2019年06月09日

横断歩道

これは知人女性が体験した話である。



彼女は金沢市南部のマンションに住んでいる。



以前はどちらかと言えば静かで人通りが少ない場所だったのだが、ある時、



国道に通じる道が開通した事により状況は一変してしまったという。



そして、彼女の家のすぐそばに在る横断歩道も・・・・。



それまでは、楽に渡る事が出来たはずの横断歩道は事故が多発する様に



なった事で、すぐに信号機が設置された。



しかし、それでも事故は減るどころか増える一方であり、本当に危険な道に



なってしまったという。



そして、彼女自身も何度か事故を目撃した事があった。



その殆どは横断歩道近辺での車同士の事故だったが、何度か人が轢かれるのを



目撃し、そして彼女が慌てて救急車を呼んだ事もあるのだそうだ。



そして、一度だけだが、目の前で死亡事故を目撃してしまった事もあるのだという。



信号が青になり横断歩道を渡り始めた歩行者に、信号無視の車がぶつかった。



中年の女性だったという。



ほとんどノーブレーキで車にぶつかられた歩行者は、まるで人形のように車の



フロントガラスにぶつかり、そして嫌な音とともに、宙を飛んで地面に激突した。



その瞬間、周りの音が聞こえなくなったという。



全てのものが停止してしまったかのように、沈黙が続いた。



そして、彼女はその時も慌てて救急車を呼んだらしいのだが、その時の事故の



被害者の体はあり得ない方向に体が曲がり、そして手足の向きも不自然な



状態であり、彼女が電話をかけている最中に、最初は痙攣したかのように



小刻みに震えていた被害者の体は、そのうちにピクリとも動かなくなって



しまった。



その光景を見ていた彼女は急に恐ろしくなり、電話の向こうからの問いかけに



何も答えられなくなったという。



そして、その後、事故を起こした車はどうやら同じくらいの中年女性が運転



していたらしいのだが、その光景を見たにも拘わらず、猛ダッシュでその場から



逃走しようとしたらしい。



ただ、気が動転していたのか、しばらく走った後、道路わきの電柱に正面から



ぶつかっていき、結局、その運転手の女性も、現場から救急車で運ばれて



しまったのだというから、本当に悲惨な事故である。



そして、その事故を目撃して以来、彼女はいつも窓を閉める様にしているらしい。



それは、その横断歩道では相変わらず事故が多く、窓を開けていると思わず、



その時の事故を思い出してしまうから。



そして、彼女の部屋からはちょうど、その横断歩道が見えるらしく、事故の音だけで



それが車同士の事故なのか、それとも人身事故なのかが分かるようになったという。



大きな激しい音がすれば、車同士の事故・・・・。



そして、鈍く低い嫌な音が聞こえれば、それは車と人との事故・・・・。



勿論、人と車の事故が恐ろしいという事なのだが、それでも彼女はそんな嫌な音が



すると、すぐに家から飛び出して現場を見に行く癖がついてしまったという。



それは、急いで救急車を呼ぶ為に他ならないそうなのだが、彼女が死亡事故を



目撃して以来、不可思議な事が多発しているのだという。



それは、彼女が部屋に居る時。



突然、急ブレーキの音とともに、鈍く嫌な音が聞こえる。



そして、その瞬間、明らかに女性と思われる悲鳴も聞こえるのだそうだ。



だから、勿論、彼女は急いで携帯を持ったまま家の前の横断歩道へと



走っていく。



しかし、そこには何も無いのだそうだ。



そんな音が聞こえるのは決まって夜12時を過ぎてから・・・・。



だからそこ、彼女としては命を助ける為に現場へと走るのだが、彼女が駆けつけると



其処には停止している車も、そして被害者らしき人も誰もいないのだという。



もしかして、横断歩道の事故ではないのかも・・・・。



そう思ってかなり遠くまで見渡すのだが、やはりそこには事故らしき光景は



見当たらず、彼女はホッと胸をなでおろす。



勿論、事故の音が彼女の聞き間違いであったのなら、それはそれで彼女にとっては



嬉しい事なのだが、それにしては、毎回聞こえる事故の衝突音は生々しすぎるし



何より女性の悲鳴まで聞こえるのはやはり気持ち悪いのだという。



そんなある日の夜、時刻は午前1時を回っていたのだが、彼女はベッドに入り



趣味の読書をしていたという。



いつもはそんな時間でも車の通りがかなり多いらしいのだが、その夜に限って



彼女が読書を始めた頃から、車の音というのものが全く聞こえなくなった。



そして、突然、彼女の耳に車の激しい急ブレーキの音が飛びこんでくる。



そして、絶叫する女性の叫び声と、それに続いて鈍く、そして重い衝撃音が



聞こえてきた。



そして、訪れる沈黙・・・・。



相変わらず、外からは車が走る音は全く聞こえてこない。



彼女は、急いでベッドから飛び起きると、そのままの姿で玄関のドアから



飛び出した。



しかし、その時はいつもとは少し違っていた。



確かに、そんな時には、緊張してしまうらしいのだが、その時の彼女は自分の



心臓の音が大きくそして速く脈打つのが分かり、そしてとてつもなく嫌な予感



というものも強く感じていたという。



もしかしたら、また死亡事故なのか?



