2019年06月09日

山で出会ったモノ

これは俺の友人が体験した話である。



彼女は石川県の能登地方の出身である。



高校を卒業してからは、金沢に住んでおり、趣味の関係で俺とはかなり



以前から友人付き合いをさせて貰っている。



実は彼女は高校生の頃、不思議な体験をしている。



彼女の家から高校までは、かなりの距離があった。



だから、彼女は毎日、バスに乗って、途中から自転車に乗り換えて



通学していたのだという。



そして、その日は用事があり下校時刻が遅くなった彼女はいつもよりも暗い



道のりを自転車で走る事になった。



いつもは通らない山越えの道を彼女は選んだという。



その方が時間をかなり短縮出来るのを知っていたから・・・・。



ただ、その山道というのは、以前から彼女にとっては何か嫌な雰囲気のある



道であり、当然、彼女はその山道を1人で通る事は出来るだけ避けてきた。



山の中腹に差し掛かった時、急に酷い土砂降りに見舞われた。



彼女はずぶ濡れになりながら、大きな木の下に逃げ込み、雨雲が去ってくれる



のをじっと待っていたという。



しかし、なかなか雨はやまなかった。



それどころか、どんどんと雨の勢いは増していき、視る見るうちに、道沿いの



側溝が雨水で溢れてしまったという。



どうしよう・・・・バスの時間に間に合わないよ・・・・。



どんどんと彼女は不安になっていったという。



その時、ふと、前方を見ると、傘をさした綺麗な女の人が笑いながらこちらに手を振って



いるのが分かった。



女の人は、20代半ばといった感じで、そのにこやかな笑顔は彼女の気持ちを



安心させる何かがあったという。



彼女はその女の人に向かって、



こんばんは!



と挨拶した。



すると、その女の人も無言のまま彼女に向って会釈してくれた。



そして、彼女がそれに笑顔で応えると、その瞬間、その女の人は、凄いスピードで



彼女に近づいてきた。



凄いスピードと書いたのは、その女の人の近付き方というのが、歩いているというよりも



まるで、静止したまま地面の上を滑ってくる様に見えたから・・・。



一瞬、不思議に思ったが、その女の人は相変わらず優しい笑みを浮かべていたから



彼女はそれ以上考えるのを止めたという。



彼女のすぐ近くまで来た女の人はとても良い香りがした。



それは香水とかの類ではなく、何か植物の様な不思議で甘美な香り。



そして、その女の人は彼女にこう言った。



私の家はすぐそこなの・・・・。



こんな雨だから、雨宿りでもしていってね・・・・・と。



バスの時間も迫っており、普通なら彼女は即答で断っていたという。



しかし、その時には何か断ってはいけない・・・・・・。



そんな気持ちが押し寄せて来たという。



それじゃ、ちょっとだけ・・・・。



彼女がそう言うと、その女の人は満面の笑みを浮かべて、彼女に手を差し出した。



そして、気が付くと、彼女も無意識に、その手をしっかりと握っていたという。



それから、その女の人に追居て、彼女は山道を歩いていった。



自転車を一緒に持って行こうとすると、その女の人は首を横に振ったという。



女の人と手を繋いでいると、きついはずの山道がとても歩きやすかった。



本来なら、木々がいたるところに根を張り、その中を草をかき分けて歩かなければ



いけない筈の山道だったが、何故かその時は、二人の為に、山が道を開いてくれた



様に感じる程、平坦で歩きやすいと感じた。



どれ位の時間、歩いただろうか・・・・。



ぼんやりと歩いていた彼女は、突然ハッとして我に帰った。



それはその女の人の手が異様に冷たかったから。



最初は細くて長い指が綺麗な、暖かい手だったはずだった。



しかし、今はもう温かい手はどこにも無く、まるで氷を触っているかの様に



冷たい手に彼女は恐怖したという。



だから、彼女は何度もその女の人の手を振りほどこうとした。



しかし、その度に、彼女の手はより強く握られてしまい、その頃になると



まるで彼女の体を引っ張りあげるような感じで、その女の人は山道を歩いていた。



そして、辺りが暗闇に覆われた頃、前方にぼんやりとした灯りが見えたという。



ゆらゆらと揺れるような灯りであり、その先には何かほら穴のようなものが



ぼんやりと見えたという。



彼女は必死で抵抗した。



しかし、その女の手は異常に強く、何をどうしても、女の手を振りほどく事など



出来なかった。



彼女は恐怖と絶望の中にいた。



もう帰れないかも・・・・。



そう思うと、涙がどんどん溢れてきた。



その時だった。



何かが暗闇の中を走ってくる音が聞こえ、すぐに激しく吠える威嚇音



が聞こえてきた。



それは暗闇の中でもはっきりと見えるほどの真っ白な子犬だった。



何処から現れたのか、その子犬は小さな体でその女に向って牙をむき出しにして



吠えていた。



こんな小さな犬が私を助けようとしてくれているの?



