2019年06月09日

記念日

これは知人女性から聞いた話である。



彼女の実家は富山県の立山に近い場所だという。



元々、その土地の大地主だったらしく、以前はその地域一帯に、その一族の



家系である者達が多く住んでいたそうだ。



しかし、時代の流れとともに、若者は都会へと出ていくようになり、今では



その場所には本家である1軒しか残されていない。



そして、その本家というのも、まるで戦に使う要塞の様に、強固に造られており



今では周りの現代的な風景に反して、一際異彩を放っている。



更に言えば、その本家には今では誰も住んではいないのだという。



しかし、1年に1度だけ老若男女全ての者がその本家に集まって一夜を過ごす。



子供の頃には、その日が一族の大切な記念日なのだと教えられていたそうだ。



一族がその土地の権利を有した記念日・・・。



それが彼女にはよく理解出来なかった。



だから、彼女自身も子供の頃には、どうしてこんな辺鄙な所に親戚一同が



集まるのだろう?



と不思議でしょうがなかったという。



特に豪華な酒宴が開かれる訳でもなく、大人達はこそこそと小声で話しながら



静かに酒を飲んでいたし、子供たちにも絶対に騒いだりするな!というお達しが



くだるのだから、不思議に思うのも仕方がない。



そして、その夜には誰が訪ねて来たとしても絶対に迎え入れたりはしないのだという。



大人達は皆、誰がが訪ねてきたのが分かると、顔を恐怖で引きつらせていたし、



戸や窓が風でガタガタと音をたてただけでも、その度にビクッとして



体を硬直させていた。



だから、彼女にすれば、どうしてそんな思いをする為に、わざわざこんな家に



集まるのかがどうしても理解出来なかったという。



しかし、その一族の者は20歳を迎えると、その理由を教示される。



1年に1度、その本家に集まるのは決して一族の交流の為などではなく、一族の



者達を命の危険から守る為なのだという事を・・・・。



一族の先祖はこの土地を得る為に、大変な苦労をしたのだという。



そして、その土地を得た者が居るのなら、失った者がいるのは容易に想像できる。



その過程で何があったのかは教えてくれなかったが、その土地を得てから



10年以上経ってから、一族の者の変死が続くようになった。



変死した誰もが恐怖にひきつった顔で惨たらしく死んでいった。



それからは毎年、同じ日に必ず一族の誰かが死ぬようになった。



事故や病ではなく、何かに引き裂かれたような惨殺死体となって・・・。



ある者は串刺しになった状態で見つかり、また、ある者は何かに潰された様に



死んでいる姿で発見された。



それからなのだという。



毎年同じ日に、一族がその本家に集まるようになったのは・・・・・。



そして、その本家は外からは絶対に侵入できないように強固な要塞と化した。



その中で一族の者達は声を殺して震えながら夜を明かす・・・・。



そうするようになってからは一族の中から変死する者はいなくなった。



だから、1人の例外も無く、一年に一度、一族の者は何があろうとその日だけは



本家に集まり固まって恐怖の夜を過ごす様になったのだという。



しかし、ある年、彼女の従兄弟にあたる男性がその禁忌を破った。



勿論、家族にはちゃんとその本家に行くと約束していた。



しかし、いくら待っても本家には到着しないので彼の両親は、彼の携帯に



電話をかけた。



しかし、携帯は呼び出し音もならずに、不可思議な雑音しか聞こえてこない。



両親たちは、自分達だけでも、今居る本家から出て、息子を助けに行かせてくれ!



