2019年06月09日

高倍率ズーム

彼は趣味で写真撮影をしている。



元々は、フィルム式の一眼レフカメラを愛用していた彼は、その後、



デジタル一眼レフに移行し、ミラーレス一眼レフに移行した。



元々、彼は野鳥や星座を撮影するのが好きだった。



だから、カメラに対しての要求は画質も勿論なのだが、そのズームの



性能も重要なファクターになっていた。



しかし、一眼レフの場合、遠くの物をズームして撮影しようとすれば、



かなり大型のズームレンズを買わなければいけない。



しかも、画像にもこだわるとなれば、ズームレンズだけで数十万に



なってしまう。



しかも、ブームの倍率があがれば、その分、レンズも大きく、そして



重くなってしまう。



そんな彼が、最近目をつけたのが、コンパクトデジカメ。



1キロにも満たない重さのボディの中に、かなりの高性能なズーム機能



が内臓されており、中には80倍を超える物まで在るらしい。



80倍といえば、普通の状態で撮った画像が、80倍の大きさに



なるという事。



80メートル先にあるものが、1メートルの距離から撮影した様に



写ってしまうのだから、想像を絶してしまう。



そして、最近は重たい機材が辛くなってきた彼にとって、高倍率ズーム



を搭載したコンパクトデジカメは、まさに救いの神だった。



実際、野鳥を撮影してもかなりのクオリティで撮影できるらしく、彼は



俺にも購入を勧めてくるほどだ。



そんな彼が、初めてそのカメラが届いた時に体験した話を聞かせてくれた。



その時初めて、届いた新しいカメラに彼は興奮していた。



値段にすれば、それほど高価なものではない。



そんなカメラにそれ程の高性能ズームが本当に搭載されているのか?



彼は、その点に関しては疑心暗鬼だったようだ。



だから、そのカメラの性能を早く確認したくて仕方なくなった。



そこで、彼は、自宅マンションのリビングからそのカメラで外の景色を



覗いてみる事にした。



そして、結論から言うと、そのカメラのズームは、素晴らしかった。



それまで苦労して重たい機材をせっせと運んで野鳥を撮影していた事が



なんだか馬鹿らしくなってしまう程に・・・。



そして、ズームを遠くから近く、近くから遠くと、色々と変えては



色んな景色を見て遊んでいたそうだ。



すると、かなり向こうにあるマンションのベランダに人がいるのが



見えた。



彼はカメラを構えてその人に照準を合わせた。



そして、ズーム。



彼のカメラは80倍以上の光学ズームを搭載しているようで、みるみるうちに



その人物が近くなっていく。



まるで、目の前に居るかのように・・・・。



そして、偶然とはいえ、彼は思わず息をのんでしまう。



そこには、見た事も無いほどの綺麗な女性が立っていたという。



年齢は30代。



髪は肩くらいまででスタイルも素晴らしい。



そして、何より、その顔はまるで彼の理想をそのまま形にしてかの様に



美しい顔をしていたという。



だから、彼は思わず見とれてしまったという。



そして、それまで人物など撮った事が無かった彼なのだが、今後は人物



を被写体にするのも悪くないかもな、と思っていた。



だから、彼は、気付かないうちに思わずシャッターを押していた。



何枚も何枚も・・・・。



そして、その女性はまるで彼が撮影しているのを知っているかの



ように、彼がシャッターを押すたびに色々と体の向きを変えてくれた。



そんな時、彼は不思議な事に気付いた。



その女性が、こちらに向かって笑っていた。



まさか、とは思ったが、今度はこちらに向かって手を振っている。



ただ、実際には、そのマンションまでの距離はかなり遠く、その女性が



彼が撮影している事など分かる筈も無かった。



だから、きっと、他の誰かに向って手を振っているのだろう・・・。



そう思ったという。



だから、彼は、試しに、自分から手を振ってみたという。



すると、その女性はそれが見えているかのように嬉しそうに、更に



大きく手を振った。



その時、彼は嬉しいというよりも、何かがおかしい・・・。



そう思った。



もしかして、自分は見てはいけないものをファインダーを通して見て



いるのではないか、と。



すると、今度はその女性は、こちらに向かって手招きをしだす。



彼はさすがにヤバいと思い、ズームを弱めていく。



そして、彼が内心感じていた違和感は確信に変わる。



その女性だけをファインダーに収めているときから、感じていた事だが、



どうやら、その女性は周囲の手摺や人物と比べて明らかに大きかった。



在り得ないほどに・・・・。



それを確信した時、彼はすぐにカメラを降ろして、その場所から



離れた。



何か説明のつかない不安感でいっぱいになっていた。



彼は落ち着こうと思い、ソファーに座った。



その時、突然、玄関のチャイムが鳴った。



誰も訪ねてくる予定は無かったし、荷物が届く予定も無かった。



その時、彼は不思議と、こう思ったという。



あの女が来たのだ・・・・と。



その女が来る筈など無かったのに、その時は何故か、訪ねてきたのは



間違いなくその女だという確信があった。



心臓の鼓動がどんどん速くなり、背中には嫌な汗が流れた。



絶対に、玄関に出てはいけない・・・。



そう思ったという。



相変わらず、玄関のチャイムは鳴り続けていた。



彼は、必死に知っているお経を唱えながらソファーの上で震えていた。



もう、あの女が綺麗だという感覚は無かった。



化け物が、人間ではないモノが、自分の家に来てしまった。



そんな恐怖心しかなかったという。



そして、彼がお経を唱えていると、そのうちに、玄関のチャイムの音が



突然、消えた。



彼はホッと胸を撫で下ろして、何気に窓の方を見た。



すると、そこには、間違いなく先ほどの女が、窓に張り付くようにして



笑っていた。



それは、可愛い笑顔というものではなく、獲物を見つけたという捕食者



の嫌な笑顔に見えたという。



彼は、思わず、ソファーから立ち上がると、玄関めがけて走りだした。



そして、玄関の鍵を開けようとした時、彼は一瞬、嫌な予感がしたという。



もしかして、窓に張り付いていたのは、自分に玄関を開けさせる為なのでは



ないか?と。



だから、彼は玄関の鍵を開けるのを止めて、そのままその場所にしゃがみ込み



両手で耳を塞ぎ、しっかりと目も閉じて、心の中で必死にお経を読み上げた。



それから、どれくらいの時間が経過しただろうか。



彼は、帰宅してきた奥さんに揺り起こされた。



知らないうちに、彼は気を失っていたようだった。



しかし、彼は奥さんには、その時起こった事は話さなかった。



どうせ信じて貰えないと思ったし、何より、そのカメラで女性を撮影



していた事を知られたくなかったから。



そして、それ以後、その女が再び、彼の家に訪ねてくることはなかったが、



彼は写真仲間と、会合で会った際に、その時体験した事を話したという。



勿論、誰も信じてはくれなかったが・・・・。



そして、仲間の一人がこう言ったという。



その話が本当なら、撮影した女が、記録メディアの中に残っている筈だろ?



それを見せてよ!と。



確かに、彼はその時以来、そのカメラを使用した事も、記録メディアの中身を



確認した事も無かった。



だから、彼は自分のバッグからカメラを取り出すと、再生ボタンを押した。



しかし、画面が小さくて良く分からない。



そこで、誰かが持って来ていたノートパソコンで表示させたらしいのだが、



そこに写っていたのは、女性の姿ではなく、白骨化した骸骨だったらしい。



俺もその画像を見せて貰ったのだが、どう見ても合成写真には見えなかった。



やはり、世の中には不思議な事が多いものである。


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:57│Comments(0)
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