2019年06月09日

逃れる方法

これは知人が体験した話である。



彼には右手の小指が途中から無くなっている。



別に事故や喧嘩をした訳でもなく、ヤクザ屋さんをしていた訳でもない



のだという。



確かに、おとなしい性格で、引っ込み思案な彼だから、そんなものとは全く



縁は無いのだろうが・・・・。



それでは、どうして小指を無くしてしまったのか?



何度もしつこく聞いた俺に、彼が話してくれたのが、これから書く話になる。



彼は山陰地方のとある田舎の出身だそうだ。



3人兄弟の末っ子だった事もあり、両親や祖父母から、とても可愛がられ



育ったという。



そんな彼が高校生の頃、体験した話というのはある意味、普通では絶対に



考えられないものだった。



その土地には神社があった。



昼でも暗いその場所は参拝する者もおらず、かなり荒れ果てていたそうだが、



その神社で毎年行われる祭りだけは、どんな事があっても必ず行われていた。



しかし、ある年、ちょうど彼が高校2年の年に行われるはずだった祭りは



悪天候と別の行事が重なったこともあり、何故か行われなかったという。



そして、ちょうど、その年、彼は高校の友人達と遊び半分でその神社に



やって来た。



ただ、友人達はその神社の境内には立ち入らず、彼だけが罰ゲーム的な感じで



その神社へと立ち入り、お参りをする事になった。



ただ、その日というのは、昔からの言い伝えで、その日だけは絶対に誰も



神社の境内に立ち入ってはいけないと決められていた日だったという。



行われるはずの祭りが行われない年の、絶対に立ち入ってはいけない日。



まさに、その時に、彼は禁忌を冒して神社の境内へと入り、お参りをして



戻ってきた。



神社の社の前には彼がちゃんとお参りしたという証拠となる、彼愛用の帽子



まで置いてきたという。



それが、普通の神社ならきっとそれ程問題にはならなかったのかもしれない。



しかし、どうやら、その神社というのは神様と呼ばれてはいたが、邪神、もっと



正確に言えば、魔物を封印している神社だったようだ。



そして、家に帰った彼は、すぐに家の祖父によって異変を察知されてしまう。



どうやら、彼には影というものが全く消えてしまっていた様だった。



そこから、彼が禁忌の日に神社に行ってお参りをしてしまった事がバレてしまった。



それからは、その土地の大人達、そして年寄りが集まって色々と対策が話し合われた。



その時、彼は両親に激怒され、そして泣かれながらこう言われたという。



お前は、あの神に魅入られてしまったのだと。



だから、今、大人達が必死でお前を護る為にどうすれば良いか、を考えてくれている。



全てはお前が犯してしまった罪だが、皆、何とかしてお前を助けてくれようとしている



のだ、と。



だから、これからどんな事をしなければいけなくなっても命がけで堪えろ!と。



そう言われても、彼には一体何の事だか理解出来なかったという。



どうして、神様に魅入られただけで、それほど大騒ぎになるのか?



