2019年06月09日

悪い子

これは知人から聞いた話である。



彼は小学生の頃、とても活発な性格で、いわゆるガキ大将的な存在だった。



大抵の事は自分でする事が出来たし、何より子ども扱いされることがとても



嫌だったという。



そんな彼が小学校の高学年の頃、親戚の病気が悪化したとの事で、家族で



見舞いに行く事になった。



親戚が入院している病院は、かなり離れた県にあり、泊まりがけでの車で



行く事になる。



その時、彼はちょうど翌日に友達と一緒に遊ぶ約束をしていたらしく、車に



長時間乗るのも面倒くさかったので、



俺は一人で留守番してるから、二人だけて行って来てよ!



と告げたという。



両親は心配して何度も一緒に行くように説得したらしいが、彼は頑として



首を縦に振らなかった。



かくして、両親は彼一人を家に残して、車で出掛けてしまった。



彼はと言えば、1人で留守番をするのは初めてのことであり、多少の緊張は



あったらしいが、それよりも、両親が食事代や万が一の時の為、という事で



彼に渡してくれたそれなりの金額がとても嬉しく、今まで彼が所持した事の無い



お札に気持ちが舞いあがっていたという。



昼間は友達と遊んでいて全く不安は無かったという。



しかし、夕方になり友達と別れて真っ暗な家に帰ると、家の中はシーンと



静まり返っており、さすがの彼も少し心細くなってしまう。



しかし、気を取り直して、人生初の出前を頼むという事にも挑戦し、テレビを



自由に見ながら過ごす時間はまさに夢のようだったという。



ただ、やはり時刻が遅くなっていき、彼がいつも見慣れている番組が全て終わり、



観た事もない番組ばかりになると、彼の孤独感はかなり切羽詰まったものになる。



風の音が誰かの声に聞こえ、家の中のちょっとした音までもが、彼の心臓を



締め付け、恐怖で震えあがらせてしまう。



両親にでかい事を言った手前、何とか我慢したかった。



しかし、彼は点けていたテレビで怖い番組の予告CMを見てしまった。



その瞬間、もう、彼は、それ以上耐えるのを諦めた。



時刻は既に午後11時近くになっていた。



恐る恐る、両親が止まる予定の親戚の家に電話を掛けた。



すると、なんと彼の母親が電話に出た。



彼が心細くてもう我慢できない・・・。



早く帰って来てよ・・・・。



と言うと、母親は、



分かりました・・・・。



とだけ言って電話を切ったという。



いつもの母親の喋り口調ではなかったが、その時はそれほど気にも留めなかった。



両親が戻って来てくれる・・・・。



そう思うだけでとても安心できた。



だからなのかは分からないが、彼はそのままテレビを点けたまま寝てしまっていた。



気が付いたのは誰かが玄関の引き戸を叩く音だった。



慌てて起き上がると、どうやら両親が彼の名前を呼びながら県間の引き戸を



ドンドンと叩いているのが分かったという。



帰って来たよ・・・・。



早く開けておくれ・・・・・。



やはり、いつの口調ではなかったが、彼は嬉しくて急いで玄関の鍵を開けた。



そこには、間違いなく彼の両親が立っていた。



にこやかに笑って・・・・。



帰って来た両親は、服を着替える事もせず、そのまま彼の2階にある彼の寝室まで



連れていき、寝かせたという。



彼にベッドに横たわらせ布団をかけて部屋の電気を消しながら、



おやすみなさい・・・・。



と言ってくれた。



そして、両親が部屋から出ていくと、スーッと部屋の引き戸が閉まり彼の部屋は



真っ暗になった。



もう、安心していつものように寝られる筈だった。



だが、彼の心臓は、追い詰められたかのように緊張で鼓動を速くしていた。



確かに、両親の態度や喋り方はいつもとは違っていたが、着ていた服も笑顔も



いつもの両親そのものだった。



自分は何を怖がっているのだろう?



彼は自分に問いかけてみた。



すると、答えはとても簡単な事だった。



親戚の家に電話をかけた時、彼の母親が電話に出た。



だとしたら、母親が電話に出た時、既に遠い県に居た事になる。



車を飛ばしたとしても6時間以上かかるのは彼も知っていた。



それなのに、彼が電話をかけてから両親が帰って来るまで、ほんの2時間ほどしか



経過していなかった。



そんなに早く帰って来られるものなのだろうか?



