2019年06月13日

霊のいる廊下

これは知人女性から聞いた話。



彼女は大学を卒業すると某メーカーの研究室へと就職した。



勿論、大手メーカーに就職して、大学で学んで知識を生かし研究に没頭するのは



彼女の夢でもあった。



明るい性格の彼女は、ずくに職場にも溶け込む事が出来、彼女の所属する



チームが手がける商品開発も彼女がチームに加わった事で大きく前進し



彼女にとってはまさに順風満帆のスタートといえたのかもしれない。



誰もが彼女に優しく接してくれたし、会社での評価もうなぎ登りに上昇し、



彼女にはまさに怖い物など無かった。



しかし、そんな彼女の奢りのようなものが他人からははっきりと見て取れて



いたのかもしれない。



彼女は幾つかの裏切りに遭い、仕事での評価を落としてしまう。



勿論、それは彼女の失敗などではなかったが、彼女を妬む者達に結託されては、



彼女には弁解する余地など無かったという。



そして、彼女には部署の移動が命じられた。



その部署というのは、以前所属していた研究グループとは同じ敷地に在ったが、



いわゆる旧館と言われている古い研究棟であり、彼女はとても落胆したという。



なにしろ車内での評価で言えば、それまで所属していた部署が最先端の研究



をする部門だったとすれば、彼女が移動を命じられた部署は、どちらかといえば



マイナーな研究ばかりをしている部門だったのだから。



実際、それぞれの部署に割り当てられている研究費というものにも、かなりの



格差があった。



しかし、彼女を落胆させた理由は、実はその他にもあったのだという。



実は彼女には顕著なものではないが確かに霊感というものが備わっていた。



そして、辞令のあった新しい職場に行くには古くて暗い長い廊下を歩いて



行かなければならなかった。



そして、どうやら、その廊下には昔から女の幽霊が出ると噂されていた。



だから、彼女はその廊下に近づいた事も無かったし、まさか自分がその



研究棟に配属されるとは夢にも思っていなかった。



しかし、実際にその職場に配属されたという事は必然的にその廊下を通らなければ



いけない事になる。



正直、彼女は仕事を辞めてしまおうとさえ思ったという。



既に同僚や先輩からの裏切りに遭い、彼女の心はボロボロだったし、新しい研究グループ



での開発内容は彼女の得意分野でもなかった。



それに加えて、その職場に行くには幽霊が出ると言われている廊下を確実に



通らなければいけなかったのだから、そう考えるのも無理はないのかもしれない。



しかし、彼女には簡単に辞表を出せない理由があった。



その頃、彼女は東京のマンションで一人暮らしをしていた。



順風満帆だった頃に買い揃えた家具や電化製品、そして車のローンの支払いも



まだまだ残っていた。



だから、辞めるに辞められなかったというのが本音かもしれない。



そして、いよいよ転属初日の日がやって来た。



彼女は朝早くに会社に来て、誰かがその廊下へとやって来るのを待った。



どうしても、1人でその廊下を歩いていく勇気が持てなかったという。



しばらく待っていると、二人組の男性がやって来た。



彼女は、転属の挨拶をすると、そのままその男性社員2人と一緒に



廊下を進んでいった。



廊下には、幽霊らしきものは何もいなかった。



彼女はホッとして、そのまま平静を装い歩き続けた。



そして、廊下が終わりにさしかかった時、彼女の耳には確かに、



ねぇ・・・・。



という女性の声が聞こえた。



驚いた彼女は思わず、ヒッ!と声を出してしまい誤魔化すのに苦労したという。



霊を見てしまう事も嫌だったが、それと同じくらいに自分には霊の姿が



視えてしまうのだという事が知られるのが恐ろしかったという。



やはり、彼女自身も、霊感があるという事で一時期、いじめの対象にされた



事もあったから・・・・・。



しかし、転属初日は、それ以後、何事もなく終える事が出来た。



