2019年06月08日

居留守

これは知人女性が体験した話である。



彼女は夫婦二人だけで金沢市郊外の1戸建てに住んでいる。



彼女の仕事の休みは毎週水曜と日曜日であり、日曜日は夫婦で出掛ける日とし、



水曜日は家事に費やす事に決めていたという。



だから、その日も朝から洗濯掃除をこなし、テレビを見ながら早めの昼食を



食べているとなんだか眠たくなってしまった。



いつも、リビングで、うたた寝をしては夫から叱られている彼女は、すかさず



2階の寝室に行きベッドに潜り込んだ。



ところが、ベッドに潜り込んだ途端、玄関のチャイムが鳴る音が聞こえた。



誰?今から寝ようとしてるっていうのに・・・・・・。



彼女はそう思って居留守を決め込んだ。



それでも、チャイムは何度も何度も鳴らされる。



ただ、彼女には平日の昼間、家を訪ねてくる者など居なかったから、どうせ



何かの勧誘かと思い、そのまま放置していたという。



とれだけチャイムが鳴らされ続けただろうか。



そのうちに、彼女も知らぬ間にうつらうつらしてしまい、気が付いた時には



チャイムの音はもう消えていた。



これでゆっくり眠れる・・・・・。



彼女はそう思いながら、そのまま深い眠りに就くはずだった。



ベッドで横たわる彼女の耳に、1階の廊下を何かが動いている様な音が



聞こえた。



気のせい・・・・・・。



そう思ったが、彼女の体にはザワザワと鳥肌が立ち始める。



やっぱり何かいる・・・・・・。



そう思った彼女はもう睡魔は完全に飛んでしまい、1階から聞こえてくる音に



聞き耳を立てていた。



ギシッ・・・・スー・・・・ギシッ・・・・スー・・・・。



それは忍び足で歩いているのとも違った。



歩きながら何かを引き摺っている?



まるで、長い着物を着た女性が、着物の裾を擦りながら進んでいるように。



彼女の頭は混乱していたが、誰かが家の中に侵入しているのは間違いなかった。



泥棒なの?



もしかしたら、チャイムの音に反応が無かったから家の中に入って来たの?



そう思うと、彼女は生きた心地がしなかった。



見ず知らずの、しかも泥棒が家の中にいる。



もし、見つかったら、そのまま殺されてしまうかもしれない・・・・。



完全にパニックになっていた彼女だったが、すぐに自分が携帯を手に持っている事に



気付いた。



急いで、蒲団の中に潜り込み、夫に電話をする。



お願い!早く電話に出て!



しかし、携帯からは呼び出し音すら聞こえなかった。



だから、今度は思い切って110番に電話したという。



しかし、やはり呼び出し音すら聞こえなかったのだという。



彼女は携帯を見ると、電波もしっかりと繋がっておりどこにも異常は見当たらない。



彼女は、もう一度警察に電話しようと携帯の番号を押そうとした。



その時、1階から不気味な声が聞こえてきた。



此処にもいない・・・・ゲラゲラゲラ・・・・。



それは間違いなく女の声だった。



なんなの?



泥棒は女なの?



その女の声はまだ若い声であり、その下品な笑い声と相まって、とても不気味に



聞こえた。



此処にもいない・・・って、もしかして、私を探してるの?



彼女は、ベッドから起き上がって部屋の中に何か武器になる物が無いか、と



辺りを見回した。



しかし、あるのは掃除機くらいのもので、とても武器になりそうになかった。



すると、1階からコンコンと天井を叩くような音が聞こえてきた。



此処にもいない・・・・ゲラゲラゲラ・・・・・。



どれだけ背が高かったら天井に手が届くの?



