2019年06月08日

片町のラウンジで

俺はよく片町という場所へ飲みに出掛けている。



ストレス解消という名目でいつも快く飲みに出してくれる妻には感謝の



気持ちしかない。



どうして、片町なのか、といわれると困ってしまうが、まあ自宅から近いというのも



一つの要因なのかもしれない。



それと、今とは違って昔は片町という場所が金沢市の中心的な繁華街であり、



買い物、ファッション、美味しい食事、そして夜の飲み屋の数で圧倒的であり、



子供心に父親が片町で飲んでは帰りにお寿司を手土産に帰ってくるのを



楽しみにしていた記憶がある。



だから、きっと自分も大人になった今、そんな場所で飲みたいという気持ちが



強いのかもしれない。



そして、俺がいつも1人で飲む時には、行きつけのスナックかショットバーが



中心になるが、お客さんと一緒の時にはそれなりのお店に行く事になる。



それは高級クラブだったり、高級ラウンジだったり・・・・。



まあ、確かにそんなお店で飲んでいると、何かお金持ちにでもなったかの様な



錯覚を覚える事がある。



だからといって、自分が飲み代を支払う時にはそんな高級店で飲みたいとは微塵も



思わないが・・・。



そして、これはある時、お客さんに連れられて行った片町のとある高級ラウンジ



での話である。



片町にはよく飲みに出るが、そのビルには近寄った事が無かった。



かなりの高級店が軒を連ねているビルだったから。



エレベータに乗って7階で降りる。



エレベータを降りた途端、景色が一変する。



廊下や壁の造りが他の階とはまるで違っている。



そして、大理石の廊下を進んでいくと、前方にいかにも高級そうな扉が見えた。



そして、そのドアを開けて入っていくお客さんの後に付いて店内へ。



お店の中は更に高級そうな大理石で埋め尽くされ、大きなグランドピアノが



中央に鎮座している。



少し緊張気味に店内を進み、奥のテーブル席へと案内される。



シートもこれまで生きてきて経験した事が無いほど柔らかく、そしてふんわりとした



質感であるにも拘わらず、しっかりと体を支えてくれる。



全てにカルチャーショックを感じつつ、完全に浮足立ってしまう俺。



いつも、安い店ばかりに誘っている相手が、こんな高級店の常連だったとは



完全に迂闊だった。



そうこうしているうちに、綺麗な女性が俺達のテーブル席へと押し寄せてきた。



いらっしゃいませ!



挨拶の仕方も、さすがに高級ラウンジといった感じで、妙に俺の僅かに



残されているプライドを刺激してくる。



テーブル席には俺とお客さんの二人だけ。



それに対して、女性は、といえば、ママさんの他に、計3人の女性が付いてくれた。



この店の支払いは 誰がするんだろう?と不安を感じつつ、それでも



楽しい時は流れていく。



そんな時、ふと、顔を上げると壁の隅に、女性が二人立っていた。



横顔しか見えなかったが、明らかに美人なのは分かった。



それも、絶世の美人という部類に入る程の・・・・。



ただ、不思議だったのはお店の中にはそれなりにお客さんも増えてきており、



女性の数が絶対的に少ないのか、女性が一人も付いていないテーブルもある。



それなのに、どうして、壁の隅に立っている2人の女性たちは、テーブルに



付こうとしないのか?



だから、俺は冗談半分でママさんに尋ねてみた。



凄い綺麗な女の子が二人も余ってるのにテーブルには付かせないの?



もしかして、VIP専用?



だって、確かに綺麗だもんね・・・・。



そう言うと、ママさんの顔が一気に険しくなる。



俺は何か悪い事でも言ってしまったか、と自問自答してみたが、思い当たらない。



実際、壁に立っている2人の女性はホステスさんが着るような綺麗なドレスに



身を包んでおり、そして、にこやかに店内を見ているのだから。



すると、ママさんは俺が渡した名刺を見ながら、



Kさんって、もしかして、視える方なんですか?



と小声で聞いてきた。



俺は変な先入観で見られるのは御免だと思い、



視えるって何がですか?



一応、両目は付いていて、視力はたぶん1.5位だと思いますけど・・・・。



と、わざとボケてみる。



すると、ママさんは、



何でもないんですよ(笑)



とにこやかに答えたが、それからというもの、何度も女性二人が立っている壁の



辺りをチラチラと何度も見る様になった。



そして、しばらくすると、他のテーブルから呼ばれたのか、その場を離れていった。



すると、テーブルに残っていた3人の女性のうちの1人が突然、俺の横に



ピッタリと座り、小さな声で聞いてくる。



Kさんって、本当は視えてるんでしょ?



だって、二人とか、壁の辺りに立ってる・・・とか?



お願い、教えて!



本当は霊とか見える人んなんでしょ?



そう聞いてきた。



俺はまた、とぼけようとしたが、その女性が、



だって、私にも視えてるから・・・・。



と言われ、首を縦に振った。



そして、その女性は、その二人の女性が何者なのか、を教えてくれる。



以前、同時期にその店で働いていた女性たちであり、お店の売上金の回収や



男女関係がもつれて、お店の助けも得られず、ついには片町のビルから飛び降りて



自殺したそうだった。



そう聞いた俺は、



でも、恨んでる様子はないんじゃないの?



