2019年06月08日

手を繋いでくるモノ

今考えると、その日は全てがおかしかったと彼女は言った。



彼女は子供の頃はいつも男の子と遊んでいたという。



夏休みなどは朝から晩まで真っ黒になるまで遊んでは、暗くなってから



帰宅して両親に怒られていた。



しかし、その時は明らかにいつもとは違っていたという。



いつものように男の子たちと遊んで遅くなった彼女を待っていたのは両親の



満面の笑顔だった。



今とは時代が違い、親が平気で子供に手を挙げていた時代。



彼女も例外ではなく、一人っ子ではあったが、彼女はとても厳しく育てられた。



元々、厳格だった父が笑った事など殆ど見た事は無かったし、母親もちょっとした



事ですぐに彼女にお仕置きという名の暴力を振るった。



もっとも、それで両親の事を嫌いになる事など考えられなかったし、それが



当たり前なのだと思っていた。



だから、その日の両親の笑顔を見て、彼女は思わず固まった。



両親が激怒してお仕置きをされるよりも強い恐怖を感じた。



両親が彼女にお仕置きをする時には必ず彼女に非がある時だった。



だから、彼女も、それが両親の愛情なのだと感じていた。



そして、その日も、門限を破り遅い時間に帰宅した彼女を両親は決して



許してはくれないだろうと思っていた。



ところが、その時、彼女は両親の満面の笑顔で出迎えられた。



正直、その笑顔からは愛情というものは一切感じられなかったし、何より



彼女には、両親に愛相をつかされてしまう事の方が恐ろしかったから。



だから、彼女はその時、いつものように怒られている時よりも真剣に両親に



謝ったという。



もう絶対に約束は破りません・・・・。



もっと良い子になります・・・・。



必死で両親に懇願したという。



しかし、両親は不思議そうな顔をするが、すぐにまた満面の笑顔に戻ってしまう。



彼女は、ついに両親から愛相をつかされたと思い、落胆したという。



しかし、それからが異常だった。



満面の笑顔で出迎えてくれた両親はそれから彼女の手を握ったまま部屋の中に入る。



部屋のテーブルにはそれこそ、クリスマスにも見た事の無い程の豪華な料理が



並んでいた。



そして、彼女をテーブルに座らせると、両親は彼女を挟むようにして両側に座り、



ニコニコと笑いながら、好きなだけ食べなさいね、と優しく言うと、料理には



手もつけずに温かい目で彼女を見つめてくれた。



そして、彼女に、



今までで一番楽しかったのはどんな事?とか



何か買って欲しいものは無いの?とか



聞いてくる。



彼女は見た事もない程の豪華な料理を食べながらその質問に答えていった。



すると、彼女が答えた言葉に、両親はさも嬉しそうに、



そうかそうか・・・・。



と頷きながら聞いてくれた。



それは、彼女が知っているそれまでの両親の姿とは明らかに違うものだった。



しかし、その時、彼女は思ったという。



こんなに優しい両親も良いものだな・・・と。



そして、食事が終わると、一緒にゲームをし、テレビを観て、楽しい時間を



過ごした。



母親とは一緒にお風呂にも入った。



何年ぶりかだったので、彼女はとても嬉しかったという。



それらは、彼女にとってはまさに夢の様な時間だった。



そして、夜遅くなったので彼女は寝る事にした。



眠たい、というと、両親が一緒に寝室まで連れて行ってくれた。



いつもは自分の部屋で1人で寝ていた彼女にとっては、本当に予想外の



出来事だった。



そして、寝る時には、両親が彼女を挟むようにして川の字になって寝た。



そして、寝る時には両親が彼女の手を握ってくれた。



かなりしっかり握られて照れ臭かったが、それでも、彼女はとても嬉しい気持ちに



なったという。



そして、母顔に頭を撫でられているうちに彼女はそのまま眠ってしまった。



そんなに幸せな気持ちで眠りに就くのは、本当に久しぶりだったという。



そして、違和感を感じたのか、彼女は真夜中に目が覚めた。



何かが2階の廊下を歩いているのが分かった。



いや、歩いているというよりも、摺り足で動く着物の裾が廊下に垂れて、それが



