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2019年06月09日

誰か・・・・・いる・・・。

これは以前、飲み屋で偶然知り合った男性から聞かせて貰った話である。



彼はその頃、単身赴任で関西方面のとある県で働いていた。



とは言っても就職難の折り、期間工として出稼ぎ労働的な仕事に従事



していたそうなのだが・・・・。



毎日の仕事は3交代制で深夜労働も多く、決して若くはない彼にとっては



かなり辛い仕事だった。



そのせいなのか、ある時、彼は体調を崩し仮住まいとしていたアパートで



寝込んでしまった。



かなりの高熱に苦しみ、何も食べられず、まさに生死の境を彷徨う状態だった。



そして、1週間程経過した頃、ようやく何とか起き上がれる様になった彼は



体が完治していないのも承知で職場に復帰した。



しかし、そこで言い渡されたのは、解雇というつらい現実だった。



確かに彼は、人づてに体調不良で欠勤する旨を伝えていたらしいのだが、



どうも、それは職場の上司には全く伝わっていなかった。



そして、それを何度弁解しても全く取り合っては貰えなかった。



結局、彼の言い分は少しも通る事はなく、彼はそのまま解雇となった。



会社が用意したアパートからもすぐに出ていかなければならず、彼は途方に



暮れた。



結局、翌日には社宅アパートを引き払わなければいけなくなり、彼は失意



の中でアパートを出たという。



荷物だけは数日間だけそのままでも良いという許可をもらったので、それまでの



間に新しい仕事と、そして新しい部屋を確保する必要があった。



所持金もわずかであったが、何よりも遠い地元で暮らす奥さんと子供には



期間工をクビになった事はどうしても言えなかった。



だから、生活費を極力節約して、何とか一日でも早く新しい働き口を探す事に



専念する事にした。



しかし、夏ならば公園のベンチで寝泊まりする事も可能だったかもしれないが、



その頃はちょうど初冬。



そんな事をすれば下手をすれば死んでしまう。



彼は、とりあえずその夜なんとか寝る事が出来るスペースを探して街をふらつく事に



した。



駅の構内や公共施設など色々と回ってみるが、どこも警備が厳重で侵入する事は



出来なかった。



ふらふらになりながら必死に寝床となる場所を探していた彼だったが、やはり



簡単には見つかるばすも無かった。



そして、もう諦めかけた時、彼はとある廃マンションに辿り着いた。



そのマンションは明らかに誰も住んでいなかったが、まだそれなりに綺麗な



状態であり、周りの街灯もしっかりと辺りを照らしていた。



実は彼は廃墟といわれる建物を探していたのではなかった。



元々、心霊スポットというものは苦手で一度も行った事も無かったのだから。



しかし、そのマンションは入口に立ち入り禁止の立札こそ置かれているものの



それ以外は綺麗で明るいマンションに見えた。



だから、彼はかなり切迫していたこともあり、何とかその日の夜をそのマンションで



過ごす事に決めた。



玄関に入ると正面にエレベータがあったが、当然稼働しているはずもなく、



彼は階段を使って2階へとのぼった。



そして、1軒1軒、ドアの鍵が開いている部屋を探しだした。



しかし、鍵が空いている部屋などどこにも無かった。



そりゃ、そうだよな・・・・。



鍵が空いてたら不用心すぎるもんな?