神様に魅入られたのだとしたら、それはめでたい事ではないのか?と。



しかし、その後、年寄り達が彼の元に来てこう言った。



この地域には邪心を祀っている神社が存在しているのだ、と。



そして、それに魅入られてしまった者は、必ず命を落としているのだ、と。



過去にも同じように魅入られてしまった者がいたが、その誰もが、恐ろしい



形相で無残に食い散らかされて殺されたのだ、と。



そして、その邪心に魅入られた者は影を無くしてしまうという現象が



現れるのだ、と。



そして、彼も自分で確認したが、確かに彼の影というものは完全に消えてしまっており



それだけでも、その話を信じるのに十分な恐怖感が襲ってきたそうだ。



大人達の話し合いが終わると、彼は冷たい水風呂に入るように指示されたという。



そして、その水風呂には大量の塩が混ぜてある様で、風呂からあがっても彼の



体はベトベトしてしまい、もう一度普通の風呂に入りたかったがそれは許されず、



そのまま白装束の様なものを着させられ、その後、2時間ほど線香の焚かれた



部屋へと入れられた。



そして、そこから出ると急いで家の外へと連れ出されたという。



しかも、彼の体は家の中で、大きな樽の様な物に入れられてから外へと



運び出されたという。



樽の中には小さな古い刀が入れられており、樽の外から大人達が沢山の何かを



樽の至る所に貼り付けているのが分かったという。



そして、その貼り付けている物が、御札なのだと彼にはすぐに分かったという。



彼は大きく揺れている樽の中で、



いったい、何処まで連れて行かれるのだろう・・・・・。



そんな事を考えていたという。



すると、しばらくすると樽は地面に降ろされた様で、彼は樽の外から聞こえてくる



年寄りの声に耳を傾けた。



お前は明日の朝まで墓の中に入ることになる。



この樽のまま、地面の中に埋める事になるが、明日の朝までの辛抱だ・・・。



朝になったらわし等がこの樽をちゃんと掘り起こしてやるから・・・。



だから、何があっても生きている事を悟られないようにしなさい・・・・。



もしも、生きている事がバレてしまったら、その時は死ぬ時だと思いなさい・・・。



もしも、耐えられそうになかったら、その時は樽の中に入れた刀で自ら命を断つといい。



その方がよほど幸せな死に方だろうからな・・・・。



とにかく、頑張れ!



そう言われたという。



そして、彼が入った樽はすぐに地面に仲に埋められたのか、土を被せる



様な音とともに、どんどんと樽の中が真っ暗になっていった。



ただ、どうやら細い竹を使った空気の通路だけは確保してくれたようで、



その後も特に息苦しくなる事も無かったという。



ただ、真っ暗になった樽の中は、周りの状況も掴めず、何時なのかも全く分からず



不安だけがどんどんと増していった。



細い竹の空気穴だけが外界との唯一の接点であり、朝になったら本当に



掘り起こしてくれるのか?とさえ思ってしまったという。



彼は眠る事も出来ず、じっと樽の中で息を殺して朝が来るのだけを待ち続けていた。



その時、突然、生臭い臭いが樽の中にまで侵入してきているのが分かった。



そして、それと共に、外から、



シャンシャン・・・・シャンシャン・・・・シャンシャン・・・・・。



という何か鈴でも鳴らすような音が聞こえてくる。



そして、何処からか聞いた事もない呪文の様な声が聞こえてくる。



そして、その声の主と思える何かが地面を這うようにして近づいてくる音が



彼にははっきりと聞こえたという。



生きた心地がしなかった。



何かが、一人ではない沢山の何かが、自分が埋められている地面の上に



いるのは間違いなかった。



彼は息を殺してじっと動かなかったが、聴覚だけは鋭くなっていたのか、



地面の上から聞こえてくる小さな音までもはっきりと聞こえる様に



なっていた。



と、その時、突然、声が聞こえた。



もう大丈夫だよ・・・・。



朝になったから早く出ておいで・・・・。



それは紛れもなく両親の声だったという。



確かにその声が聞こえた途端、空気穴である細い竹を伝って朝の光の様なものが



樽の中へ差し込んできて少しだけ樽の中が明るくなっていた。



彼は一瞬だけ朝が来たのだと思いホッとした。



しかし、すぐにまた考えたという。



本当に両親が迎えに来てくれたのだとしたら、何よりも先に地面を掘り返す筈・・・。



それに俺が自分から外に出られないのは両親なら間違いなく知っているはず・・・。



だとしたら、外にいるのはその神とかいう奴なのではないのか?