そして、それから数日は何事もなく過ぎていった。



しかし、やはり彼女にとって、新しい配属先はつまらなく感じられた。



設備や人員の数など以前の部署に比べると明らかに見劣りした。



そんな気持ちの彼女は自分から心を開く事も出来ず、次第に一人きりで



いる事が多くなった。



研究中も会話もせず1人で黙々と作業をこなし、お昼時間も一人きりで



研究室の中で過ごしていたという。



そんなある日、彼女はいつもの様に1人で部屋に籠り、黙々と研究を続けていた。



同僚が帰っていくのも気付かない程、没頭して・・・。



そして、ハッと時計を見ると時刻は午前0時を回っていた。



彼女は慌てて帰り仕度をしたが、その時初めて自分が一番最後なのだと



気付いたという。



研究室の部屋の灯りを消して廊下へと出た。



廊下にはまだしっかりと明かりが灯っており彼女は胸を撫で下ろした。



そして、1人で廊下を歩いていく。



自分の靴音しか聞こえない廊下は、とても不気味に感じられた。



すると、前方に誰かが立っている。



壁を背にして俯いたまま背の高い女性が立っている。



季節はずれのコートを着て長い髪がだらりと垂れ下がり、その顔を隠していた。



その姿を見た時、彼女はそれが人間ではない事に直観として気付いた。



やっぱり本当にこの廊下にはいたんだ・・・・・。



正直、迂回して帰りたかったが、その廊下を通らなければ会社から出られない



事は分かっていた。



彼女は息を止め出来るだけその女の方を見ない様にしながら怯えているのを



悟られない様にしながら、自然に歩いた。



怯えているのを悟られた挙句、怖い思いをしてしまった事が彼女には何度もあったから。



心臓の鼓動がどんどん速くなった。



それでも彼女は意識的にその女の方を見ない様にして歩き続けた。



そして、ちょうど、その女の横を通りかかった時、



あぁ~



というため息の様な声が聞こえ彼女は思わずその場で固まってしまう。



そして、彼女の意志とは逆に、彼女の視線はゆっくりとその女の顔へと



向いていった。



その顔はもう俯いてはいなかった。



まっすぐに彼女の方を向いたその女の顔はとても悲しくて苦しそうな顔に



見えたという。



彼女はその瞬間、一気に走りだしていた。



もうその場から一刻も早く逃げ出したかった。



そして、息が続く限り走り続け、ようやく長い廊下を渡りきった時、その女の



気配も全て消えていたという。



そして、何故か廊下の明かりもすっかりと暗くなっていた。



どうして、つい今しがたまでは明るかった廊下が私が通り過ぎると同時に



暗くなるんだろう・・・・・・・?



それは彼女にも気になったが、その時はそんな余裕も無かったという。



恐ろしいモノを見てしまった・・・・。



彼女はそのまま恐怖に怯えながら帰路につき、夜も明かりを点けたまま寝た。



しかし、脳裏に焼きついたその女の顔が恐ろしくて結局その夜は一睡も出来なかった。



それから、彼女は毎日のように、その廊下でその女を目撃した。



やはり、彼女にとってその女は恐怖でしかなく、次第に仕事も手につかなくなっていく。



そんな毎日を続けていた彼女は、全てが上手くいかず、その上幽霊さえ見えて



しまう自分自身を嘆いた。



そして、今度こそ、その仕事を止めようと思い始めたという事だった。



そんなある日、彼女が出社してその廊下を歩いていると、朝だというのに



その女が立っているのが見えた。



恐怖で体が硬直し、今にも仕事を投げ出してその場から逃げ出したかった。



それでも、彼女がそのままその女の前を通り過ぎようとした時、突然彼女の耳に



おはよう・・・・・。



という声が聞こえてきた。



驚いた彼女は辺りを見回したが、廊下には彼女とその女しかいなかった。



そして、彼女は咄嗟に、



おはようございます・・・・。



と返してしまったという。



霊の声が聞こえている事、そして姿が視えている事を知られてしまった!