彼女はその女の姿を想像してしまい、更に恐怖が増してしまう。



すると、1階からの音が消えた。



彼女は更に集中してその女の動きを掴もうとした。



すると、今度は何かが階段を上って来るような音が聞こえてくる。



ズルズル・・・・ガサガサ・・・・ズルズル・・・・ガサガサ・・・・。



その音は歩いて上って来るというのではなく、這いずりながらのぼって来ている



としか思えなかった。



彼女は寝室に鍵を付けていなかった事をその時程、後悔した事は無いという。



階段を這い上がって来る音はどんどん近付いてくる。



彼女は藁にもすがる思いで、警察に電話をかけ続ける。



しかし、やはり何度かけても電話はつながらない。



すると、突然、2階の廊下から、バターンという大きな音が聞こえてきた。



彼女はビクッとして、思わず大きな悲鳴をあげてしまいそうになったが、何とか



声を押し殺す事が出来た。



此処にもいない・・・ゲラゲラゲラ・・・・・・。



もう、2階まであがって来たんだ・・・・・・。



彼女は恐怖で身動き出来なくなってしまう。



そして、再び、廊下からバターンという大きな音が・・・・。



2階には今彼女が隠れている寝室の他に2部屋しかなかった。



つまり、次はこの部屋にやって来る・・・・。



彼女は生きた心地がせず、そして頭もパニックになっていた。



もう、その女が人間だとはとても思えなかった。



そして、自分がこの部屋に隠れている事を分かっていてわざと怖がらせているのだ、と



その時、確信した。



彼女は布団の中に隠れながら震えていた。



知らないうちに大粒の涙が頬をつたっている。



私はこのまま死ぬんだ・・・・。



いや、死にたくない・・・・。



誰か助けて・・・・・。



と、その時、彼女の頭に浮かんだのは、2年前に死んだ飼い犬の事だった。



いつも一緒にいていつも護ってくれている気がしていた。



もう一人の家族・・・・。



大切に可愛がっていたのに死んでしまった愛犬。



その愛犬が死んでしまってから、もう二度と犬は飼わないと心に誓った程



大切な存在だった。



あの子が此処にいてくれたら・・・・・。



彼女は知らぬ間に、その愛犬の名前を呼びながらおお泣きしてしまっていた。



すると、寝室のドアがスーッと静かに開く音が聞こえた。



ホッホッホッホッ・・・・・・・。



部屋の中で聞くその声は更に不気味に聞こえたという。



そして、先ほどまでとは違うその笑い声は、自分の事を見つけたのが、さも



嬉しそうに聞こえたという。



彼女は自分でもどうしようもないほど震えていた。



きっと蒲団の上からもはっきりと分かってしまう程の震えだったが、自分では



どうしようもなかった。



女が部屋の中を歩き回る音が聞こえた。



スー・・・スー・・・・と滑るように歩くその音は、やはり人間とは到底



思えなかったという。



彼女は布団の中で固まっていた。



何とかやり過ごしたい・・・・。



その一心で。



しかし、その時、突然、携帯が鳴りだした。



慌てて画面を見ると、発信番号が表示されてはいなかった。



そして、また、その声が聞こえた。



見いつけた~



そして、そのすぐ後に、



ゲラゲラゲラゲラ、と震えあがるほど不気味な笑い声が聞こえ、彼女の心臓の鼓動は



早鐘の様にけたたましく脈打った。



お願い・・・・誰か助けて!



彼女にはもうそう祈るしかなかった。



すると、次の瞬間、彼女が隠れていた布団があっさりと取り払われた。



彼女は死を覚悟したという。



そして、どうせ死ぬのなら、その女の姿や顔だけは絶対に見たくない、と思い、



ドアに背を向けて寝返りをうった。



その時である。



突然、犬が吠える声が聞こえた。



キャンキャン・・・キャンキャン・・・・。



それは小型犬が吠える声であり、間違いなく彼女の死んだ愛犬が吠える声



だったという。



威嚇する様な声とともに、何度もその女に飛びかかっているのが彼女にも



分かった。



しかし、彼女は恐怖でそれを確認する事は出来なかった。



そして、2分間ほど、その状態が続いたあと、部屋の中が急に静かになった。



恐る恐る、彼女が振り返ると、そこにはもう、女の姿も愛犬の姿も



居なくなっていたという。



急いで1階へ降りると、部屋の中や廊下にまるで大きな蛇でも這ったかのような



濡れた跡が続いていたという。



そして、彼女はいまだに、その家に住んでいる。



怖くないの?



と聞くと、彼女は嬉しそうに、



うん、もう居留守は使わない事にしたから・・・・。



それに、今でもあの子が私の事を護ってくれているみたいだから・・・。



そう言ってくれた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:42│Comments(0)
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