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2019年06月08日

いわくつきの笛というもの

これは知人男性が体験した話。



彼は現在、金沢市で公務員をしている。



真面目な中にもユーモアも忘れない性格だから、彼の周りにはいつも



友達で溢れている。



幽霊などというものは、全く信じておらず、廃墟や心霊スポットなど



近寄りもしない。



そして、彼には2歳年上の兄がいるのだという。



真面目な彼とは正反対の性格で、面白い事には目が無い性格らしく、その為なら



危険を冒しても構わないという具合で、彼とは当然不仲なのだろうと聞けば、



不思議なもので、かなり仲が良いらしい。



そんな彼の兄は、定職には就かず、ネットで生計を立てているのだという。



それも、ネットでお金を稼いでは、その全てを旅行や曰くつきの品物を



購入する資金として使ってしまう。



だから、彼の兄は、いつもお金に余裕が無く、結婚もしていないのだという。



そんな兄から、ある日連絡が入った。



久しぶりに二人で飲みに行こうという連絡だった。



勿論、彼としても酒を飲みながら聞く不思議な話や奇妙な体験というのは、



何処か心魅かれるものがあったので、その時も即答で飲みに行く事を



了解した。



そして、当日、兄に会うと、前回会った時よりも兄はかなり痩せていた。



どうしたのか?



と聞く彼に対して兄はこんな話をしてくれたという。



北海道に在るとある場所を旅していた彼は、ふらりと飲みに入った店で



初老の男性と隣り合わせになった。



ニコニコと笑っているその男性を見ていると、ずっと以前から友達だったかの



様な感覚になり、そのまま意気投合してかなり遅い時間まで一緒に飲んだ。



その男性は、どうやらアイヌに縁がある人物だったらしく、その土地に伝わる



色々な話をしてくれた。



そして、そういう話が大好きな兄も、食い入るようにしてその話に聞き入った。



その男性は、真剣に話を聞いてくれる兄の事を気に入ったのだろう。



別れ際に、そのアイヌの土地に伝わる古い笛を彼にプレゼントしてくれたという。



これを持っていれば、きっと他の人が絶対に体験出来ない程のスリルを味わえ



ますから・・・・。



そう言われて笛を渡されたのだという。



兄は彼が言った言葉の意味が良く分からなかった。



しかし、せっかく頂いた物だから、と大切に持ち帰り、自分のコレクションに



加えた。



それからも、特に変わった事は起こらなかった。



しかし、その笛自体は、とても古いものらしく、何処か赤黒く変色している



部分もあり、それが曰くつきな物に目が無い兄には堪らなく貴重な宝物に



感じていた。



そんなある日、兄はいつものように、コレクションの中から笛を取り出すと、



リビングで寝転びながら、ぼんやりとその笛を見ていた。



そして、そのまま笛を手に持ったまま寝入ってしまった兄は、凄まじい夢を



見た。



夢から覚めた時、思わず自分が生きているのか、と自分の体を触って確認



した程の衝撃だったらしい。



そして、その夢が、自分が痩せた理由なのだ、と力説したという。



そんな馬鹿な!



そういう彼に、兄は、自分のポケットからその笛を取り出して彼に手渡した。



そして、こう言ったという。



これは、お前にやる訳じゃないからな!



貸してやるだけだから・・・。



だから、お前も一度体験してみるといい・・・・。



安全に何の苦労も無く痩せられるんだから・・・と。



その時、彼はダイエットに励んでいた事もあり、また、兄が言う痩せる程の



夢とは一体どういうものなのか、とても興味が湧いてしまい、ついその笛を



受け取ってしまった。



確かに夢なのだから命を落とす事もない・・・・。



しかも、それだけで痩せられるのだとしたらこんなに美味しい話はなかった。



彼は自宅に戻ると、早速その笛を手に持ったまま布団に入った。



その笛を持っているせいなのか、は分からないが、いつもは寝付きの悪い彼が



その時はすぐに眠りに着く事が出来たという。



そして、彼はすぐに夢を見ることになる。



夢の中で彼は山道を歩いていた。



自分の着ている服などから、自分が夢の中でアイヌの民になっているのだと



すぐに分かったという。



すると、背後から獣の咆哮が聞こえた。



その咆哮に呼応するように振り返った彼を大きな黒い塊が顔をえぐった。



その場に倒れ込んだ彼に、その獣が覆いかぶさって来る。



重い、と感じるよりもその強烈な獣臭が全身の感覚を混乱させた。



顔と頭からは、何か温かいものがドクドクと流れだし、それが血なのだと気付く



のに、時間はかからなかった。



彼は夢の中で必死にその獣に抵抗しようとした。



しかし、次の瞬間、それが見た事もない程の巨大なヒグマなのだと気付いた時に



彼は抵抗を止めた。



食べられるというのが、どういうものなのか?



彼は初めて実体験として感じたという。



恐怖のあまり抵抗すら出来ず、ただ死を待つのみ・・・。



どんな感情なのか、自分でも良く分からなかったが、死にない間に涙が



ボロボロと溢れてきた。



ゴフォ・・・グオー・・・・・。



ヒグマは目の前の生きた餌に興奮しているのか、時折けたたましい程の



咆哮をあげる。



そして、次の瞬間、彼の耳には、信じられない音が聞こえてくる。



バキッ・・・・グチャ・・・バキ・・・・・。



それは、まだ生きている彼の体をヒグマが捕食している音だった。



彼の手足はあっさりと折られ、肉は容易に引きちぎられた。



そして、彼の腹に顔を突っ込んだヒグマは、唸り声を上げながら、彼の内臓



を美味しそうに咀嚼している。



痛みは感じなかった。



ただ、生きたまま食べられているという感覚と、もう助からないという絶望が



彼の思考の全てを支配していた。



結局、彼はそのまま最後まで意識を残したまま、そのヒグマに食べ尽くされてしまった。



そして、それと同時に、彼は夢から醒めた。



一瞬、自分の体が五体満足な状態なのか?と不安になる程のリアリティだった。



そして、まだ、あのヒグマが自分の部屋の中にいるような気がして、彼は



その場から動けなかったという。



かなりの間、彼はそうして固まっていた。



だが、しばらくして蒲団から出ると、兄に連絡して、その笛を取りに来て貰う



事にした。



あんな夢を見ていたら、痩せる以前に精神が崩壊してしまう・・・・。



そう感じたという。



そして、彼の兄はと言えば、その後もその笛を使って、あの凄惨な夢を見続けて



いるようであり、最近では、まるで死人のようにやせ細り、まさに生きる屍



といった表現がピッタリになってしまっているそうだ。



勿論、彼は兄に、その笛を処分する様に進言したが、兄は何があっても、



その笛だけは手放すつもりはないそうだ。



きっと、その笛には、ヒグマに食い殺された誰かの念が閉じ込められた



ままになっているのかもしれない。



そう感じた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:32│Comments(0)
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