2019年06月09日

真夜中の自転車

これは知人男性が体験した話。



その夜、彼は残業が長引いてしまい、会社を出たのが午前1時頃だったという。



いつものように、自家用車に乗り自宅へと向かう。



いつも通り慣れているはずの道も、この時間になると、まるで知らない



道を走っているかのような錯覚に陥る。



彼はいつも渋滞を避けて裏通りを走る癖がついていた。



だから、その時も広い幹線道路ではなく、住宅街の中の道をゆっくりと走っていた。



対向車もそして後ろを走る車も一台もいなかった。



住宅街の家の明かりも殆どが消えてしまっている。



こんな時間まで働いているのは俺くらいのもんかな・・・・。



そんな事を考えながら車をのんびりと運転していると、前方から何かが



近づいてくるのが分かった。



それは無灯火の自転車だった。



車のヘッドライトに浮かび上がった自転車には学生服を着た男子学生が



まっすぐ前を向いて自転車を漕いでいた。



こんな時刻に学生さん?



いったい何処に向かっているんだろうか?



そんな事を考えながら彼はその自転車とすれ違った。



その時はそれくらいの感想しか持たなかった。



そして、そのまま車を運転しているとまた前方から何かが近づいてくる。



ライトに浮かび上がったのは、またしても自転車だった。



おいおい、こんな時刻にまた自転車かよ・・・・。



そう思っていると、どうやら自転車を漕いでいるのは学生服を着た男子学生だった。



学生さんばかりが自転車で?



何か深夜に学校の行事でもあったのか?



そんな事を思っていると、ふと嫌な感覚が脳裏をよぎった。



それは最初にすれ違った自転車と2回目にすれ違った自転車に乗っていたのが



彼には同じ人間に見えたという事。



どちらも、上下に黒の学生服をしっかりと着て、まっすぐ前だけを見て自転車



を漕いでいた。



しかも、その自転車というのが、かなり古い型の自転車に見えた。



まさか・・・・・。



彼はそう思い直して、運転に集中する。



すると、また前方から自転車が近づいてくるのが見えた。



しかも、無灯火の自転車が・・・・。



さすがの彼も気持ち悪くなって、車の速度を落として、自分の不安を払拭しようと



前方から近づいてくる自転車に目を凝らした。



その自転車はどうやらライトが付いていないタイプのとても古い自転車であり、



それこそ、彼が子供の頃に良く眼にしたタイプの自転車だった。



そして、その自転車に乗っているのは学生服を着た男子学生だった。



良く見ると、どこか古めかしい学生服に見え、そしてそれを漕いでいる学生の



髪型も、5分刈くらいに見えた。



そして、まっすぐに前だけを見ながら姿勢良く自転車を漕ぐ姿は、まさに



先ほどすれ違った自転車そのものだった。



・・・・・・・・。



彼は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。



俺はどうかしてしまったのか?



同じ人間と何度もすれ違うはずかないじゃないか?



彼は自分にそう言い聞かせるように、運転を続けた。



頼むからもう来ないでくれ・・・・・。



何かにすがるようにそう願っていた。



しかし、またしても自転車が近づいてくる。



彼は息苦しさすら感じながら必死に車を運転した。



自転車がどんどんと近づいてきて、彼の車とすれ違う。



ひっ!



彼は思わず小さな悲鳴をあげてしまう。



前方から近づいてきた自転車には、やはり先ほどと同じ男子学生が乗っており、



そして、自転車を姿勢よく漕ぎながら、首だけが彼の方を見て笑った。



その笑みは言葉に出来ない程気持の悪い笑い顔だったという。



彼はもう限界だった。



自転車とすれ違った彼は、車のアクセルを大きく踏み込んだ。



一気に車が加速する。



たとえ、また前方から自転車がやって来たとしても、もうその眼でその姿を



見たくはなかった。



もしも見てしまったら気が狂ってしまう・・・・。



そんな気がしたという。



しかし、それからは前方から自転車が近づいてくる事は無かった。



遠くまで伸びる車のヘッドライトに浮かび上がる者は何も無かった。



助かった・・・・・。



彼は心の中でそう思いながら少しだけ平常心を取り戻しつつあった。



と、その時、何かが車のバックミラーに映り込んだ。



どうしてそれが分かったのかは彼自身にも分からないという。



ただ、間違いなく何かが後ろから近づいてきている。



そんな得体の知れない恐怖感を彼は感じていた。



恐る恐るバックミラーを見た彼の視界に、車のすぐ後ろに張り付くようにして



走っている何かが見えた。



ライトが点いていた訳でもなく、明るい場所でもなかったのに、どうしてそれが



自転車だと分かったのか、は分からないが、とにかく暗闇の中でそれは



ぼんやりと浮かび上がるようにして彼の視界に入っていた。



その時の彼の車の速度はかなりのものだった。



それにどうやったら追いついて来れるのか、等どうでもよかった。



後ろに先ほどからすれ違っていた自転車がいる。



それだけで、彼には耐えられない程の恐怖だった。



彼は更にアクセルを踏み込んだ。



車は再び加速して、彼もしっかりとハンドルを握りしめた。



そんな細い道で出すような速度ではない事は自覚していた。



しかし、その時はとにかく、その自転車から逃げたいという思いで頭の中が



いっぱいだった。



ただ、彼の願いは一瞬で水泡に帰した。



必死で車を運転する彼にその自転車はスルスルと近づいてきて、そして



運転席の横で止まった。



彼の頭の中は既にパニックになっていた。



彼は出来るだけ外に視界を向けないように運転を続けた。



すると、



コンコン・・・・コンコン・・・。



と何かが窓をノックする音が聞こえてくる。



それは、自転車を漕ぎながらその男子学生がノックしていると容易に想像できた。



彼は体の震えが止まらなくなり、それでも必死に運転を続けた。



停まったらお終い・・・・。



そんな気がしていたという。



すると、突然、その自転車が彼の車を追い越した。



彼には何が起こったのか、理解出来なかった。



どうすれば良いのかも分からなかった。



と、突然、自転車を漕いでいた男子学生がくるりと顔をこちらに向けた。



とても人間では曲がらない程の角度で・・・・・。



そして、一瞬、その顔は、直径50センチ以上もある大きな顔になって、



こっち見てよ!



と叫んだという。



その瞬間、彼は無意識に急ブレーキを踏んでいた。



車はタイヤがロックしたまま滑り続け、そして道の脇にある側溝に突っ込んで



停止した。



エアバックのお蔭で大怪我はしなかったらしいが、それでも彼の車のダメージは



大きくそのまま廃車になってしまった。



そして、それからは近隣住民が大勢出てきてまるで見世物になった様な気分



だったが、彼にはそれが逆に嬉しかったという。



とにかく命だけは助かった。



それだけでも奇跡だと感じていた。



そして、事故の検分の際、警察から言われたそうだ。



その道では1年に1度か2度、彼と同じような事故が発生しているのだと。



その自転車を漕ぐ男子学生はいったい何者なのだろうか?


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:39│Comments(0)
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