と頼んだらしいが、それは他の者まで危険に晒す事になるとして、断固として



家の外には出して貰えなかったという。



その時の彼の両親のすすり泣く声が今も忘れられないのだと彼女は言った。



そして、ここからは、彼と一緒にその夜を過ごした友人達から聞いた話になる。



毎年、その本家に集まって、そして何事も起こらないうちに、朝を迎えて



それぞれが帰路に就く。



そんな事に馬鹿らしさを感じていた彼は、その日、計画的に両親に嘘をついて



自宅に残る事にした。



仕事が終わり、帰宅する途中、やはり彼も万が一という事を考えたのかもれしない。



翌日が休日だったこともあり、彼は友人2人に声を掛けて、彼の家で一緒に酒を



飲む事にしたのだという。



近くのスーパーで集合して、酒と肴を一緒に調達して彼の家に向かったという。



彼は家に帰ると、友人達に付き合って貰い、家中の戸締まりを確認した。



そして、それが終わると、ホッとした顔をして、ようやく飲み会がスタートした。



飲み会の場所になったのは家の2階に在る彼の自室だった。



飲み会は盛り上がり、楽しい時間になった。



彼ら3人が集まって飲みのは,学校を卒業してから初めての事だったし、何より



社会人になってそれぞれが数年経ち、各々が悩みや不満を感じていたのだから。



飲み会はかなり遅い時間まで続いていたという。



途中、何度か1階のキッチンに行き、冷蔵庫から酒の肴になりそうな物を



取りに行ったし、何度もトイレにも行った。



その間、何事も全く起きる事は無かったという。



そして、空気が変わったのは午前0時を回った頃だったという。



急に部屋の中が寒く感じ、家中が重苦しい空気に包まれていた。



そんな状況だったから、彼自身も、かなりの恐怖を感じていたのかもしれない。



彼は、友人2人に、どうして、今夜飲み会に誘ったのかを打ち明けた。



そして、それと同時に、彼の一族に伝わる不可解な決まり事に関しても詳しく



話してくれたという。



きっと、彼は、友人達にも、



そんな馬鹿な事がある筈無いだろ!



と言って欲しかったのかもしれない。



しかし、空気が変わり、息苦しくさえ感じる部屋の中では、そんな強がりを



言ってくれる者は一人もいなかった。



そして、午前1時を回った頃、そろそろ寝ようか、という事になった。



その頃になると、3人は会話さえしなくなっていたという。



突然、玄関のチャイムが鳴る音が聞こえた。



3人は、まさかな?といった感じでお互いの顔を見合わせたという。



そして、何も聞こえなかった事にして、そのまま部屋の明かりを消そうとした。



すると、何かが階段をあがってくる音がした。



ギシィ・・・・ギシィ・・・・ギシィ・・・・。



大きく重い何かが階段をあがってくる様な音だった。



聞き間違いなどではなく、3人が全員、はっきりとその音を聞いていた。



彼の顔を見ると、明らかに青ざめた顔をしていたという。



彼らは部屋の電気を消す事も出来ずに、ずっとその足音に耳を傾けていた。



恐怖で固まったまま・・・・。



何度も聞き間違いではないのかと、彼らは自分の耳を疑った。



しかし、明らかに何かがゆっくりと階段を上って来ているのは確かだった。



既に、この家には自分達3人しかいない事は明白だった。



友人の1人が、



もしかして、お前の両親が帰って来たんじゃないのか?



そう言ったが、両親がそんな事をする訳がない事は彼自身が一番良く理解していた



様であり、彼は、その時、既にガタガタと体中を震わせていたという。



そして、その何かが階段を上りきって、2階の廊下まで上がってきたのが分かった。



そして、固い何かが廊下の上を、小刻みに歩いてくる様な音が聞こえた。



カタカタ・・・カタカタ・・・・・カタカタ・・・・・カタカタ・・・・。



そして、突然、部屋のドアを、ドンドンと叩く音がした。



3人は恐怖で完全に固まっていた。



そして、それと同時に、既にドアから目が離せなくなっていた。



唾を飲み込む事も出来なかったし、呼吸するのでさえ、大変な程



だったという。



そして、部屋のドアの部がゆっくりと回るのが見えた瞬間、彼は友人達に



覆いかぶさるようにして彼らの視界を閉ざしたという。



今にしても思えば、それは彼の彼らに対する最後の友情だったのかもしれない。



そして、彼は大声で、



見るな!・・・・絶対に見るなよ!・・・・。



そう叫んでいたという。



そして、その直後、彼は声にならないような悲鳴をあげて、一瞬体を硬直



させた後、ぐったりと体の力が抜けていくのが分かったという。



勿論、友人達も恐怖で顔を上げる事が出来なかった。



そして、それからしばらくして部屋の空気が軽くなったのを感じた友人達は



ゆっくりと顔を上げたという。



そこには、開いたままの部屋のドアと、放心状態でヘラヘラと笑っている



彼の姿があったという。



急いで、救急車を呼んで彼はそのまま病院に運ばれた。



しかし、朝が開ける前に、彼はそのまま息を引き取ったという。



看護師が少しだけ目を離した間に死亡していた彼の顔は、あり得ない程



恐怖で顔を引きつらせたまま、死んでいた。



そして、その両眼は開いたままだったという。



結局、警察の調べでも事件性は無く、家は中からしっかりと施錠されており



誰も侵入した形跡が無かった事から、そのまま彼は心臓麻痺という死因で



片付けられた。



そして、両親は彼の携帯に間違いなく電話をかけたのだが、彼の携帯には



一切着信は残ってはいなかったという。



そして、その一族では今も、一年に一度、例外なく、全ての親戚が集まり、



恐怖の夜を過ごしているという事だ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:20│Comments(0)
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