2019年06月30日

廃村の女

これは知人男性が体験した話。

彼の趣味はバイクでのソロツーリング。

日本中の何処にでも1人で走っていき、決して立派なホテルなどに泊まる

ことはせず、地元の食堂で普通の食事をして可能ならば道の駅や公共施設を

使わせて貰いその場で寝袋に包まって一夜を明かす。

決してお金に困っている訳ではないのだが、そういう旅をしているうちに、

豪華な旅行てば決して味わえないその土地ならではの慣習や地元民とも

触れ合う事が出来て最高なのだという。

そんな彼がある時、新潟県を通って東北へと向かうツーリングに出た。

彼のバイクは元々大型のツアラータイプだったので、金沢からはずっと

北陸自動車道を使い北上した。

彼のいつものパターンで出来るだけ効率良くさっさと目的地に到着し、其処では

出来るだけお金を使わないようにして地元に溶け込んで過ごす。

彼にとってはいつもの行動だった。

新潟で高速道路を下りた彼は山形県を北上し秋田県に入った。

彼はいつも決して県庁所在地には近づかない。

賑やかな都会が苦手な彼はいつも、少し廃れた地方都市を目的地に選ぶ。

しかも、目的地もその土地に行ってから決めるというのだから、まさに

気ままな一人旅といった感じである。

そして、彼は旧道を使い駅までの道を走っていると1つの集落が道の両側に

広がっているのが分かった。

その場所からはそれほど遠くない場所に満ち波も見渡す事が出来、とても眺めが

良かった。

そこで彼はその場でバイクを停めて、その集落の中を視て廻った。

いわゆる、廃村という奴だった。

彼は1軒1軒、ごめんください、と挨拶しながらしらみつぶしに見て回ったという。

しかし、誰一人姿は見えず、彼はその家々にはとうに誰も住んではおらず、

完全に廃村になっているのだと確信した。

それにしても、家の中は予想外に綺麗だった。

傷みも無く、中には建てたばかりなのではないのか?と思える家も在った。

それを見た彼はいつもとは違う行動をとった。

その家でその日一夜を過ごさせて貰おう、と思ってしまったのだ。

いつものように街まで降りて銭湯を探してひと風呂浴びると、その後は

スーパーで食料とお酒を買い込み、彼はいそいそと再びその廃村に戻って来た。

もう夕方になっていたが、いつも野宿ばかりしている彼にとって廃村は怖い

場所ではなく最高にくつろげる場所だった。

そして、その日の宿を決めようとして廃村に並ぶ家々を見渡した時、

彼は何故か一番新しい家を選ばずに、古い長屋造りの家を選んだ。

古い家ならば間違いなく誰も住んでいないだろう、という考えからの選択

だったが、それ以上に、彼の本能的なものが働いたのかもしれない。

やはり、野宿をしていると色々な事があるらしく、彼はいつでも、いざという時に

逃げやすい場所を寝場所として選んでしまう癖がついていたようだ。

古い家の中の1軒をその日の宿と決めると、彼はそのまま2階へと上がり

道路に面した窓がある部屋に荷物を降ろした。

狭く陰気な畳張りの部屋だったが、その日、道路の上で寝るのに比べれば

天国の様な居心地の良さだった。

飼いこんできた弁当を食べ、缶ビールを2本ほど飲み干した頃には彼はすっかり

酔いが回ってしまい旅の疲れもあったせいか、そのまま知らないうちに眠りに

就いてしまった。

疲れていた彼はとても深い眠りに就いていたのだと思う。

しかし、酷く恐ろしい夢を見て眠りから覚めた。

体中にべったりと汗をかいていた。

彼は喉が渇いている事に気付き、ペットボトルの飲み物を口にした。

そして、しばらくの間、ぼーっと窓の外を見ていたらしいがその時、誰かの

喋り声の様なものが聞こえ、驚いて聞き耳をたてた。

その声はどうやら外の道路から聞こえてくる。

もしかしたら、警察官が巡回していて乗って来たバイクを見つけて、不法侵入が

バレてしまったのかも・・・・。

そう思い、ゆっくりと、そして静かに立ち上がると、そのまま窓際へと近づいた。

そして、そーっと窓の下の道路へと視線を落とす。

すると、そこには20人ほどの女達が無言のまま、斜め前の家に向かってまっすぐに

並んでいた。

その女達は全員が着物を着ており、そして何故か裸足だったという。

こんな真夜中に何をしているんだろうか?

