2019年06月08日

扉から解放したモノ

彼女が行ったのは、間違いなく人助け(救助)という行為だった。



仕事ではジムのインストラクターとして



働き、体力には自信があった。



そして、何よりも、困っている人を放っておけない性格。



そんな彼女だったから、きっとその時も、行動に移さずにはいられなかった



のかもしれない。



話の発端は実に単純だった。



その時、彼女は友人の見舞いで病院を訪れていた。



そして、知り合いが入院している病棟とは別の、既にその機能の殆どが



閉鎖されている病棟に



足を踏み入れてしまったのも何かの因縁なのかもしれない。



彼女の話では、病院の敷地に入ると、大きな建物が二つ建っているのが分かった。



そして、彼女は古いほうの建物へと進んでいった。



実は、その既に使われなくなっている病院には1階に飲み、検査施設が残されており、



2階から上の階層は完全に立ち入り禁止になっていた。



しかし、その時、彼女が訪れた時には、2階から上の階には沢山の看護師や



患者さん達の姿が見えたのだという。



そして、その時、彼女はどうしても3階まで昇らなければいけない、という



不思議な使命感に駆られていた。



それは、病院の敷地に入った時、古い建物の3階の一番端にある窓から小さな



女の子が彼女に向って大きく手を振りながら、



助けて~助けて~!



と叫んでいるのを見てしまったから・・・・・。



だから、彼女は階段を駆け上がるように3階を目指した。



女の子が助けを求めている・・・・・



そして、それだけではなく、3階の窓から助けを求めていた女の子の姿を



彼女は過去に何度か見た記憶があったのだという。



慌てて階段を駆け上がり3階に到着したが、そこには誰の姿も無かった。



だから、彼女は大声で女の子を呼んだ。



助けにきたよ!



何処にいるの?



すると、廊下の一番奥の部屋から、ドンドンと扉を叩く音が聞こえてきた。



彼女は急いでその扉に駆け寄ると、



この中に居るの?



大丈夫?



と声を掛けた。



すると、扉の中から小さな女の子の声で、



怖いよ・・・・はやく此処から出して~



お願い・・・・助けて・・・・。



という声が聞こえてきたという。



彼女はついさっきまでは窓から顔を出していた女の子が、どうして扉の中に



閉じ込められているのか?という疑問は少しも浮かばなかったという。



一刻も早く扉の中から女の子を助けなければ!



そんな気持ちしかなかった。



だから、その扉には立ち入り厳禁、という張り紙や、その取っ手には明らかに異常



としか思えない針金が巻きつけられ取っ手が動かない様にしてあった事にも



何も感じなかった。



彼女は急いで取っ手に巻かれていた針金を手際よく外すと、そのまま一気に



その思い扉を開けた。



扉の内側には真っ暗な空間が広がっており何も見えなかった。



彼女はそれでも大きな声で、



助けにきたよ!



何処にいるの?