彼女は、自分のしでかした大きなミスを嘆いた。



その女の霊の姿や声が自分には視えているし聞こえている、という事を知られる



という事は、その女の霊がより自分に接近してくる様になる事は容易に想像できた。



彼女は頭の中が真っ白になった。



そして、その場から逃げる様にして小走りで自分の部署へと逃げ込んだという。



そして、その日仕事が終わり、再びその廊下へと差し掛かった彼女は、またしても



思いがけない声を聞いたという。



おつかれさまでした・・・・。



その声は確かにそう聞こえた。



そして、辺りを見回すと、いつもの女が廊下の隅っこに立っていた。



気のせいか、女の顔は前回とは違い恐ろしく感じなかったという。



彼女は無意識に、その女に小さくお辞儀をすると、そのまま小走りで



廊下を駆け抜けた。



それから、その女の姿を毎日見る様になった。



不思議と怖さを感じなくなっている自分に気付いた。



そして、その女は彼女が通りかかる度に彼女に必ず声を掛けてくれた。



おはよう・・・・。



こんにちは・・・・。



おつかれさま・・・・。



それは何の変哲もない挨拶でしかなかったのに、彼女にはとても暖かく感じたという。



そうしているうちに、彼女場自分の中からその女に対する恐怖が



消えている事に気付き始めた。



こんな霊もいるんだ・・・・。



きっと最初に会った時に廊下の照明が明るかったのも、もしかしたらこの女の人が



私を怖がらせまいとして、してくれた事なのかも・・・・。



そう思い、自分の勝手な先入観で、その女の事を邪悪で恐ろしいものと決めつけて



いた自分を心から懺悔したという。



そして、それから彼女は毎日、その廊下を通り、女を見かける度に自分から



おはようございます・・・。



こんにちは・・・・。



おやすみなさい・・・・。



と声をかける様になった。



そして、そんな言葉を掛けられたその女は、いつも小さく会釈を返してくれた。



それが彼女にどんな変化をもたらしたのかは分からないが、



いつしか彼女はその女の存在を怖がらなくなっていた。



そして、ちょうどその頃から、彼女は新しい職場でも明るく周りに



溶け込む事が出来る様になった。



自分の研究はヤル気さえあれば、どんな所ででも出来る筈!



先入観だけで職場も仕事も人間も、判断してはいけない!



彼女はそう考えて仕事にも没頭した。



その結果、彼女の転属先の部署は、輝かしい成果を残すようになり、やがて



彼女も、最新設備の整った新しい部署へと転属が決まった。



その部署のリーダーとして・・・・。



ただ、彼女はいまだに、仕事やプライベートで悩んだりすると必ず、



その廊下へとやってきて、独り言を喋っているのが頻繁に目撃された。



変な噂を流す者もいたが、彼女はもう周りの噂など一切


気にしなくなっていた。



そして、その独り言の相手は、紛れもなく廊下に現れる女だった。



今では彼女の悩みを聞いてくれる大切な親友になっている。



そして、今では彼女も自分に霊感があって良かったと心から感謝している、



という事だ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 21:02│Comments(2)
この記事へのコメント
営業のKさん

こんばんは☆
更新ありがとうござます!
良いお話ですね。私も似たような事がありましたが
残念ながら 霊感など皆無の為 相談することも出来ず
辞めてしまいました。こんな優しい霊ならば 友達になりたいですね。
本日も間違い探し ありがとうございます☆
次回も楽しみにしてますね(^-^)
Posted by しゃねる at 2019年06月14日 01:18
本日も、とても怖くて怖くない話をありがとうございます。人間が一人一人違うように霊も色々いますね。お仕事でも嫌な思いをして苦しかっただろうに。とても我慢強い方ですね。
夜中まで没頭して研究とは、ご苦労な事ですね。働きすぎです。怖すぎなので、話は変わりますがKさんの"ずく"
を見て、私は、もずく食べたくなりました。あのすっぱさとひんやりかみ具合がたまりません。笑
それにしてもKさんの周りには、霊感のある方がたが多いこと。勉強になります。またお話、楽しみにしてますね!
Posted by シュフの掟 at 2019年06月13日 23:47
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