だとしたら、本当は見たくはなかった。



しかし、道路を走っている車の音が聞こえてこない以上、一刻も早く被害者を



確認して救急車を呼ばなければ・・・・。



そう思ったという。



そして、家の前の横断歩道までやって来た彼女は、その時も一瞬、ホッとして



胸を撫で下ろしたという。



其処には、事故を起こした車も、そして車にひかれた人も、何も存在しては



いなかった。



しかし、彼女の心臓は相変わらず大きな音を立てて脈打っていた。



何かがおかしい・・・・・。



そう感じた時、彼女は前方に誰かが立っているのを見てしまう。



誰かの視線を感じゆっくりと顔を向けた彼女の視線に映ったのは、女だった。



しかし、それは長い髪や着ている衣服などからそう分かったのであり、



その姿はあり得ない方向に手足が曲がり、その首も完全に折れているのか、自分の肩の



辺りまで曲がっており、とても生きている人間には見えなかった。



更に、その顔はまるで車に長い距離を



引きずられたかのように平たく潰れ、眼も鼻も口も、全てが欠損していた。



そして、折れているであろう手足でバランスを取りながら体を斜めに傾けながら



立っているソレを見た瞬間、彼女は激しい吐き気に襲われた。



右腕は力なくダラリと垂れ下がり、左手には肘から先が欠落していた。



右足だけは普通だったが、左足は足首が完全に折れておりその折れた部分を



地面に接地させながら、その女は立っていた。



それでいて、血を流した様子はどこにも見られなかった。



どうして、あんな状態で立っていられるの?



いや、どうしてあんな状態で生きていられるの?



そう考えると、彼女はとても気分が悪くなり、何度もその場で吐き気を催した。



そして、彼女は考えたという。



どうして横断歩道の向こう側にあの女の人は立っているのだろう?と。



それと同時に周りの違和感にも気付いた。



時刻は午前1時を回っているとはいえ、この道路を人はおろか、車の1台すら



走っていない事などあり得るのだろうか・・・・・・。



彼女は完全に音が消えた世界の中で、どうしようもない不安感に襲われていた。



その時、何かが変わる音がした。



いや、音というよりも、光が変わったと言った方が正しいのかもしれない・・・。



嫌な予感のまま、顔を上げた彼女は、前方の横断歩道の信号が青になっている事に



気付いた。



そして、それ以上に彼女を驚かせたのは、横断歩道の向こう側に立っていた



女が、こちらへ向かって歩いて来ている事だった。



どうして、あんな状態の体で歩けるのか?



いや、それ以上に、どうしてあの女はこちらに向かって歩いて来ているのか?



彼女が思いついた答えは一つしかなかった。



彼女は、急いで立ち上がると、その場から走って逃げた。



その女の歩く姿は、まるで壊れたロボットの様に歪なものだったから、当然



歩く速度はゆっくりしたものだった。



だから、彼女はその場から急いで逃げた。



自宅マンションがすぐ近くに在るのは、不安だったが、とりあえずマンション



の部屋に戻れば安心・・・・そう考えた。



彼女は、部屋の前まで来ると急いで玄関のドアを開けようと鍵を取り出して



鍵穴に差し込んだ。



しかし、鍵は少しも回ろうとせず、何度やっても鍵を開ける事が出来なかった。



彼女は焦っていた。



あんな姿の女が、このマンションに来て、そしてマンションの2階に在る彼女の



部屋までやって来れるはずがないとは頭では分かっていたが、どうしても



あの女が、階段を上ってくる姿を思い浮かべてしまい、その度にパニック



になってしまう。



だから、彼女は必死で何度も鍵を開けようとした。



しかし、やはり何度やっても鍵が回ってくれる事は無かったという。



そんな時、彼女の耳に在りえない音が聞こえてきた。



ベチャ・・・・ズルッ・・・・ベチャ・・・・ズルッ・・・・



それは明らかに階段から聞こえてきた。



そして、その音はあの女が階段を上って来ているのだと確信させるには十分過ぎる



ほどの不気味な音として誰もいないマンションの廊下で響いていた。



彼女は恐怖で完全にパニックになっていた。



それでも、鍵を何度も抜き差しして、何とか鍵を開けようと必死になった。



階段を上ってくる様な不気味な音が、突然、変わった。



ズルッ・・・ズルッ・・・・ズルッ・・・・ズズズズ・・・・。



それは明らかに何かを引きずるような音に聞こえた。



彼女は日頃、神様を信じたりはしないが、その時ばかりは必死に神に祈った。



お願いします・・・・助けてください・・・・・と。



すると、突然、玄関の鍵が、ガチャッという音とともに開くのが分かった。



そして、不思議な事に廊下から聞こえていた何かを引きずるような音もその時



すっかり消えてしまっていた。



彼女は全身から力が抜けるのを感じながら、助かったという喜びを



噛みしめていた。



ホッとして玄関のドアを回して部屋の中に入る。



彼女は嗚咽にも似た悲鳴をあげた。



その時、彼女の目の前に何かがいた・・・・。



それは、間近いなく、あの横断歩道に立っていた女だった。



どうして・・・・・?



そう思うと同時に、その女は、大きな悲鳴をあげた・・・。



ギャァ~!



その悲鳴を聞いた瞬間、彼女はその場で意識を失った。



結局、彼女は病院で目が覚める事になった。



特に外傷は無かったが、どうやら、あの女の悲鳴を聞いたマンションの隣人が



彼女の部屋で玄関に倒れている彼女を見つけて119番に電話をかけてくれた



という事を知って彼女は愕然とした。



あの女は幻でも自分が寝ぼけていたのでもなく、隣人もはっきりとあの悲鳴を



聞いていただ・・・と。



結局、それから彼女は事故の音が聞こえても絶対に現場には行かなくなった。



ただ、それでも、夜中に目を覚ますと、あの時の女が彼女の部屋の窓から



外を見ているのを何度も目撃してしまい、すぐに転居を決意した。



その女が憑いてくるのではないか?と不安だった彼女だが、今のところ、



彼女の周りで怪異は発生していない、という事である。





Posted by 細田塗料株式会社 at 18:30│Comments(0)
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