› 看板・サインスタッフブログ | 細田塗料株式会社 › 長い石段をのぼってくるモノ

2019年06月09日

長い石段をのぼってくるモノ

その頃、名古屋市の昭和区という所に住んでいた。



ちょうど小学1年~3年生くらいの間だったと思う。



父親の転勤でその場所に引っ越ししたのだ。



そこには、父親が勤める会社の家族寮があった。



かなり広い道路に面したその家族寮に行くには長い石段を上っていく事になる。



階段をのぼり始めると、一度、左に曲がり、その途中に会社の独身寮があり、



そこからまた長い石段を



のぼった所に俺が住んでいた家族寮は在った。



引っ越しして最初の間は学校にも馴染めず、帰宅すると石段の最上部に座り、



そこから見える大通りの車の流れを見るのが日課になっていた。



信号で停まり、そして青になるとまた走り出す車を見ているだけでなんとなく



時間が過ぎていった。



そんなある日、誰かが石段の下の方に立っているのが見えた。



20代くらいの綺麗な女の人だった。



その女性は石段の途中で立ち止まり動こうともしなかった。



今思えば不思議な光景なのだが、その時にはそんなものなのかな、という気持ち



しか感じなかった。



そして、それからも俺の道路観察は続いたが、気が付くとその女の人は



石段の途中に立っていた。



学校から帰ってきて自分が石段をのぼっている時にはその女の人を見た事は



一度も無かった。



いつものように、石段の最上部に座り、大通りを眺めていると、気が付いた時には



その女の人は石段の途中で立ち止まっていた。



そんな日が毎日続き、ある事に気付いた。



それは、その女の人の横を誰かが通り過ぎる事はあったが、どうやらその姿は



誰にも見えていないのだという事。



そう自分を除いては・・・・・。



だからと言って、怖いという感覚は無かった。



自分でも不思議なのだが、その女の人がもっと早くあがって来てくれれば良いのに。



そんな風に思っていた。



もしかしたら、子どもながらに、その綺麗な女の人にいつのまにか心魅かれてしまって



いたのかもしれない。



だから、いつしか、石段の最上段に座るのは、道路を走る車を見たいのではなく、



その女の人を見ていたいという気持ちに変わっていった。



一日1段しか、石段をのぼって来ないというのは、とても待ち遠しい気持ちになる。



だからといって、こちらから、その女性に近づいてはいけないのだと何故かそう



思えた。



それでも、そんな風に日々を過ごしていると、いつしか、その女の人はその顔が



はっきりと分かるくらいに近くまでのぼってきた。



心なしか最初に見た時とは顔や容姿が違っているように思えた。



そして、笑うでもなく怒った顔でもなく、その女の人は無表情のままこちらを見て、



その場から動かずじっと立っている。



俺は、このまま待っていれば、いつか、その女の人と話す事が出来るのではないか、



といつしか心待ちにする様になった。



と、その頃、ちょうど、石段を登り切った所に在る家族寮で、色々と不幸が



起こり始めた。



病気になり入院する者、事故に遭い入院する者、そして不審死を遂げる者まで



出てきてしまう。



しかし、冷めた子供だったのか、俺にはそんな事はどうでもよかった。



あくまで、他人の不幸。



それだけのことだったから。



しかし、自分の父親が事故に遭い、母親も大怪我をし、兄は簡単な筈の手術が



失敗し長期入院をして何度かの手術を受けなくてはならなくなった。



そんなある日、その猟に住む、ある家族の母親が寮の屋上から飛び降りた。



幸いにも一命は取り留めたが、そのまま入院し、結局、俺が父親の転勤で



その地を離れるまで、再び、その顔を見る事はなかった。



俺にはもうとても他人ごとには思えなくなっていた。



このままでは、自分の家族の命まで危うくなる。



そして、その時、俺ら考えられる元凶は、石段を毎日のぼって来るその女の人



しか思い当たらなかった。



そして、ある日、その女の人の顔を見ると、それまでの無表情な顔から、どこか



不気味な笑みを浮かべた顔に変っていた。



いや、それどころか、その顔は醜悪で不気味なものに変わっており、その背丈も



人間とは思えない程に大きくなっていた。



その顔を見た時、俺は咄嗟に、小石を拾ってその女に投げつけていた。



そして、大声で、



お前なんか嫌いだ!



早くどっかに行け!



と叫んでいた。



その小石が女に当たる事は無かったが、その日の境にしてその女の姿を見る事は



無くなった。



そして、それと同期するように、家族寮で頻発していた不幸は一気に終息して



いった。



ただの偶然かも知れない。



だが、俺にはどうしても、そう思えないのだ。



それはきっと、あの時の女の薄気味悪い笑みを見てしまったからなのだろう。



それから、俺は高熱にうなされながら何日も寝込む事になる。



そして、今になってとても怖く感じるのは、あの時俺が投げつけた石が



その女に当たっていたとしたら、俺は今こうして無事に生活出来ているのか、



ということ。



あの女はいったい何者だったのか?



それは今も分からないままだ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:15│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count