お店の中を微笑ましく見渡しているだけ、に見えるけど・・・。



と言うと、



それじゃ、私の後ろに付いて来て・・・・。



と言われ、俺はその女性にトイレの前まで連れて行かれる。



そして、トイレに行ってから、そっと、その女性が指さす方を見ると、



そこには、恨みの念に支配されたような醜悪な顔の女が立っている。



手足の骨は折れ、骨が露出しており、血だらけの顔は潰れ、無残過ぎる姿だった。



どうして?さっきは綺麗だったにの・・・・。



と俺が聞くと、



ほら、ホステスしていた頃のプライドがあるから、お客さんがいる側からは、



綺麗に見られたいっていう気持ちが強いんだと思う・・・。



でも、実際、このお店はかなり高級なお店だし、それなりの地位の人達が飲みに



来られるんだけど、中には無理して来ているお客さんも居るから、ツケの支払い



で、いつも大騒ぎになって・・・・。



それでも、お客さんが払ってくれれば良いけど、そうじゃなければ、いつも指名



されている女の子が代わりに払わなくちゃいけないから・・・・。



まあ、色々と表向きは綺麗でも大変な訳で・・・・。



だから、どうしようもなくなって、自殺者なんか出てしまう・・・。



だから、片町の高級店に行くと、かなりの確率でお店の中に自殺した女の子が



立っていたりするの・・・・。



そう説明されて俺は、なるほど、と頷いた。



そして、そのまま立っている2人の女性の方を見ないようにしてテーブル席へと



戻った。



しかし、それからしばらくすると、先ほど説明してくれた女性がママさんを



連れて、こちらのテーブルにやって来た。



そして、深刻な顔で、



あの・・・・やっぱりお視えになる、ということを聞いたんですが、除霊とかは



出来ませんか?



と聞いてきた。



どうやら、その店ではかなりの霊現象が頻発しており、お客さんが来なくなったり



お店の女の子が次々と辞めていくのだと聞かされた。



しかし、俺に除霊する力など在る筈も無いし、何より、自殺者を作りだしている



様なお店の手伝いはしたくなかった。



だから、俺は、



あ・・・無理ですよ。除霊なんてした事ありませんから!



と、はっきりとお断りさせてもらった。



しかし、隣で飲んでいたお客さんが、



あのさ・・・この人の知り合いに凄い人がいるみたいだよ!



と余計な事を言った。



それを聞いたママさんは、俺に対して懇願してくる。



どうにかお願いできないものか、と。



そこで、俺は、



いや、でも、女の子を自殺に追い込む様なお店の力にはなりたくないので・・・。



と言うと、どうやら、自殺者が出たのは、先代のママさんの時代らしく、今の



ママさんになってからは、女の子のノルマも無くし、楽しく働いてもらえるように



しているのだと聞かされた。



そこで、俺はAさんに連絡をとった。



Aさんが、その日の夜、片町の店でライブをしているのを知っていたから・・・。



だから、もしもまだ帰宅していなければ・・・・と思い、思い切って電話を



してみた。



すると、ただでお酒を飲ましてくれるのなら、何処へでも行く!



という予想通りの返事が返って来た。



そして、Aさんが来るまでの間に、隣に座っていたお客さんがママさんと交渉して、



除霊がうまくいったら、その日の支払いは無し、という話までつけていた。



30分ほど待っていると、Aさんがお店の扉を開けて店内に入って来た。



お客さんも、そしてママさん達もしばらくは目がテンになっていた。



どうやら、除霊が出来るのだから、何処かのお坊さんか何かだと思っていたらしい。



店内を見渡しているAさんに、俺は大きく手を振って合図した。



すると、不機嫌そうにこちらに向かってやって来る。



そして、



良い身分ですね・・・Kさん?



お酒を奢ってくれるっていうから、来てみましたけど、あっちに立っている



2人の女性。



あれを、何とかしろ、って事なんですか?



それじゃ、奢りじゃないじゃないですか?



ライブで疲れてるのに、まだ私にそんな事をさせようとしますか?



と、語気を強める。



俺は、何も言えず頭をかいていると、一緒のテーブルに座っていた先ほどの



女性がAさんに全てを説明してくれた。



そして、こう付け加えた。



あの二人は私の先輩に当たる方達なんですけど、出来ればこんな場所に留まって



いないで、早く安らかな場所に行って欲しいんです・・・、と。



すると、Aさんも、面倒くさそうに立ち上がると、壁際に立っている2人の



女性の所へとゆっくりと歩いていく。



そして、5分ほど何か話したあと、Aさんが手をかざすと、その二人の女性は



次第に薄くなっていき、そのまま消えてしまった。



そして、戻って来たAさんは、



はい。終わりましたよ!



2人とも素直だったから、全てがスムーズに行きました。



ちゃんと、上にのぼって行かれましたから・・・・・。



と言って、ソファーに体を預ける。



俺は、女の子にお願いして、Aさんに水割りを作ってもらったが、Aさんは、それを



一気に飲み干すと、



私は、やっぱりスナックとか居酒屋の方が落ち着きますね。



まあ、タダ酒だから、文句は言えませんけどね・・・・。



そう言いながら、結局、ボトルを空けて、ひたすら飲み続けていた。



Aさんの酒癖の悪さを知っている俺は少しずつAさんから離れる様にしていたが、



Aさんのルックスに惚れ込んだママさんからは、お店で働いてくれないか?と、



勧誘されていたし、一緒に飲んでいたお客さんからは、



パパになってやろうか?



としつこく、つきまとわれていた。



俺が、そろそろ帰らない?



とAさんに助け船を出したが、結局、Aさんは、そのまま1人で飲み続けたようだった。



まあ、お世辞など言った事も無いAさんに、夜のお店での仕事など出来る訳が



ないのは、明らかなのだが・・・・。



ちなみに、Aさんは、そのままタダ酒という事もあり、朝まで飲み明かしたあと、



自宅マンションで翌日の夜まで寝ていたそうだ。



そして、それからも何度も勧誘の電話をもらったそうだが、やはりAさんは、



その店で働く事はなかった。



まあ、無理なのは最初から分かっていた事だが・・・・。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:17│Comments(0)
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