2019年06月09日

古いアパート

それは知人女性からの突然の依頼だった。



相談に乗って欲しいと頼まれた俺は、次の日曜日に彼女に会う事にした。



待ち合わせの喫茶店に少し早く着いてしまった俺だったが、驚いた事に既に



彼女がその店に座ってぼんやりと窓の外を見つめているのを見つけた。



声をかけると、彼女は少しだけ微笑むと小さくお辞儀をした。



疲れているからなのか、まだ30代の彼女はやけに老けて見えた。



どうしたの?・・・・突然・・・。



そう切り出すと彼女は深いため息をついてから、こう話し出した。



実は、半年ほど前に祖父が亡くなったんです。



それなりの資産家で、遺産の整理の際には、とても荒れてしまって・・・。



でも、何故か祖父の遺言で私が祖父が所有していたアパートを相続する事に



なったんです。



そのアパート自体は、古い建物で、資産価値も残っていない様な物なんですけど、



一応、部屋は満室で・・・・。



でも、家賃も安いから、アパートの修繕なんかを計算に入れると、利益なんて



殆ど出ないんです。



だから、最初の頃は、なんか凄いお荷物を相続しちゃったな、って感じで。



でも、違ったんです。



なんか、そのアパートの十院の方達はとても素敵な人ばかりで、毎日顔を



会わせているうちに、凄く仲良くなってしまって・・・。



その時、初めて気付いたんですよね。



祖父が私に何を託したかったのか?



だから、そのアパートは今ではもう私の生き甲斐にさえなってしまって。、



そこまで聞いた俺は、



それなら、全然問題無いんじゃないの?



なのに、どうして、そんなに暗い顔をしてるの?



と聞き返した。



すると、彼女は、更に深いため息をついて、俺の顔をまじまじと見つめながら



こう続けた。



実は・・・・出るようになってしまったんです・・・・幽霊が・・・。



ちょうど近くに在った廃ビルが取り壊された時から始まったんですけど。



最初は声が聞こえたり、物音が聞こえる程度だったんです。



でも、段々とエスカレートしてきて・・・・。



夜になると、住人の方達が幽霊を見るようになってしまって。



階段に男の人が立っていてスーッと消えたり、廊下にも女の人が立って



手招きした後に消えたり・・・・。



でも、住人の方達も、やっぱりそのアパートが大好きなので、怖いけど



何とか我慢していたんです。



でも、それからもどんどん酷くなっていって・・・。



寝ている時に首を絞められたり、階段から突き落とされたり・・・・。



そんな感じで実害が伴ってしまうと、さすがに住人さん達も堪らなくなって・・・。



1人、また一人という感じでアパートから出ていってしまって・・。



残ってるのはもう数人だけ・・・。



アパートに住んでいらっしゃった方達は、皆さん経済的に余裕がなくて、そして



何処にも身の拠り所が無い方達ばかりなのに・・・・。



だから、私は一刻も早く、あのアパートを以前と同じように明るくて平和な



アパートに戻して、そして出ていった住人さん達を呼び戻してあげないと・・・。



そこで、以前、霊的な事を相談した事があったKさんを思い出して・・・。



Kさんなら何とかしてくれるんじゃないかな・・・・って。



やっぱり無理ですか?



そこまで、聞いて俺は、



まあ、俺一人じゃ無理だけどね・・・。



で、その幽霊っていうのは、貴女も視たの?



首絞められたり階段から突き落とされたり、もした?



と尋ねた。



すると、彼女は首を横に振って、



私に実害はありませんでした。



でも、私もはっきりと視たんです。



1人とか2人という感じではなくてもっと沢山の霊があのアパートに何故か



集まって来てるみたいで・・・・。



そこまで、聞いた俺は、



あのさ・・・・解決する為にある程度のお金って用意出来る?



と聞くと、彼女は、



相場っていうのが分からないんですけど30万・・いえ50万位なら・・・・。



と返してきた。



そして、



あの・・・・前金の方が良いんですかね?



と聞いてくるので、俺は、



いや、そんな大金必要無いし、現金も必要無いから・・・・。



現物支給が良いみたいだよ・・・・。



あっ、それといつもなら高価でちょっと手が出ないくらいの美味しいスイーツの店



って知ってたりする?



と返した。



彼女は意味が分からないという顔をしていたので、俺はすぐに携帯を取り出して



Aさんに電話をかけた。



はい?もしもし・・・・。



相変わらずの面倒くさそうな返答。



だから、俺はいつものように手際良く用件を伝えた。



すると、Aさんは、



まあ、分かりましたけど・・・。



でも、今、本当に忙しくて手が離せないんですよね!