そう思うと、彼女はとても勇気づけられたという。



ただ、その女に対してあまりにも小さな子犬では、きっと追い払われて



しまうのだろうな・・・・。



彼女はそう思っていた。



しかし、予想外に、その女はその子犬が怖くて仕方ないといった様子で必死に



体を遠ざけながら犬を睨んでいたという。



そして、あまりの犬のしつこさに、その女が一瞬、逃げる様な動きをした瞬間、



その犬は彼女に向って、ワンワンと吠えながら、付いて来いとでもいうように



山の斜面を走りだした。



彼女は必死になってその子犬に付いていったという。



何度かその犬が彼女のそばに戻ってきて、凄い勢いで吠えていた事で、彼女は



きっとその女がすぐ近くまで迫って来ているのだと理解した。



しかし、何度かそんな犬の助けを借りながらも、彼女は無事に山を降り、



そして自分の自転車が停めてある場所まで戻ってきた。



すると、その子犬は彼女に対して、



早く逃げろ・・・とでも言うかのように、顔を何度も振り、そして再び、山の中へと



戻っていった。



彼女は九死に一生を得た思いで、必死でその場から自転車で走り去った。



そして、何とか最終のバスに間に合い、家路に就く事が出来たという。



彼女は自宅に戻り、その時の話をすると、両親は、彼女の身をとても心配した。



そして、その犬が助けてくれたのなら、明日、もう一度その犬を探しに行って



みよう、という事になったという。



翌日、父親が車でわざと、昨夜の山道を通る様にして彼女を学校まで送ってくれた。



すると、昨夜の白い犬は、まるで彼女が来るのを待っていたかのようにじっと道端に



座っていた。



そしてそのままその白い子犬を家まで連れていき、それ以来、ずっと彼女の家族として



生活してきた。



それから彼女は親元を離れて就職したのだが、その子犬のお蔭なのか、



二度とその女の姿を見る事は無かったという。



しかし、彼女が結婚して家庭を持った頃、彼女の身の回りで不可解な事が起こり



始めた。



玄関を入ると、不思議な香りに一瞬、ゾッとした。



それは、あの時の女が付けていた香りと同じものだったから。



家の中にも彼女とは違う長い髪が落ちている事が多くなった。



あの時の子犬もかなり歳をとってしまい、両親は彼女の身を案じた。



そして、いよいよ子犬だった愛犬の死が近くなったのを感じた彼女と両親は



誰から聞いたのか、俺に相談してきた。



愛犬が死んでもうちの娘は大丈夫なのか?と。



勿論、そんな事が俺に分かる筈もなく、すぐにAさんに連絡したのだが、



その時、超多忙だったAさんは、自分に代わって姫を指名してきた。



あの娘なら、それくらいの事はすぐに分かるレベルになってますから、と。



そして、姫に頼んで、その犬と彼女に会ってもらった。



最初は犬を見るなり、楽しそうにじゃれて遊んでいた姫は、すぐに悲しそうな



顔になってこう言った。



この子は、もうすぐ天寿を全うします・・・・・。



でも、幸せだそうです。



彼女をずっと守る事が出来て・・・・・。



元々、この子は、彼女と巡り合う運命でした。



彼女と出会って彼女を護る事を役割として・・・・。



そして、沢山の愛情も注いで貰った、と。



でも、大丈夫ですよ。



この子は普通のワンちゃんじゃありませんから・・・・。



死んでからも、いえ、死んでからの方がより強く、そしていつも身近に居て



彼女を護ってくれるはずです・・・・。



この子は彼女の側にいるのが一番嬉しいみたいですから・・・・。



そう言うと、姫は少し厳しい顔をして、俺にこう言った。



この子が年老いて静かに死んでいくのを邪魔する方がいらっしゃるのなら、



私も少し力をお貸ししないといけませんよね?



そう言うと、家の中に向かって、大きく手を広げた。



そして、一瞬、パンッという音がしたかと思うと姫はすぐに笑顔に変わった。



もう大丈夫です・・・・。



少なくとも、かなりの時間稼ぎにはなったと思いますから!



それに、私がこんな事をしなくても、あの方は彼女には近づけません・・・。



とても強くて優秀なワンちゃんが付いてるんですから・・・・。



そう言って笑った。



それから、彼女の身の回りでは二度と不可思議な現象は起こってはいない。



結局、愛犬はそれから1か月ほどで静かに息を引き取ったが、姫の言ったとおり、



それ以後、以前にも増して何か温かいものに守られている様な気持になっている



そうだ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:29│Comments(0)
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