2019年06月08日

暗闇の中の光

これは知人男性から聞いた話。



彼は幼少期を信州のとある県で過ごした。



生まれたのは、東海地区だったと思うが、父親の仕事の関係で小学校に



あがる前には既に、信州で暮らしていたそうだ。



もっとも、住む家には困らなかった。



彼の父親は元々、その土地の出身だったから、父親の転勤と同時に父方の



実家に同居する形になった。



彼の父も母も共働きだったらしく、彼の身の回りの世話は、その殆どが



祖父と祖母に頼る事になった。



もつとも、祖父と祖母も、可愛い孫の世話という事もあり嫌な顔一つせずに



引き受けてくれたらしいのだが・・・・。



家事の殆どは祖母が担当し、祖父はと言えば、彼が学校から帰って来てからの



遊び相手としての役割が多かったようだ。



遊び相手といっても、そこはずっと山の中での仕事を生業にしてきた祖父



だったから、余程の悪天候でない限りは家の中で遊んだりはしなかったそうだ。



いつも、学校から帰って来ると、祖父は彼を山へと連れていった。



そして、彼自身も、山に行くのが毎日の楽しみになっていた様だ。



山の中で渓流釣りを教えてくれたり、山菜を採りに行ったり・・・・。



その全てが彼にとっては、とても新鮮で楽しいものだったという。



いつも、ニコニコと笑っている祖父が彼は大好きだったそうだ。



そして、これから書くのはそんな山の中で彼が体験した不思議な話になる。



その時、彼と祖父は渓流釣りへと出掛けていた。



いつもは、釣れる場所に行くが、全く魚は釣れず、そのうちにどんどんと



渓流を上流に向かってのぼっていった。



山の奥深くに入っていった彼と祖父は、ようやく良い釣り場を見つけて、其処で



釣りを始めた。



彼自身、そんな山奥に行くのは場閉めての事だったから、何度も転んだり、



つまづいたりして、もう帰りたいと駄々をこねた。



しかし、ようやく、その釣り場に辿り付いてみると、その場所ではいつもとは



比較にならない程山魚が良く釣れた。



確かに、薄暗く気味の悪い場所ではあったが、そのうち、彼もそんな事などすっかり



忘れて渓流釣りに没頭していった。



そして、釣りを始めて2時間くらい経った頃、辺りがかなり暗くなってきた事に



彼は気付いた。



まだ、それ程遅い時間帯ではなかったから、彼自身も不思議に思っていた。



すると、祖父が急に真顔で、



今すぐ帰るぞ!



と言いだしたそうだ。



そう言われて、彼は、釣った魚を入れてあったバケツを持とうとしたらしいが、



何故か祖父は、それを止めた。



せっかく釣った魚が入ったバケツを持って行かないなんて、変な事を言うな・・・。



彼はそう思ったそうだ。



しかし、祖父は厳しい表情で、



バケツは持って行けない!ここに置いておけ!



怒鳴るように言ったという。



いつもは優しい祖父の厳しい顔と怒鳴り声に彼は、一体何が起こっているのか?



と不思議だったという。



茫然と立ち尽くしていた彼の手を取って、祖父は早足でその場を後にした。



そして、



しゃべるな!



後ろは絶対に振り返るな!



と、強い口調で言った。



彼は祖父に引っ張られる様にして、どんどんと川を下って行った。



そして、しばらく川沿いを降りていた時、突然、祖父が、



くそ!このままじゃ駄目か!



と小さいが強い口調で言った。



そして、彼の手を引いたまま、川から外れて山の林の中へと入っていく。



彼は、



ねぇ?おじいちゃん、どうしたの?



と何度も聞いたが祖父は何も答えてはくれず、



シッ・・・静かにしてろ!



と言うばかりだった。



そして、祖父は彼の手をひっぱりながら、林の中を右に左にと進んでいく。



眼の前に在る祖父の背中がとても大きく見えた。



そして、その時、彼は気付いたそうだ。



もしかしたら、祖父は何かを恐れているのではないか?と。



それは、彼の手を握る祖父の手が痛いほどしっかりと握られていたから・・・・。



そして、そう思って周りに視線をやると、真っ暗になりつつある林の中から、



ヒソヒソ・・・・・ヒソヒソ・・・・という誰かの話し声が聞こえてくる。



そして、林の木々の間から、見知らぬ大人達の顔がこちらを覗いていた。



その顔は、暗闇の中でも浮かび上がるようにはっきりと見えた。



彼は、思わず、



うわぁ!



