2019年06月15日

山びこ

これは知人女性が体験した話。

彼女はその頃、運動をして体を動かし汗をかくということにとても興味が

あったのだという。

特に太っている訳でもなかったが、それまであまり体を動かす運動をしていなかった

彼女は年齢を重ねるにつれて体調が優れない日が多くなっていたが、友人に

誘われてジョギングや自転車、スポーツジムなどで汗をかく事でかなり体が

改善されたのか、体調の良い日が続くようになったという。

それからというもの、彼女は自分から率先してテニスをしたりゴルフをしたりして

汗をかくのを日課にしていた。

そして、それまでやった事の無かったテニスやゴルフもやってみるとそれなりに

楽しく、それからは彼女は常に新しいスポーツを求めてトライするようになったという。

そんな彼女がある時登山に誘われた。

登山といっても楽に日帰り出来る程度の山だったし、何よりも、誘ってきた女友達が

以前から山の素晴らしさを力説するのを聞いていたから彼女はその場でその誘いを

了承したという。

彼女の仕事は平日の水曜日だけが休みという感じだったので、登山の決行日は

翌週の水曜日に決まったという。

事前にその友達から、用意するものを聞いていた彼女は、靴屋で登山に向いた

シューズを購入し、背中に担ぐリュックバックも購入した。

そして、登山当日、彼女はおにぎりを作り水筒を持って集合場所へと車で

向かった。

集合場所に着くと一緒に登る女友達が既に到着していたが他に登山客の姿は

見えなかった。

平日だしまだ時刻も早いから、そんなものなのかな、と彼女は思ったという。

そして、いよいよ登山が始まるとそれ程傾斜のきつくない山だというのに

とても足腰にこたえるのが分かった。

30分も経たないうちに息は切れ足が棒のようになったがそれでも彼女は

友人に遅れまいとして必死に山道を登った。

ただ、周りの景色、そして空気の美味しさは格別のものがあった。

確かに体は辛かったが、少しだけ街を離れただけで、こんなにも別の世界が広がり、

そして其処には街中では決して味わえない自然の素晴らしさが在るのだという事に

驚きながら登っていると、次第に体も慣れていくのが分かったという。

それにしても、不思議だった。

その山というのはそれなりに登山客が多い山だと聞いていたし、登山口には

しっかりとした施設まで備わっていた。

それなのに、彼女達はかなり遅いペースで登り続けているというのにいまだに誰にも

追い越されるという事が無かったのだから・・・。

それでも何とか頑張って山の8合目辺りまで登った時、彼女は突然、

トイレに行きたくなってしまう。

しかし、そんな山の中にトイレがある筈もなく、彼女は1人友人から離れて

森の中で用を足す事にした。

友人から離れて森の中に入る。

誰もいないと分かってはいても、どうしても人目につき難い場所を探してしまう

ものらしく、彼女はなかなか用を足す為の場所が見つからずに右往左往していた。

そんな事をしているうちに、彼女の服はびしょ濡れになってしまう。

そして、ようやく目立たない場所を見つけて用を足していると、突然、辺りが

どんどん暗くなっていき強い雨が降り出した。

バケツの水をひっくり返したような強い雨の勢いに彼女は近くに在った大樹

の蔭に隠れて雨に濡れないようにするのが精いっぱいだった。

雨は20分ほどて小降りになったが、相変わらず辺りは暗いままだった。

彼女は突然不安に駆られてしまい大きな声で友人の名前を呼んだ。

しかし、彼女の声に反応するものは何一つ聞こえなかった。

彼女は森から出て出来るだけ開けた場所へと歩いた。

其処は崖の近くに広がる空間ではあったが、そこなら自分の声がもっと遠くまで

聞こえるのではないか、と思ったのだという。

おーい!○○さ~ん!

彼女は友人の名前を叫んだ。

おーい!○○さ~ん!

1人で山を降りる勇気など無かった彼女はそうやって何度も友人の名前を

叫び続けた。

しかし、全く反応が無かった。

まさか、私を置いて1人で山を降りたんじゃ・・・?

そう思うと不安で頭がいっぱいになった。

だから、彼女はこんな叫び声で呼びかけた。

誰かいませんか~!

