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2019年06月09日

誰も乗っていない・・・・。

これは警察関係に勤務している知人男性から聞いた話である。



彼が勤務しているのは警察の中でも交通関係の部署になる。



友人達で飲み会があったりすると、いつも友人達から攻撃の的にされている。



車を運転している者なら、殆どの人が最低でも1度や2度は警察に捕まって



高い違反金と罰則点数を科せられているのではないかと思う。



だから、そんな時には皆のそんな不満が彼に集中砲火となって注がれる。



もっとも彼が悪いのではなく悪いのはあくまで交通ルールを守らなかった



本人だとは分かっているのだが、やはり友人という事もあり、日頃、警察官に



面と向って言えない愚痴や不満が一気に爆発してしまう。



中には、今度からお前に連絡するから、違反点数だけでもなんとかしてくれ!



と頼み込む奴もいるが、実際、過去にはそんな事がまかり通っていた時代も



あったらしいのだが、今では全てがしっかりと管理されておりそんな不正行為は



例え、警察署長本人であっても無理なのだと断言していた。



そして、俺は以前、オービスという速度自動監視カメラによって2度捕まっており



それに関する不平不満を言った事がある。



そして、彼は俺をなだめる様に諭しながら話してくれたのがこんな話だ。



オービスは完璧で絶対なのか?と聞く俺に対して彼は、



まあ、機械だから人間の感情が入らないだけ正確だとは思うけど・・・・。



でもな・・・・オービスに写った画像の中にはごく稀に使用できない画像が



あるのも事実だな・・・・。



そう言ってから、彼は不思議な話を始めたのだ。



まず、オービスに映るのは人間だけではないという事。



勿論、ハンドルを握るドライバーが写っている訳だが、その助手席には



ありえない程の大きな女がドライバーの顔を覗き込んでいる。



また、車の屋根に張り付くようにして男が車内を覗き込むのが写っていたり、



ドライバーの背後に写る不気味な顔と、そして後部座席からドライバーへと



伸びる無数の長い腕が写り込むこともあるらしい。



更に、スピード違反をしてオービスのカメラが作動した際、そこには真っ黒な



影が写り込む場合もあるらしい。



そして、どうやら、その影というのは高所にあるカメラを覗き込む人の顔らしく、



その不気味な



顔は一度見てしまったら忘れる事は出来ないそうだ。



そして、最も多いのが、オービスに写された車の運転席に誰も座っていない事が



あるそうだ。



勿論、無人の車であり、そんな車がヘッドライトも点けず、夜の国道や高速道路



を走っている。



当然、そんな場合でも車のナンバープレートはしっかりと撮影されているから、



車のナンバーからドライバーを特定しようとすると、必ずと言って良いほど、



車は既に廃車手続きがされており、そしてドライバーも事故で亡くなっている



のだという。



また、山間部を走る高速道路などでは、車以外のモノが写り込む事が



あるのだという。



それは、白い着物を着た人間の列。



速度超過の車が撮影された際、偶然にそんなモノが一緒に写る事があるのだという。



そして、その人の列は、車が走っているのもお構いなしといった感じで、



高速道路を横切っているらしい。



そして、そんなものが写り込んだ場合にはしっかりと、そして迅速にそのデータは



削除されるそうだ。



そして、そんな不思議なモノが写り込む中でも最も厄介なのは、ハンドルをしっかりと



握り高速で車を走らせているドライバーの横で、ニタ~ッと笑いながら



オービスのカメラへ顔を向けて笑っているモノ達だという。



オービスがフィルム式のカメラを使用していた頃は、そんなモノが写ると、



そのネガはすぐにお祓いを受けて然るべき場所へと保管される。



そして、現在のようにデジタル式となった場合でも、そんなモノが写った場合、



すぐにデータは消去される。



しかし、データが消えない場合が殆どであり、更に、その画像を見てしまった者



全てに怪異が発生するらしい。



在りえないモノを見てしまったり,事故に巻き込まれたり・・・・。



中には命を落とす者までいるというのだから、厄介な話だ。



そして、最も厄介なのは、その車はカメラに写った後、間違いなく、その先の道で



大きな事故を起こし、そしてドライバーが死亡しているのだという。



ここまで話し終えて、彼は、



ほらな・・・警察も大変なんだよ・・・・。



とふざけて見せる彼だったが、その眼は笑っているのではなく、明らかに



何かを恐れている眼をしていた。



そして、そんな話を聞かされた時、俺はある記憶を思い出した。



その時、俺は家の用事で、北陸自動車道(高速道路)を大阪に向けて車を走らせていた。



時刻は午後11時を回っていたと思う。



そんな真夜中の北陸自動車道になると、通行する車は少なく、たまに見かけるのは



長距離トラックのドライバーくらいのものだった。



そして、福井県の敦賀トンネルに差し掛かった際、突然、カーオーディオの音が



小さくなった。



気のせいか?とも思ったが、しばらくすると音楽は聞こえなくなり、その代りに



読経のような声が聞こえてきた。



どうしてカーオーディオからそんな声が聞こえてくるのか理解出来なかったが、



次第にその声はスピーカーというよりも車内全体から聞こえる様になった。



俺は思わず、カーオーディオの電源を切った。



一瞬、訪れる静寂・・・・。



だが、次の瞬間、俺は確かに聞いた。



何処まで行くの・・・・・・?



もっと速く・・・・・もっと早く・・・・・。



という声を。



その声は確かに後部座席から聞こえてきた。



過去にも似たような経験があった俺は決して後ろを見ない様に、前だけをしっかり



見て運転を続ける。



その時の俺は冷静を装ってはいたが、かなり焦っていたのかもしれない。



後部座席から聞こえてくる声はどうやら子供の声の様であり、そしてその声は



少しずつだが確実に運転する俺に近づいて来ているのが分かった。



トンネルの中を走る俺はスピード感が全く掴めなかった。



そして、ふと、スピードメーターを見ると、時速150キロを超えていた。



ヤバい!



そう思った俺は、アクセルから足を離すと同時に軽くブレーキを当てた。



その瞬間だった。



突然、ハンドルが大きく左に切られた。



バランスを崩す車を必死に立て直そうとするが、車はトンネルの中を右に左にと



大きく蛇行して進む。



そうしているうちに、次第に速度が落ちてきたのが分かった俺は一気にブレーキ



ペダルを踏み込んだ。



車はトンネルの蔭すれすれのところで斜めになりながらも停止した。



心臓が早鐘の様に鳴り続けていた。



そして、俺は確かにその声を聞いた。



ちぇっ・・・・つまんないの・・・・。



という声を。



車を何処にもぶつからせずに停止出来たのは奇跡に近かったし運が良かったとしか



言えなかった。



いや、一つ間違えば間違いなく壁に激突して死んでいたのだと思った。



後方から車が来ていないのを確認した俺は再び車をゆっくりと発進させた。



すると、目の前に在りえないものが視えて、俺はまた急ブレーキを踏んで



停止した。



俺の車の5メートル位前には、白い囚人服のようなものを着た無数の男女が



トンネル内を横断していた。



全員がこちらを見ながら、ゆっくりと進んでいた。



しかも、それは歩いているというよりも、立ったまま前方に滑っているような



不思議な動き方だった。



そんな無表情な男女の中に僅かだが子供の姿も視えた。



そして、子供だけは何故かうすら笑いを浮かべている。



固まったように俺は動けなくなっていた。



早く目の前の人の列が通り過ぎて欲しかったが、なかなか前へと進まない。



俺はその時、思った。



もしかしたら、俺は生きてこのトンネルから出られないのではないか?と。



その時だった。



後方から大きなトラックが近づいて来てトンネル内で停止していた俺に



けたたましくクラクションを鳴らした。



一瞬、ビクッとして俺はその人の列から視線を外した。



そして、トラックが近づいて来た時、俺の目の前に居た人の列はまるで何かに



吸い寄せられるかの様に、横を通り過ぎていくトラックの車体へと



貼りつくのが視えた。



そして、俺の前からトラックも人の列も一瞬で消えていった。



大きく深呼吸した俺は、そのままゆっくりと走り、次のサービスエリアに



入って朝が来るのを待った。



朝になり、出発しようとした時、サービスエリアの掲示板に事故渋滞という文字が



表示されていた。



大型トラックの単独事故で死者が出た事も伝えていた。



もしかしたら、あの時のトラックが・・・・。



そう思った俺は、次のインターチェンジで高速から降りるとそのまま国道を



は知って目的地へと無事に着く事が出来た。



あの時、もしかしたら、自分が死ぬ運命だったのか、と思うと今でも



恐ろしくなる記憶の一つだ。
  


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2019年06月09日

古いアパート

それは知人女性からの突然の依頼だった。



相談に乗って欲しいと頼まれた俺は、次の日曜日に彼女に会う事にした。



待ち合わせの喫茶店に少し早く着いてしまった俺だったが、驚いた事に既に



彼女がその店に座ってぼんやりと窓の外を見つめているのを見つけた。



声をかけると、彼女は少しだけ微笑むと小さくお辞儀をした。



疲れているからなのか、まだ30代の彼女はやけに老けて見えた。



どうしたの?・・・・突然・・・。



そう切り出すと彼女は深いため息をついてから、こう話し出した。



実は、半年ほど前に祖父が亡くなったんです。



それなりの資産家で、遺産の整理の際には、とても荒れてしまって・・・。



でも、何故か祖父の遺言で私が祖父が所有していたアパートを相続する事に



なったんです。



そのアパート自体は、古い建物で、資産価値も残っていない様な物なんですけど、



一応、部屋は満室で・・・・。



でも、家賃も安いから、アパートの修繕なんかを計算に入れると、利益なんて



殆ど出ないんです。



だから、最初の頃は、なんか凄いお荷物を相続しちゃったな、って感じで。



でも、違ったんです。



なんか、そのアパートの十院の方達はとても素敵な人ばかりで、毎日顔を



会わせているうちに、凄く仲良くなってしまって・・・。



その時、初めて気付いたんですよね。



祖父が私に何を託したかったのか?



だから、そのアパートは今ではもう私の生き甲斐にさえなってしまって。、



そこまで聞いた俺は、



それなら、全然問題無いんじゃないの?



なのに、どうして、そんなに暗い顔をしてるの?



と聞き返した。



すると、彼女は、更に深いため息をついて、俺の顔をまじまじと見つめながら



こう続けた。



実は・・・・出るようになってしまったんです・・・・幽霊が・・・。



ちょうど近くに在った廃ビルが取り壊された時から始まったんですけど。



最初は声が聞こえたり、物音が聞こえる程度だったんです。



でも、段々とエスカレートしてきて・・・・。



夜になると、住人の方達が幽霊を見るようになってしまって。



階段に男の人が立っていてスーッと消えたり、廊下にも女の人が立って



手招きした後に消えたり・・・・。



でも、住人の方達も、やっぱりそのアパートが大好きなので、怖いけど



何とか我慢していたんです。



でも、それからもどんどん酷くなっていって・・・。



寝ている時に首を絞められたり、階段から突き落とされたり・・・・。



そんな感じで実害が伴ってしまうと、さすがに住人さん達も堪らなくなって・・・。



1人、また一人という感じでアパートから出ていってしまって・・。



残ってるのはもう数人だけ・・・。



アパートに住んでいらっしゃった方達は、皆さん経済的に余裕がなくて、そして



何処にも身の拠り所が無い方達ばかりなのに・・・・。



だから、私は一刻も早く、あのアパートを以前と同じように明るくて平和な



アパートに戻して、そして出ていった住人さん達を呼び戻してあげないと・・・。



そこで、以前、霊的な事を相談した事があったKさんを思い出して・・・。



Kさんなら何とかしてくれるんじゃないかな・・・・って。



やっぱり無理ですか?



