2019年06月09日

百物語の検証

これは友人から聞いた話である。



彼は怪奇検証サークルなるものを立ち上げている変わり者。



日頃はべんごし大学の講師というお堅い仕事をしている反動なのか、彼の



怪異に対する探究心は尽きる事がない。



サークルといっても会費も取らなければ、定期的に集まる事もない。



彼が試してみたいと思った都市伝説などを実際に友人達に声を



掛けて、出来るかぎり忠実に実行し、それを検証している。



過去にも、こっくりさんや真夜中に合わせ鏡、ひとりかくれんぼ、



等も実際に行い、検証している。



ただ、やはり彼は頭が良いのだろう。



そんな不気味な実験を行いつつも、その時に起こった事を



出来る限り、科学的に検証している。



そして、子供の頃にやった時とはまた違う、大人ならではの



見方で発生した怪異と向き合っている。



まあ、俺にしてみれば、ろくでもない遊びにしか見えないのだが、



本人はかなり真剣なようだ。



そんな彼がある日、百物語を検証した。



本来、室町時代から続く正式なやり方というのは、かなり制限



された家の間取りがないと実行不可能であるらしく、その時は



簡易的な方法を採った。



とはいえ、人数は男3人と女一人の計四人で、わざわざ金沢市内の



温泉宿の離れを借りきったというのだから、かなりの熱の入れ様だ。



話は特に心霊系に拘らず、摩訶不思議な話やサイコ系の話も含めて、



各人が25話ずつ持ち寄って、本番に臨んだ。



本来は99話で止めるのが習わしらしく、よく怪談本などても、



百物語と謳っているものは、殆どが99話で終わっている。



それは、百物語の由縁である、100話目の話が終った時、必ず



怪異が起こるという結末を避ける為らしいのだか、その時の彼は



検証という性質上、完全に100話を話し終えるまで止めるつもりは



なかった。



しかし、これはとても危険な事だった。



実は以前、Aさんに百物語というものについて、聞いてみた事がある。



本当に・・・でるのか?と。



すると、Aさんは、そんな事も知らないのか?という顔でこう言った。



それは勿論、出るでしょうね?



百物語というのはれっきとした降霊術の一つなんですから・・・。



昔の人は、夏の暑さをしのぐという手段があまりにも少なかったから



苦肉の策として百物語をして気持ちだけでも涼しくなろう、という趣旨は



理解出来ますけど、こんなに快適な暑さ対策で溢れている現代において



百物語をするという事は、馬鹿な事としてか言えないですよ。



良く勘違いしている人がいますが、百物語というのは明らかに降霊術であって、



百の話を聞き終えたら、本物の怪異が起こるなんて言われてますけど、



実際には、1つの話をしている最中からどんどん霊が集まって来るんです。



そりゃ、そうでしょ?



わざわざ、怖い思いをする為に怪談をしている訳ですから、まさに



霊達をご招待しているのと同じなんです。



だから、百物語の本質は、1話目からどんどんと増えていき、霊気で



待たされていく部屋の中でどれだけ耐えられるか?という事なんです。



そして、百話が終われば、もうその場がお開きになってしまうと思って



霊達が姿を表します。



99話までの、気配を感じるというレベルではなくて、其処にいる



全ての人の前に姿を現わします。



霊感が有るとか無いとかは関係なく・・・・。



そして、そこに集まる霊の中には、害のないモノもいれば、明らかな



悪霊も集まっています。



その時に、逃げようと思ってももう遅いんです。



だから、百物語なんて絶対にやるべきではないんですよ。



そう断言していた。



そんな俺の心配をよそに、彼は当日を迎えた。



宿泊費として1人3000円だけ支払ってもらいそれ以外は全て彼が



1人で負担したというのだから、凄まじい熱の入れようだ。



離れを取ったのは正解だった。



なにしろ、現場には百本のロウソクと百話目が終わった時には霊が



現れるという前提で、お清めの塩やお経の類、お清めの日本酒、その他、



思いついた物は全てその部屋に持ち込んだというのだから・・・。



宿に全員が集まると、まず温泉に入り、夕食を食べてからいよいよ



百物語となった。



夕食のときにお酒を飲みたいという者もいたが、今夜の百物語はあくまで



科学的な検証であり、お酒が入っていては正確な判断が出来ない、という



理由で厳格に禁止されたという。



百物語が始まる頃には風が強まり、雨がぽつぽつと降ってきたという。



怖がる者もいたが、これこそが百物語にうってつけの状況だと喜んだ



というのだから、恐れ入ってしまう。



そして、最初の1話目は彼の話で始まった。



何所にでもありそうな良くある話だったが、それでも場の雰囲気は



じっとりと重い空気が立ち込めた。



それでも決めて会った通りに、100本あるロウソクの1本の火を消した。



少しだけ部屋が暗くなっただけで恐怖感がとてつもなく増してしまう。



そして、各自が持ち寄った話を次々に話し始める。



長い話、短い話など様々だったが、その場で聞くとどの話も



とても恐ろしく感じた。



そして、ちょうど50話程、話し終えたとき、トイレ休憩にしようと



いう事になり全員が一時、その場から立ち上がり一緒にトイレに行こうとした。



やはり、恐怖の為、1人でトイレに行くのは困難だったようだ。



しかし、そこで、最初の異変が発生した。



トイレのドアが開かないのだ・・・・。



確かに彼を含めた4人は部屋の中に揃っていた。



それなのに、いったい誰がトイレの中に入り鍵をかけているというのか?