出ておいで・・・・。



と優しく声を掛けた。



すると、突然、暗闇の中からヌッと小さな手が現れた。



彼女は一瞬、ドキっとしたが、すぐにその小さな手を握って、こちらに引っ張りながら



もう大丈夫だからね・・・・。



と優しく声を掛けた。



暗闇の中から少しずつ女の子の姿がはっきりと見えてくる。



おかっぱ頭の小学校の低学年の女の子に見えた。



女の子の姿に変わったところは無かった。



ただ、その女の子は今までこの暗闇の中に閉じ込められていたとは思えないほど



ギラギラとした眼で、子供とは思えない様な気味の悪い笑い顔をしていた。



彼女は一瞬、背中に冷たいものを感じたという。



それでも、一刻も早く目の前の女の子を部屋の外に出してあげなければ・・・。



そう思い、女の子の手を強く引いて、部屋から出してあげようとした。



その間、その女の子はずっと彼女の顔を見ていた。



薄気味悪い笑い顔で・・・・。



そして、彼女は女の子を無事に扉の中から解放してあげた。



そして、再び扉を閉めて、女の子の方へ振り向くと、其処には女の子の姿は



見えなかった。



何処にも隠れる場所も無かったし、そんな時間も無かった筈なのに、



間違いなく、其処には彼女一人が暗い廊下に立った1人で立ち尽くしていた。



彼女はうすら寒いものを感じ、もう一度、扉の方を向くと、扉の中からは



ドンドンという誰かが扉を叩く音と、ゲラゲラゲラという笑い声が



聞こえてきて、彼女は恐ろしくなってその場から逃げだした。



結局、その日は知り合いを見舞ってから、すぐに帰宅した。



彼女はすっと、その時の女の子がいったい何処へ消えたのか?と考える事が



多かったが、すぐにそれを止めた。



拘わってはいけないもの・・・・。



そんな思いが強かったのだという。



そして、その頃から彼女の周りでは怪異が起こる様になる。



夢の中にいつもあの時の扉が現れて、彼女の前でゆっくとり扉が開いた。



そして、無数の手が暗闇の中から彼女に手招きをした。



すると、彼女の体は彼女の意思ではなく、ゆっくりとその扉に近づいていく。



止まって!と何度も叫ぶが、彼女の声は自分の体が扉に向かって歩いていくのを



どうしても止める事が出来なかった。



そして、扉の前まで来ると、彼女の体は吸い込まれるようにその暗闇の中へと



入っていく。



ゆっくりと閉まっていく扉。



そこで、彼女はようやく体の自由が利くようになって慌てて扉を開けようと



するが、どうやっても扉は開いてくれない。



彼女は扉をドンドンと叩きながら、



誰か・・・誰か助けて!



