2019年06月08日

雨宿り

これは知人から聞いた話である。



彼の趣味はバイク。



バイクと言っても自転車の事らしいのだが、確かにかなり以前からエンジンが付いた



オートバイよりも高価な自転車が販売されている事は知っていた。



自分の好きなパーツを組み合わせてカスタマイズする。



中にはフレームだけでも数十万というものがあるらしく、確かに高価になって



しまうのも頷けるのだが。



そして、彼が愛用しているのも、百万円近い値段のもの。



その時も、彼はその愛用の自転車で白山市の山道を福井県方面に向かって



走っていたそうだ。



行きは快調だった。



空は晴れ、空気がとても美味しく感じ、まさに自転車でのツーリング日和といえる



天候だった。



ところが、とある道の駅に寄った頃から、雲行きが怪しくなって来る。



空は雲で覆われ、先ほどまでの明るい日差しは完全に遮られてしまい、次第に



暗くなって来るのが分かったという。



道の駅にいたオートバイも、急いで帰り支度を始め、その場から走り去っていく。



その様子を見て、彼もすぐに帰り支度を始めた。



そして、道の駅から帰路について10分位経った頃、ポツポツし雨粒が



落ちてきた。



彼自身、雨の中を走るのは嫌いではなかった。



ただ、あまり強い降りになってしまうと、さすがに走り続ける事は困難になる。



だから、彼は、それ以上、雨の勢いが強くならないように祈りつつ、自転車を



漕いでいた。



しかし、彼の願いも届かず、雨の勢いはどんどん増していく。



だが、それでも、彼は走る事を止めなかったのたが、ついにバケツをひっくり返した



様な勢いの雨に変わるとさすがに視界の確保も難しく、彼は何処かで雨宿り出来る



場所を探したという。



すると、ちょうど前方に、大きな廃屋の屋根が見えた。



彼は、急いでその廃屋に向かって走ると、大きな屋根の下に自転車を停めた。



体中がびっしょりと濡れていたが、寒さは感じなかった。



それでも、やはり疲れていたのだろう。



廃屋の軒下に腰を下ろすと、雨の激しい音さえも心地よく感じて彼はそのまま



ウトウトとしてしまう。



時間にすれば10分くらいだったという。



誰かの視線の様なものを感じた彼は、ハッとして一気に目が覚めた。



慌てて辺りを見渡すと、彼から5メートル程離れた軒下に、1人の



女性が立っているのが見えた。



え?・・・・いつの間に・・・・・。



彼は思わず眠りこんでいた自分を恥ずかしく思った。



それにしても、綺麗な女性だったという。



眼鼻がくっきりして顎のラインもとても綺麗だったし、何より姿勢が良く燐



とした雰囲気が漂っているのがとても素敵に見えた。



髪は肩までの長さで白いシャツと黒っぽいスカートをはいていた。



そして、女性は、真っ直ぐに前を向いたまま、じっと降り続ける雨を見ていた。



少し迷ったが彼はその女性に声を掛けてみる事にした。



こんにちは。



本当に凄い降りですよね!



しかし、その女性は微動だにせずじっと前を向いたままだった。



彼は声を掛けてしまった事を恥ずかしく感じた。



それと同時に、そこまで無視しなくてもいいのに・・・・と少し気分を



害したという。



彼はまた少し視線を落としたまま、地面を打ち付けている雨を見ていた。



だが、またしても誰かの視線を感じて彼は顔を上げた。



先ほどの女性の方を見たが、やはり前を向いたままだった。



おかしいな・・・・確かに誰かに見られている気がしたのに・・・・。



そう思い、彼はまた視線を地面へと移す。



車もバイクも一台も通らなかったが、きっと誰もが皆、このひどい雨のせいで



何処かで雨雲が行き過ぎるのを待っているのだろう・・・・。



そう思っていた。



そして、何気なく、彼は再び、先ほどの女性の方を見たという。



すると、その女性は彼の方をじっと見つめていた。



その顔を見た時、彼は凍りついた。



横顔があれほど綺麗に見えた女性だったが、こちらを向いている顔は、何処か



造り物のように無機質なものに感じられたから。



そして、その表情には感情というものが一切無い様に感じられたという。



彼はこちらを向いている女性の顔をしばらくの間、凝視していたが、すぐに



また、視線を地面の方へと移した。



体の中の何かが危険を知らせていたという。



そして、彼は気付いた。



その女性は、この雨の中、傘というものは持ってはいなかった。



それなのに、その女性の姿には、どこにも濡れた様子が無かった。



だとしたら、この女性はいったい何処から現れたというのか?



