2019年06月09日

2匹の猫

これは俺の知人女性が体験した話である。



彼女は仕事が忙しいため、男性と出会う機会もなくいまだに独身である。



だからといって、寂しいと感じた事は一度も無いのだという。



理由は簡単。



彼女は、2匹の猫を飼っているから。



真っ白な猫と真っ黒な猫がそれぞれ一匹ずつ・・・・。



その猫たちをまるで自分の子供の様に可愛がっている。



そんな彼女だから、住んでいるのはいつもペット同居可能なアパート。



本当は、仕事の関係もあり、隣を気にしないで生活できる一軒家に住みたい



らしいのだが、やはりアパートとは家賃が雲泥の差であり、とても彼女の収入



では、一軒家に住む事など夢のまた夢・・・といった状態だった。



しかし、ある時、彼女は知り合いの不動産屋から、ある物件を紹介された。



それは、金沢市の住宅街の中に在る一軒家。



家賃は、それまで住んでいたアパートとほぼ同じ。



築年数もそれほど古くなく、モダンな造りの間取りと外観を見せられ、彼女は



とても気に入ったらしく、翌週の日曜日には現地へ出向き、そのまま契約



してしまったという。



そして、すぐに次の休みの日を引っ越し業者に依頼して、いよいよ当日になった。



荷物は無事に全て運び込まれたという。



ただ、飼っている2匹の猫はなかなか家の中に入ろうとはしなかった。



それでも彼女が抱きかかえると、何とか無事に猫達も新居にお迎えする事が



出来た。



引っ越し先の新居は予想通り、とても快適だった。



豪華な浴室に便利なシステムキッチン、そして広いリビングととても一人で



住むには贅沢過ぎる家だったから、彼女もその家を紹介してくれた不動産業者



に心から感謝したという。



しかし、彼女には快適な空間でも猫達にとっては、そうではなかったらしい。



彼女が仕事から帰宅すると、家中に猫達が付けた傷が残されていた。



彼女は慌てて猫達を叱ったが、猫達は知らんふりをして何処かへ去っていったという。



本当にこんなに快適な家なのに・・・・。



いったいどこが気に入らないんだろう?



彼女は不思議で仕方なかったという。



しかし、彼女にとっても平和な生活が続いたのは引っ越しが終わってからほんの



数日だけだった。



ある夜、仕事から帰宅すると、玄関の前に見た事もない男性が立っていた。



真っ暗な家の前でいったい何をしているんだろう?



そう思って恐る恐る玄関に近づいていくと、その男性はまるで



吸い込まれるよう玄関の中へ消えたという。



また、ある時は、彼女がリビングでテレビを見ていると、誰かが視界の端に



映り込んでいるのが分かった。



慌てて、そちらの方を見ると、知らない男性が窓から外をみつめている。



彼女は恐怖で固まったが、何とか勇気を振り絞って、



あの…どちら様でしょうか?



