2019年06月09日

フィリピン・パブ

これは俺がまだAさんと知り合いになる、ずっと前の話である。



その頃、俺は仕事のストレスのせいか、突然、呼吸困難になり、救急車で



運ばれた。



診断の結果は、パニック障害。



仕事は休む事が出来なかったので、通院での治療を受けながら、やっとの思いで



日々を過ごし細々と生きていたというのが正直なところだった。



とにかく、自分がパニック障害であるという事、そして救急車で運ばれた時の



事を思い出すだけで簡単に呼吸困難の発作に襲われたのだから、本当に厄介な



病気である。



自分は本当に元の生活に戻れるのだろうか?という諦めにも似た気持ちと



家族の為に頑張らなければ、という気持の狭間で自分なりに苦しんでいた



のだと思う。



医者が言うには、パニック障害の特効薬というものは当時は存在しておらず、



時間が経過するうちに、良くなっていく・・・・というかなり消極的な



治療だったのを記憶している。



だから、いつしか発作が起こりそうになると、わざと自分の体を痛めつける



事で、呼吸が出来ないという意識を痛みに逸らすという方法を思いついた。



ただ、実際には、金属製の尖った物を自分の足に押し付けて出血する寸前まで



わざと足に食い込ませる、という行為は、一日に何度も出来るような方法



ではなく、パニック障害の発作に翻弄される生活が続いていた。



そんな時、自分なりに大発見をした。



それはアルコールを飲んで他人と話している時には一切発作が起きないという事。



医者にその事を伝えると、



アルコールは危険だから止めてください!



という返答が返ってきた。



ただ、その当時、ようやく発見した自分に合った飲酒というリハビリ法を止める



つもりは毛頭無かった。



だから、妻の許可を得たうえで、毎日、会社が終わるとそのまま片町に飲みに行く



という毎日を送る様になった。



その中でも足繁く通ったのが「フィリビンパブ」という場所だった。



低料金で女の子も綺麗で可愛く、スタイルも良くてショーもあり、話がとても好きな子が



多かったから、自分の病気にはもってこいの場所だった。



実際、その店で飲んでいる間は一度も発作が起きた事が無かったし、日常生活でも



発作が起きる頻度がどんどんと減っていった。



だから、俺のパニック障害は、片町で飲んでいるうちに完治したというのが、嘘の様な



本当の話だ。



そして、その店には俺のお気に入りの女の子が一人だけいた。



名前は、ダイアンという名前だったが、中国系のハーフのフィリピン人であり、



派手な所も無く、それでいて話しているととても楽しい女の子だった。



だから、いつも、その店に行くと、ダイアンを指名した。



指名料は千円だったと思うが、その子と話しているだけで、とても癒された



のだから、お金が勿体ないとは少しも思わなかった。



俺がその店に行けばいつでも、その女の子は笑顔で迎えてくれたし、それによって



どれだけ心が癒されたか、計り知れない。



そうして、俺がその店に通う日々が続いたのだが、ある時、ダイアンのとい女の子



の他にもう一人の女の子が同席するようになった。



お酒も飲まず、ただ黙ってニコニコと笑っているだけの女の子だった。



他のテーブルには客1人に対して女の子は一人しか付く事が無かったから、俺も



毎日通っているうちに、常連として特別待遇をしてくれるようになったのかな?



そんな程度に考えていた。



ダイアンが話すと、その女の子も相槌を打って俺の顔を見た。



確かに異常に口数の少ないおんなのこではあったが、見た目はしっかりと可愛く



帰りの会計の際にも、その女の子がテーブルに付いた分の金額は一切記載されて



いなかったから、俺としては十分満足できる楽しい時間だった。



ダイアンも彼女の事が気になるのか、いつもチラッチラッとその女の子の



事を見ていたし、二人並んで座っている姿はまるで姉妹のようだ、とすら



思えるようになっていた。



そんな時、俺が店のトイレに行った際、別の女性が近づいて来て俺に耳打ちした。



あなた・・・・視えてるの?と。



最初は意味が分からなかったのだが、その女性の顔があまりにも真剣だったから



俺も少し興味を持って、そのまま話し込んでしまった。



その話を要約すると、こんな内容だった。



ダイアンには妹がいて、昔は同じようにこの店で働いていたのだと。



そして、理由は分からないが、その妹さんは、暫くして自殺をした。



それからは、この店で怪奇現象が頻発しているらしく、お客さんの中にも、まるで



その妹に魅入られてしまったかのように店に通い続けてそのまま行方不明になった



人がいるのだ、と。



だから、あなたも気をつけた方がいい・・・・・。



大切なお客様だから、本当はこんな事を言ってはいけないのかも知れないが、



もうこの店には来ない方がいい・・・・・。



そう言われた。



確かに、その女性の話を信じれば、どうして俺のテーブルにだけ2人の女性が



付いているのか?という事は説明がついた。



だからといって、あんなに可愛い女の子が、既に死んでいて、お客さんを



行方不明にさせるなどという事が簡単に信じられるものではなかった。



俺は何も聞かなかった事にして、そのままテーブルに戻り、閉店時間の



午前1時まで楽しい時間を過ごした。



そして、次にその店を訪れたのが、3日後だった。



仕事が忙しくどうしても片町に出る事が出来なかった。



3日ぶりの店に着くと、店の女の子たちの雰囲気がいつもとは違っていた。



そして、あの夜、俺に耳打ちをしてくれた女性の姿も其処には無かった。



いつものように、ダイアンを指名すると、いつものように、その女の子も



一緒に席へとやって来た。



しばらくはいつもの様に楽しく飲んでいたが、やはり店の雰囲気が気になってしまい



トイレに行くフリをして、店長に聞いてみた。



今日の店の雰囲気は、どうしたの?



