2019年06月09日

停止したエレベータ

これは知人女性が体験した話である。



彼女は大手保険会社に勤めている。



いわゆる保険の外交員というやつである。



夜や休日でも関係なく相手先に訪問し、ニーズに合った保険プランを提示する。



なかなか大変な仕事である。



そんな彼女はその日、残業して、幾つかの顧客向けの保険プランを作成していた。



翌日は休日であり、その為に週明けに顧客の所に持っていく資料を何とか



その日のうちに完成させなければいけなかった。



1人、また1人と同僚が帰っていきくのが分かったが彼女は資料作りに集中



していた。



明らかにそのフロアーには彼女一人ではなく他の誰かが働いている音が聞こえていた。



フロアーを歩く音、コピー機が動く音、咳払いをする声、そのどれもがそのフロアー



で仕事をしているのが自分一人ではないのだと確信させてくれたから、彼女は



まだ、大丈夫!



そう思って一心不乱に資料作りをしていた。



ふと、その時電話が鳴ったのだという。



ずっと鳴り続ける電話のベルに彼女は、



誰が電話くらい出てよね!私は忙しいんだから・・・・・。



そう思って電話を取る為に顔を上げた。



すると、そのフロアーには彼女一人が残されており他には誰も残っていない



事に気付いて茫然とした。



どうして?



絶対に誰かがいのたに・・・・・。



そう思ったらしい。



結局、その時点で彼女だけが事務所に取り残された形になった。



しかし、そんな事は過去にも何度もあったらしく、彼女は全く気にも留めず



仕事に没頭した。



そして、全ての資料の作成が終わったのが、午前1時を回った頃だったという。



彼女の働く会社が入っているビルは警備員もおらず、セキュリティもそれほど



厳しくはなかったが、それでも翌日の予定もあったので、彼女はそそくさと



帰宅の準備をして会社から出て、廊下を小走りに歩いた。



そのビルに入っている他の会社は、そんな時刻まで仕事をするような事はなかった。



つまり、そのビルの中に居るのは自分だけ・・・・。



そう考えると、急に心細さが襲ってくる。



廊下は明るい照明が灯っていたが、やはり誰もいない廊下は不気味であり、



廊下を進んだ所に在るエレベータを目指して彼女は焦っていた。



エレベータの前に到着し、ボタンを押すと1階にあったエレベータがゆっくりと



上がって来るのが分かった。



静かな廊下にエレベータの上昇音だけが聞こえてきて、ついつい彼女は怖くなって



しまい、辺りをキョロキョロと見てしまう。



シーンと静まり返った廊下はそれだけで恐ろしく感じてしまう。



すると、エレベータが到着したのか、静かにドアが開く。



機械であるエレベータとはいえ、無音状態の中、何か音が聞こえた事で彼女は



何故かホッとしたという。



急いでエレベータに乗り込んだ彼女が1階のボタンを押すと、エレベータのドアは



静かに閉じられていく。



こんな時刻だから、のビルに残っているのは間違いなく、私だけ・・・。



そんな事を考えながらエレベータに乗っていると急に不安に襲われる。



もしかしたら、エレベータが降下していく音が彼女を不安にさせたのかもしれないが、



彼女の頭の中は、



もしも、今、突然、エレベータが止まってしまったら朝まで誰にも助けて貰えない



んだろうな・・・・・。



そんな考えでいっぱいになった。



勿論、そんな事が起こる事など絶対にないと分かってはいたのだが・・・・。



そんな時に限ってエレベータの動きがとても遅く感じた。



そして、今にもエレベータが止まって暗闇の中から、誰かがエレベータに



乗ってくる様な気がして不安でいっぱいになる。



怖い怖いと思ってるから何でもかんでも怖く感じるんだ・・・・。



彼女は自分に言い聞かせたという。



しかし、突然、エレベータが揺れたと思うと、そのまま停止してしまった。



え?



彼女は焦って状況を把握しようとした。



そして、ホッとした。



エレベータは確かに停止したが、それは4階で停止しただけだと分かった。



彼女の会社のフロアーは9階に在り、それ以外にも沢山の会社がそのビルの中に



入っていた。



もしかしたら、まだ自分と同じように残業していた人がいたに違いない。



そう思っていると、エレベータのドアは静かに開いていった。



しかし、そこには真っ暗な廊下が広がっているだけだった。



え?



どうして?



