2019年06月08日

呪いと引き換え

彼女の実家は地方都市ではかなり有名な資産家なのだという。



その家系の者達は、その殆どが系列の会社で重要なポストに就いている。



そして、その家系の者以外は人間ではないかの様な扱いを平気で行っており、



彼女は自分がそんな風な事が出来る人間に染まっていくのが嫌で、素性を隠し



民間の小さな会社で事務員として働いているのだという。



元々、彼女は本家筋の人間らしいのだが、そんな事よりも対等な立場で人と



接していたいというのが彼女の望みだった。



だから、彼女は自分の両親や兄弟も含めての家族を嫌っていた。



そして、どうやら彼女がその家系の人間と接触しなくなった理由は他にも



あるのだという。



それは、その家系の人間以外には絶対に他言無用、という暗黙の了解が



存在していた。



それは決まって、1年に一人くらいの割合で、その家系の者が変死を遂げる



というものだった。



そして、その変死した者達は、半年くらい前から何かに脅え始め、暗闇を恐れる



様になり、夜、寝る時には決して部屋を暗くして眠る事は無かった。



そうして、死ぬ直前まで恐怖に苛まれたまま非業の変死を遂げる。



ある者は偶発的な事故で・・・・。



またある者は治療不可能な病で・・・。



中には恐怖に耐えられず自ら死を選ぶ者もいた・・・・・。



ただ、そのどれもに共通して言える事は、どんな死に方をしても、その遺体は



引き裂かれた様になったり、ミンチ状になったり、体を鉄の棒が貫通していたり、と



普通では考えられないような惨たらしい遺体となって発見された。



そして、顔だけは綺麗なままだったが、その顔は直視出来ない程、恐怖に歪んでおり、



まるで、死の間際に、耐えられない程の恐怖に直面したかのようだったという。



そして、その家系の者達はそれを、祟りだと感じていた。



当然、それほどまでにその家系が繁栄する為にはかなりの非道な事を繰り返して、



それは、現在にいたっても、実在する祟りとして生き続けているのだ、と。



そして、彼女は確かにその家系を嫌っていたが、それでも理不尽に死んでいく親族



の話を聞く度に、何とか出来ないものか?と、思慮していたという。



だから、彼女は色々と著名な霊能者といわれる人達や神社仏閣に相談した。



私の親族は何かに祟られているのではないか?



もしも、そうだしたら、その祟りを治める方法は無いか?と。



しかし、その誰もが、同じ事を言ったという。



貴女の家系は素晴らしく栄えています。



それほどの一族の栄華など、望んでも叶うものではありません。



だから、気のせいです・・・。



偶然、不幸が続いただけですから何も心配は要りませんよ!と。



相談した全ての人間からそう言われてしまい、更に高額な霊視の代金も



請求されたらしい。



だから、彼女も、そうなのだとしたら、何も自分が心配する必要など無い、



と思い、それ以後は親族について考えるのを止めたという。



しかし、やはり、それ以後も彼女の一族に不幸が続いた。



従兄弟が若くして亡くなったり、仲の良かった親戚の命までが簡単に奪われて



いった。



しかし、彼女は何も考えないように努めた。



彼女にはもう霊能者を頼む余裕も無かったし、何より彼女自身、親族とは完全に



縁を切っているつもりだったから・・・・・。



そんなある日の事だった。



彼女が電車に乗っていると汚い恰好をした僧侶らしき人が、ちらちらと彼女を



見ている事に気付いた。



そして、その僧侶は彼女が電車を降りてからも、しっかりと後ろを付いてきた。



彼女自身、以前、霊能者や神社仏閣に助けを求めた時、結局は大金だけを



取られて何の解決にも至らなかった為、僧侶というものに完全な不信感を



抱いていた。



しかも、薄汚れた容姿の僧侶に纏わりつかれるのはどうしても我慢ならなかった。



突然、立ち止まった彼女は、後ろを振り向くとその僧侶に向かって言った。



何か御用ですか?



私はお坊さんの類は一切信用していないんですけど?



と辛辣な言葉をかけたという。



すると、その僧侶は笑いながら、



それは申し訳ありません・・・・・。



ただ、私には貴女にとり憑こうとしているモノの姿が視えるものですから・・・・。



これから不幸になっていくのを分かっていて、そのまま黙っている事が



出来なかったものですから・・・・。



彼女は、その身なりとは裏腹に、とても丁寧に話す僧侶に戸惑った。



そして、自分にとり憑こうとしているモノ・・・・。



その言葉がどうしても聞き流す事が出来なかった。



だから、彼女はこう返したという。



すみません・・・。



本当にご無礼をいたしました・・・・お許しください・・・・。



ところで、私にとり憑こうとしているモノって、どういう意味ですか?と。



すると、僧侶は、



いえ、こちらこそ、突然失礼いたしました。



私は北の方から来た小さなお寺の住職です・・・・。



もしも宜しかったら、貴女にとり憑こうとしているモノを祓わせて貰えませんか?



