2019年06月09日

雪女

これは友人から聞いた話。



彼は、営業職として機械メーカーで働いている。



その関係か、やはり出張というものがとても多く、年に何度かは1か月に



一度くらいしか自宅に戻れないそうだ。



しかも、営業用の資料やサンプルも沢山持ち歩かなくてはいけない為、



出張の多くは営業者ということになる。



走る距離も相当なものになるから、最近では営業車の殆どがハイブリッド車



に変わったそうだ。



そして、これはちょうど去年の冬の話である。



関西方面に出張に出ていた彼はその時、本社がある金沢市を目指して車を



走らせていた。



時刻は午後8時頃。



生憎の大雪で視界も悪く道には沢山の雪が積もり、すぐにハンドルを取られてしまう。



本当は整備された国道を通りたかったが、その道は雪が降るとすぐに大渋滞に



なってしまい、身動きが取れなくなるのを知っていたから、彼はあえて、山越えの



比較的走り易い遠回りの道を選んだ。



しかし、走り始めてすぐに彼は後悔する事になる。



大雪になったその道は、車の轍すら残っていなかった。



いや、車が少し前に通ったとしても、この雪ではすぐにその轍も雪に



埋もれてしまうのだろう。



そして、この視界の悪さ。



殆ど、真横に吹き荒れる雪が、まるで白いカーテンの様に視界を塞いだ。



だから、彼はかろうじて見えているガードレールだけを頼りに車を走らせる



しかなかった。



しかし、やはり彼も焦っていたのかもしれない。



突然,現れたカーブを曲がりきれず、彼の車はそのまま大きな側溝へと落ちてしまう。



しまった!



と思った時にはもえ遅かったという。



ブレーキを踏んでも車はそのまままっすぐに滑っていき大きな音と衝撃を伴って



車が大きく傾いたまま何かにぶつかって止まった。



彼が車の窓から何とか這い出ると、車は大きな側溝の中に車の左半分を埋める



形で落ちていた。



更に雪が強くなってきて、彼の不安を増していく。



彼の視界には車などは1台も入っている様子は無かった。



完全に雪に閉ざされた世界。



誰も、こんな夜に、こんな所を通る者などいる筈も無かった。



彼は車に戻り、危険だとは思ったがエンジンを掛けてみる事にした。



そうしなければ、凍死してしまう。



本気でそう思える程の寒さだったという。



しかし、車のエンジンは全くかからなかった。



終わった・・・・・。



彼は、やはり渋滞するにしても安全な国道を選択しておけば良かったと後悔したが、



もう既に遅かった。



相変わらず、外を車が走っていく気配は無かった。



彼はエンジンが掛からない車の中で、必死に考えた。



どうすれば、朝まで持ち堪えられるのか?と。



しかし、毛布も暖を取る物も無い状態ではいくら車の中とはいえ、凍死するのが



眼に見えていた。



体がどんどん冷たくなっていき、そして強い睡魔に襲われるようになって来る。



寝ては駄目だ!



寝たらそのまま凍死してしまう!



そう思っていても、彼にはもう体力も残っておらず、そして襲ってくる睡魔は



彼が想像した事の無いほど強いものだった。



寝たら楽になれるのかな・・・・・。



そう思って、彼が瞼を閉じた時、突然、コンコンと窓を叩く音がした。



車ですら走っていないのに、人間がそんな道にいる筈も無かった。



だから、彼は心の中で、



もう、天国から迎えが来たのかな?



と思っていたそうだ。



しかし、次の瞬間、



お困りですか?



大丈夫ですか?



という声が聞こえ、彼は瞼を開けた。



すると、窓の外には車の中を覗き込むようにして、二人の若い女性が笑っていた。



ええ・・・あっ、はい!



彼は変な言葉を返した。



すると、次の瞬間、車が大きく持ち上げられる感覚があり、そしてあれほど傾いて



いた彼の車が平行になるのが分かった。



そして、2人の女性は、



車のエンジン、掛かりますか?



と聞いてくるので彼がエンジンキーを回すと、何回目かに車のエンジンは無事に



かかった。



それを見た2人の女性は、



気を付けてくださいね・・・・・。



今夜はこのまま朝まで此処で動かずに待つと良いですよ・・・・・。



雪は、何とかしますから・・・・・。



そう言うと、二人の女性は前を向いたまま、片手でバイバイ!と手を振って



そのまま去っていった。



すると、それまで強く降っていた雪が弱まるのが分かった。



そして、その二人の女性は、その雪の中にそのまま見えなくなってしまった。



彼は彼女達にお礼を言おうとしたが、何故か車から降りる事を彼の本能が



避けたのだという。



本当に失礼な事をしたと後悔していた。



しかし、それから朝になって彼が再びゆっくりと帰路に着くと、どうやら



雪が弱まっていたのは彼の車が停まっていた辺りだけであり、それ以外の



道は凄まじい積雪量になっていたのだという。



彼は言っていた。



その時の2人の若い女性はスキーウェアの様な服装をして髪型や髪の色、



そして、お化粧も今時の女の子という感じだった。



だけど、二人で車を軽々と持ち上げた事や、彼の車の周りだけに雪を



積もらない様にした事から考えると、もしかしたら、いや、間違いなく、



あの二人の女性は雪女だったのではないか、と思っている。



普通車をたった二人で大きな溝から持ち上げられる人間なんていやしないし、



何より、彼女たちは、あの時こう言ったんだ。



雪は何とかしますから・・・・と。



そう言って嬉しそうに笑った。



そう言われれば、確かにそうなのかもしれない。



昔から雪女という妖怪が居て、そして現代では時代の流れによって、普通の人間に



溶け込むようにして生き続けているのかもしれない。



そう思わせてくれる話だった。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:34│Comments(0)
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