そう思い、じっとその女達を凝視していた彼だったが、次の瞬間、背中が凍りつく

ような気がしたという。

その女達は1人1人順番に、斜め前の家の中へと入っていった。

しかし、その動きは明らかに歩いているのではなく、スーッと滑るように

移動していった。

そして、女達が入ると、家中を細かく回っているのか、部屋のあちこちから

ボウっとした弱い明かりが見えた。

そして、家の中の見回りが終わったのか、その女達が外へ出てきたとき、全員が

まさに彼の方を見て、満面の笑みを浮かべた。

バレてるのか?

咄嗟に身を隠す彼。

しかし、彼の心臓は早鐘の様に鼓動を速くし、まるで蛇に睨まれたカエルのように

身動きが取れなくなる。

どうすればいい・・・・。

このまま隠れていても大丈夫なのか?

そんな事が頭の中を駆け巡るが、考えがいっこうにまとまらない。

すると、彼が寝床にしていた家の1階から、ガタンというもの音が聞こえた。

それと同時に聞こえてくる階段を上って来るような音。

彼はそれまで固まっていたのが嘘のように、一気に立ち上がると窓へと駆け寄り

その窓を開けて小屋根へと飛び出した。

もう、音が聞こえないように・・・という事を考えている暇は無かった。

そして、その小屋根から、雨どいを伝って何とか屋根の上に登る事が出来た。

もしも屋根の上まで追いかけて来られたら・・・・。

そう思うと、生きた心地はしなかったという。

しかし、それから何も彼の耳に聞こえてくる音は無くなった。

それでも恐怖に飲み込まれていた彼には、その場から動く勇気など無く、じっと

身を固くしてその場にへたりこんでいたという。

しかし、それから1時間近くが過ぎたが、やはり下からは何も聞こえてこない。

そして、少し気持ちが落ち着いて来ると、今度は自分のバイクの事が心配に

なった彼は、勇気を振り絞って屋根の端まで移動すると、そうっと下の様子を

確認した。

心臓が止まるかと思った。

其処には、下のの道路に1列で横に並び、じっと屋根の上にいる彼の方を見ながら

不気味すぎる満面の笑みを浮かべ続けている女達の姿があったという。

結局、彼はそのまま屋根の上で固まったまま朝を迎えたという。

そして、朝になっても恐怖が消えなかった彼は、昼頃になってようやく通りかかった

農家の方に大声で助けを求め、結局、警察の方が助けに来るまで、その屋根の上から

降りる事が出来なかったそうだ。

警察官から、こっぴどく叱責された彼だったが、そのまま警察へ連れて行かれる

事も無く、厳重注意だけで解放されたという。

そして、その際、昨夜体験したことを話した彼は、警察官に尋ねたそうだ。

あの女達は何なんですか?

それに、この廃村には本当に誰も住んではいないんですか?と。

すると、警察官は困った顔をして、

まあ、その地域ごとに色々と事情があるから・・・・・。

それに知らない方が貴方の為だと思いますよ・・・・。

そう言われて、逃げるようにその場からバイクで走り去ったそうだ。

そして、実は彼はそのツーリングの帰り道、命にかかわる程の事故に

巻き込まれている。

もしかしたら、その時見た女達が何か関係しているのでは?

俺にはそう思えて仕方がないのだ。


Posted by 細田塗料株式会社 at 20:30│Comments(0)
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