そう言ってきた。



そして彼女が、以前、霊能者やお坊さんに頼んで高額な代金を請求された事を



話すと、



いえいえ、お代など必要ありませんよ・・・。



これは私が勝手にやらせて貰う修行の1つだと思っておりますから・・・。



そう言われ、彼女はそれ以上、何も言えなかったという。



そして、駅から出て公園まで行くと、僧侶は彼女をベンチに座らせてから、



お経を唱え始めた。



そのお経を聞いていると体が熱くなって来るのが分かった。



そして、それと同時に、体の中の何かが拒絶反応でも起こしているかのように



暴れだすのが分かったという。



彼女はもう何も考えられなくなり、そのまま目をつぶっていた。



そして、大きく背中を何度か叩かれた途端、彼女の両眼からは滝の様な涙が



溢れてきた。



何か温かいものに包まれてい様な安心感を感じたという。



そして、僧侶の、



はい・・・お疲れ様でした。



無事に悪いモノは祓う事が出来ましたよ・・・・・。



そう言われて、初めて目を開けた。



何か視界が違って見えたという。



体も軽くなり、それまでは耳に入って来なかった鳥や虫の鳴き声もはっきりと



聞こえたという。



彼女は、初めて本物の霊能者に会えたと思い、感動していたが、更にその僧侶が



話す言葉を聞いて、彼女は愕然としたという。



僧侶はこう言ったという。



貴女に憑いている悪いモノはしっかりと祓えました。



しかし、どうやら貴女の一族には深い、そして古からの呪いがかかっているようですね?



その一族にかけられた呪いの元凶を絶たない事には、またいつか、貴女にも再び



悪いモノが近寄ってきてしまいます。



ただ私にはある理由があって貴女の一族のご本家には近づけそうもありません。



ですから、貴女が私の代わりに、その呪いを断ち切る覚悟はありますか?と。



彼女は、すぐに返答した。



一族の呪いを断ち切れるのなら・・・・・。



でも、私なんかにそんな事が出来るのですか?と。



すると、その僧侶は、



別に難しい事ではありません・・・・。



貴女のご本家は一族の繁栄と引き換えに、呪いを受け入れてしまっています。



これは、今のあなた達には一切関係の無い、古い時代に犯した罪による



呪いです。



まあ、詳しくは言えませんが、ある姉妹があなた達のご先祖の手によって



非業の死を遂げている・・・。



深く強い呪いの念を持ったまま・・・・。



だから、一族の繁栄という栄華の中で、少しずつ確実に一族を根絶やしにしようと



しています。



じわじわとなぶり殺しにでもするように・・・・。



そこまで聞いて、彼女は、



私達の先祖がそんなひどい事をしてしまったんですね・・・・・。



どうすれば許して貰えるのでしょうか?



と尋ねた。



すると、その僧侶は、



いえ、あなた達はもうとっくにその代償を支払っています。



何代にも渡って数多くの人達が死んでいますからね・・・・。



それに、先代の呪いをあなた達までが背負う事はありません・・・。



あなた達は、何も悪い事はしていないでしょう?



だから、呪いなどというものは絶対にあってはならんのです・・・・。



それで、本題なのですが・・・・・。



貴女の一族のご本家には大切に保管されている家宝といわれるものがある筈です。



しかし、それは家宝などではなく、それ自体が紛れもない呪いの元凶です。



それを燃やす事が出来れば、あなた達の一族は死の連鎖から解放されるでしょう。



そして、その代わりに、確実に失うものも存在します・・・。



だから、その家宝といわれている物を燃やすかどうかは貴女が決められると良い。



確かに裕福に暮らす事も魅力的かもしれませんが、やはり決して裕福でなくても



安心の中で生きる事に



人生の幸福が在るのだと私は思っています・・・・。



そう言われたという。



彼女は、その僧侶にお寺の名前とおおよその場所を聞いた。



無事に呪いを開放出来た時、もう一度しっかりと


御礼に伺いますから、と。



そして、その僧侶と別れた彼女は、早速、本家を訪ねた。



ずっと疎遠だった彼女の訪問に、親族達も驚いたという。



そして、彼女は、僧侶から教えて者らった事を全て話した。



そして、親族達に聞いたという。



死に怯えながら裕福に生きていくのと、普通の生活でも死の恐怖から解放



されて生きるのとどちらが良いと思うのか?と。



彼女はそう言ってはみたものの、かなり不安だったらしい。



裕福な生活に慣れきっている親族達が、その生活を手放す決断が出来るの



だろうか、と。



しかし、親族達の答えは意外なものだった。



やはり、裕福に暮らしていても、その誰もが常に死の不安を抱えていたのだろう。



死の連鎖から解放されるのであれば、それ以上の願いは無い・・・・。



それが本家が出した結論だった。



そして、彼女は、本家に家宝とされているような物は無いか?と聞いた。



すると、本家の金庫の中に、



”神様から授けられたという1枚の紙”があるのだと教えられた。



彼女は早速、金庫の中からその紙を取り出した。



古いがしっかりとした木箱に納められたその家宝は木箱の表面にも、



「恵」という言葉が書き込まれていたという。



そして、親族が見守る中で、その木箱を炎の中に投げ入れた。



一瞬、断末魔の様な呻き声が聞こえた。



そして、木箱が燃えていき、中から白い紙が現れる。



しかし、その紙は何故かずっと燃えずに残っていたが、やがて白い紙の表面に



「呪」という文字か浮かび上がると、そのまま一気に燃え尽きてしまったという。



その日以来、彼女の親族から不幸な死を遂げる者は居なくなった。



そして、それと引き換えに、一族はどんどんと衰退していき、決して裕福という



生活ではなくなったらしいが、それでも皆の顔は以前よりも幸せそうに



見えるのだという。



そして、呪いを断ち切らせて貰ったお礼を言おうと、その僧侶から教えて貰った



お寺を探すが、どうしても見つからない。



仕方なく、現地に赴き、その土地を聞いて回ったらしいが、どうしてもその僧侶の



寺は見つける事が出来なかった。



ただ、ひとつ、彼女は情報を得る。



それは、今から数百年前には、その土地には、そんな名前のお寺が確かに存在



していたという情報だった。



ただ、それが、本当にその時の僧侶の寺なのかは、今となっては確認のしようが無い、



との事だった。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:33│Comments(0)
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