私はここにいます!

誰か助けて!と。

しかし、そう叫んでもやはり誰からの返事も無かった。

ただ諦める訳にも行かず彼女は、そんな言葉を叫び続けた。

そして、3回目の呼びかけの後、何処からか、

何処にいるの?

という男の子の声が聞こえてきたという。

それは彼女が立っている場所よりもかなり高い場所から聞こえてくる。

しかも、山の上の方はすっかり霧に覆われており、真っ白で何も

見えなかった。

相手が子供なのは不安だったが、とにかく自分の事を認識し助けてくれようと

している者がいる・・・。

それだけで彼女には少しだけ元気が戻った。

だから、彼女はその声に呼応するように、

此処よ!ここに居ます!早く助けて!

そう叫んだという。

すると、またしても霧の中から、

其処だね!逃げないでよ!今すぐ行くから!

という声が聞こえたという。

其処で彼女は初めて疑問を抱いた。

どうしてあんなに真白な霧の中を近づいて来られるのか?

私達を追い越していった者など1人もいなかったはずなのに、どうしてあの子供の声は

此処よりも高い場所に在る霧の中から聞こえてくるのか?と。

それに、どうして子供が1人でこんな場所にいるの?

そう思うと、一気に恐怖が押し寄せてきて彼女は一気に山を下り始めた。

何処をどう降りれば良いのか、は全く分からなかった。

だから、とにかく下に続く道を行けば良い・・・・。

そう思って彼女は必死に山道を走り続けた。

すると、背後から霧がどんどん近付いてくるのが分かった。

どうして突然、霧が近づいてきたのかは分からなかったが、その霧に飲み込まれたら

お終いになる・・・。

そんな確信があったという。

そして、霧が近づくにつれて聞こえてくる子供の声も、より大きくはっきりと聞こえだす。

ねぇ・・・待ってよ~!

すぐに行くからさ~

そう、聞こえてくる声は助ける等とは一言も言っていなかった。

こちらに来る・・・・?

だとしたら、こちらにきて何をしようというのか?

そう考えると恐怖で足がすくんでしまい上手く走れなかった。

すると、彼女の視線の先に信じられないものが映り込んだ。

それはまさに緊急避難用のコンクリート製の建物にしか見えなかったという。

あの建物の中に逃げ込めばきっと助かる・・・・・。

そう思い、彼女は一気に方向を変えて1段低い所に在るその建物へ駆け寄ろうとした。

その時、彼女の背中をガシッと掴む手があった。

小さな悲鳴を開けで振り向くと、其処には驚いた顔の友人が立っていたという。

何してんの!

もうちょっとで死ぬところだったよ?

そう言われて彼女が自分の足元を見ると其処には100メートル以上は在りそうな

断崖絶壁が広がっていた。

あと50センチ前に手でいたら自分は滑落死していた・・・・。

その事実に彼女はその場でへたり込んだという。

その後、友人から聞いた話では、用を足しに行ったきり戻らない彼女を探していると、

突然、彼女が訳の分からない言葉を叫びながら山道を走り降りていくのが見え、

それを追っていくと彼女が崖の方へと向きを変えたので急いで駆け寄り背中の

リュックを掴み、何とか止める事が出来たという事だった。

その間、雨も降っていなければ、辺りに霧も立ち込めてはいなかったという。

だから、彼女も一時的に幻覚を見たのだと思った。

しかし、彼女の証言通り、彼女の着ている服は雨でびっしょり濡れていたし、

そうして話しているうちに、彼女と友人の周りにはうっすらと霧が立ち込め出した

らしく、さすがに気味が悪くなり二人は急いで下山したという事だ。

ちなみに、彼女にそれ以後怪異は起こっていないが、もしかしたら彼女は

その時、全く別の世界に迷い込んでしまっていたのかもしれないし、

少なくとも、その時聞こえた声は彼女を救おうとしたのではなく、殺そうと

していたのではないか・・・・。

そう考えなければ説明がつかない話の様に感じた。


Posted by 細田塗料株式会社 at 23:06│Comments(1)
この記事へのコメント
Kさん、調子よくなってきましたか?
更新サンキューです!!
Posted by surf at 2019年06月17日 00:41
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