そこまで、聞いて俺は、



まあ、俺一人じゃ無理だけどね・・・。



で、その幽霊っていうのは、貴女も視たの?



首絞められたり階段から突き落とされたり、もした?



と尋ねた。



すると、彼女は首を横に振って、



私に実害はありませんでした。



でも、私もはっきりと視たんです。



1人とか2人という感じではなくてもっと沢山の霊があのアパートに何故か



集まって来てるみたいで・・・・。



そこまで、聞いた俺は、



あのさ・・・・解決する為にある程度のお金って用意出来る?



と聞くと、彼女は、



相場っていうのが分からないんですけど30万・・いえ50万位なら・・・・。



と返してきた。



そして、



あの・・・・前金の方が良いんですかね?



と聞いてくるので、俺は、



いや、そんな大金必要無いし、現金も必要無いから・・・・。



現物支給が良いみたいだよ・・・・。



あっ、それといつもなら高価でちょっと手が出ないくらいの美味しいスイーツの店



って知ってたりする?



と返した。



彼女は意味が分からないという顔をしていたので、俺はすぐに携帯を取り出して



Aさんに電話をかけた。



はい?もしもし・・・・。



相変わらずの面倒くさそうな返答。



だから、俺はいつものように手際良く用件を伝えた。



すると、Aさんは、



まあ、分かりましたけど・・・。



でも、今、本当に忙しくて手が離せないんですよね!



Kさんみたいに暇なら良かったんですけど・・・。



それに話を聞いた感じだと、そんなに悪質なモノではない気がします。



急がないと誰かが死ぬ・・・・とか。



だから、今回はKさんが1人で対応してください。



そう言われた俺は、



俺が1人でやれる訳ないでしょ?



と返すと、



ちゃんと方法は教えますから、大丈夫ですよ!



それに基本的にKさんは何も危険な目に遭わなくても良いんですから。



いいですか。



良く聞いてくださいね。



まず、そのアパートの住人には、一時的に部屋を出てもらいます。



それから、ここが重要なんですけど・・・。



霊感がゼロの知り合いを集めてください。



そのアパートの部屋の数だけ・・・。



出来れば、Kさんみたいに、ぼーっとしている人が、よりベターです!



そして、その人達にバイト代を支払ってアパートのそれぞれの部屋に一時的に



住んでもらいます。



それだけで、大丈夫ですよ!



そう言われた。



だから、俺は、



あのさ・・・もつと霊感の強い奴とか守護霊が強い人とか、そういう人が居た方が



良いんじゃないの?



それに、Aさんが忙しいんなら、代わりに保険として姫にもその部屋に住んでもらう



とかした方が良いんじゃないの?



と返した。



するとAさんは、深くため息をついて、



本当に予想を裏切らないボケっぷりですよね?



ちゃんと、起きてますか?



あのですね。



私の意図する真意というものを全く理解していないみたいですけど・・・。



今回のやり方だと、霊感がある人間が居てはいけないんです!



しかも、姫ちゃんも忙しいだろうし、それに姫ちゃんに協力させたりしたら



霊も綺麗に浄化出来る代わりに、そのアパートも木っ端みじんになるかもしれません。



あの娘、まだ力のセーブが上手くないですから・・・・。



大丈夫てすよ。



きっとうまくいきますから・・・・。



そう言って電話は切れた。



だから、俺は仕方なくAさんの言われたとおりに、出来るだけ霊感がゼロの知人を



集めてそのアパートに送り込んだ。



事情を話すと、それぞれが格安のバイト料で協力してくれた。



そして、結論として、1週間も経たずに、そのアパートで怪異が起こる事が



無くなった。



彼女はすぐに元の住人達を呼び戻し、今では以前と変わらない穏やかな生活を



送っているそうだ。



そして、後日、Aさんと会う機会があり、その時の事を聞いてみた。



すると、Aさんは面倒臭そうに説明してくれた。



あのですね・・・・あの時電話で事情を聞いた時、思ったんですよ。



なんか人間の地上げ屋と似てるな・・・って。



そんな霊障の事例って良くあるんですけど、要はそれまで住処にしていた



場所が無くなった事で霊達が新しい住処を探していたんだと思います。



そして、その古いアパートが目に止まった。



なんか、住みやすそうだな・・・って。



そうなったら、霊達も死活問題ですから、何としてでも其処に居る人間を



追い出そうとしますから・・・。



大怪我させたり殺したりするつもりはないけど、少し痛い目に合わせて、そして



怖がらせて・・・。



確かに普通の人間だとキツイかもしれませんけど、霊感が限りなくゼロに近い人間



にとっては、全く何も感じないんですよ。



どんなに嫌がらせをしても全く気付いてさえもらえないとしたら、霊達だって根負けして



そのアパートを諦めるのが普通ですからね。



だから、あの時は霊感がある人はNGだって言ったんです!



理解できましたか?と。



確かに、Aさんが言ったとおり、そのやり方であのアパートから霊達を



排除する事は出来た。



だから、俺はこう言った。



それじゃ、これからはもっと霊感がゼロの人間といっぱい知り合うようにしなきゃ、と。



すると、Aさんは、冷たい眼で俺を見ながら、



本当にいつもおめでたい人ですよね・・・・。



そういうパターンはごく稀なケースですから・・・。



その殆どが、その土地とか其処に住んでいる誰かに恨みがあって霊障を起こします。



霊感ゼロの強みが活かされるのはせいぜい低級霊です。



悪霊とか怨霊になったら、もうそういうのは関係ありませんからね!



って、こう言う話、以前にもしませんでしたか?



一度聞いた事はしっかりと頭に叩き込んでくださいね!



そんな事だから、いつまで経っても雑用係りのままなんですよ!



と、怒られてしまった。



その後、彼女からそれなりの金額の謝礼が届けられたが、スイーツ代だけを



差し引いて、そのまま返却したのは言うまでもない。

  


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2019年06月09日

バケモノ

バケモノという言葉の定義は色々あるのだと思う。



容姿が人間離れしている状態のモノ・・・・。



その能力が常識を逸脱しているモノ・・・・・。



今回は、そんなバケモノについての俺の体験談を書いていこうと思う。



その時、俺は困り果てていた。



以前、付き合いのあった心霊スポットマニアの仲間から、無理難題を押し付けられ



そして、それを拒みきれずに、承諾してしまった。



その無理難題というのがとても厄介なものだった。



それはもうかなり昔の話になる。



以前、その仲間たちと頻繁に心霊スポットに出向いていた俺は、とある心霊スポット



を探索した際、仲間の大切なバッグをその場に置いて逃げてきてしまった。



勿論、そのバッグを取りに戻っていたとしたら今の俺はここには居ないのだと思う。



それくらい危険な場所だった。



その当時は、その場に居た全員が命が助かった事だけを喜び合ったのだが、時間が



経つにつれて、やはりそのバッグを失った事が惜しくなったのかもしれない。



バッグの中には高価なカメラやライトが入っていたそうで、勿論、そんな物を



俺が弁償する余裕など無かった。



それに、その場所というのは今では完全にいわくつきの場所になってしまっており、



その場所に行くだけで呪い殺されると言われるほどの禁忌の場所として



心霊スポットマニアの間でも認識され、そして敬遠されてきた。



だから、俺が1人でそんな場所に行ける筈もなければ、Aさんや姫をそんな



危険すぎる場所に同行させる訳にもいかなかった。



勿論、唯一、相談できる相手である、富山の住職には、その悩みを打ち明けてみた。



すると、帰って来た返事は、



ああ・・・あそこはどう考えても無理だろ?



だから、俺が一緒に行ってもどうしようもないぞ・・・。



悪い事は言わないから諦めるんだな・・・・。



そんな言葉だった。



だから、俺自身、気付かないうちにかなり暗い顔をしていたのかもしれない。



ある日、Aさんから電話がかかって来た。



俺が電話に出ると、



相変わらず暗い声ですよね・・・・。



そんなんじゃ、不幸ばかりが寄ってきますよ?



それに、こんなに綺麗な女の子が電話かけてきたんですから、もう少し位



嬉しそうな声でしゃべったらどうてすか?



と言われた。



俺は、



え?何の用?



それに、綺麗な女の子って誰なの?



Aさんの横に綺麗な女の子でも待機させてくれてるの?



そう返した。



すると、しばらくの沈黙の後、



まあ・・・・今日は勘弁しておきますけどね・・・・・。



ところで、今度の日曜日は私も姫ちゃんも空いてますから!



何か私達に頼みたい事があるんなら、今回だけは無条件で力を貸しますけど?



そう言われた。



ただ、俺としてはこんな事にAさん達を巻き込みたくはなかったから、



いや、別にAさん達に、頼む様な事は無いけど・・・・。



と返すと、



まあ、Kさんの顔を見てれば分かりますから・・・。



それじゃ、今度の日曜日に迎えに来てくださいね!



そう言われて電話は切れた。



俺はそれからかなり悩んでしまったのだが結局、他の解決策が見つからず、



Aさんの好意に甘える事に決めた。



前日の夜から眠れなかった俺は、そのまま殆ど寝ない状態のまま、Aさん



を車で迎えに行った。



Aさんは珍しくマンションの前で待っていたくれた。



そして、俺に難題を持ち込んできた昔の仲間と合流して現地へと向かう。



車の中で、俺はAさんに事情を説明しようとしたが、俺が話しだす前に、



大丈夫ですよ!・・・・わかってますから・・・・・。



それだけ言うと、持参したお菓子を口いっぱいに頬張って楽しそうにしている。



しかし、これだけAさんとの付き合いも長くなると、色んな事が分かってくる。



それは、厄介な時ほど、Aさんが食べるお菓子の量が増えるという事。



そして、今回もAさんは大量のお菓子を食べまくっている。



そうやって少しでも気持ちを落ち着かせているか?と思うと余計に申し訳ない



気持ちでいっぱいになる。



そして、俺はある事に気付いてAさんに聞いてみた。



あのさ・・・・姫は今日は来ないの?と。



すると、Aさんは、



ああ・・・あの娘は今日は別行動です・・・・。



そう言われてしまった。



そして、いよいよい現地に到着した。



目の前に広がっている森は相変わらず不気味な雰囲気で、当時の恐怖が



ふつふつと蘇ってくる。



俺はAさんの後に続いて歩き、一緒に来たかつての仲間は車の中で待機する



事になった。



暗い森を歩いてく。



音が消えて様な空気の中、俺とAさんの足音だけが響く。



そして、Aさんがお菓子を食べている音も・・・・。



だから、俺はAさんに聞いてみた。



あのさ・・・やっぱりAさんでも怖いの?と。



すると、Aさんは前を向いたままで、



私、新発売のお菓子には目が無いんです!