と声をかけると、その男性はゆっくりとこちらを向いて嬉しそうに笑うと、



そのまま消えてしまった。



彼女は、その日、恐ろしくなって友達の家に泊めてもらったそうだが、どうやら



彼女の前に現れるのはその男性だけではなかったようだ。



それからの彼女はずっと友達の家に泊めてもらう訳にも行かず、何かと理由を



つけては、友達に自分の家に泊まりに来て貰う様になった。



しかし、そんな事をしている間は、その家では怪異は全く起こらなかったという。



そして、彼女の恐怖心も少しずつ薄れていった頃、日曜日の朝、彼女が



目覚めると、知らない女性が彼女の顔を覗き込んでいた。



悲鳴を上げる彼女の顔を見ながら、その女は滑るように後ろへ下がり、そのまま



壁の中に消えてしまった。



またある時は、彼女が風呂に入っていると、誰かが浴室のドアの前に



じっと立ってこちらを見ている事に気付いた。



彼女が固まっていると、浴室のドアが静かに少しだけ開けられ、その隙間から、



数日前に寝起きの彼女の顔を覗き込んでいた女が、恨めしい顔で彼女を



睨んでいたという。



しかし、その時も、その女はそのまま消えてしまった。



そして、それにはいつも同じ理由があった。



それは、いつもは彼女の事など気にもしていない様子の猫達がそんな時だけは急いで



彼女の所へ走って来てくれたという事だった。



そして、それを感じた途端、その男性も、そして女性も、何もせずにそのまま



静かに消えていった。



きっと、猫達が護ってくれているんだ・・・・。



彼女にはそれが心の支えになっていたという。



しかし、その頃になると、引っ越し当時は明るく日差しが差し込む家に感じた



新居が、どこかジメジメとした暗い家へと少しずつ変貌していくのを感じていたという。



元々は寝るときには2階の部屋を寝室として利用していた彼女だったが、その頃には



リビングのソファーで寝るのが当たり前の生活になってしまっていた。



それは何かあってもすぐに逃げられるから・・・・。



そんな理由だった。



1階なら安全・・・・。



そんな気持ちだったという。



しかし、その安全もすぐに覆されることになった。



ある時、いつものように夜、リビングでテレビを見ながら、過ごしていた



彼女だったが、突然、酷い雷が鳴りだし、そして大粒の雨が激しく窓を



叩き始めた。



彼女はテレビの音を大きくして、雷の音を書き消そうとしたが、その瞬間、



大きな雷が家を揺らしたかと思うと、テレビと部屋の照明が一斉に消えた。



そして、すぐに2階から、ドンドンという音が聞こえたかと思うと、その



次には階段を降りてくる足音に変わった。



その足音は、トントントントン・・・と軽快に階段を降りる音だったが、明らかに



1人の足音ではなく二人分の足音が聞こえてきたのだという。



勿論、家の中には彼女しかいるばすも無く、彼女は慌てて家の外へ逃げようと



したのだという。



しかし、その瞬間、からたが全く動かせなくなった。



どれだけ体に力を入れても、自分の指さえも全く動かせなかったという。



ソファーに座ったまま固まっている彼女の側には白い猫だけが居たそうだが、



その足音を聞いた途端、さっと何処かへ走り去ってしまった。



護ってくれるはずの猫も逃げていき、1人残された彼女の恐怖は想像に難くない。



そんな彼女の恐怖を煽るように、二つの足音は階段から廊下へと降りてきて、



そのまま壁をつたうような音を立てながらゆっくりと彼女のいるリビングの



方へと近づいてくる。



彼女は声も出せず、涙を流しながら必死に恐怖と対峙していた。



すると、突然、ゆっくりとリビングのドアが勝手に開いた。



そして、そこから二つの顔がこちらを覗き込むのが分かったという。



そこから彼女を覗いていたのは、見覚えのある男女の顔だった。



しかし、いつもの顔ではなく、明らかに何かをしようとしている様な邪悪な顔



に見えた。



ギラギラと光るそれらの眼は、とても不気味に暗闇に浮かび上がっていた。



殺される・・・・・。



彼女はそう直感したという。



そして、その男女は、彼女が恐怖に震えているのが、さも楽しそうにヘラヘラと



笑いながら首を振り子のように揺らした。



そして、そのまままるで赤ちゃんがハイハイでもするかのように床に四つん這いになり



そのまま彼女の方へと近づいてくる。



その時だった。



突然、暗闇の中を何かが走って彼女に駆け寄ってきた。



彼女にはそれが2匹の愛猫だとすぐに分かったという。



猫が来てくれたから助かるとは思わなかった。



ただ、彼女の恐怖心は、愛猫が側にいてくれるというそれだけでかなり緩和



されたのは間違いなかった。



それに、いつもは彼女の事など気にも留めず、ワガママで気まぐれな態度しか



見せなかった猫達が、明らかに彼女を護ろうとしているという光景が



彼女には思い掛けず嬉しかった。



だから、彼女は猫達の体を優しく摩ると、



早く逃げなさい・・・・あなた達まで巻き添えにしたくないから・・・・。



そう声をかけたという。



しかし、猫達の行動と能力は彼女の予想を大きく上回った。



いつもは大人しく彼女の事など眼中にもない様な素振りさえ見せる猫達が、



その時は、まるで野生に戻ったかのように、目の前の人外の男女に向かって



唸り威嚇した。



何度か、飛びかかる様な動きを見せたり、大きく牙を見せつける様にしながらも



彼女の両側からピッタリと体をくっ付けて、決して彼女の傍から



離れようとしなかった。



いつもは、大人しくのんびりした猫達の変貌に彼女は驚かされたという。



そんな睨み合いの時間がどれだけ続いただろうか・・・。



その男女は口惜しそうな顔をしながら、そのまま後方へと滑るように移動して



暗闇の中に消えていった。



すると、すぐに部屋の明かりも点き、テレビも何事も無かったかのように



番組を映しだした。



そして、彼女の金縛りも解けたが、彼女は恐怖で身動きひとつ出来なくなっていた。



そんな彼女を慰める様に、2匹の愛猫は体を彼女に擦りつけるようにしながら



ずっと彼女の傍から離れようとしなかった。



彼女は恐怖と疲れの為か、その後、知らないうちに眠ってしまったようだったが、



朝起きると、猫達は起きたまま、じっと彼女の側に居てくれた様であり、そして



リビングには、ベトベトした手形や足形が無数に残されていた。



それは、彼女が寝てしまってからも、その男女が何度も彼女に近づいていた事



なのだとすぐに理解できたし、きっとそれを何度も追い払ってくれたのも



2匹の猫達なのだと確信したという。



そして、目覚めた彼女はすぐに不動産会社に連絡して契約を解除して貰ったという。



そして、その際、不動産会社は、一切文句も言わず応じてくれ、なお且つ、彼女の



引っ越し費用まで負担してくれたのだという。



それから、彼女は友達の家を泊まり歩き、そして日曜日には無事に新しいアパートに



引っ越す事が出来たという。



相変わらず、猫達は気まぐれで、彼女の事など眼中に無い様な生活を送っているが、



それでも彼女は幸せであり、2匹の猫達には感謝してもし切れないという事だ。



勿論、その後、彼女の周りでは怪異は一切発生してはいない。



きっと、その猫達が彼女をずっと護り続けているのだろう。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:27│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

count