彼女は誰もいないそのフロアから一刻も早く離れたくて、ドアを閉じるボタン



を連打した。



しかし、ドアは全く反応しなかった。



というよりも、その階でエレベータはドアを開けたままで閉じようともしなかった。



まるで、早くエレベータから出ろ、と言わんばかりに・・・。



静まり返る真っ暗な廊下にエレベータの明かりだけが漏れて不気味に周囲を



照らした。



どれだけの時間、そうしていただろうか。



彼女は全く動かず、そして扉を閉めようともしないエレベータを諦め



廊下へと踏み出した。



4階からなら、なんとか階段を使って1階まで降りられる・・・・。



彼女はそう思い、急いで階段の在る廊下の反対側へと走り出した。



しかし、すぐに走るのを止めた。



走っていると、自分の走る足音さえ恐ろしく聞こえたから・・・・。



彼女はしっかりと一歩ずつ歩を進めた。



何かが後ろを追いてきている気がしたという。



恐る恐る後ろを振り向くが、当然其処には誰もいる筈もなかった。



再び、前を向いて歩きだす彼女。



しかし、彼女の耳にはどうしても自分以外の足音が聞こえた。



彼女は、一度その場で突然歩くのを止めた。



やはり足音など聞こえてこない。



ホッとしてまた歩き出した彼女だったが、やはり聴覚が異常に敏感になっていた



のかもしれない。



確かにヒールで歩いている彼女の足音とは別に、何かもっと柔らかい足音が



間違いなく聞こえてくる。



そう、まるで裸足で歩いている様な・・・・。



彼女は、またその場で立ち止まった。



しかし、今度は背後からの足音が止まる事は無かった。



ペタッ・・・ペタッ・・・ペタッ・・・ペタッ・・・。



その足音は間違いなく背後から彼女に近づいて来ていた。



そう思った瞬間、彼女は悲鳴も上げす、走り出していた。



後ろを振り返る余裕など無かった。



とにかく、早く階段まで辿りつかなければ・・・・。



そう思った彼女は必死で廊下をひた走る。



しかし、背後からの足跡は、どんどんと大きくなり、そしてその間隔も



短くなっていく。



ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ・・・。



その足音は、間違いなく既に彼女のすぐ背後まで近づいて来ていた。



もう階段のすぐ前まで来ていた彼女はそのまま立ち止まることなく、一気に階段を



駆け下りていった。



ヒールを履いている事など、完全に忘れて彼女は、一気に3階へと駆け降りた。



すると、3階の廊下には明かりが点いていた。



ホッとした彼女はそこで足首を捻ってしまう。



グキッという嫌な音がして、左足に激痛が走った。



その場でしゃがみこむ彼女。



すると、何かが2階から階段を上がって来る音が聞こえた。



彼女と同じようにヒールを履いた靴音だった。



彼女は息を殺してその足音に聞き耳をたてた。



そして、その足音はそれを知っているかのようにゆっくりと、靴音を響かせながら



階段を上がって来る。



もう生きた心地がしなかったという。



しかし、次の瞬間、彼女は呆気に取られてしまう。



その顔には見覚えがあった。



2~3年前まで彼女の同僚として働いていた先輩の女子社員だった。



先ほどまでの恐怖が嘘の様に、体の力が抜けていく。



こんばんは!本当にお久しぶりですね~



でも、どうしてこんな所にいるんですか~?



彼女は先ほどまで恐怖で固まっていた自分を悟られまいと、わざと明るく



声を掛けた。



左足は、まだ痛かったが、それよりも安心した喜びの方が大きかった。



しかし、先輩女性は、一瞬、ニコッと笑っただけで、そのまま階段を4階へと



上っていった。



4階には先ほどの奴が待ち構えているかもしれない・・・・。



そう思った彼女は、先輩にそれを伝えようとした。



そして、思い出したという。



その先輩の女性社員は転勤した先で不倫をし、会社のビルから飛び降り自殺をした、と



いうことを。



なんで?



自殺したって聞いてたけど、あれは嘘だったの?



恐る恐る、先輩がのぼっていった階段を振り返る彼女。



其処には、彼女のすぐ後ろに立ち、無表情なまま、彼女を見つめる先輩の姿があった。



顔は崩れ、頭は割れ、血まみれの姿で・・・・・。



そして、先発は彼女に向けて、気味の悪い笑みを浮かべた。



彼女はそこで意識を失った。



そして、翌日の昼になって、初めて発見された。



彼女が発見されたのは、通常、出入り禁止になっているビルの屋上であり、



屋上のドアが開いている事を不審に思った別の会社の社員によって助け起こされた



のだという。



ちなみに、彼女が発見された時、彼女の体は屋上から宙に体を投げ出すような



状態であり、下へ落下しなかったのが不思議な位だったという。



彼女は、その時の恐怖が忘れられず、結局、その会社を辞めたそうだが、



どうして、その先輩社員が、転勤前のそのビルに現れたのかは、彼女にも



分からないのだという。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:38│Comments(0)
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