そこで、彼らは部屋の外に在るトイレに行こうという事にした。



しかし、何故か部屋から出る襖がびくともしなかった。



これには、さすがにその場にいる者も固まってしまったが、彼だけは、



これこそ待ち望んだ怪異というものじやないか!



どうやら、さっさと百物語を終わらせないと部屋から出してもらえない



みたいだから、このまま続けよう!



と目を輝かせていたという。



まあ、其処にいる全員が特にトイレに行きたいというよりは少し気分転換



をしたいというだけだったから、そのまま百物語は続行された。



そしてそこから20話程話が進んだ時、その場にいた全員が強い耳鳴りを



感じたという。



更に、先ほどまで降っていたはずの雨がピタッと止み、風も全く吹かなくなっていた。



それなのに、何故か、残っている30本ほどのロウソクはユラユラと風に



吹かれた様に大きく揺れていた。



そこで、4人の中の一人である女性がギブアップ。



仕方ないが、残った3人でそのまま続行する事になった。



そして、それから数話目を話している時、明らかに女性の泣き声が聞こえた。



その場にいた男性陣は、



おいおい、これは科学的な検証なんだから、そういうのは止めてよ!



とその場で静観していた女性に言うが、女性は断固として自分の声では



ないと言い張った。



あまりにも女性が強く言うので、彼らも渋々、それを納得させた。



そして、それからまた数話進んだ時、突然、その場にいた女性が



ゆっくりと立ち上がり、そのままユラユラとロウソクの炎のように



揺れ出した。



彼らはその時、既にかなり恐怖に押しつぶされそうになっていたらしく、



それを横目で見ながらも、無視するように、話を続けた。



彼らにはもう科学的検証などどうでもよくなっていた。



早く、この場から解放されたい・・・・。



それしか頭には無かったようだ。



彼はその時思っていたという。



やるべきではなかった・・・と。



しかし、一度始めれば途中で止めてはいけないという事も知っていたのだろう。



彼は、目を閉じて次に自分が話す怪談をどれにしようかと考えていた。



しかし、彼の耳には誰の声も入っては来なかった。



そっと目を開けると、彼以外の者が全てその場に立ちあがり、最初の



女性と同じようにユラユラと揺れていた。



彼は、もうロウソクを消している余裕など無くなってしまい、ただ1人で



次々と怪談を話す事しか出来なかった。



聞いているものが一人もいないその場所で・・・。



それでも、彼が1話話し終えると、部屋が少しだけ暗くなった。



それは、誰かがロウソクの火を消しているとしか思えなかった。



彼は薄眼を開けて周りを見渡した。



すると、そこには、相変わらず他の3人が彼の方を向きながら立って



ユラユラと揺れている姿があった。



そして、彼らを挟むように座る、見知らぬモノ達の姿がはつきりと見えた。



そして、その中の一人の女は、ロウソクの火に顔を近づけて、いつでも



ろうそくが消せるように待っているのが見えた。



とても人間には見えなかったという。



古い怪談映画に出てくる様な不気味な姿だったという。



やせ細り、それでいて目だけがギラギラと光っている。



彼は思わず絶叫しそうになったが、必死にそれを堪えて話し続けた。



部屋中がまるで地震でも起こったかのようにガタガタと震え、部屋の中の



温度も、真冬の様に寒くなっていた。



更に、彼が話す声を遮るかのように、



念仏の様な声が聞こえてくる。



更に、誰かが彼の肩に顔を置いているのが分かった。



耳元から冷たい息がかかり、とても生臭い匂いに鼻が曲がりそうになる。



そして、それは話が100話に近づいて行くほど増えていくのも分かった。



沢山の顔が彼の顔を覗き込むように、すぐ近くにあるのが見なくとも



よく分かったという。



彼は心の中で必死でお経を唱えながら、それでも必死で怪談を話し続ける。



途中で話を止めてしまったら、それこそ命取りになる・・・。



そんな確信があったという。



そして、彼は何とか100話目を話し終えた。



1人も聞く者がいない部屋の中で・・・・。



彼は、ずっと目を閉じていたが、100話目が終わった途端、体が軽くなり



何故か部屋の中も明るくなっている気がしたという。



彼は恐る恐る目を開けた。



そして、そこで彼の記憶は途絶えてしまった。



結局、朝になり、宿の従業員がやって来て、初めてその部屋の異変に気づいた。



その従業員が来た時、彼を含めた全員が立ったまま、部屋の中でユラユラと



揺れていたのだという。



その後、彼らは正気に戻り、そして宿の主人に激怒された。



百物語をしていたという事がバレてしまったらしい。



その後、その会に参加した者には怪異は発生していない。



悪霊と言われるモノが来なかったのが不幸中の幸いだった。



しかし、彼は二度と百物語はやらないと公言しているが、まだ他の



危険な検証を考えているというのだから驚きである。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:47│Comments(0)
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