そいつが、自分が本当に死んでいるのか、を確認しに来たのではないのか?と。



そう思うと、更に恐怖が増して叫びたい気持ちになったが彼は唇をかみしめながら



じっと耐えたという。



だが、彼は一つだけミスを犯してしまう。



それは、空気穴である細い竹を通して、外の様子を窺おうとしてしまった事



だった。



恐怖で頭がパニックになっていた彼は、すがるようにして、その竹を目に当てて



外の様子を見ようとした。



とにかく何でも良いから、地面の上の様子が知りたかったのだという。



しかし、彼が細い竹を目に当てて外を見ようとした時、そこには別のものが



あった。



燃える様に真っ赤な色をした大きな目・・・・・。



彼は思わずその赤い眼と、目を合わせてしまった。



絶叫しそうになったのを必死で堪えたという。



しかし、どうやら相手にも何かが伝わってしまったのか、次の瞬間、彼が



埋められている場所の土を掘り起こすような音が聞こえてきた。



何か道具を使って掘り起こしているのではなく、両手で土を掘り起こすような



音だったという。



そして、その時、彼の耳には、



ンモー・・・ンモー・・・ンモー・・・・ンモー・・・・



という声が聞こえてきた。



そして、それは何かに歓喜している声なのだと彼には感じた。



俺が生きている事がバレたのか?



それを知って歓喜しているのか?



俺を食う為に・・・・・。



地面は凄まじいスピードで掘り起こされていき、彼は樽の中からも外界の虫の音



がはっきりと聞こえる様になった。



そして、一瞬の静寂の時が訪れた。



しかし、それは彼にとっては安堵の時ではなかった。



樽の外からは何かの息遣いがはっきりと聞こえていた。



まるで、樽に耳を当てて、中の様子を窺っているかのように・・・・。



彼は口に手を当てて息を止め、体を硬直させて微動だにしなかった。



このまま、諦めて何処かへ行ってくれ・・・・。



そう思いながら。



しかし、次の瞬間、彼の入った樽が、大きく揺すられた。



そして、更に強い力で樽が叩かれる音がした。



それでも、彼がじっと声を出さないでいると、今度は何か固いもので樽の蓋を



削るような音が聞こえてきた。



彼はその音が、外にいる何かが鋭い爪で樽を開けようと必死に削っている姿を



想像してしまい、更に恐怖がどんどんと圧し掛かってきた。



彼はその時、完全にパニックになっていたのだろう・・・。



外にいる何か、と少しでも隔離されたい一心で、彼は空気穴である細い竹



の中に小指を入れた。



それは、彼にとっては何の意味もない事だったのだろう。



もう、あの赤い眼は絶対に見たくない・・・。



そんな気持ちだったのかもしれない。



そして、彼は必死に神に祈ったという。



お経も何も知らない彼は、邪神ではなく、普通の神様に対して必死に祈り続けた。



お願いします・・・・。



お助けください・・・・と。



その時、突然、大きな声でニワトリが鳴くのが聞こえたという。



すると、急に、外からは音が聞こえなくなり、彼は一体何が起こったのか?と



必死に考えた。



すると、外からは何かが立ちあがる様な音が聞こえ、その瞬間、樽に突き立て



られていた細い竹が抜き取られる音がした。



そして、外からはまた何かが地面を這いずる様な音が聞こえ、そしてしばらくすると



その音も聞こえなくなった。



それから、間もなく、外から大勢の人の声が聞こえてきたという。



そして、すぐに樽の蓋は開けられ、彼は朝の光の中へと戻る事が出来た。



皆、彼が生きていたのは奇跡だと言った。



今まで、生きてあの神から逃げおおせた者は一人もいなかったのだから・・・・。



ただ、両親はすぐに彼の異変に気づいた。



そう彼の右手の小指は第2関節から上が綺麗に無くなっていたのだ。



全く痛みも感じなかったから、彼も両親に指摘されて初めて分かったのだという。



ただ、彼には今、生きている事の方が嬉しかった。



樽の中から出た彼は、自分の影がしっかりと地面に映っている事を確認してから



その場で意識を失ったという。



それほどの緊張の連続だったのだろう。



それ以後、彼はすぐにその日のうちに、その土地を離れて遠くの親戚の家に泊まった。



そして、それから間もなく、彼の家族も、その土地を離れ、別の土地での新しい



生活が始まったという。



その後、彼には怪異は一切発生していたいが、やはり、彼がその土地に戻る事は



禁忌とされており、二度と戻る事はないだろう、と話してくれた。



そして、聞いた噂によると、その土地ではいまだに、その禁忌の日というものが



確実に生き続けているのだということだ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:19│Comments(0)
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