それに今食べているのは、大当たりのお菓子で!



完全に噛み合わない会話に、背中が寒くなる。



森を抜けると、小さな洞窟が口を開けていた。



あの時の悪夢が蘇る・・・・。



あの時、奇跡的に助かった俺達だったが、その時の恐怖はいまだに鮮明に



覚えていた。



だから、俺はAさんにこう言った。



あのさ・・・引き返すなら今のうちなんだけど?と。



すると、Aさんは、



こんな辺鄙な所まで来たのに引き返す訳ないじゃないですか・・・・。



それに、Kさんは、此処でコテンパンにやられたんでしょ?



それなら、今度はやり返さないと!



そう言ってどんどんと前へと進んでいく。



洞窟の中に入ると、そこには朽ち果てた木材で作られた小さな手摺が前方へ



と続いていた。



やはり、この場所はあの時のままだった。



いや、きっと以前来た時よりも空気が重くそして、冷たく感じた。



やはり、此処は人間が決して近付いてはいけない場所なのだと背筋が凍りつく。



そして、その緊張感とは対照的に、Aさんはマイペースでお菓子を口へと



運び続けている。



このまま100メートル程行くと、行き止まりになっていて、其処には大きな



祠が在ったはずだった。



そして、当時、それを見た途端、俺達は異形のモノ達に追われる羽目になった。



あれらの異形のモノ達にAさんは対応出来るのだろうか?



このままAさんまで巻き込むのだけはどうしても避けなければいけない。



そう思った時、目の前に女の下半身だけが洞窟の天井からぶら下がっているのが



見えた。



俺は咄嗟に、



Aさん、ヤバい!逃げよう!



そう叫んだ。



すると、Aさんは、無言のまま前へと進んでいき、天井からぶら下がっている



下半身を掴み、それを一気に引きずり落とす。



あ~、ウザい!



邪魔なのよ、あんた達!



呆気に取られている俺を無視したまま、Aさんはどんどんと前へ進む。



その様はまさに無人の野を行くかのように無敵だった。



目の前に立つ異形のモノ達を突き飛ばし、蹴り飛ばし、罵声を浴びせ、



罵る・・・・。



霊体は触れない・・・という一般常識を完全に覆した様な無法状態。



俺はその時、自分自身、意外な感覚に襲われていた。



あれほど恐れていた異形のモノ達が、今では可哀想に思えてしまう。



そして、本当に恐ろしいバケモノはこちら側に居たのだ、という事に



改めて気付かされた。



すると、後ろから、誰かが駆け足で近付いてくるのが分かった。



新手の偉業なのか?



そえ思った俺はAさんにこう叫んだ。



何かが後ろから近づいてくる!



どうする?と。



すると、Aさんは冷めた声で、



え?ああ・・・たぶん、姫ちゃんですよ・・・・。



とぼそりと言った。



そして、俺が振り返ると、確かに姫がこちらへと走ってくるのが見えた。



そして、姫は俺の前で立ち止まると、



あっ・・Kさん、お久しぶりです・・・・。



少し怖かったですけど私もKさんの為に頑張りましたから~



そう確かに言った。



だから、俺は



え?何を頑張ったの?



と聞くと、今度はAさんが、



この辺り一帯の浄化と、そして此処に居るモノ達が此処から逃げられない様に



強い結界を張ってもらったんですよ!



と、ぶっきらぼうに答えた。



そして、Aさんと姫は、二人並んで洞窟の奥へと突き進んでいく。



その頃には洞窟の中には、何かのうめき声のようなものが鳴り響いていたが、



俺の視線は今、目の前に居る二人に釘づけになっていた。



暴言を吐きながら、どんどんと異形の霊達を消していくAさん。



そして、



すみませ~ん・・・・。



ごめんなさ~い・・・・。



と言いながら、一瞬で霊達を消し去っていく姫。



まさにバケモノと呼ぶにふさわしい2人の姿だった。



そして、あっさりと突き当りまで進んだ二人は、さっさと其処に置いてあった



バッグを手に取ると、何事も無かったかのように世間話をしながら戻ってくる。



洞窟の中にはもう怪しい気配も重たい空気も、そして冷たさも全てが



消え去っていた。



そして、バッグを仲間に渡した時、彼の態度も完全に豹変していた。



まるでバケモノでも見るかのような畏怖の眼でAさんと姫を見ているその瞳は



完全に怯えきったものだった。



そして、そこから車で帰る際に、俺はAさんにこう言われた。



まあ、今回の事はしょうがないですけどね・・・・。



でも、普通ならKさんほど強い守護霊を持っている人なら、あんな場所なんて



どうって事無いはずななんですけどね?



だいたい、その当時、Kさんが助かったのも奇跡でも偶然でもなく、その強い



守護霊のお蔭なんですから・・・・。



そんだけ強い守護霊が付いていたら、ほとんどの霊は何も手出し出来ませんから。



まあ、宝の持ち腐れ状態ですよね!(笑)



そう言って笑われた。



それから、俺は車を運転しながら、Aさんから馬鹿にされ、そして姫から



慰められながら、の時間を過ごす事になった。



まあ、でも、こんなバケモノ達となら、一緒に過ごすのも悪くない・・・。



そして、このバケモノ達が、いつまでも俺の側に居てくれる時間が続けば



良いのにな・・・・。



そう思わせてくれた体験だった。
  


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2019年06月09日

見舞客

これは知人が体験した話。



彼女は今でこそスポーツジムに通い、運動をして汗をかくのが何より



楽しいと言っているが、以前はかなり深刻な病でずっと病院に入っていた



のだという。



今の彼女からは全く想像がつかないが・・・・。



それは、彼女の子供が小学校にあがる頃までさかのぼる。



最初は風邪をこじらせただけ・・・・。



そんな感じだった。



しかし、病状は日を追うごとに悪化していく。



連日、沢山の見舞客がやって来て、彼女を励ました。



その度に彼女の両親や夫は、丁寧に対応し心から感謝の気持ちを伝えた。



しかし、沢山の見舞客の励ましも届かず、彼女の病状は悪化の一途をたどる。



医者にも原因は分からなかったという。



しかし、原因が分からないまま悪化していく病気というのはこの世の中にまだ



沢山存在しているらしく、医者は対処療法で治療するのが精いっぱい



だったという。



彼女は、やがて、ベットから起き上がれなくなり、寝たきりの状態に



なった。



食事も摂取する事は出来なくなり、栄養は全て点滴で賄われるようになる。



そして、そこまで病状が悪化していくと、それまで沢山来てくれていた



お見舞客もどんどんとその数を減らしていく。



やはり、親しい人がどんどんと弱っていくのを見るのは辛く悲しいものであり、



出来る事なら、そんな姿は見たくはない。



だから、見舞客が減ってしまったのも、ある意味理解出来る。



しかし、そんな状態になっても、毎日、それこそ、一日に何度も、相変わらず



見舞いに来てくれる夫婦がいた。



家族は何度もその夫婦に、彼女とはどういう関係なのか?と尋ねたらしいが、



ちょっとした知り合いです、というだけでそれ以上は一切語る事は無かった。



家族は、そんな夫婦に対して、感謝こそすれ、疑う事など出来る筈もなかった。



しかし、見舞客がいなくなり、そして、その夫婦だけが毎日、何度も見舞いに



来るようになると、彼女の病状は更に悪化していった。



手足も動かせなくなり、意識が無くなる事が多くなった。



そうなると、その夫婦は毎日、それこそ一日中、病室に詰めて彼女に付き添う



様になっていく。



そして、それは彼女が集中治療室に移されてからも続いたという。



普通、ただの見舞客が簡単に集中治療室に詰める事など出来ないと思うのだが、



どうやら、その夫婦は、看護師たちには彼女の親戚だと嘘をついて、



彼女の傍に付き添う事を許可されていたようだった。



ただ、その夫婦はいつも悲しそうな顔ではなく、どこかワクワクした様な顔



で彼女の生命維持装置の動きを見守っていたそうであり、看護師の中にも



そんな夫婦に対して、懐疑心を抱く者もいたらしいが、その頃は彼女は



いつ亡くなってもおかしくない程の状態だったので、その親戚だという



夫婦に対して、咎めるような事を言えるはずもなく、それは自然と



黙殺されるようになっていく。



そして、その頃、実は彼女にはその夫婦の姿が見えていたのだという。



彼女にとって、見た事も無い夫婦だったし、どうしてそんな見知らぬ夫婦が



自分に付き添っているのか、全く理解出来なかったらしいが、その頃には



彼女は身動きも出来ず、喋る事も出来ない状態になっていたから、それを



誰にも伝える事は叶わなかった。



そして、どうやら、その夫婦は彼女の夢の中にも現われては、



早く楽になれ!



と繰り返し囁いてきたのだという。



そして、その頃から、彼女はこう思い始める。



もしかしたら、私の病気がこれほど悪化したのも、この夫婦のせいなのでは



ないのか?と。



この夫婦は私に早く死んでほしいと思っている。



そして、その為に、私の傍から離れずにいる。



そんな風に確信していた。



しかし、それが分かったとしても既に手遅れだった。



それを周りの家族に伝える術はもう残されてはいなかった。



周りにいる家族達は、皆、その夫婦に感謝している。



その正体も知らないままに・・・・。



それは、まさに彼女にとっては絶望的な現実だった。



しかし、彼女にとってある意味、最後のチャンスが訪れる。



電球が切れる前に、一時的に明るくなるように、彼女にとっては死ぬ直前に



家族に別れを告げる為の奇跡的な一時回復だったのかもしれない。



意識を取り戻した彼女は、全く動かない手足に必死に力を入れたり、家族に



目で訴えたりしながら、その夫婦の事を何とか伝えようとした。



今、目の前にいるこの夫婦が、私の寿命を奪っているのだ、と。



しかし、残念ながら、家族は彼女が送った信号を理解する事は出来なかった。



その時の、満足そうな、そして勝ち誇ったような夫婦の顔を彼女は今でも



決して忘れられないという。



ただ、その夫婦にも、一点の誤算があった。



突然、おとなしい彼女の子供が、その夫婦に向かって、



悪いのはお前たちだ!



お母さんはお前達が大嫌いなんたから早く此処から出て行け!



そう言って、子供はその夫婦に飛びかかった。



こら、やめなさい・・・。



失礼でしょ?