と声を出したそうだ。



すると、祖父は彼の手を引っ張って林の中を駆け抜けながら、



本当にすまんな・・・。



ワシのせいで、お前を危険な目に遭わせてしまって・・・・・。



でも、大丈夫だ!じいちゃんが絶対にお前を護ってやるから!



そう言われたという。



真っ暗な林の中はとても恐ろしかったが、祖父が側にいてくれるという事が



彼にはとても心強く感じた。



そうして、どれだけの間、何かから逃げ回る様にして山を下りて行った



だろうか・・・。



丘を越えた所で前方に、ポツンと街灯が灯っているのが見えたという。



そして、彼の手を引っ張る祖父の力が一気に強くなったのを感じた。



祖父は、彼の手を引いたまま走る様にしてその街灯の下へと向かった。



その時には、何かが草を踏み折りながら、背後から近づいて来ているのが、



彼にも分かった。



彼はいつ、ソレに追いつかれるかとヒヤヒヤしながらも必死で祖父に付いて



走った。



そして、彼と祖父は倒れ込むようにして街灯の下に滑り込んだ。



真っ暗やみの中を必死で進んできた彼にとって、街灯の明かりはとても温かく、



そして心強いものだった。



だが、彼はすぐにある不安を抱き、祖父に尋ねた。



真っ暗やみの中で、こんな明かりの下にいたら、すぐに見つけられてしまうんじゃないの?



すると、祖父は、



この明かりの中にいれば大丈夫だ!



あいつらは、光の中には入って来れねぇ・・・。



だから、お前は何も見ないように目をつぶってろ!



本当にすまんな・・・・こんな目に遭わせてしまって・・・。



あいつらは、お前に目をつけてしまったみたいだ・・・・。



でも、おじいちゃんが、絶対に護ってやる!



だから、何かあっても絶対にこの光の中から出ちゃならんぞ!



そう言われたという。



彼は目をしっかりとつぶって、必死で祖父にしがみついた。



しかし、彼の耳には何かがぞろぞろと光に向かって集まってくるのが分かったという。



祖父は必死でお経の様なものを唱えていた。



祖父自身も恐怖で震えているのか、その震えが彼の体にも伝わってきて、彼は更に



強く目をつぶったという。



山の中にお経だけが響く不気味な空間だった。



そして、しばらくすると、何かが彼の服を掴もうと手を伸ばして来ているのか、



彼の服が何度も引っ張られることがあった。



その度に、彼は、ヒッと声を上げたが、それは祖父も同様だったらしく、途中、



何度もお経が途切れる事があったらしい。



ただ、その度に、祖父は、



何も心配しなくていい・・・・。



と優しく励ましてくれた。



彼は怖くて何度も祖父に聞いたという。



この明かりって消えないよね?と。



すると、祖父は、



神様が絶対に守ってくださるからお前は何も心配しなくてもいい!



と言ってくれたという。



それから、しばらくの時間が流れた。



彼は、祖父に抱きつくようにして眼をつぶっているうちに、つい、ウトウトと



してしまった。



そして、その時、彼は母親の声を聞いた。



もう大丈夫だよ!



早くこっちにおいで!



それは紛れもない母の声だった。



彼は、その声に思わず目を開けてしまった。



すると、そこには、母親とは程遠い、気味の悪い女がこちらへ手を差し伸べていた



そうだ。



ヒッ!



と声を上げた彼に、祖父は厳しい声で、



こら!見ちゃいかん!



と叱りつけたという。



それからも、明かりに群がる昆虫のように、どんどんと光の周りを取り囲むモノ達が



増えていくのを感じていたが、辺りが少しずつ明るくなっていくにつれて、



それらのモノ達が、1人、また一人と、その場から去っていくのが感じられた。



そして、祖父がお経を唱えるのを止め、彼に、



もう大丈夫だ!



と言ったのを聞いて、彼が目を開けると、すっかり夜が明けて朝の眩しい光に



包まれていたそうだ。



それから、祖父は彼を連れてすぐに山を降りたそうだが、もうその時には何も



恐怖を感じる事はなかった。



そして、そんな事があってから祖父が彼を山へへ連れていく事は無くなった。



彼にしてみれば、つまらない日常に戻ってしまったのだが、ある時、祖父が



お前は、もう山のモノ達に魅入られてしまっているから、もう山には連れていく



事は出来ないんだよ・・・・。



だから、お前も決して1人で山に入っては行かんぞ!



そのまま連れて行かれて、二度と戻っては来られなくなるからな!



そう言われて、彼も怖くなり、それ以後、二度と山に行く事はなかったそうだ。





Posted by 細田塗料株式会社 at 23:30│Comments(0)
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