2019年06月08日

ひとつ、足りない

これは友人から聞いた話である。



彼には当時、仲の良い幼馴染がいた。



出会ったのは幼稚園に入学した頃であり、それからは、小学校、中学、高校、そして



大学と、同じ学校に通った。



社会人になってからもその親交は続き、釣りという同じ趣味もあってか、休みの日も



一緒に過ごす事が多かった。



そんな彼の幼馴染をTと呼ぶことにする。



Tの周りでおかしな事が起こり始めたのは彼らが30歳頃の事だった。



ある日、彼はTから相談を受ける。



それは自分の存在が無視されている様に感じるという事だった。



何処に行っても自分の存在が誰にも気付かれなかったり、声をかけても



全く聞こえていないように無視される事が多くなったという事だった。



ただ、それはいじめとかいうものではなく、漠然としたものだったから、彼は



多分、気のせいだと思う、と言ってTを勇気づけていたという。



そんなある日、Tと一緒に喫茶店に入った彼は、彼の悩みを知る事になった。



先ず、席に座るとウエイトレスさんが水を運んできたのだが、何故かコップの水



を一つだけ持って来て、それを彼の前に置いた。



またか・・・・・という顔をしているTに代わり、彼が



すみません・・・・二人なんですけど?



と言うと、ウエイトレスは慌ててもう一つの水を持ってきたという。



更に、飲み物を注文し、それを運んできた際も、彼の前にコーヒーを置いてから



そのウエイトレスは、もう一つのコーヒーを何処に置けば良いか、途方に暮れている



様子で、結局、彼の前に二つのコーヒーを置いていった。



確かに、彼も以前、ファミレスや喫茶店でいつも水を一つ多く置いていかれるという



都市伝説じみた話は耳にした事があった。



しかし、コップの水が一つ多いどころか、一つ足りないのだ。



そんな話は聞いて事が無かった。



勿論、彼にはTの姿はしっかりと見えていたし、なんら変わった所も無かった。



だから、彼もTに対して、



きっと何かの勘違いだから・・・・。



と言い聞かせて、その場を後にした。



しかし、それからもTの受難は続く。



仕事で客先にアポイントをとってから訪問するが、相手は全く覚えていない



という事が続いた。



友人の結婚式に呼ばれたのは良いのだが、Tの席だけが用意されていないという



事が何度もあった。



そんな感じだったから、Tも次第に自宅に引き籠るようになってしまい、



彼も心配していたという。



何度か彼の家を訪れて励まそうとしたらしいが、Tは会ってもくれず、そのうちに



時間が解決してくれるだろうと彼もしばらくはTに会わないように、そっと



しておこうと思ったのだという。



しかし、それからしばらくして、彼自身もTの事を全く思い出せなくなってしまう。



何か心に引っ掛かっているものがあるのだが、それが何度か思い出せない。



そして、ある日、何気に卒業アルバムを見ていた時、彼は突然Tの存在を



思い出した。



慌ててTの家を訪れた彼だったが、その時にはもう遅すぎた様だった。



Tは、朝起きると冷たくなっていたという。



そして、彼がTの家を訪れたのはTが死んでから1年半以上経ってからの



事だった。



どうして、Tが死んだのを知らせてくれなかったのか?



とTの家族に尋ねると、



新聞にもしっかり載せていたんだけど、結局、誰も葬儀には来なかったんだよ。



Tは、そんなに人づきあいが気薄だったのかねぇ?



と逆に尋ねられてしまったという。



そして、彼はこう言っていた。



実は、その時に思い出したんだけど・・・・。



昔、Tと一緒に心霊スポットに行った事があって、その場所というのは古い



廃墟になった学校なんだけど、その時、そこで生徒の名簿もたいなものを見つけて



つい冗談半分で、その名簿にお互いの名前を書いてしまったんだ・・・・。



でも、後日、やはり気持ち悪くなってその名簿から名前を消そうと思い、その場所に



行ったんだけど、もうその名簿は何処にも見つからなかったんだ・・・。



経った、二日しか経過していなかったのに・・・・。



そして、これは何の根拠も無い話なんだけどさ・・・・。



あの名簿に名前を書いた事でTは、あちらの世界に連れて行かれたのかもしれない。



だから、



きっとあの時、喫茶店の時も、その他でTの存在自体に誰も気づかなく



なっていたのは、もしかすると、Tが死ぬのが決まっていたからなのかもしれない。



だから、少しずつ、周りの人間から記憶を消していき、彼が存在していたこと自体、



無くしてしまおうという力が働いていたのかもしれない・・・・と。



そして、彼はこうも言っていた。



最近、俺の周りでTが体験したのと同じような現象が起こって来てるんだ。



だから、もしかしたら、俺はもうすぐ死んでしまうのかもしれないな、と。





Posted by 細田塗料株式会社 at 23:15│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count