そう父親や祖母に言われても、子供は必死でその夫婦につかみかかった。



何度何度も・・・・。



そのうち、その夫婦は舌打ちをするような顔をして、そのまま、彼女の前から



いなくなったという。



言葉を話せない彼女だったが、自分の子供の行動に涙が止まらなかったという。



そして、その事があってから、その夫婦は二度と彼女のそばに現れる事は



無くなった。



更に、やはり、その夫婦が原因だったのか、彼女はそれから奇跡的な回復



をして、なんと半年後には、退院し、普通の生活を送れるようになった。



だから、私にはあの子は、大切な宝物なのよ・・・・・。



だって、大切な命の恩人なんだから・・・。



そう嬉しそうに笑った。
  


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2019年06月09日

トンネルの奥には・・・・。

これは俺の友人が体験した話。



その日、彼は友人2人と、とあるトンネルを訪れていた。



目的は勿論、トンネルの探索。



噂ではそのトンネルは奥で行き止まりになっており、そこには幽霊がでるという。



そして、そこで幽霊を見た時だけ、トンネルの奥に横へ続く道が現れる



のだという。



だから、その噂を聞いてからというもの、どうしても自分で確かめなくては



気が済まなくなっていた。



そして、彼にはそういう噂に目が無いという変わった友人が2人いた。



だから、彼らがその日、そのトンネルを訪れたのも必然だったのかもしれない。



トンネルには車でやってきた。



しかし、どうやらトンネルは車で通過するほどの幅は無かった。



だから、彼らは車をトンネルの入り口に停めると、徒歩でトンネル内に



入っていった。



行き止まりになっているトンネルだから当然、利用する者などいる筈もなく、



トンネル内は完全に漆黒の闇。



それでも、彼らが持ってきた業務用のライトはトンネル内を明るく照らしてくれた。



トンネルの中は、狭く、そして湿気に満ちており、そして、どこまでも続く



かのように奥深かった。



途中、彼らと同じように、そのトンネルを探索にきたであろう者が忘れて



いったと思えるタバコや使い捨てカメラを見つけて何故かホッとしたという。



自分達の他にも、此処に探索に来た者がいる・・・。



それだけでも、かなり心強かった。



それほど、心細いトンネルだったということなのだが。



トンネルは、人が4人も並ぶと道幅を塞いでしまうほど狭く、そして剥き出しの



岩肌のトンネル内はいたるところに水溜まりが出来ており、そしてそれは天井からの



雨水が溜まったものである事を証明する様に、ずっと水滴が天井から滴り



落ちていた。



彼は友人達の先頭を切ってトンネル内を進んでいた。



それは彼が一番強力なライトを持っていた事もあるのだが、やはり、その中で



一番肝が据わっていたのがきっと彼だったのだろう。



彼は前方を見ながらも後方から追居てきている友人2人に話しかけながら



トンネル内を進んでいた。



もう既にトンネルに入ってから5分ほどは歩いているのにも拘わらず、まだ



トンネルの奥には到達出来てはいなかった。



それしても、深いトンネルだよな・・・。



こんなに深いトンネルなのに、車が通れないなんて、いったい何の為に



このトンネルは作られたんだろうな・・・・。



そんな事を話しながら進んでいると、突然、背後から友人達の返答が無くなった。



あれ?



彼は異変に気づき、もう一度、後方に声をかける。



しかし、やはり何の反応も無かった。



まさか・・・・。



そう思った彼は思わず後ろを振り返ろうとした。



すると、突然、友人達の声が聞こえた。



ごめん・・・・考え事をしてた・・・。



そんな声が返ってきた。



だから、彼はそのままトンネルの奥だけを見て進み続けた。



しかし、そうやってトンネルの中を進んでいると彼は不可思議な事に気付いた。



それは、後方からは友人達らしき声が勝聞こえるものの、彼らの足音というものは



全く聞こえてこなかったのだ。



それに、先ほどの友人の声は、限りなく似てはいたが、どこか友人の声とは



異質なものに感じられてきた。



だから、彼は突然、前へ進むのを止めてその場に停止した。



突然、止まったにも拘わらず、トンネル内には友人の足音など全く聞こえず



完全な無音状態になり、トンネル内はシーンと静まり返っていた。



そして、友人達の声がまた聞こえた。



それにしても、このトンネルは何処まで続くのかねぇ・・・。



それはもう友人の声ではなかった。



彼は一気にその場からダッシュすると、少し離れた場所で一瞬、後方を



振り返った。



そこには友人達の姿は無く、その代りに白いモヤの様な塊が空中に浮いていた。



それを見た彼は、思わず”うわぁ~”と叫びながら更にスピードを上げて



走った。



持っているライトが大きく揺れて岩肌がまるで人の顔のように見えた。



彼は必死で逃げた。



そして、先ほどの白いモヤが追ってこないように、と願った。



しかし、それはすぐに絶望へと変わった。



彼の後方からはまるで友人達の声色を真似た様な声で、



どうしたんだよ~



待ってくれよ~



と声が近づいて来ていた。



その時、彼の前方にはそのトンネルの最奥部である行き止まりの壁が



姿を現した。



彼は必死に、そこに在る筈の横道を探した。



そして、それは案外簡単に見つかった。



彼は、必死にその横道に入ると、何故か平坦になっているその道をひた走った。



彼は必死に噂話を思い出していたが、焦っているのか、なかなか詳細が



思い出せなかった。



横道に入ってから、どうすれば助かるのか・・・。



その最も大切な部分がどうしても思い出せない。



だから、彼はとにかく全力でその道を走るしかなかった。



道は平坦ではあったが、右に左に、と忙しく曲がっていた。



すると、突然、何かが背後から近づいてくる様な足音が聞こえてくる。



彼は顔面蒼白になりながらも、渾身の力で走り続けたという。



そして、大きく左に曲がり、そして突然、視界が開けたと思った時、突然、



止まれ!



という大きな声が聞こえたという。



彼は、その時、思い出した。



そう、横道に入ってから、止まれという声が聞こえた時、すぐに止まらなければ



いけないのだという事を・・・。



だから、彼は背後から近づく足音にも拘わらず、その場に急停止した。



そして、足元をライトで照らすと、其処には何処までも続いている様な



深く暗い穴が大きな口を開けていた。



助かった・・・・。



彼はそう思ったという。



その時、突然、彼の耳ともとで、



本当に止まるなよ・・・。



面白くねえな・・・・。



という声が聞こえたという。



そして、その声が聞こえた途端に彼は半ば強制的に意識を失った。



奈落の底に突き落とされたような感覚だったという。



そして、次に彼が目覚めた時、彼は友人達と一緒に車の中で眠っていたのだという。



もしかして、夢だったのか・・・。



そう思ったが、彼らの靴はトンネル内の水溜まりでびっしょりと濡れていた。



そして、友人達もトンネルの中に入って歩いていた時、突然、意識を失ったのだと



説明してくれた。



そのトンネルは今でも白山市の山中に存在している。
  


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2019年06月09日

祟られる神社

日本全国には沢山の神社がある。



毎年、初詣で大賑わいになる神社もあれば、山の中にひっそりと建てられた



小さな神社もある。



そして、これは以前書いた事なのだが、神社というものの中には、由緒正しき



日本の神様を祀っているばかりではなく、神様を祀るという名目で、実は



太古からの危険な魔物を封印している場所も少なくない。



そして、これから書く話は、そんな魔物を封印している神社よりも、更に



危険な、お参りするだけで祟られてしまうという神社の話。



例えば、東京のお岩稲荷(正式には、於岩稲荷田宮神社)は、四谷怪談という



創作怪談があまりにも有名であり、何度も映画化されたり、舞台で題材として



取り上げられたりしているそうだが、やはり映画や舞台制作に関わる人たちが



こぞってお参りに来るようだが、これは、お参りせずに舞台や映画を製作した



ところ、関係者に不幸が訪れたという過去があるらしく、その不幸を避ける



為の苦肉の策なのだろう。



もっとも、そうする事で不安なく映画や舞台に没頭出来るのであれば、それはそれで



十分に意味がある訳だが・・・・。



ただ、今回登場する神社の場合、ただ参拝するだけで確実に祟られてしまう、



という最悪な場所。



確かに、誰も管理していない様なうす汚れた神社や直感的に入るべきではない、と



感じる様な神社の場合、ある意味、自分で危険を回避する事も可能なのかも



しれないが、どうやら、そういう類の神社ではないのだという。



そして、これは俺の知人が体験した話になる。



その日、彼は友人数名と林道ツーリングを楽しんでいた。



総勢6台ほどのオフロードバイクで林道を走り、途中、岩場でトライアルの



真似ごとをしたり、急に斜面を利用して、登坂ゲームをして楽しんでいた。



朝から走り始め、昼前には全員で帰路に着く事になっていた。



そんな彼らの前に、突然小さな建物が現れた。



それは民家など全く存在しない山の奥深く。



興味を魅かれた彼らは、バイクを停めてその建物を詳しく見てみる事にした。



しかし、彼らにはその建物が何であるのか、すぐに理解できた。



小さいがしっかりとした鳥居があり、その奥には本殿があり、その前には



しっかりとさい銭箱まで置かれていた。



此処って間違いなく神社だよな?



それしても、こんな山奥まで誰かが参拝に来たりするのか?



彼らは口々にそう言いながら、その神社の鳥居をくぐった。



そして、近づいてみた彼らは更に驚かされることになった。



その小さな神社は、しっかりと手入れが行き届いており、どこにも朽ち果てた



感じは無かったのだから・・・。



まるで、毎日、誰かがこの神社にやって来ては掃除をし、神様への祈祷を



欠かしていないかのように。



こんな辺鄙な場所にある神社まで誰かが毎日やって来ては手入れをしているのかな?



そう思っていた時、誰かがこう言った。



せっかくだからお参りだけでもしていこうか・・・・と。



確かにその神社は怪しい雰囲気も無く、とても明るく清潔な雰囲気に満たされていた



から、その言葉に異論を唱える者など1人もいなかった。



彼らはぞろぞろと本殿の方へと向かい、木製の階段をのぼってさい銭箱に小銭



を投げ入れて、それぞれが手を合せお参りを済ませた。



そして、一礼してから、振り返り階段を降りようとした時、突然、空が



曇りだし、辺りは一瞬のうちに真っ暗になった。



時刻はまだ正午にもなっていないというのに・・・。



今にも雨が降り出しそうな天候になった為、彼らは慌てて各々のバイクに乗り



エンジンを掛けた。



次々にその場から走り去る6台のバイク。



その最後尾でスタートしたバイクの友人が、走り去る直前、何かが神社の



鳥居の下に立っているのを目撃したという。



まさに、何かの儀式でもやっていたかのような正装で身を固めていたが、



その顔はまるで腐乱死体の様にふくれていたという。



そして、結局、その場から無事に帰宅できたのは6台のうち、4台のみ。



他の2台は帰宅途中に車との衝突事故でそのまま病院に担ぎ込まれ生死の



境をさまよう事になった。



また、無事に帰宅した4人も、その夜、寝ていると、突然、不気味な神主の



様なモノが現れ、



祟ってやる・・・・・祟ってやるぞ・・・・・。



と言って、体の上に馬乗りになっていた。



それが夢なのか、それとも現実なのか、は分からなかったが、それでも4人



が同じ体験をした事が分かると、彼らは恐怖した。



そして、祟ってやる、という意味を考えてみるが、4人が同じ事をしたのは、



前日の林道ツーリングしか思い浮かばなかった。



それと同時に、二人の友人が帰宅途中に事故に遭い入院している事を知った



彼らは誰ともなく、もう一度あの神社に行って謝って来よう、という結論



に達した。



別に何か悪い事をした記憶は無かったが、思い当たるのはあの神社だけだった。



だから、彼らはその日、全員が仕事を半日で早退し、再びバイクで



あの神社を見つけた林道に向かった。



しかし、いくら探しても神社は見つからない。



彼らは途方に暮れて、とぼとぼとバイクで家路についた。



そして、その帰り道、また一人が事故で入院。



それから、その夜には、1人がベランダから転落して大怪我を負い病院に



担ぎ込まれた。



残された二人はもう気が気でなかったらしいが、それでも入院した友人の所に



見舞いに行くと、どうやら入院している友人も悪夢で苦しんでいる



事が判明した。



しかも、彼らが見たものと全く同じ夢を・・・。



更に、入院している彼らの元に、神主の姿をした男が姿を見せるようになった。



そして、簡単なはずの手術が失敗して、危篤状態になる者まで出る始末。



残された二人は戦々恐々として日々を過ごす事になった。



そして、それから数日後、二人のうちの1人が仕事で車を運転中、突然



車のブレーギカ効かなくなり、その前を走るトラックに激突し、



即死してしまう。



そして、最後に残された1人は完全に気が変になってしまい、何度も



自殺を試みるようになった。



そして、事故で入院していた彼は、初めて事の重大さに気づき、俺に相談してきた。



その時ばかりはさすがのAさんも、嫌な顔一つせずに迅速に対応してくれた。



そして、Aさんは姫にも協力してもらい、何やら対策を講じていた。



すると、それまで続いていた不幸の連鎖はピタッと止まった。



俺が、何をどうやったの?



