2019年07月11日

その日も彼女は仕事が終わりバスで最寄りのバス停まで移動し、そこから

徒歩で家路を急いでいた。

子供が大きくなり、再び仕事に就いた彼女だったが、やはり仕事と家事の

両立は大変だった。

だから、最初は出来るだけ人気の多い大通りを通って帰る様にしていたが、

慣れてくると時間が勿体なく感じるようになり、いつしか出来るだけ

直線距離で自宅へと向かえる道を探して歩く様になっていた。

実際、バス停から自宅まではそこそこ距離があったので、道をショートカット

することでかなりの時間を短縮出来たという。

とても道とは呼べないような場所を周りの目を気にしながら歩く。

最初はそれが苦痛ではあったが、慣れてしまえば全く気にならなくなり、

いつものようにいつもの道を歩くだけ・・・。

そんな感覚だったという。

ただ、1カ所だけ、どうしても慣れる事が出来ない場所があった。

それは家と家の間を通り抜けるような道であり、両側に古く壊れかけた

家が建っており、そこだけはどうしても落ち着かなかった。

誰かの目が気になる・・・というのではなかった。

その場所を通ること自体が気味が悪かったのだという。

しかし、時間短縮という大義名分の前では、そんな不安感など気にして

いられる余裕は無かった。

そして、その日、彼女はいつものようにその場所までやって来た。

いったん立ち止まった後、彼女は大きく深呼吸してから再び歩き出す。

向って右の家は良くある古い木造の日本家屋。

そして、左の家は、まるで倉庫の様な形をした洋館という形容がピッタリ

くるような造りだった。

彼女は少し早歩きになってその家の間の隙間を進んでいく。

どうせ、どちらの家にも人など住んでいる筈が無かったから、そういう意味では

気が楽だった。

そして、ちょうと真ん中辺りまで進んだ時、彼女は思わず、ヒッという声を

出してその場に立ち止まった。

左の洋館の少し窪んだ場所に在る扉が少しだけ開いていた。

そして、そこから誰かがこちらを見ている。

睨みつけるような怖い顔の男がその隙間から顔半分を覗かせていた。

彼女は一瞬固まっていたが、ハッと我に帰ると、小さな声で、すみません!

と呟き、その場から逃げるように走り去った。

今まで誰も住んでいないと思っていた古い家に誰かが住んでいた。

そして、その道を通る彼女を怖い眼で睨んでいた。

その事実が恐ろしかった。

しかし、家に帰るといつものようにバタバタとした家事に追われることになり、

彼女はすぐにその時の恐怖を忘れてしまった。

そして、その夜、二人いる子どもの1人が階段から転げ落ちた。

打撲と捻挫程度で済んだらしいが、それでもおかしな事を言っていた。

階段を降りようとした時、誰かに階段の上から押された・・・と。

しかし、怪我も大した事が無かったので、きっと気のせいに違いない、と

いうことで、そのまま有耶無耶になってしまった。

そして、その翌日、彼女は不思議な行動をとる。

前日、あれほど怖い思いをしたというのに、またあの道を使い、そして

古い家の間を通り抜けようとした。

自分でも何をしているのか、分からなかった。

まるで、何かに操られる様にして、その道を通ってしまった・・・と。

そして、彼女は再び、左側の家で、前日と同じ男を見てしまう。

扉は前日よりも少しだけ大きく開き、そしてそこから覗く男の顔が全てはっきりと

見えたという。

その瞬間、彼女は前日と同じように、その場から逃げる様にして走り去った。

そして、その夜、また彼女の家ではもう一人子供が足に火傷を負った。

今度は酷い火傷だったので、すぐに病院へと連れていった。

そして、その時も、突然誰れかに突き飛ばされた、と子供は証言した。

そんな感じで、彼女は毎日、気が付くとその場所を通り、そして、睨んだ顔の

男の顔を見た。

そして、その男が覗く大きな扉が少しずつ開いていくのがはっきりと分かった。

それでも彼女はその道を通るのをどうしても止められなかった。

自分の意志ではどうしようもない、操られているような感覚。

そして、その度に、家に帰ると家族の誰かが怪我をする事になっていた。

そして、何日目だっただろうか・・・。

彼女がいつものようにその場所を通ると、扉が殆ど開いており、そこには

満面の笑みを浮かべる男が立っていた。

そして、その夜、彼女自身が大怪我を負った。

2階のベランダで洗濯物を干していた時、何故かバランスを崩してそのまま

地面まで落下した。

死んでもおかしくない程の大怪我だった。

彼女はそのまま長期入院を余儀なくされた。

そして、その時、彼女は初めて家族にその場所を通ると現れる男の話をした。

そして、その場所を通るたびに、家族が怪我をしたのだ、という事も

しっかりと話したという。

そして、何とか彼女が退院し、普通の生活を送れる様になった時、夫が

こう言ったという。

何かその場所に魅入られてしまっている様だから、一度一緒にその場所を

見に行かないか?と。

その場所に固執し恐れ、それでも頭から離れないのは彼女自身が一番

分かっていた。

だから、夫からの提案を彼女もすぐに了解した。

そして、彼ら夫婦はすぐにその場所に向かった。

夫もその場所に何があるのか、しっかりと自分の眼で確認したかったらしい。

そして、その場所に到着した彼女は思わず絶句してしまう。

少しだけ開いていた扉がどんどん大きく開いていく様になった扉。

その場所には扉など無く、あるのは錆びて朽ち果てどうやっても開きそうもない

大きなシャッターだけだった。

自分はいったいその場所で何を見ていたのか?

そして、その場所に立っていた男はいったい何なのか?

どうしてその男を見た後、必ず家族の誰かが怪我をする事になったのか?

それらはいまだに全く分からないのだという。




Posted by 細田塗料株式会社 at 22:13│Comments(0)
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