彼は自分の体が次第に硬直していくのを感じていた。



そして、彼はまた、視線をその女性の方へと向けた。



心臓が止まりそうになった。



彼が再度、視線を向けた時、その女性は明らかに先ほどよりも彼に近い距離に



立っていた。



5メートルほどあったその女性との距離は一気に半分程になっていた。



そして、それ以上に彼を驚かせたのが、その女性の身長が高くなっていたから。



まるで、画像編集ソフトで縦に引き伸ばした様に、いびつに身長が伸びており、



そのアンバランスさは、彼を恐怖させるには十分なものがあった。



彼は、すぐにでも、その場から逃げ出したかった。



しかし、雨は弱まる気配が全く無かったから、このまま走り出しても視界が



確保できずに危険な目に遭ってしまうのは容易に想像できた。



その引き伸ばされた身長の女がこちらを見たまま、じっと動かなかった。



彼は恐怖でその女性から視線を外す事が出来なかったが、それでも、勇気を



出して何とか視線を地面の方へと戻した。



どうする?



このまま此処にいるか、それとも、走り出すか?



その時、彼は思わず、ヒッと声を出してしまった。



横を見なくてもすぐに分かった。



その女性が彼のすぐ隣に立っている事が・・・・。



そして、更に伸びた身長で、彼を見下ろすように見つめている事が・・・・。



もう迷っている余裕など無かった。



彼は一気に立ち上がると、停めてあった自転車にまたがり、その場から一気に



走り出した。



やはり前が全く見えなかった。



体も恐怖でガタガタと震えていた。



それでも、彼はその女から少しでも遠ざかりたくて必死にペダルを漕ぎ続けた。



生きた心地がしなかったという。



ただ、確実に先ほどの女性から遠ざかっている事が彼に勇気を与えていた。



そして、先ほどの場所から走りだして5分ほど経過した頃、何かがガードレールの



外側を這っている様な気がした。



しかも、彼の自転車と同じ速度で・・・。



しかし、彼は決してガードレールの方を見なかったという。



すると、突然、彼の目の前に何かが飛び出してきたかと思うと、次の瞬間には



彼の体は自転車と一緒に宙に舞っていた。



体が道路に叩きつけられると同時に酷い痛みが彼の体を走った。



何が起こったのか、分からなかった。



ただ、何かにぶつかって彼の体が自転車と一緒にはじき飛ばされたという事



だけは理解できた。



それでは、自分はいったい何にぶつかったというのか?



彼は薄れていく意識の中で、ぼんやりと彼の目の前に立つ女の姿を見たという。



ああ…俺は死ぬんだ・・・・。



そう思ったという。



そして、次に彼が気が付いた時は、救急車に乗せられている時だったという。



車で通りかかった方が、救急車を呼んでくれたの立と説明された。



そして、彼はそのまま病院へと運ばれ、そのまま入院する事になった。



肋骨と右腕、そして右足が折れていた。



何とか数か月で退院した彼は、警察に行き、自分の自転車を引き取りに行った。



すると、自転車はまるで大型ダンプとでもぶつかったかのようにひしゃげており、



そして、自転車にはヌメヌメとした透明な液体が大量に付着していた。



彼は結局、その自転車を廃棄処分して、また新しい自転車を購入した。



相変わらず、自転車でのツーリングを続けている彼だが、その後は特に



怪異というものには遭遇していないという事である。



ただ、雨が降っても、雨宿りだけはしない様になったという事である。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:21│Comments(0)
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