね?



でも、良かったよね。



元凶が、男の子でなくて・・・・。



そう言うと、Aさんは、



親子の繋がりなんて、そんなものじゃないんですかね?



とだけ返してきた。



そして、俺は、



そういえば、Aさんも姫も左利きだったんだ?



やっぱり左利きっていうのは、何か霊的な力が強いのかな?



あっ、ちなみに、俺も左利きなんだけどね・・・・・。



と言うと、



あっ、そうなんですか。



でも、気にしなくて良いです。



Kさんのはただの無駄な左利き・・・・ですから・・・。



そう冷たく言われ、俺はそのまま無言のまま、車に乗っていた。



しかし、その時見せつけられたAさんの左手の力よりも数倍強力って、



姫の潜在能力って、いったいどれ位凄いのか?



そう思わされた事件だった。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:12│Comments(0)
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