音を出しているように感じたという。



いつもなら、そんな状況になったら、怖くて布団の中に潜り込むのだろうが、



その時の彼女は不思議と我慢できない程の恐怖は感じなかったという。



今、その時も、両親のてはしっかりと彼女の小さな手を握っていてくれて



いたのだから・・・。



何かあってもきっと両親が助けてくれる・・・・。



彼女はそれが何よりも心強かったという。



すると、廊下を擦る様な足音が急に止まる。



息を殺して彼女はじっと廊下の方を見ていたが、突然、部屋の襖がスーッと



ゆっくり開けられた。



さすがの彼女も固まってしまい、開いた襖から目を逸らそうとするが何故か



固まったまま顔が動かせない。



そうしていると、今度はその隙間から大きな女の顔がスーッと現れた。



縦に奇妙なほど長く伸びたその顔は、明らかに彼女が知っている



人間の顔ではなかった。



その女は必死に中を覗きこんで何かを探そうとしている様に見えたという。



しかし、しばらくすると隙間から女の顔は消えており、襖もゆっくりと



閉まっていくのが見えた。



彼女にとっては生れて初めて見る怪異だった。



震える程の恐ろしさと同時に、彼女は初めて見た、異形のモノに興奮していた。



そして、彼女は思っていた。



きっと今の光景を両親も見ていたに違いない、と。



そこで彼女は首を回して、右の方を見た。



え?



彼女は固まってしまった。



間違いなく右側から彼女の手を握ってくれている手があった。



それなのに、彼女が見た右側には寝ている筈の父親の姿はなかった。



でも、確かに、その時も彼女の右手をしっかりと握っている手がそこには



あった。



だから、彼女は恐怖した。



私の手を握っているのは一体誰の手なのか?と。



一刻も早く自分の手を握っている得体の知れない手を振りほどきたかった。



しかし、彼女にそんな勇気は無かった。



そんな時に限って彼女の頭はある意味、冷静だった。



そして、こんな事を考えてしまう。



右手を握っている筈の父親は、其処にはいなかった。



だとしたら、左で寝ながら彼女の左手を握っているばすの母親はどうなのか?と。



彼女は、恐怖に固まりながら、今度はゆっくりと首を左の方へと回してみる。



其処には誰かが寝ていた。



そして、そこから伸びた手がしっかりと彼女の左手を握ってくれている。



彼女は、一瞬、ホッと胸を撫で下ろしたという。



しかし、次の瞬間、横に寝ているものがゆっくりと起き上がった。



彼女は絶叫を上げた。



其処には、つい先ほど、襖の隙間からこちらを覗いていた女が薄気味悪い笑みを



浮かべて彼女を見ていた。



そして、彼女はそのまま意識を失った。



彼女が次に目を覚ました時、既に朝になっていた。



そして、恐る恐る起きていくと、其処にはいつもと変わらぬ両親の姿があった。



父親はしかめっ面で新聞を読み、母親は忙しそうに動き回っていた。



そして、彼女に向って、



ほら!起きたんならぼさっとしてないで手伝いなさい!



という母の厳しい声が飛んできた。



いつもは、ムッとするところだったが、彼女はいつも通りの両親に戻っていて



なんだか嬉しかったという。



優しい言葉を掛けてくれる事はなかったし、何かといえば小言を言われたりしたが、



それでも、彼女はそれで良い、と思った。



その方がしっかりと両親の愛情が感じられたから・・・。



しかし、それから彼女が成人するまでの間に、その夜と同じような事が何度か



あった。



両親が妙に優しくなる時があったそうだ。



あの夜と同じように・・・・。



そんな夜には決まって、あの夜と同じような足音が例外なく聞こえたという。



その足音と両親の態度が、どう関係しているのかは分からなかったが、それでも



彼女が成人する頃になると、そんな奇妙な事も一切起こらなくなったそうだ。





Posted by 細田塗料株式会社 at 23:37│Comments(0)
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