彼はずっとそんな事を考えていた。



すると、ふと気付いた。



1階を含めて家の中から一切、音や声が聞こえないという事に。



その頃の彼の家は2階で寝ていても1階のテレビの音が聞こえる位に



天井も壁も薄かった。



それなのに、音も声も聞こえてこないというのは明らかにおかしかった。



ベッドの中で悩んだ挙句、彼は不安を払しょくする為にも、一度1階へ



降りてみる事にした。



部屋から出て階段まで来たが、相変わらず1階からは何も音は聞こえてこない。



彼は何か嫌な予感がして、階段を出来るだけ音が出ないように降りていった。



そして、1階まで残り3段くらいまで来た時、突然、彼の耳に両親の声が



聞こえてきた。



しかし、それは彼にとって、予想だにしない言葉だった。



あの子、悪い子ね。



うん。悪い子だ。



どうする?



殺してしまおうか?



うん。そうしよう。殺してしまいましょ。



その言葉を聞いた時、彼は凄まじい衝撃とともに、震えが止まらなくなった。



何か起こっているか、全く理解出来なかった。



ただ、その時は生存本能が目覚めたのかもしれない。



彼は震える足でゆっくりと、再び階段を上がりだした。



出来るだけ、両親に気付かれないように、と。



しかし、彼が階段を上っていると、1階の居間から、また声が聞こえた。



誰かに聞かれたかな・・・・。



悪い子だから、聞いたかも・・・・。



確かめなくちゃ・・・。



そう、確かめなきゃね・・・。



居間を動く音が聞こえて、その後、今の引き戸が開く音がした。



彼は間一髪、2階の廊下へと昇り、静かに自分の部屋へと向かう。



すると、ゆっくりと階段を上って来る音が聞こえた。



生きた心地がしなかった。



彼はまたしても、間一髪、自分の部屋に入り、静かに引き戸を閉めてベッドに



潜り込んだ。



そして、それから数秒後、彼の引き戸が開く音がした。



寝てるみたいだ・・・・。



そう、寝てるみたい・・・・。



それじゃ、今のうちに、包丁を研がなきゃ・・・・・。



そう、切れ味が悪いと痛くてかわいそう・・・・。



そう聞こえた後、再び引き戸が閉められ、階段を降りていく音が聞こえた。



彼は何がどうなっているのか、全く分からなかったが、このままでは自分が



殺されるという事だけは分かったという。



考えている暇は無かった。



彼はベッドから起き上がると静かに窓を開けて外の様子を窺った。



手摺を伝ってうまく移動すれば、何とか下に降りられそうだった。



彼はパジャマのまま、窓から体を出すと、そのまま手摺に掴まって横へと



移動していった。



そして、そこから車庫の上に飛び降りて、何トン地上に降りる事が出来た。



と、その時、視線を感じて彼は振り返った。



すると、そこには、開いた窓から両親が満面の笑みで彼を見つめていた。



母親が、



どうしたの・・・・こんな時間に・・・・。



何処へ行こうというの・・・・・・。



と、彼に微笑みながら語りかけた。



それを見た彼は一気に家とは逆の方向へと走り出していた。



涙があふれて前が良く見えなかったが、それでも彼は全力で逃げたという。



そして、近所の家に助けを求めた。



深夜だという事は彼にも分かっていたし、どれだけ非常識な行為かも理解



していた。



しかし、彼にはもうそうするしか思い浮かばなかったという。



結局、彼はその家にあげてもらい、その家の人が警察に連絡してくれたという。



警察官が彼の家に行った時には家の中には誰もいなかったという。



そして、警察が両親が泊まっているという親戚の家に電話をすると、なんと両親は



まだ、その家にいたという。



翌日の朝、急いで帰って来た両親は、彼の姿を見て無事を喜んでくれた。



そして、警察にも聞かれたそうだが、親戚の家に彼から電話があった事も



彼と話した事も記憶にないという事だった。



結局は、子供のいたすら的な感じで処理されたようだが、彼の両親は彼の言う事を



信じてくれたという。



それは、彼の真剣な顔や口調だけが理由ではなく、彼から話を聞いた通り、


台所にあった

包丁が、信じられない程、鋭利に研がれていたのを見たからだという。





Posted by 細田塗料株式会社 at 18:17│Comments(0)
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