2019年06月09日

見舞客

これは知人が体験した話。



彼女は今でこそスポーツジムに通い、運動をして汗をかくのが何より



楽しいと言っているが、以前はかなり深刻な病でずっと病院に入っていた



のだという。



今の彼女からは全く想像がつかないが・・・・。



それは、彼女の子供が小学校にあがる頃までさかのぼる。



最初は風邪をこじらせただけ・・・・。



そんな感じだった。



しかし、病状は日を追うごとに悪化していく。



連日、沢山の見舞客がやって来て、彼女を励ました。



その度に彼女の両親や夫は、丁寧に対応し心から感謝の気持ちを伝えた。



しかし、沢山の見舞客の励ましも届かず、彼女の病状は悪化の一途をたどる。



医者にも原因は分からなかったという。



しかし、原因が分からないまま悪化していく病気というのはこの世の中にまだ



沢山存在しているらしく、医者は対処療法で治療するのが精いっぱい



だったという。



彼女は、やがて、ベットから起き上がれなくなり、寝たきりの状態に



なった。



食事も摂取する事は出来なくなり、栄養は全て点滴で賄われるようになる。



そして、そこまで病状が悪化していくと、それまで沢山来てくれていた



お見舞客もどんどんとその数を減らしていく。



やはり、親しい人がどんどんと弱っていくのを見るのは辛く悲しいものであり、



出来る事なら、そんな姿は見たくはない。



だから、見舞客が減ってしまったのも、ある意味理解出来る。



しかし、そんな状態になっても、毎日、それこそ、一日に何度も、相変わらず



見舞いに来てくれる夫婦がいた。



家族は何度もその夫婦に、彼女とはどういう関係なのか?と尋ねたらしいが、



ちょっとした知り合いです、というだけでそれ以上は一切語る事は無かった。



家族は、そんな夫婦に対して、感謝こそすれ、疑う事など出来る筈もなかった。



しかし、見舞客がいなくなり、そして、その夫婦だけが毎日、何度も見舞いに



来るようになると、彼女の病状は更に悪化していった。



手足も動かせなくなり、意識が無くなる事が多くなった。



そうなると、その夫婦は毎日、それこそ一日中、病室に詰めて彼女に付き添う



様になっていく。



そして、それは彼女が集中治療室に移されてからも続いたという。



普通、ただの見舞客が簡単に集中治療室に詰める事など出来ないと思うのだが、



どうやら、その夫婦は、看護師たちには彼女の親戚だと嘘をついて、



彼女の傍に付き添う事を許可されていたようだった。



ただ、その夫婦はいつも悲しそうな顔ではなく、どこかワクワクした様な顔



で彼女の生命維持装置の動きを見守っていたそうであり、看護師の中にも



そんな夫婦に対して、懐疑心を抱く者もいたらしいが、その頃は彼女は



いつ亡くなってもおかしくない程の状態だったので、その親戚だという



夫婦に対して、咎めるような事を言えるはずもなく、それは自然と



黙殺されるようになっていく。



そして、その頃、実は彼女にはその夫婦の姿が見えていたのだという。



彼女にとって、見た事も無い夫婦だったし、どうしてそんな見知らぬ夫婦が



自分に付き添っているのか、全く理解出来なかったらしいが、その頃には



彼女は身動きも出来ず、喋る事も出来ない状態になっていたから、それを



誰にも伝える事は叶わなかった。



そして、どうやら、その夫婦は彼女の夢の中にも現われては、



早く楽になれ!



と繰り返し囁いてきたのだという。



そして、その頃から、彼女はこう思い始める。



もしかしたら、私の病気がこれほど悪化したのも、この夫婦のせいなのでは



ないのか?と。



この夫婦は私に早く死んでほしいと思っている。



そして、その為に、私の傍から離れずにいる。



そんな風に確信していた。



しかし、それが分かったとしても既に手遅れだった。



それを周りの家族に伝える術はもう残されてはいなかった。



周りにいる家族達は、皆、その夫婦に感謝している。



その正体も知らないままに・・・・。



それは、まさに彼女にとっては絶望的な現実だった。



しかし、彼女にとってある意味、最後のチャンスが訪れる。



電球が切れる前に、一時的に明るくなるように、彼女にとっては死ぬ直前に



家族に別れを告げる為の奇跡的な一時回復だったのかもしれない。



意識を取り戻した彼女は、全く動かない手足に必死に力を入れたり、家族に



目で訴えたりしながら、その夫婦の事を何とか伝えようとした。



今、目の前にいるこの夫婦が、私の寿命を奪っているのだ、と。



しかし、残念ながら、家族は彼女が送った信号を理解する事は出来なかった。



その時の、満足そうな、そして勝ち誇ったような夫婦の顔を彼女は今でも



決して忘れられないという。



ただ、その夫婦にも、一点の誤算があった。



突然、おとなしい彼女の子供が、その夫婦に向かって、



悪いのはお前たちだ!



お母さんはお前達が大嫌いなんたから早く此処から出て行け!



そう言って、子供はその夫婦に飛びかかった。



こら、やめなさい・・・。



失礼でしょ?



そう父親や祖母に言われても、子供は必死でその夫婦につかみかかった。



何度何度も・・・・。



そのうち、その夫婦は舌打ちをするような顔をして、そのまま、彼女の前から



いなくなったという。



言葉を話せない彼女だったが、自分の子供の行動に涙が止まらなかったという。



そして、その事があってから、その夫婦は二度と彼女のそばに現れる事は



無くなった。



更に、やはり、その夫婦が原因だったのか、彼女はそれから奇跡的な回復



をして、なんと半年後には、退院し、普通の生活を送れるようになった。



だから、私にはあの子は、大切な宝物なのよ・・・・・。



だって、大切な命の恩人なんだから・・・。



そう嬉しそうに笑った。


Posted by 細田塗料株式会社 at 19:00│Comments(0)
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