と聞くとAさんは、



大体の山の場所と林道が分かりましたから、その山からこちらに続く道に付けられて



いた呪いを断ち切っておきました。



今回ばかりは災難としか言えないんですけどね。



でも、実際にその神社を見つけたり、入ったりするだけで祟られる神社というのが



実際に存在するんですよ。



しかも、今回はご丁寧に参拝までしてしまってますから・・・。



私と姫ちゃんの念で呪いを断ち切りましたから滅多な事は無いと思いますけど、



もう、その友人さん達は、その山には絶対に近づいてはいけません。



これだけは、言っておいてください。



もしも、また、同じように祟られたとしたら、その時には私でも手の出しようが



ありませんから・・・・。



そう言われて、俺は思わずぞっとしてしまつた。
  


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2019年06月09日

高倍率ズーム

彼は趣味で写真撮影をしている。



元々は、フィルム式の一眼レフカメラを愛用していた彼は、その後、



デジタル一眼レフに移行し、ミラーレス一眼レフに移行した。



元々、彼は野鳥や星座を撮影するのが好きだった。



だから、カメラに対しての要求は画質も勿論なのだが、そのズームの



性能も重要なファクターになっていた。



しかし、一眼レフの場合、遠くの物をズームして撮影しようとすれば、



かなり大型のズームレンズを買わなければいけない。



しかも、画像にもこだわるとなれば、ズームレンズだけで数十万に



なってしまう。



しかも、ブームの倍率があがれば、その分、レンズも大きく、そして



重くなってしまう。



そんな彼が、最近目をつけたのが、コンパクトデジカメ。



1キロにも満たない重さのボディの中に、かなりの高性能なズーム機能



が内臓されており、中には80倍を超える物まで在るらしい。



80倍といえば、普通の状態で撮った画像が、80倍の大きさに



なるという事。



80メートル先にあるものが、1メートルの距離から撮影した様に



写ってしまうのだから、想像を絶してしまう。



そして、最近は重たい機材が辛くなってきた彼にとって、高倍率ズーム



を搭載したコンパクトデジカメは、まさに救いの神だった。



実際、野鳥を撮影してもかなりのクオリティで撮影できるらしく、彼は



俺にも購入を勧めてくるほどだ。



そんな彼が、初めてそのカメラが届いた時に体験した話を聞かせてくれた。



その時初めて、届いた新しいカメラに彼は興奮していた。



値段にすれば、それほど高価なものではない。



そんなカメラにそれ程の高性能ズームが本当に搭載されているのか?



彼は、その点に関しては疑心暗鬼だったようだ。



だから、そのカメラの性能を早く確認したくて仕方なくなった。



そこで、彼は、自宅マンションのリビングからそのカメラで外の景色を



覗いてみる事にした。



そして、結論から言うと、そのカメラのズームは、素晴らしかった。



それまで苦労して重たい機材をせっせと運んで野鳥を撮影していた事が



なんだか馬鹿らしくなってしまう程に・・・。



そして、ズームを遠くから近く、近くから遠くと、色々と変えては



色んな景色を見て遊んでいたそうだ。



すると、かなり向こうにあるマンションのベランダに人がいるのが



見えた。



彼はカメラを構えてその人に照準を合わせた。



そして、ズーム。



彼のカメラは80倍以上の光学ズームを搭載しているようで、みるみるうちに



その人物が近くなっていく。



まるで、目の前に居るかのように・・・・。



そして、偶然とはいえ、彼は思わず息をのんでしまう。



そこには、見た事も無いほどの綺麗な女性が立っていたという。



年齢は30代。



髪は肩くらいまででスタイルも素晴らしい。



そして、何より、その顔はまるで彼の理想をそのまま形にしてかの様に



美しい顔をしていたという。



だから、彼は思わず見とれてしまったという。



そして、それまで人物など撮った事が無かった彼なのだが、今後は人物



を被写体にするのも悪くないかもな、と思っていた。



だから、彼は、気付かないうちに思わずシャッターを押していた。



何枚も何枚も・・・・。



そして、その女性はまるで彼が撮影しているのを知っているかの



ように、彼がシャッターを押すたびに色々と体の向きを変えてくれた。



そんな時、彼は不思議な事に気付いた。



その女性が、こちらに向かって笑っていた。



まさか、とは思ったが、今度はこちらに向かって手を振っている。



ただ、実際には、そのマンションまでの距離はかなり遠く、その女性が



彼が撮影している事など分かる筈も無かった。



だから、きっと、他の誰かに向って手を振っているのだろう・・・。



そう思ったという。



だから、彼は、試しに、自分から手を振ってみたという。



すると、その女性はそれが見えているかのように嬉しそうに、更に



大きく手を振った。



その時、彼は嬉しいというよりも、何かがおかしい・・・。



そう思った。



もしかして、自分は見てはいけないものをファインダーを通して見て



いるのではないか、と。



すると、今度はその女性は、こちらに向かって手招きをしだす。



彼はさすがにヤバいと思い、ズームを弱めていく。



そして、彼が内心感じていた違和感は確信に変わる。



その女性だけをファインダーに収めているときから、感じていた事だが、



どうやら、その女性は周囲の手摺や人物と比べて明らかに大きかった。



在り得ないほどに・・・・。



それを確信した時、彼はすぐにカメラを降ろして、その場所から



離れた。



何か説明のつかない不安感でいっぱいになっていた。



彼は落ち着こうと思い、ソファーに座った。



その時、突然、玄関のチャイムが鳴った。



誰も訪ねてくる予定は無かったし、荷物が届く予定も無かった。



その時、彼は不思議と、こう思ったという。



あの女が来たのだ・・・・と。



その女が来る筈など無かったのに、その時は何故か、訪ねてきたのは



間違いなくその女だという確信があった。



心臓の鼓動がどんどん速くなり、背中には嫌な汗が流れた。



絶対に、玄関に出てはいけない・・・。



そう思ったという。



相変わらず、玄関のチャイムは鳴り続けていた。



彼は、必死に知っているお経を唱えながらソファーの上で震えていた。



もう、あの女が綺麗だという感覚は無かった。



化け物が、人間ではないモノが、自分の家に来てしまった。



そんな恐怖心しかなかったという。



そして、彼がお経を唱えていると、そのうちに、玄関のチャイムの音が



突然、消えた。



彼はホッと胸を撫で下ろして、何気に窓の方を見た。



すると、そこには、間違いなく先ほどの女が、窓に張り付くようにして



笑っていた。



それは、可愛い笑顔というものではなく、獲物を見つけたという捕食者



の嫌な笑顔に見えたという。



彼は、思わず、ソファーから立ち上がると、玄関めがけて走りだした。



そして、玄関の鍵を開けようとした時、彼は一瞬、嫌な予感がしたという。



もしかして、窓に張り付いていたのは、自分に玄関を開けさせる為なのでは



ないか?と。



だから、彼は玄関の鍵を開けるのを止めて、そのままその場所にしゃがみ込み



両手で耳を塞ぎ、しっかりと目も閉じて、心の中で必死にお経を読み上げた。



それから、どれくらいの時間が経過しただろうか。



彼は、帰宅してきた奥さんに揺り起こされた。



知らないうちに、彼は気を失っていたようだった。



しかし、彼は奥さんには、その時起こった事は話さなかった。



どうせ信じて貰えないと思ったし、何より、そのカメラで女性を撮影



していた事を知られたくなかったから。



そして、それ以後、その女が再び、彼の家に訪ねてくることはなかったが、



彼は写真仲間と、会合で会った際に、その時体験した事を話したという。



勿論、誰も信じてはくれなかったが・・・・。



そして、仲間の一人がこう言ったという。



その話が本当なら、撮影した女が、記録メディアの中に残っている筈だろ?



それを見せてよ!と。



確かに、彼はその時以来、そのカメラを使用した事も、記録メディアの中身を



確認した事も無かった。



だから、彼は自分のバッグからカメラを取り出すと、再生ボタンを押した。



しかし、画面が小さくて良く分からない。



そこで、誰かが持って来ていたノートパソコンで表示させたらしいのだが、



そこに写っていたのは、女性の姿ではなく、白骨化した骸骨だったらしい。



俺もその画像を見せて貰ったのだが、どう見ても合成写真には見えなかった。



やはり、世の中には不思議な事が多いものである。
  


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2019年06月09日

別の意味で怖い話

これは俺が体験した話である。



今はさすがに、ツーリングに行くと、それなりの宿泊施設に泊まり、



疲れを癒すのが当たり前なのだが、20代の頃は、それこそ、どれだけ



お金をかけずに、旅行するかという事に、拘っていた。



ある時、北海道をバイクで一人旅していた。



バイクなので、普通、車が行かないような場所も満喫できる。



実は、この頃は、毎年のように北海道に有給休暇を取って約1週間位



の旅に来ていた。



その年は、ヒグマが多いと聞いていたし、実際、知床五胡や色んな場所で



野生のヒグマと遭遇する事ができた。



で、ある晩は、駅名は忘れたが、駅の中で野宿をすることにした。



今は知らないが、昔は、貧乏ライダー達にJRが駅を開放してくれていた。



そして、色んなライダーが全国から集まると、完全なバーベキュー大会になってしまう。



その時は、10人位だったろうか。



大騒ぎして、飲んで食って、そして駅の中で皆で寝袋に包まって寝た。



夜も更けた頃、誰かの声で起こされた。



何かいる。



音がするし。



もしかしたら。



そして、全員を静かに起こしてから外の様子を窺った。



もしかしなくても、ヒグマだった。



しかも、かなり大きい。



俺達が食べ残した残飯を漁っているようだ。



しかし、各々のバイクも停車してあるのも心配だが、それ以上にあんな



大きなヒグマその気になったら、こんな木とプラスチックで出来た駅の扉など



簡単に壊されてしまう。



全員が、声が震えていた。



それほど、大きかったし、距離も近かった。



そして、あることに気が付いた。



あそこにある残飯を食べ終わったら、嗅覚の優れたヒグマなら、



今、自分達が駅舎の中に持ってきている食べ物の匂いに気が付き、



中へ入ろうとするのではないか?