そんな独り言を呟いていると、今まさに部屋へ忍び込もっとしている自分自身が



とても滑稽に感じて思わず、クスッと笑ってしまった。



2階、3階、4階と階段をのぼっていき、その階の全ての部屋を確認したが



やはり鍵が掛っていない部屋など一つもなかった。



しかし、それでも彼はよかったのだという。



マンションの中はそれなりにしっかりとした造りであり、外気があまり侵入して



こなかったから、万が一の時には、廊下の隅にでも寝れば良い。



さすがに低い階だと周囲の住民に感ずかれて警察に連絡される恐れがあったが、



高い階までのぼってしまえば、少なくともその危険だけは回避出来る。



彼はそう考えていた。



そんな事を考えながら、最上階である8階までのぼって来た時の事。



他の階と同じように1軒1軒、ドアの鍵を確認していると、なんと1軒の家で



玄関の鍵が掛っていなかった。



恐る恐るドアノブを回して部屋の中に入る。



出来るだけ音がしない様に静かにドアを閉める。



部屋の中はガランとして殺風景だったが、フローリングは綺麗であり、月の明かりで



部屋の中も暗くはなかった。



彼は用心の為に玄関の鍵を内側から掛けて部屋の中へとゆっくり入っていく。



ついそれまでの癖で玄関に靴を脱いでから部屋の中へ入ってしまったが、一時的に



部屋を使わせて貰うのだから土足で部屋の中を汚すのはマズイと思い、そのまま



靴は玄関に脱いだままにしておいた。



窓際のフローリングの上に座った彼は、スーパーで買ってきた半額のパンと



ジュースを取り出してゆっくりと食べだした。



その部屋の窓から見える夜景を見ながら、本来ならこんな部屋に住めるのは



相当なお金持ちなのかもしれないな、と思いながら明日からの不安を払拭する



ように彼はパンとジュースを味わいながら食べた。



こんな場所に侵入して、それでも少しも恐怖を感じない自分に彼自身が一番



驚いていた。



勿論、やはり警察の世話になるのだけは避けたかったから、聞こえる筈の無い



高さの部屋に居るにもかかわらず彼は出来るだけ物音をたてない様にした。



部屋の中は初冬だというのにかなり快適で寒さは少しも感じなかった。



彼は着ているジャンバーのチャックを閉めて襟首を伸ばすと、そのまま



フローリングの上で横になった。



これで何とか、今夜は無事に過ごせそうだ・・・・。



そんな安心からか、彼はそのまま睡魔に襲われて寝てしまったという。



そして、彼はふと真夜中に目を覚ました。



玄関の外の廊下から何かの音が聞こえていた。



もしかしたら、警察?



彼はハッとして息を殺し耳に全神経を集中させた。



廊下からは人の声は聞こえてはこなかった。



ただ、誰かが廊下を固い靴で歩く音とドアが開いたり閉まったりする音が



何度も聞こえていた。



はじめはその音がする度に体を固くして息を殺していた彼だったが、どうやら



その音はいつまで経っても聞こえ続けている。



だから、彼は玄関の方へゆっくりと進むとドアに耳をつけて外の様子を窺おう



とした。



しかし、ドアに耳を寄せると先ほどまで聞こえていた音が全く聞こえてこない。



しばらくは様子をうかがっていた彼も、さすがに外の様子が気になってしまい



ゆっくりとドアの鍵を開けてドアノブを回しなるべく音がしない様にドアを



半分ほど開けて廊下へと顔を出した。



そして、左右を確認したが、其処には静かな廊下が続いているだけ。



先ほどから聞こえていた音は一体何だったのだろうか?



彼は首をかしげてしまう。



その音は確かに彼がいる8階から聞こえてきていたのは間違いなかった。



もしかしたら、俺と同じようにホームレスの人達も此処を利用しているのかも?



そう思った彼は恐る恐るドアから出ると廊下を探索し始める。



しかし、明らかに彼がやって来た時と様子が変わっていない。



そこで初めて時計を見ると、時刻は午前2時半くらいだったという。



部屋に戻って寝なおそうと思った彼の眼に不思議な事が映る。



それはエレベータホールの方からぼんやりとした明りが洩れているという事。



暗闇の中の明かりというものは人を惹きつけてしまうのか、彼はその明かりの正体を



確かめる為にエレベータに向かって歩き出した。



そして、エレベータの近くまでやって来た彼は、思わず、えっ?と声を出して



しまう。



彼が来た時には動いていなかったエレベータが動いていた。



そして、そのエレベータの中から漏れる明かりが廊下を照らしていたのだと分かった。



明かりの正体は分かったが、彼の心中は穏やかではなかった。



何しろ、電気が来ていないはずの廃マンションのエレベータが稼働しているという事に



奇妙な感じがしたし、何よりこのマンションが本当に誰も人が住んでいない



廃マンションなのか?と疑問に思ってしまった。



しかし、マンションの入り口には管理会社が出しているであろう立ち入り禁止の



立札とマンションを取り囲むようにしっかりとロープも張られていた。



だから、きっと廃マンションなのは間違いないのだろう・・・・。



だとしたら、どうしてエレベータだけがしっかりと動いているのか?