Kさんみたいに暇なら良かったんですけど・・・。



それに話を聞いた感じだと、そんなに悪質なモノではない気がします。



急がないと誰かが死ぬ・・・・とか。



だから、今回はKさんが1人で対応してください。



そう言われた俺は、



俺が1人でやれる訳ないでしょ?



と返すと、



ちゃんと方法は教えますから、大丈夫ですよ!



それに基本的にKさんは何も危険な目に遭わなくても良いんですから。



いいですか。



良く聞いてくださいね。



まず、そのアパートの住人には、一時的に部屋を出てもらいます。



それから、ここが重要なんですけど・・・。



霊感がゼロの知り合いを集めてください。



そのアパートの部屋の数だけ・・・。



出来れば、Kさんみたいに、ぼーっとしている人が、よりベターです!



そして、その人達にバイト代を支払ってアパートのそれぞれの部屋に一時的に



住んでもらいます。



それだけで、大丈夫ですよ!



そう言われた。



だから、俺は、



あのさ・・・もつと霊感の強い奴とか守護霊が強い人とか、そういう人が居た方が



良いんじゃないの?



それに、Aさんが忙しいんなら、代わりに保険として姫にもその部屋に住んでもらう



とかした方が良いんじゃないの?



と返した。



するとAさんは、深くため息をついて、



本当に予想を裏切らないボケっぷりですよね?



ちゃんと、起きてますか?



あのですね。



私の意図する真意というものを全く理解していないみたいですけど・・・。



今回のやり方だと、霊感がある人間が居てはいけないんです!



しかも、姫ちゃんも忙しいだろうし、それに姫ちゃんに協力させたりしたら



霊も綺麗に浄化出来る代わりに、そのアパートも木っ端みじんになるかもしれません。



あの娘、まだ力のセーブが上手くないですから・・・・。



大丈夫てすよ。



きっとうまくいきますから・・・・。



そう言って電話は切れた。



だから、俺は仕方なくAさんの言われたとおりに、出来るだけ霊感がゼロの知人を



集めてそのアパートに送り込んだ。



事情を話すと、それぞれが格安のバイト料で協力してくれた。



そして、結論として、1週間も経たずに、そのアパートで怪異が起こる事が



無くなった。



彼女はすぐに元の住人達を呼び戻し、今では以前と変わらない穏やかな生活を



送っているそうだ。



そして、後日、Aさんと会う機会があり、その時の事を聞いてみた。



すると、Aさんは面倒臭そうに説明してくれた。



あのですね・・・・あの時電話で事情を聞いた時、思ったんですよ。



なんか人間の地上げ屋と似てるな・・・って。



そんな霊障の事例って良くあるんですけど、要はそれまで住処にしていた



場所が無くなった事で霊達が新しい住処を探していたんだと思います。



そして、その古いアパートが目に止まった。



なんか、住みやすそうだな・・・って。



そうなったら、霊達も死活問題ですから、何としてでも其処に居る人間を



追い出そうとしますから・・・。



大怪我させたり殺したりするつもりはないけど、少し痛い目に合わせて、そして



怖がらせて・・・。



確かに普通の人間だとキツイかもしれませんけど、霊感が限りなくゼロに近い人間



にとっては、全く何も感じないんですよ。



どんなに嫌がらせをしても全く気付いてさえもらえないとしたら、霊達だって根負けして



そのアパートを諦めるのが普通ですからね。



だから、あの時は霊感がある人はNGだって言ったんです!



理解できましたか?と。



確かに、Aさんが言ったとおり、そのやり方であのアパートから霊達を



排除する事は出来た。



だから、俺はこう言った。



それじゃ、これからはもっと霊感がゼロの人間といっぱい知り合うようにしなきゃ、と。



すると、Aさんは、冷たい眼で俺を見ながら、



本当にいつもおめでたい人ですよね・・・・。



そういうパターンはごく稀なケースですから・・・。



その殆どが、その土地とか其処に住んでいる誰かに恨みがあって霊障を起こします。



霊感ゼロの強みが活かされるのはせいぜい低級霊です。



悪霊とか怨霊になったら、もうそういうのは関係ありませんからね!



って、こう言う話、以前にもしませんでしたか?



一度聞いた事はしっかりと頭に叩き込んでくださいね!



そんな事だから、いつまで経っても雑用係りのままなんですよ!



と、怒られてしまった。



その後、彼女からそれなりの金額の謝礼が届けられたが、スイーツ代だけを



差し引いて、そのまま返却したのは言うまでもない。



Posted by 細田塗料株式会社 at 19:04│Comments(0)
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