そして、案の定、外の残飯を食べきってしまうと今度は、駅舎の中に



持ち込んだ食べ物が気になっているようだ。



しかし、中に当然、人の気配がすることもわかっているようで、



簡単には近づいてこない。



それでも、少しずつ、近づいては、駅舎の壁が、壊せるものかどうか



確かめるように爪を立てた。



その時である。



1人の女性ライダーさんが、俺に言った。



たぶん、貴方のバイクが一番大きくてうるさい?音を出せると思うから、



キー貸して貰えますか?



全員が???となった。



いいよ、と言いバイクのカギを渡すと



ヒグマがいる反対側のまどから外に出た。



そして、俺のバイクのところに行くと、エンジン始動。



思いっきり、アクセルを吹かした。



ヒグマは一瞬、びくっとなり、そのまま後ずさりして、暗闇の中に消えていった。



その後、全員のバイクを駅舎の中にいれ、朝まで、一睡も出来なかった。



しかし、女性は、いざとなると強いと改めて思い知らされた。



そして、翌日の新聞に、ヒグマがJRの電車にはねられて死亡したという記事を



新聞に見つけた。



そのヒグマと同じ熊かはわからないか、その時に思ったこと。



北海道の人は、例えば、夜、歩いてジュースの自販機に歩いていてヒグマと



出会ってしまうこともあるのもしれない。



俺は絶対に無理。


そして、いざとなったら女の方が強い!



そう思った。
  


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2019年06月09日

お化け屋敷

これは知人女性が体験した話。



彼女は男兄弟の中で育ったせいか、とても男勝りな性格。



この世の中に怖い物など無いのではないか、と思えてしまうほどだ。



しかし、予想に反して、絶対に近寄らない場所がるあのだという。



それは、お化け屋敷。



特に有名なお化け屋敷というのではなく、基本的にどんな遊園地にも在る



様なお化け屋敷でも絶対に入れないのだという。



勿論、元々、彼女はそこまでお化け屋敷を怖がっていた訳ではない。



実はある出来事があってから、全く近寄れなくなったのだという。



そして、これから書くのがその理由というものになる。



その時、彼女は地元に在る遊園地へと友人達と出掛けた。



元々、それ程大きな遊園地ではなく、2~3時間も遊ぶと、時間を持て余して



しまった。



ベンチに座り、ぼんやりしていると、友人の1人が、



あっ、あそこにお化け屋敷があるみたい・・・・入ってみようよ!



そう声をかけたという。



元々、お化け屋敷というものが苦手だった彼女は露骨に嫌な顔をしたらしいが、



その場での多数決によって、すぐにお化け屋敷へ入る事が決まってしまった。



しかし、やはり気が進まない彼女は、お化け屋敷の入り口で立ち尽くしていた。



しかし、友人達はそんな彼女には目もくれず、1人、また一人とお化け屋敷の中へと



入っていった。



一人ぼっちにされてはたまらない・・・・・。



そう思った彼女は急いでお化け屋敷へと駆け込んだという。



彼女が思っていたよりもお化け屋敷の中は暗く感じなかった。



しかし、先に入った友人達の姿はもう其処には見えなかった。



彼女は慌てて、先に行った友人達に追いつこうとその場から駈け出した。



しかし、すぐに機械仕掛けのお化け達が動き出してしまい、なかなか前に



進めなかった。



やはり機械仕掛けとしはいえ、おばけの姿や声を聞くだけで彼女にはとてつもない



恐怖であり、すぐにその場に固まってしまう。



そこで、後から誰かが入ってくるのを待って一緒に連れて行って貰おう、と



思ったらしいのだが、どれだけ待っても誰もお化け屋敷には入って来なかった。



だから、こんな所に入るのは嫌だって言ったのに・・・・・。



そう思ったが、いつまでもその場所に立ち止まっていても埒が明かないのは



分かっていたから何とか1人で少しずつ前へと進む事にした。



しかし、安っぽいお化け屋敷とはいえ、彼女には敷居が高過ぎた。



光で照らされ浮かび上がる様々な妖怪やおばけの数々に彼女は、恐怖で



固まってしまう。



恐怖で涙が止まらない彼女が考えたのは、このまま目をつぶって少しずつ



前へと進む、という作戦だったようだ。



手探り状態で少しずつ前へと進む。



耳からの音とうっすらと見える床の様子だけを頼りに彼女は進み続けた。



しかし、1歩進んでは止まり、そしてまたゆっくりと1歩を踏み出す。



そんな事をしていても、いっこうに出口らしき場所には、いつになったら



辿りつけるのか?と彼女は途方に暮れていた。



そんな時、彼女の手がある物を掴んだ。



それは明らかに誰かの衣服であり、それは女性のものだとすぐに分かったという。



彼女は一瞬、手を放そうかとも思ったが、これは救いの手に違いない、と



感じた彼女は、前に立つ女性に、



すみません…私、こういう所が苦手で・・・・。



だから・・・あの・・・・申し訳ありませんけど出口まで連れて行って



頂けませんか?