そんな事を考えていると、突然、ゴーッと大きな音がしてエレベータがのぼって来る



音が聞こえた。



彼はそのエレベータが何階で停まるのかを見てやろうと思い、しばらく



柱の陰からエレベータをじっと見ていた。



しかし、どうやら、そのエレベータが彼がいる8階で停まるのが分かると、



慌てて廊下を走り、先ほどの部屋へと入ってドアの鍵をかけた。



少なからず、もしかしたら警察なのでは?という恐怖があったのか、彼はドアの



傍で息を殺して再び意識を耳に集中した。



すると、誰かが廊下をコツコツと靴音を鳴らしながら歩いてくる。



彼の心臓の鼓動はどんどん速くなっていく。



すると、その足音は彼のドアの前を通り過ぎて、どうやら隣の部屋へと入っていく。



隣の部屋のドアが開く音とそしてパタンとドアが閉まる音がはっきりと聞こえた。



そして、隣の部屋からは深夜だというのに子供の笑い声と、そして奥さんと



思われる女性の声が聞こえてきた。



やっぱり誰かが住んでいたんだ・・・・・。



もしかしたら、このマンションの最後の住民なのか・・・・。



もしも、そうだとしたら、このマンションが無人状態で手をつけられない理由も



なんとなく理解できた。



そう思うと、気分が軽くなった。



さすがにこの広いマンションに一人ぼっちというのは怖いものがあった。



不法侵入している身とはいえ、自分の他に、このマンションに家族が



住んでいるのだ、と分かるとそれはそれで心強いものがあった。



彼はそのまま安心して眠りに就いた。



そして、朝になって目覚めた彼は、隣の住人達にばれないように静かにドアを開けて



廊下へと出ると、出来るだけ音をたてないようにしてエレベータまで進む。



しかし、其処には真っ暗な状態のエレベータドアがあるだけで、とても稼働している



様には見えなかった。



おかしいな・・・・。



そう思いながら、彼は少ない荷物を抱えて、階段を静かに降りていった。



勿論、彼としても、そのマンションに泊まるのはその夜だけのつもりだった。



朝から職探しに精を出した彼は、昼になると、またスーパーで半額のおつとめ品の



食料を買って公園で食べていた。



すると、彼と同じようなホームレスらしき人が彼に話しかけてきた。



その人も必死に仕事を探しているとの事で、彼は色々な話をして盛り上がった。



故郷の話、家族の話、そして昨夜泊った廃マンションの話。



しかし、それを聞いた途端、その人は驚いた顔をしたという。



あんな恐ろしい場所で一夜を明かしたのか?



何か恐ろしい目に遭わなかったか?と。



だから、彼は笑いながらこう返したという。



あそこに住んでるのはお化けなんかじゃなくて、普通の家族だよ・・・。



きっと立ち退きを拒否してるんじゃないのかなぁ・・・と。



すると、その人は、



そんな事は絶対にない筈だ!



あそこは心霊スポットになっていて誰も近づかない場所なんだ・・・。



それに、電気も来ていないマンションでどうやって家族が生活出来るんだ?



と、真剣に言ってくる。



それなら、今夜、一緒にもう一晩だけあのマンションに泊まらないか?



と彼は提案したが、彼はすぐに首を横に振って、



あんな所には絶対に近づきたくないよ!



君もあそこにはもう近付かない方がいい!



そう言って、去っていったという。



勿論、彼はもうあのマンションに泊るつもりはなかったから、すぐに忘れて



午後からの仕事探しに精を出した。



しかし、やはりその日も仕事は見つからず、その夜はネットカフェに泊まろうと



したらしいが、やはり金銭的に辛く断念した。



そして、その時、彼の頭の中には、あのマンションの事が浮かんでいたという。



もう一晩くらいならばれないだろう・・・・。



そう思った彼は、夕方の早いうちに、食料を買い込んでその廃マンションへと



向かった。



もう一度、入口を確認したが、やはり「立ち入り禁止」の文字がはっきりと



読み取れた。



あの家族はどうして立ち退きを拒否し続けているんだろうか?



そんな事を考えながら彼は、また階段で8階を目指す。



体力だけには自信があったから、8階までの階段も苦ではなかった。



8階までのぼり、エレベータを確認すると、やはり稼働はしていない様子だった。



彼は出来るだけ足音をたてないように静かに歩き、昨夜泊った部屋の前へと



やってきた。



昨夜は気が付かなかったがドアにはまるで鋭利な刃物でつけられたような



傷跡が無数に残されていた。



しかし、そんな事を気にしている余裕も無かった彼はそのまま静かにドアを開けて



部屋の中へと入った。



部屋の中へ入ると、彼は誰に言うでもなく、



今晩もう一晩だけ泊めてください・・・・。



と呟くと、昨夜の同じ場所に静かに座った。



そして、昨夜と同じように的から見える景色を眺めながら食事をし、



それからゆっくりと横になった。



昼間、精力的に就職活動をしたせいか、彼はすぐに睡魔に襲われて、すぐに



眠りに落ちた。



そして、その晩もな夜中に目が覚めた。



やはり廊下を歩いてくる靴音が聞こえていた。



時計を見ると、やはり午前2時半を少し回っていた。



またこんな遅くに帰宅なのか?