と大声で叫び続ける。



すると、突然、背後から冷たい何かが彼女の背中に覆いかぶさってくる。



そこで、悲鳴を上げる彼女。



いつも、そこで彼女は夢から目覚めた。



体中にびっしょりと冷たい汗をかいていた。



夢だと分かっていたが、まるで、現実に自分の背中に何か冷たいものが覆いかぶさって



きたかのような、感触と冷たさが背中に残っていた。



そして、そのうち彼女は真夜中に夢遊病のように意識もないまま動くようになる。



家の中を彷徨い歩き、気が付くと家の外まで出てしまい、ハッと目が覚めると



電車の線路の上に立っていた。



そして、またある時にはビルの屋上に上る非常階段の途中で壁から身を乗り出して



いた事もあった。



彼女は、自分の行動が恐ろしくなってしまい神経科の病院へ入院する事を考えた。



そんな時、彼女が家の中を彷徨っている時、偶然、夫が彼女が歩いていく



後ろ姿を目撃し、その後を追った。



すると、その時、夫は彼女の手を引いて歩く小さな女の子の姿を目撃してしまう。



その話を夫から聞かされた時、彼女は自分が病気なのではなく、もしかしたら



あの時の女の子にとり憑かれているのではないか、と愕然とした。



彼女にとっては人助けのつもりの行為が、もしかしたら、とんでもないモノを



扉の外に出してしまったのではないか?と。



それから何人もの霊能者という方達に除霊を頼んだが、高い報酬だけを請求され、



結局は何の解決にも至らなかった。



そんなある日、彼女は思い切った行動に出てしまう。



彼女は自分なりに考えたそうだ。



あの病院の、あの扉を開けた事が全ての悪夢の始まりなのだとしたら、もう一度



その場所に行けば何か解決策が見つかるのではないか?と。



無謀とも思える行動だったが、毎夜、夢遊病のように彷徨い続けている彼女には、



そのうち、自分はきっと夢遊病のまま殺されてしまう・・・・。



そんな恐怖が常に頭の中にあった。



かくして、彼女はその日のうちに粗塩と御札を用意して、翌日の朝からその病院



に向かった。



病院に着くと、急いで古い建物の3階を目指した。



エレベータは動いていなかったので前回と同じように階段を利用して駆け足で



3階ので駆け上がった。



そして、廊下に出ると、例の扉が大きく開いたままになっていた。



大きく開いた扉の中からは、真っ暗な暗闇が無限に広がっている様に見えた。



彼女は持参した懐中電灯を点けるとゆっくりと扉へと近づいていく。



扉の中に入る前に懐中電灯で中を照らしたが、その内部は全く見えなかったという。



意を決した彼女は、そのまま扉の内側に進む。



すると、先ほどまで開いていた扉がまるで自動ドアのようにゆっくりと閉まっていく。



彼女は必死でそれを止めようとしたが、何故か扉はびくともせずそのまま扉は



閉まってしまう。



彼女は懐中電灯の光で必死に視界を確保しようとした。



しかし、何故か懐中電灯の明かりは、すぐに消えてしまい完全に視界を奪われて



しまう。



完全な闇の中で彼女は動く事が出来なかった。



耳からの情報だけで状況を把握しようとしたが、そこには何の音も存在していない。



そして、次の瞬間、消毒の匂いと、何かが腐ったような匂いが混ざり合い彼女の



鼻を刺激した。



彼女は酷い吐き気に襲われその場に嘔吐しそうになったが、何も吐き出す



事は出来なかった。



そして、次の瞬間、はっきりと音が聞こえてきた。



ズルッ・・ズルッ・・ズルッ・・ズルッ・・



それはその部屋の中を何かが這いずる様な音だった。



そして、苦しそうな息使いと、苦しそうな呻き声が聞こえてくる。



何かがこの部屋の中にいる・・・・・。



彼女は恐怖した。



何も見えない真っ暗やみの中で何か存在している。



自分とは違う・・・・いや、人間ではない何か・・・・・。



彼女は恐怖でじりじりと後ろへと後退した。



すると、先ほど自分が通って来た扉が背中にぶつかった。



もう逃げ場が無い・・・・。



そう考えると気が狂ってしまいそうだった。



しかし、彼女はハッと思いだした。



自分は、このような場所だと知った上でこの場所に来たのだ、と。



そして、此処で何とかしない事には自分の命は風前の灯なのだという事を。



だから、思いっきり大声で、うわあ~!と叫んだ。



そして、その場に立ちあがると大声で叫んだ。



隠れてないで出てきなさい!と。



すると、一瞬の沈黙の後、部屋の中から



ゲラゲラゲラという笑い声が聞こえたという。



その声は全ての気力を奪ってしまうほど不気味な笑い声であり、彼女はまた



その場にしゃがみこんでしまう。



そうして、前方を見つめていると、自分の目が暗闇に慣れてくるのが分かった。



そこには両腕の無い女がズルズルと体だけでこちらに向かって這いずって



いるのが、うっすらと見えた。



彼女は悲鳴を上げた。



悲鳴を上げなければ気が狂ってしまいそうだった。



彼女は絶望の中にいた。



どうして自分がこんな事になってしまったのか?と考えたが、人助けをしようとした



事を後悔したくはなかった。



そして、夫の為にも自分がここで頑張らないでどうする?



と自分を励まし続けたという。



すると、背後の扉の向こう側。



廊下の方から、コツコツコツコツという足音が聞こえてくる。



ハイヒールで歩くような足音。



彼女は更に恐怖で固まってしまう。



前から化け物・・・・そして背後からも化け物・・・・。



どうすれば良い?



彼女は必死に考えたが答えなど見つかる筈もなかった。



そして、背後から近づいてきた靴音が扉の向こうで停止した。



ソレはもう扉の前まで来ている・・・・。



ドアノブをガチャガチャと回しているのが分かった。



更にドアを蹴る様な音まで聞こえてくる。



扉の外にいるモノが何なのかは分からなかったが、それだけで彼女を恐怖の底へと



落とすのに十分だった。



彼女は死というものを生まれて初めて覚悟したという。



すると、知らないうちにボロボロと大粒の涙が頬を伝った。



おかしいな・・・これって外側へ開くんだよね・・・・・。



なんで開かないの・・・・。



まあ、いいか・・・・。



突然、そんな声が聞こえたという。



と、次の瞬間、あれほど重かった扉が簡単に、そして一気に開いたという。



すると、そこには20代後半くらいの女性が立っていた。



その整った顔立ちと細い体は、一瞬、人間ではないかの様に思えたという。



すると、次の瞬間、



あっ、やっぱり此処にいた!



もう大丈夫ですよ!



そう言うと、その女性は片手で引きずっていた何かを扉の中へと放り込んだ。



彼女には、それが、あの時見た女の子の姿に見えたという。



そして、彼女を廊下へ連れ出すと、



それじゃ、此処で待っててくださいね・・・。



私はこれからやらなくちゃいけない事があるんで・・・・。



そう言って、その女性は扉の中へと1人で入っていき、そのまま扉を閉めた。



あんた達・・・いい加減にしときなさいよ!



こらこら…逃げるともっと酷い目に遭わせるからね・・・・。



そんな声が聞こえたという。



そして、そんな声を聞きながら彼女はその場で意識を失った。



そして、気が付いた時には自宅のリビングに寝かされていたという。



何事が起ったのか、全く理解出来なかった彼女だが、それ以後、怪異は一切



起こる事は無かった。



そして、俺はお礼の電話かけた。



さすが、Aさん、仕事が早いね!



お蔭で俺の顔も立ったよ!



すると、Aさんは、



まあ、それなりに骨は折れましたけどね・・・・。



それにしても、Kさんの知り合いの厄介事ばかり、頼んでくるの、止めて貰えます?



私もこう見えてかなり忙しいんですから・・・・。



そう言われてしまったが、それでも、その後、スイーツでのお礼を提案すると、



まあ、次回も何かあったらいつでも言ってくださいね!



と上機嫌だったのは言うまでもない。



それにしても、どれだけ恐ろしい霊であっても、Aさんの手に掛かれば、まるで



恐ろしいものではない様な気がしてくるから不思議である。





Posted by 細田塗料株式会社 at 23:45│Comments(0)
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