そうお願いしたという。



その声を聞くと、前に立っていた女性も、前へと動き出した。



その女性は何も言わなかったが、それでも彼女は、



何も言わないけど、きっとOKしてくれたんだ・・・・。



そう思って、その女性の後を追いていった。



その女性はどうやら1人で来ていたらしく、それでもどんどんと前へと



歩いていった。



思ってもいなかったペースで前へと進む女性に彼女は歓喜した。



これなら、すぐに此処から出られる・・・・と。



しかし、そうやって歩き続けてからかなりの時間が経過した。



外から見た限りではとてもそんなに大きなお化け屋敷には見えなかった。



彼女はだんだんと不安に駆られていく。



不安はどんどんと増していき自分でも制御できなくなった。



だから、彼女は顔をあげて前の女の人を確認したのだという。



そこには、体が前を向いたまま、顔だけが真後ろに居る彼女を見つめている



女の姿があった。



その顔はまるでマネキンの様な無機質な顔だったという。



そうして固まった彼女に、その女は手を伸ばして来て彼女の腕を掴んだ。



例えようもない程、冷たくベトベトした手だった。



彼女はそれから気が狂ったように暴れて手を振りほどき、その女とは逆の方向へと



走り出した。



もう、お化け屋敷の中だという感覚は無かった。



とにかく、あの女から逃げなければ・・・・・。



その一心で彼女は当てもなく走り続けた。



何処をどう走ったのかは全く覚えてはいないという。



ただ、走り回った末に、一筋の光が見てたので、彼女はその光に向かって



飛び込んだという。



すると、そこには、友人達が彼女が出てくるのを首を長くして待っている



ところだった。



助かった・・・・。



そう思うと同時に彼女は涙が溢れてきた。



しかし、次の瞬間、聞こえてきたのは、友人達の悲鳴だったという。



彼女の背後を指さしながら悲鳴を上げる友人達。



彼女は反射的に後ろを振り返った。



すると、そこには、マネキンのような女が、まさにマネキンの様にして



背後に立っていた。



そして、薄気味悪い笑みを浮かべると、そのままスーッと消えてしまったという。



そして、どうやら、その女の姿を見たのは友人達だけではなかったようで、



一時、遊園地は、パニック状態になったという。



それから彼女の身に怪異は起こっていないが、それ以後、彼女は誰が誘って来ようと



決してお化け屋敷だけには入らない、と心に決めている。
  


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2019年06月09日

霊安室

これは病院勤めをしている姪から聞いた話である。



病院という場所には、その殆どに霊安室という部屋が設けられている。



そして、彼女が勤務する病院では、真白な壁の部屋の中に真白な



ベッドが置かれているのだという。



霊安室といえば、よくドラマなどにも登場しているが、基本的に



看護師が、何かをするという事は無く、そこから先は、葬儀会社の



仕事になるのだという。



病院という性質上、1日に一人ではなく複数の患者さんが亡くなられる



場合もある。



そんな時には、霊安室に、複数のベッドが置かれ、そこに複数のご遺体が



並べられる事もあるのだという。



彼女自身は、霊安室という部屋には数回しか入った事はないらしいが、



その時、感じた事は、霊安室という所は、部屋に入っただけで、かなり



ひんやりした空気を感じるという事らしい。



まるで、真夏の昼間に、洞窟にでも入った様な感じ。



彼女はそう言っていた。



そして、霊安室に入れられたご遺体は、以前は看護婦といわれた方達が



綺麗にするお世話をしていた時期もあったらしいが、現在では、その部屋に



ご遺体を運び込むまでが病院側の仕事になるらしい。



そして、そこで、ご遺体は自宅などへ帰還するのを待つ事になる。



そして、ここからは彼女が先輩看護師から聞いた話になる。



ご遺体を霊安室に運ぶ作業の際、ご遺体の口から、うめき声の様なものが



聞こえる事があるのだという。



勿論、それはご遺体の体の中に溜まっていた空気が口から出る際に



うめき声の様に聞こえるのだと医学的には言われている。



しかし、どう聞いても、言葉のようにしか聞こえないうめき声も



実際、あるのだという。



どこだ~



かえせ~



などその言葉の意味は分からないのだが、確かにそれは意志をもって口から



発せられた言葉にしか聞こえないらしい。



また、以前は、連絡の為に、霊安室の中に電話が備え付けられていたらしいのだが、



どうやら、その電話から誰かが電話してくるのだという。



勿論、霊安室には、ご遺体以外は誰もいないのだから、誰が掛けてきた



のかは、暗黙の了解として分かっているらしい。



そして、それはナースセンターに掛って来る事が多いのだという。



そして、



みずがほしい・・・・とか



さみしい・・・・とか、



いえにかえしてくれ・・・・・という言葉を伝えるとあっさりと



切れてしまう。



勿論、電話をかけるには内線番号を押さなければいけないのだが・・・。



そして、そんな事が続いたために、電話は霊安室の中ではなく、外に



設置されるようになった。



しかし、それでも相変わらず、内線電話が掛って来る事が後を絶たない。



しかたなく、今では、電話線を切ってしまっているらしいのだが、それでも



しっかりと電話はかかってくるらしい。



そして、中には、線の切れた電話から誰かが電話をかけているのを見た、



という看護師もいるらしい。



いったい、それほどまでに、何を伝えたがっているのだろうか・・・・。



そして、これも不思議な話なのたが、看護師さんが霊安室の前の



廊下を歩いていると、霊安室の中から誰かが看護師を呼びとめる。



そして、中を覗くが、そこにはご遺体が横たわっているだけ。



それで、不思議そうに部屋を出ると、今度はドンドンと中から



ドアを叩く音が聞こえ、その看護師はその場から思わず逃げ出して



しまったらしい。



そして、霊安室に、家族や葬儀社が迎えに来るまでしばらく時間がかかる



事があるらしい。



そんな時は、霊安室に備えた花の水を替えに来たり、するらしいのだが、



その時は、常に二人で作業に当たるらしい。



それは、以前、1人で作業をしていて、間違いなく誰かが看護師さんの後ろに



立っているという感覚がヒシヒシと伝わって来たからなのだという。



それでも、我慢してそのまま自然に作業を続けていれば良いのだが、



以前、一人の看護師が思わず振り返ってしまったらしい。



すると、そこには、ご遺体がぼうっした目で、看護師さんの後ろに



立っていた事があったらしい。



また、中には、あまりに戻ってくるのが遅いという事で、他の看護師が



霊暗室まで見に行くと、そこには、ご遺体の横に寄り添うように、



同じベッドに寝ている看護師の姿があったという。



また、彼女の勤務する病院は、かなり有名な心霊スポットのすぐ近く



に位置している。



また、病院のすぐ近くの水路に、殺された女性が埋められていた、という



事件も近年発生している。



そのせいなのかは、分からないが、夜、霊安室の前を通ると、



誰かと話している声が聞こえたり、廊下を誰かがうろうろと彷徨っている



姿が目撃されたりしている。



だから、霊安室の前の廊下は24時間、明るい照明が点いている。



しかし、夜にその場所に行くと、誰も消していない筈なのに、明かりは



消え、漆黒の闇が広がっているそうだ。



そして、その辺りは何度点けてもすぐに消されてしまうのだという。



そして、その暗闇の中には、間違いなく誰かが立っている姿が



ぼんやりと見える。



だから、医者も看護師たちも決して夜には、その場所に近づく事だけは



しない。



霊暗室。



もしかしたら、この世とあの世が一番近くに存在している場所



なのかもしれない。
  


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2019年06月09日

誤作動

これは知人から聞いた話。



知人は趣味が車のドライブである。



しかも、気が向いたときにふらっとかなり遠方までドライブに



出掛けてしまう。



だから、彼の車には、カーナビが必需品になっている。



そんなある日、彼の車のカーナビが突然、壊れてしまった。



彼は仕方なく、カーショップに行き、カーナビを選びに行ったのだが、



彼の希望に沿った物は、どれも高価で手が出なかった。



そこで、彼は、近所の中古パーツの店を見に行くと、最新型のカーナビが



かなり手ごろな値段で店頭に並んでいた。



テレビ画面としても利用でき、DVDの再生にも対応している。



まさに、彼の理想どおりのカーナビだった。



彼は、即決し、その場ですぐに彼の車へと取り付けてもらった。



そして、その店からの帰り道、さっそくカーナビをテストしてみると、



最近、開通したトンネルも、しっかりと表示されており、彼は大満足の中



自宅まで車を走らせた。



それからは、そのカーナビは、ドライブの度に大活躍してくれた。



彼は、本当に良い買い物をした、とそれからは以前にも増して、遠くへ



ドライブに行く機会が増えてしまった。



そんなある日、その日は平日であり仕事が終わり家路に着いていたとき



不思議な事が起こった。



カーナビは明らかに自宅とは別の場所へと誘導してくるのである。



最初は、誤作動かな、と思い、そのまま運転を続けていればきっと



直るだろうと思っていたらしいが、どれだけ車を自宅へと走らせても、



ルートから外れました・・・・ルート検索しています・・・・。



そうしたアナウンスの後、明らかに違う場所へと導こうとする。



やはり、安物買いは駄目なのかな・・・。



そう思って、翌日、車を走らせていると、どこにも異常が無くなっており



正常に動作している。



そこで、彼は、そのカーナビを買い換えようという気持ちが無くなり、



そのまま使い続ける事にした。



しかし、それから、何事も無い日が続いたか、と思うと、また、突然



誤作動してしまう。



そして、翌日にはまた正常に戻っている。



そんな事を繰り返しているうちに、彼はあることに気付いた。



それは、そのカーナビが誤作動するのは、決まって毎月17日だという事。



しかし、それに気付いたからといって、何か対処出来るわけでは無い。



彼は仕方なく、そのカーナビを使い続ける。



しかし、ちょうど17日が彼の仕事の休日と重なった月に、彼は思い切った



行動に出る。



そのカーナビに従って走ってみようと思ったのだ。



彼は朝早くから出掛ける用意をして、目的地の分からないドライブに



出掛ける事にした。



どうして、毎月17日に誤作動するのか、は分からなかったが、元々



宛ての無いドライブが好きな彼にとっては、休日の暇つぶしに



ちょうど良かった。



車をスタートさせしばらくすると、案の定、カーナビは勝手に道案内



を始めた。



彼はワクワクしながら車を運転していた。



街中を抜けて、車はどんどん東に向けて走らされた。



勿論、目的地を設定した記憶は無かったし、前の持ち主が設定した



目的地も何一つ残されていない事は確認済みだった。



カーナビは、そのまま東へ向かうように道案内を続ける。



車は海沿いの道に出た。



最新式のカーナビは新しい道も全て登録済みのはずだったが、何故か



その時は、古い道ばかりを選んで指示してくる。



そうして車を走らせていると、車は海沿いの丘を上って行く。



その道は彼も以前一度だけ訪れた事があった道であり、そのまま走り続けると



見晴らしの良い岬で行き止まりになるのは、分かっていた。



彼は思った。



どうして、こんな所に俺を連れてこようとしてたんだろう?と。



そして、



まあ、理由は分からないが、あの場所に誘導してくれるなんて、なかなか



趣味が良いじゃないか・・・・。



そんな事を考えながら、カーナビの指示に従って彼は車を走らせ続ける。



そして、彼が予想していた通り、車は岬の駐車場へと近づいてきた。



そろそろかな・・・・。



彼はそう思った。



確かに、目的地が、その岬だとしたら、そろそろ、



間もなく目的地です・・・。



そうアナウンスされるはずだった。



しかし、そのアナウンスは、いっこうに聞こえてこなかった。



それどころか、カーナビは岬の駐車場を避けて、そのまま岬の



先端へと続く砂利道へと誘導を続けた。



彼の頭の中は混乱していた。



何処に連れて行くつもりなんだ?



それでも、彼はそのままカーナビの指示に従って車を走らせ続ける



事にした。



このカーナビが本当に自分を何処へ連れて行こうとしているのか、



見極めたかったのだという。



しかし、初めて走るその砂利道の先が見通せなかったので、彼はかなり



速度を落として車を走らせた。



そして、砂利道も終わりに近づこうとしたとき、カーナビがこう告げた。



"このまま前方まっすぐです・・・・・・・"



しかし、前方には岬の先端しか存在していなかった。



勿論、そのまま車を走らせれば、岬の先端から海へと落ちてしまう。



彼は背中に冷たい汗を感じながら、ブレーキを踏んだ。



そして、彼は固まってしまう。



ブレーキが利かなかった。



車は彼の意思とは反対に、どんどんと岬の崖へと近づいていく。



だから、彼は思った。



速度を落としておいて良かった・・・。



万が一の時は、直前で車から飛び降りようと・・・・。



しかし、どうやら、それも叶わないことだった。



運転席のドアを開けようとしたとき、彼は車のドアが全く開こうとしない



事に気付く。



ドアがロックされていないか、と確認したが、そうではなかった。



何か得体の知れない力で、この車は、いや、このカーナビは俺を



殺そうとしている・・・・。



そう感じたとき、彼は咄嗟に、サイドブレーキを思いっきり引いた。



すると、車は斜めに滑るようにして、斜めになりながら崖の手前で



何とか止まった。



彼は、急いでエンジンを切り、ドアノブを引くと、先ほどとは違い、



いとも簡単に車のドアは開いた。



そして、崖から下を見下ろした時、彼は、こう感じた。



あのまま、海に落ちていたら間違いなく死んでいた、と。



それから、彼は、そのカーナビをさっさと売ってしまおうと決心して



帰路に着いた。



相変わらず、カーナビからは、岬の先端へと戻るように指示が



出され続けていた。



あまりに、しつこいので、彼がカーナビの電源を切ろうとした時、彼は



間違いなく、その声を聞いた。



死んでよ・・・・・という男の声を。



それから、彼は無事に自宅まで戻ると、急いで車からカーナビを外した。



そして、売ろうと思っていたカーナビではあるが、思い切って



叩き壊したという。



そして、その後、彼はその岬で自殺した者や、事故で崖から落ちた者が



いないか、と調べたそうだが、そんな記事は何処にも載っていなかった。



だとしたら、どうしてあのカーナビは自分を殺そうとしたのか?



そう考えてしまうと、更に恐ろしくなってしまい、彼はその後、



車にはカーナビは付けないようにしているという。



ちなみに、カーナビを外してからは彼の身に怪異は発生していないそうだ。





  


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2019年06月09日

母の帰宅

これは俺の幼馴染が体験した話。



その頃の彼は小学校の高学年くらいだったという。



彼の両親は、別居していた様で、彼は母親一人に育てられていた。



兄弟もおらず、家では母親との二人暮らし。



それていて、かなりの大きな家に住んでいたのだから、母親はかなりの



高収入だったのかもしれない。



彼の母親の顔というのを俺は1~2回しか見たことが無かった。



というのも、彼の母親というのは、仕事の内容は分からないが、毎日、



夜遅くにならないと帰宅しなかったからだ。



だから、俺達は彼の家を恰好の溜まり場として利用させて貰っていたが、



彼にしてみれば、休みの日以外は、全て1人で食事を済ます、という



のは、やはり辛かったのだろうと思う。



俺達と一緒に遊んでいる時は、うるさ過ぎる位に陽気な奴だったが、



ふと見せる寂しそうな顔は、子供の俺達にとっては、とても大人びて見えていた。



そして、その日も彼は、学校から帰ると、母親が用意してあった食事を



温めて1人で食べていたそうだ。



テレビを見ながら、いつものように1人で食べる夕飯は、美味しいとか



楽しいという感情は一切ないとても無機質なものだった。



そして、食べて食器を洗っていると、玄関のチャイムが鳴った。



彼は、急いで玄関に行くと、



はい?どちら様ですか?



と声をかけた。



すると、玄関の向こうから、



お母さんよ・・・・早く開けてちょうだい・・・・。



そんな声が聞こえてきた。



確かに、その声は母親のものだったが、彼にしてみれば、どうして自分で



玄関の鍵を開けて入って来ないのだろう?