一体どんな仕事をしているんだろう?



そんな事を考えながら、彼は再び眠りに就こうと横になった。



すると、突然、部屋の壁が、ドンドンドンと大きく3階叩かれた。



ビクッとして起き上がる彼。



まさか、俺がこの部屋に居るのがバレてるのか?



いや、極力、静かにしていたのだからそんな筈はない・・・。



それにしても、こんな真夜中に部屋の壁を叩くなんて何か喧嘩でもしてるのか?



そう思って彼はゆっくりと、そして静かにフローリングから立ち上がった。



とりあえず、何かあったらすぐに逃げ出せる準備だけはしておこう・・・。



そう思って、彼は持ってきた荷物をひとまとめにして持つと、玄関へ行って



靴を履いて来ようと思った。



すると、その時、再び、部屋の壁が、ドンドンドンドンと今度は4回



大きく叩かれる音がした。



彼がいる部屋の中にも振動として伝わってくる程に・・・。



その時、彼は異様な違和感を感じたという。



どんなマンションでも隣家の壁との間にはそれなりの消音材が使われている。



それなのに、先ほどから聞こえてくる音は、まるで、彼が居る部屋の壁を叩いている



様に大きく振動を伴って聞こえてきていた。



その時、彼は背中に悪寒が走った。



もしかして、叩かれているのは隣の部屋の壁ではなくて、この部屋の壁



なんじゃないのか?



そう思って、ゆっくりと暗いリビングを振り返った。



声が出なかった。



それと同時に耳のすぐ傍で心臓の鼓動が早鐘の様に脈打つのが分かったという。



彼の部屋のリビングには、大人の男女と、そして小さな男の子が正座して



彼の方を見ていた。



彼は固まったように全く動けなかった。



どれ位の時間、そうして固まっていたのか、覚えてはいない。



ただ、その時は何も考えられず呼吸をするだけで精いっぱいだった。



こ・ろ・さ・れ・る・・・・・・・。



死の恐怖を彼はその時初めて感じていた。



そして、その時、正座した家族は同時に薄気味悪い笑みを浮かべた。



その笑みを見た瞬間、その不気味さに彼は弾かれたように玄関へと走りドアの鍵を



開けようとする。



しかし、先ほどまで簡単に回っていた鍵は、とてつもなく固く、びくともしない。



彼は完全にパニックになっていた。



リビングの方から何かが動く音がした。



彼は自分自身に落ち着きように言い聞かせると、もう一度ゆっくりとドアの鍵



を回す。



すると、カチャッという音がして鍵が開いた。



彼は恐怖で後ろを振り返る事も出来ず、そのまま転がるように廊下へと飛び出した。



逃げなくては!



そう思った彼はいつもの階段へと走った。



どうしてそれまで気付かなかったのか、マンションの廊下はとても寒く、そして



完全なる漆黒の闇を作りだしていた。



ただ、彼の頭の中には階段までの経路はしっかりと記憶出来ていた。



彼はがむしゃらに走った。



もう、近隣住民に聞こえようが、どうでも良かった。



いっそ、大声で助けを呼びたいくらいだったが、それはしなかった。



何故なら、その状況はまるで異世界にでも迷い込んで様に感じていたのだから、



きっとどれだけ大声を出してもきっと誰にも聞こえはしない気がしたという。



階段まで走った彼は急いで階段を駆け下りようとしたが、何故かその時、



エレベーターがその階で停止し、まるで彼が乗るのを待っていてくれている



様に感じたという。



彼はその時、初めて後ろを振り返った。



すると、彼が先ほどまで居た部屋のドアがゆっくりと静かに開くのが見えた。



彼にもう迷いは無かったという。



急いでエレベーターに飛び乗ると、息つく暇もなく1階のボタンを押した。



ゆっくりとエレベーターのドアが閉まっていく。



そして、ゴーンという機械音とともに彼が乗ったエレベーターは静かに



降下し始める。



生きた心地がしなかった。



彼は恐怖のあまり目を閉じてエレベターの中にうずくまっていた。



エレベーターは何事もなく降下し続け、1階に到着したのか、静かにドアが



開く音がしたという。



彼はマンションから一刻も早く逃げようと目を開けて立ち上がろうとした。



そして、そこで固まった。



エレベーターの階数表示は8階を示していた。



どうして?



