2019年06月09日

選択

これは知人女性が体験した話である。



彼女は今でこそ元気に働き、休みの日になると山登りやバンド活動などを



楽しむ活発な女性なのだが、実は10年ほど前には大きな事故に遭遇したという。



突然、目の前に車が見えたかと思った瞬間、激痛と共に彼女は意識を失った。



それは彼女が横断歩道を渡っていた時、信号無視をした車にはね飛ばされる



という事故だったそうだ。



彼女はすぐに救急車で病院へと運ばれたが全身の骨折とともに内臓も痛めており、



更に頭部への損傷もあった為、全く予断を許さない状態が続いたという。



勿論、そんな状態の彼女に意識がある筈もなく、事故に遭ったという事実も後に



意識が回復してから理解できたのだという。



そして、これから書くのは彼女が意識を回復するまでの間、彼女自身が体験



した内容である。



事故の瞬間、意識を失った彼女が目を覚ますと、広い草原のような場所に



寝ていたという。



草の上はとても心地良く、このままずっとそうして寝転んでいたいという衝動に



駆られたが、何故かこの場所にずっと居てはいけない・・・・・。



そんな気がして彼女はゆっくりと立ち上がったという。



しかし、立ちあがってはみたものの、何処まで見渡しても同じような草原が



続いているだけだった。



不思議と、自分はどうしてこんな所にいるのだろう?とは全く思わなかった。



彼女はゆっくりと歩き出した。



何処へ向かうという事は何も考えなかった。



そして、どの方向へ行っても辿りつく先は一つなのだという妙な確信があったという。



ただ、自分は此処にこのまま居てはいけない・・・・・。



そんな気がしたという。



彼女は歩きながら空を見上げた。



すると、そこにはありえない程速い速度で流れていく雲に覆われた光景が



広がっていた。



青空など全く見えない・・・・。



それでいて、自分がいる場所は微塵も暗さなど無く、とても不思議で幻想的な



光景に見えた。



しばらく歩いていくと、知らないうちに山道を歩いている事に気付く。



そして、その山道というのは片側が山肌が剥き出しになっており、その反対側は



眼もくらむような断崖絶壁になっていた。



彼女は恐怖も感じず、身を乗り出す様にして崖の下を覗き込んだらしいが、そこには



雲海のような風景が広がっているだけだった。



何も見えないんだ・・・・・。



彼女は少しがっかりして再び歩き出した。



どれだけの時間、山道を歩き続けただろうか・・・・。



それにしても、体力には全く自信が無かった彼女だったが、何故かその時には



少しも体か酷くなったり息切れしたりする事はなかった。



そうしていると、少しずつ山道はその幅を狭めていくのが分かった。



それでも山道を歩き続けていると、いつしか山道は人が一人通るのがやっとという



幅まで狭くなってしまう。



道の両脇には断崖絶壁が下まで続いていたが、彼女は微塵も怖いとは感じなかった。



それどころか、その細い山道を何かに誘われるようにどんどんと歩いていった。



すると、前方の道が分岐しているのが分かったという。



分れ道は2本の道に分かれていたという。



どちらも、花が咲き乱れた美しくて広い道だった。



そして、気が付くと、その道の先には美しい若い女性が温かい笑顔で彼女に



微笑みかけていた。



だから、彼女は迷いに迷った。



どちらの道に進んでもきっと楽しいのだろうな・・・・。



そう思ったという。



そして、結局彼女は悩んで末に、右側の道へ進むことを決めた。



彼女が右側の道に進もうと一歩踏み出した時も、左側の道の女性はにこやかに



笑ってくれていたという。



だから、彼女は、



きっと、この道で正解なんだな・・・・。



そう思ったという。



だから、彼女はそれまでの迷いも消えて、しっかりとした足取りで右の道を



進んでいったという。



その時、突然、後方から怒鳴るような激しい声が聞こえてきた。



お前は馬鹿か!



なんで、そっちに行くんだ!



早くこっちに戻って来い!



そんな怒鳴り声に彼女が振り返ると、先ほど通って来た道は消えており、



その代りに、真っ暗で細い道が何処までも続いており、そしてその道への



入口には、見た事も無い老婆が彼女を睨みつけていた。



早く、こっちに来い!



逃げちゃいかん!



その顔はとても真剣で怖い顔だった。



前方に広がる明るくて広い道と、そこに立つにこやかな女性。



それに対して、後方の道は暗く細い道であり、そこに立つ老婆も怖い顔を



して睨んでいる。



普通なら迷う要素はどこにも見当たらない。



しかし、その時、彼女はその場で立ち尽くして考え込んでしまう。



その時、ふと、彼女の脳裏には数年前に亡くなった祖母の顔が浮かんだという。



その道に立っている老婆は顔も声も、祖母とは全く違っていたらしいが、その時



何故か、その老婆からは祖母と同じような懐かしいものを感じたのだという。



そして、その時、彼女は突然、体の向きを変えて、老婆の立つ道の方へと



歩き出した。



相変わらず、老婆は怖い顔で彼女を睨みつけていたが、彼女にはもう迷いは無かった。



そして、その老婆の元まで歩いていった瞬間、



負けるな・・・・。



頑張れ・・・・。



そんな言葉を残し、彼女の肩をしっかりと抱いたまま、老婆はふっと



消えてしまったという。



その言葉を聞いた時、彼女は何故か涙があふれて止まらなくなった。



そして、次の瞬間、彼女の体も、まるでその道が一気に崩れてしまったように



そのまま暗闇の中へと落下していったという。



そして、その一瞬、振り向いた彼女が見たのは醜く鬼の様な顔に変わった



先ほどの2人の女の顔だったという。



そして、どこまでも落ちていく自分の体・・・・。



周りは真っ暗で何も見えなかったという。



そして、その暗闇の底に細い光の穴の様なものが見えた瞬間、彼女はその



眩しさに目を閉じた。



そして、次に目を開けた時、彼女は病院の集中治療室のベッドに横たわる



自分に気付いたという。



意識を取り戻した彼女に気付き、その場が一気に騒がしくなった。



その時、彼女は、



生死の境を彷徨って生還するって、こういうことなのか・・・・。



そんな事をぼんやりと考えていたという。



それから、すぐに彼女の家族も駆けつけて、皆が涙を流して喜んでくれたという。



結局、彼女がICUを出て、一般病室に移されるまで数週間を要し、それからも



何度もの手術、そして苦しいリハビリの末に彼女は事故から数年後に無事に



退院する事が出来たという。



その間、彼女が何度もの手術や苦しいリハビリの際、ずっと心の中にはあの時の



老婆が言ってくれた、



負けるな・・・・・。



頑張れ・・・・・。



という言葉が聞こえ続けていたという。



そして、現在はすっかり元気になった彼女だが、



きっと、あの時の老婆は、数年前に死んだ私の祖母だったに違いないと思ってる。



そう言って嬉しそうに笑ってくれた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:31│Comments(0)
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