それに、いつもいる女性がいないみたいだけど?と。



すると、店長は、耳打ちする様に、



あの・・・内緒ですからね・・・・。



実は、スタッフの女性が一人亡くなりました。



死因は心臓発作なんですが、発見された状態が異常だったみたいで・・・。



獣に食い散らかされたみたいに、頭部と内臓が全て無くなっていました・・・。



だから、さっきまで警察も来ていたので・・・・・。



そう話してくれた。



その時、俺は初めて背中に冷たいものを感じた。



もしかしたら、俺に話したせいで・・・・・・・・?



そう考えると、どんどん恐怖が襲ってきた。



実際、そのまま会計を済ませて帰ろう、と思ったのだが、そんな事をすれば



もしかしたら自分の身にも厄災が降りかかる様な気がして、そのまま何気ない顔で



テーブルに戻った。



俺が席に戻ってからもダイアンの様子はいつもは変わらなかった。



しかし、同席している女の子の様子が明らかにおかしかった。



いつもは口数は少ないが、ニコニコと笑っている女の子だったのだが、その時の顔は



まるで、俺の心の中を探るように、冷たい視線でじっと俺を睨んでいる



様にしか見えなかった。



だから、俺はいつもと全く変わらないように振る舞った。



しかし、その女の子には俺の心の中の恐怖が手に取るように分かったのかも



しれない。



いつしか、女の子の顔は、少しずつ肥大していき、更に顔色も赤みが消え、



そして青くなって、最後には紫色になった。



そして、俺の見ている前で、その女の子の首は少しずつ縦に伸びていく。



その時、俺は確信した。



あの女性が言っていた事は本当だったのだ、と。



そして、その女の子の自殺はきっと首吊り自殺だったのだろう、と。



それに気付いてからの俺は明らかに動揺していたのかもしれない。



気が付くと、明るかったダイアンまでが俺の顔を探るようにじっと見ていた。



地獄のような長い時間だった。



しかし、何とか閉店時間になり、俺がホッとしていると、ダイアンが俺に向かって



こう言った。



今度からは私の妹があなたの相手をします・・・・・。



名前はメイといいます。



だから、今度からはお店に来たら、「メイ」と指名してくださいね・・・と。



俺は言葉も無くただ頷いた。



そして、そそくさと代金を払い、逃げる様に店を出た。



勿論、もう二度とその店に行くつもりはなかった。



しかし、事はそれほど単純なものではなかった。



それからは、朝でも昼間でも、そして夜でも、そのメイという女の子が



俺の側に居る様になった。



朝起きると、必ず部屋の中に座っていたし、昼間仕事をしていても必ず俺のすぐ



傍に立って俺を睨んでいた。



夜寝ている時も、気が付くと、そのメイが枕元に座り俺の顔を覗き込んでいた。



そして、不気味な事にそのメイという女の子は、どんどんとその体を大きくしていき、



逆にその顔はどんどんやせ細り、腐っていき、見るに堪えない程の不気味なモノ



になっていった。



俺は藁にもすがる思いで、お寺にも行きお守りを持ち、粗塩や護符も身につける



ようになったが、メイの存在はどうやっても消える事は無かった。



そして、いつしか、俺は半ば諦めていたのかもしれない・・・・。



もう、自分は死ぬのだと本気で思っていた。



だが、そんなある日、突然、そのメイが俺の前に姿を現さなくなった。



俺にはその理由が分からなかったが暫くして、俺の耳にこんな噂が聞こえてきた。



その店では、更に怪奇現象が頻発するようになり、客や店の女性たちにも



不幸が連鎖している、と。



そして、店長は、行方不明になったまま見つかっておらず、店は完全に



開店休業状態なのだ、と。



そして、どうやら、そんな状態の店であるにもかかわらず、1人の客が



毎夜、開店から閉店まで店に入り浸っているのだ、と。



まるで、何かに魅入られてしまったかのように・・・・・。



それを聞いてから、俺はもうその店には関わらない様にする事を決めた。



メイの標的が俺から、その新しい客に移った今しか自分が逃れる機会は無いのだ、と



確信していた。



そして、それからしばらくして、その店が潰れたという事。



更に、その店に通い詰めていた例の客が飛び降り自殺をした、と聞いた。



それから、つい最近まで、俺の記憶からは完全にその時の記憶が消えていた。



しかし、何故か、つい先日、その記憶をしっかりと蘇らせてしまった。



メイの声も、そしてメイの顔も・・・全て。



だから、俺には再び、メイが俺の前に現れるのではないか、と不安で仕方がない。



勿論、今ならば、Aさんや姫といった心強い仲間がいるのだが・・・・・。



ただ、俺にはこう思えて仕方がないのだ。



その潰れてしまい空きのフロアーになってしまったその店の中にきっと今も



メイがいるのではないか、と。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:32│Comments(0)
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