間違いなく下へ降りた筈なのに・・・・。



彼は何が何だか分からなかったがすぐに先ほどの親子の事を思い出し、慌てて



エレベターたから出ようとしたらしいが体が固まって動かなかった。



その時、彼は見てしまった。



飽いたままのエレベーターのドアの間から地べたを這うように何かが近づいてくるのを。



ズズズッ・・・・ズルズル・・・・ズズズッ・・・・ズルズル・・・・。



彼にはその黒い3つの塊が、先ほどの親子である事は容易に想像できたという。



体は身動きひとつ出来ず、エレベーターの開閉ボタンも押す事が出来なかった。



彼は息苦しさと共に背中を冷たい汗が流れ落ちるのを感じていた。



彼の視線は完全に、這って近づいてくるその親子に釘づけになっていた。



どうすればいい?



俺はこんな所で死ななければいけないのか・・・・。



そう考えると、大粒の涙が溢れてきた。



そして、彼は恐怖の中で、まるで死を覚悟した様に、奥さんと子供の名前を



呼んで謝り続けたという。



命乞いという気持ちはなく、不甲斐ない自分を必死で詫びたという。



何もしてあげられていないのに、こんな所で死んでごめん!



そんな事を考えていた時、突然エレベーターのドアが閉まった。



そして、何も押してはいないのに、エレベーターはゆっくりと降下し始める。



彼は突然の出来事に唖然としていたが、もしかしたら助かるのではないか?



という希望が一旦芽生えると、その気持ちはどんどん大きくなり、やがて、



こんな所で死んでたまるか!



という気持ちになってきたという。



その時だった。



どうやって移動しているのかは分からないが、彼が乗ったエレベーターが



別の階に停止しようとする。



彼にはあの親子が先回りしてエレベーターのボタンを押したとしか考えられなかった。



そして、エレベーターのドアの窓に突然貼りつくようにして、その不気味な顔が



現われる。



彼は恐怖した。



心臓が止まるかと思った。



しかし、エレベーターのドアは開く事はなく、また静かに動き出した。



ホッとしたのも束の間、また別の階へエレベーターが停止すると、先ほどの親子が



ドアの窓に貼り付いてくる。



それでも、何故かエレベーターは彼をその家族から護るかのように決してドアを



開く事はなく、再び静かに動き出す。



そんな事を繰り返しているうち、彼は無意識のうちにポケットから携帯を取り出し、



110番で助けを求めると、そのまま意識を失ったという。



そして、次に彼が目覚めたのは、心配そうに見つめる警察官に揺り起こされた



時だった。



警察官からは厳しく叱責されたが、彼は助かった喜びで、再び大粒の涙を



流した。



そして、警察に行き、簡単な事情聴取を受けた時、彼はその時体験した話を



詳しく話した。



とても信じて貰えるとは思わなかったが、警察官は真剣な顔で、そして辛そうに



その話を聞いてくれた。



そして、今回だけは特別、という言葉とともに解放されることになった彼に、



警察官はこう言ってくれたという。



あのね…少なくとも私は貴方の話を信じていますよ・・・・。



だって、貴方は電源が無く稼働もしていないエレベーターの中で意識を



失っていたんですから・・・・。



それにね・・・・実は私も見たんですよ。



あのエレベターターの窓に無数に付着した人の顔の跡と気味の悪い笑い声を。



だけど、もう決してあんな所には近づかないでくださいね。



曰くつきの場所にはそれなりの理由があるんです。



そして、今回みたいに私達が助けられたのもある意味、奇跡かもしれませんから。



そう言って悲しそうな顔をする警察官に彼はそれ以上、何も聞き返す事は



出来なかった。



ちなみに、それ以後、そのマンションの近くを通るたびに、8階の廊下から



彼に手を振っている3人の姿を何度も見る様になった彼は、それからすぐに



家族が待つ故郷へ帰ったという事だ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 19:09│Comments(0)
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