と不思議に感じたという。



しかし、不思議に感じはしたが、少しでも早く母親の顔を見たかった彼は



何も疑うことなく、玄関の鍵を開けた。



すると、玄関の引き戸が開いて、そこには母親が立っていた。



朝出かける時に見た、服装のままの母親が・・・。



母親が、そんなに早く帰ってくるのは珍しかった。



いつもなら午後9時頃までは帰って来ないのに、その時の時刻はまだ



午後7時にもなっていなかったから。



だから、彼は内心とても嬉しかった。



だが、なんとなく、そんな気持ちを悟られるのが照れくさかった。



彼は、ぶっきらぼうに、おかえりなさい、と声を掛けて、再び



台所で食器を洗い始める。



いつも母親は、帰宅するとすぐに着替えをするのは分かっていた。



だから、彼もさっさと食器を洗い終えて、母親の所に行こうと思った。



もう、自分で調理するのも、食器を洗うのも、いつもの手慣れた



作業だったから、彼はさっさと洗い物を済ませると、居間に行こうと



振り返った。



心臓が止まりそうだった。



そこには、母親が着替えもせずに、ぼーっと突っ立って彼を見ていた。



彼は、



どうしたの?



着替えないの?



と声をかけた。



すると、母親は、その問いには答えず、ただ黙ってじーっと彼を見つめている。



彼は母親の様子がいつもとは違うと感じたという。



だから、彼は、



どうしたの?



何かあったの?



と聞いたという。



すると、母親は、暗い顔をして、



今から出掛けるから・・・・。



一緒に来てくれるよね?・・・・。



そう言われた。



しかし、その時、彼は何か違和感を感じたという。



いつも、彼の母親は、そんな言い方はしなかった。



今から出掛けるから、すぐに支度しなさい!



そんな風に命令口調で話すのが常だった。



それに、一日働いてきて、母親がそれから外出などした事は無かった。



いつも、疲れた・・・・疲れた・・・



という言葉を繰り返して、居間でゴロゴロするのがいつものパターン



だった。



だから、彼は聞いてみた。



出掛けるって、何処へ?



疲れてるんじゃないの?と。



すると、母親は、黙って彼の腕を掴んだという。



彼は固まった。



彼の腕を掴んだ母親の手は、夏だというのに、凍った様に冷たかったから。



そして、いつもは柔らかい母親の手が、その時は、固くゴツゴツしたものに



感じられたという。



彼は無意識に、母親の手を振りほどいた。



もう恐怖しかなかった。



そのまま茫然と立ち尽くす彼の腕を、再び母親の手が掴んだ。



ゴツゴツした冷たい手が彼の腕に食い込む。



それは恐ろしいほどの凄い力だった。



彼は、思わず、



痛いよ!痛いって!・・・・・離なしてよ!お母さん!



そう叫んだという。



しかし、母親は、少しも動揺せず、そのまま彼の体ごと引きずり始める。



彼は腕が、まるで何かに噛まれたかのように激痛が走っていた。



しかし、いっこうに彼の腕を引っ張る事を止めない母親に、明らかに



恐怖を感じていた。



これは母親ではない・・・・。



そんな確信があったという。



そして、玄関まで引きずられた彼は、必死に下駄箱に掴まって抵抗した。



このまま連れて行かれたら、もう戻っては来れない・・・・。



そんな気がしたという。



しかし、母親の力は信じられないほど強く、彼はあっさりと下駄箱から



引きはがされてしまう。



彼にはもう、掴まって抵抗する者は何も見つからなかった。



そのままズルズルと引きずられる様にして玄関の引き戸まで来ると、



彼は、その場で大声を出して誰かに助けを求めようとした。



しかし、何故か声は全く出なかった。



そして、声の代わりに彼の目からは大粒の涙がこぼれた。



もう、この家には戻れない・・・。



母親にももう会えない・・・・。



それが、悲しみとなって彼に押し寄せていた。



彼は、心の中で、必死に叫び続ける。



お母さん・・・助けて!



それが、彼に出来る精一杯の抵抗だった。



すると、その時、誰かが外を走ってくる音が聞こえた。



そして、その靴音はどんどんと近づいてくるのが分かった。



そして、その足音は彼の家の玄関前まで来ると、いっきに玄関の引き戸を



引き開けた。



○○!



大丈夫!



それは紛れも無く彼の母親の姿だった。



彼は、母親の姿を見て、思わず体の力が抜けたのか、その場でへたり込んで



しまった。



そして、つい、今まで、彼の腕を掴んでいたもう一人の母親の姿は既に



無く、階段を、誰かが上がっていく音が聞こえた。



彼は、すぐに母親に、その時、起こった事を話すと、母親はすぐに



警察に電話をかけた。



すぐに警察がやって来てくれて、その女がのぼっていったであろう2階を



くまなく探したが、そこに誰の姿も見つける事は出来なかった。



そんな事があってから、彼は、母親が帰宅するまで、近所の家で預かって



もらう事になった。



そして、それから、その、もう一人の母親の姿を見る事は無かったという。



そんな彼が、成人してから、母親にこんな事を聞いてみたという。



あの時、ガキだった俺の言う事をよく信じてくれたよね?と。



すると、母親は、少しだけため息をついて、



今まで言わなかったけどね。



あの時、私も見たんだよ。



自分とそっくりな女の姿を・・・。



だから、子供のウソだとは思わなかったんだよ。



そう言われたという。



彼にしても、それは子供時代の幻の様に感じていたらしいが、母親も見た、



という話を聞いて、改めて背筋が凍る思いをしたという事だ。
  


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2019年06月09日

ボイスレコーダー

彼は取引先の営業マン。



ある案件で何度か打ち合わせをしているうちに、仲良くなり今では



数か月に一度は一緒に飲みに行く仲になった。



そんな彼がいつも持ち歩いているのはボイスレコーダー。



今ではスマホにも付いている機能だが、彼はスマホではなく単体の



ボイスレコーダーを使っている。



やはり、音の明瞭さやノイズキャンセル機能など、便利な部分が多いから



だという。



そして、お客さんとの打ち合わせなどは、そのボイスレコーダーを利用して



しっかり録音し、後でそれをノートにまとめる。



打ち合わせ中にメモを取っていると非効率的だし、何より聞き洩らしや聞き間違い



なども解消でき、何かと便利なのだという。



そんな彼がある時以来、一切ボイスレコーダーを使わなくなった。



理由を聞いてみると、どうやら会議中に録音した音源に不可解な音が



混ざり込んでいたのだという。



その声は会議には一人も参加していない筈の女性の声であり、20~30代くらいの



かすれた声の女性に聞こえたという。



その時には、きっと誰かの声が偶然録音されてしまったのだろう・・・。



そんな程度に思っていた。



しかし、それからというもの、ボイスレコーダーを使用すると、必ず



その女の声が打ち合わせの音声と一緒に録音されるようになった。



さすがに気持ち悪くなった彼は、そのボイスレコーダーをオークションで



売ってしまい、彼自身は新しいボイスレコーダーを買ってそれを



使う様にしたのだという。



しかし、新しいボイスレコーダーにも、すぐにその女の声が録音されるように



なってしまう。



ある時には、彼が現場で打ち合わせをしていると、頭上から大きな鉄の塊が



落ちてきて、彼は危うく死にかけたらしい。



勿論、その時にはボイスレコーダーなど使用している筈もなかったが、少し



気になった彼は、何気なく、ボイスレコーダーを再生してみた。



すると、そこには、悔しそうな声の女が、



死ねばよかったのに・・・・・。



そうはっきりと喋っている言葉が録音されていた。



上司に相談すると、その上司も何故かすぐに対応を考えてくれ、次の社内での



打ち合わせの際に、部屋の中をビデオカメラで撮影する事に決まった。



かくして、その打ち合わせが終わってから、その部署の人間全体でその映像を



確認する事になった。



そして、その場に居た全員が凍りついた。



その映像には、彼の横に立ち彼の顔を覗き込むようにしている女の姿が



はっきりと映し出されていた。



勿論、打ち合わせの最中には、そんな女など何処にもいなかった。



部署の皆は、その映像を見て、



今すぐに除霊をして貰った方が良い・・・・。



と口々に言ったらしいが、その映像を見た彼は、何故か納得した顔でその言葉を



聞き流した。



そして、翌日の休みの日に、以前付き合っていた女性へ連絡して、久しぶりに



会って、色々と話をした。



その大半は彼の謝罪だったらしいが・・・・・。



それから、彼のボイスレコーダーには不可解な女の声が混入するという事は



一切無くなったそうである。
  


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2019年06月09日

これから始まる呪い

これは友人の親戚に起こった話である。



彼女とは趣味の音楽関係で色々と世話になっていた。



元々は彼女の家系はその土地の大地主だったらしく、彼女の家族も



本家筋ではなかったが、自宅の周りにたくさんの土地を持っていた。



そして、その一角にある倉庫は、俺達が無料で利用できるバンドの練習場所



として提供してくれていたのだ。



本当に土地を沢山持ち、お金にも恵まれている彼女の事をいつも羨ましく



思っているのだが実際には色々と大変な事も多いそうだ。



彼女は若い頃に結婚した。



夫は婿養子として彼女の実家で彼女の両親と同居する事になったそうだ。



彼女は1人娘であり、いずれは実家を継がなければいけなかったのだから、



当然の事なのだろう。



彼女の夫になったのは、俗に言うイケメンというやつであり、出会いは



彼女の方から声を掛けたのだという。



夫は地元の団体職員をしており、その団体へも彼女の両親の力はかなりの



影響力を持っていたから、付き合い始めてから、とんとん拍子に結婚へと



漕ぎ着けたようだった。



まあ、確かに彼女と結婚すれば、彼の将来は約束されたも同然なのだから、



彼としても逆玉の輿の気分だったのだろう。



勿論、彼女自身もかなり綺麗な顔立ちではあったから、まあ似合いの二人と



いったところか。



結婚してからも彼女の人生は順調そのものだった。



すぐに彼女には子供が出来て、両親も喜んでくれた。



最初の子は女の子だったが、数年後には、二人の男の子も生まれた。



夫は会社ではそれなりの地位に就いていたし、それにも増して彼女には



自己所有のマンションやアパート、そして駐車場がそこそこあり、そこからの



収入だけでも毎月驚くほどの収入が入って来ていた。



そんな人も羨むような生活がずっと続くと思っていた。



しかし、上の子供が小学4年になろうかという頃、亀裂が入り始める。



夫が家に帰って来なくなった・・・。



それだけではなかった。



彼女の周りで不幸が起こり始める。



父親が持病で急死し、母親は事故で病院に入院する事になってしまう。



更に、彼女が所有している不動産の幾つかが、知らない間に名義変更



さてれいた。



夫の仕業だった。



そして、追い打ちをかけるように彼女自身も事故で病人に担ぎ込まれた。



車を運転していた彼女に向って、対向車線から大型トラックが車線を



超えて突っ込んできた。



トラックの運転手は突然、ハンドルが効かなくなったと証言した。



彼女自身は、頑丈な高級外車に乗っていた事もあり、すぐに病院を



退院する事が出来た。



何故、こんな不幸が続くのか・・・・。



彼女は神社に頼んでお祓いをしてもらうとともに、夫が家に帰って来なくなった



理由を探る為に、探偵事務所に調査を依頼した。



しかし、そんな事では不幸の連鎖はいっこうに収まらなかった。



そして、ついに、最悪の事が起こってしまう。



彼女の子供が3人で歩道を歩いて学校に向かっている時、突然、ガードレール



を超えて大型のダンプカーが突っ込んできた。



3人の子供は即死だったという。



子どもの葬儀の時には、さすがに夫も帰ってきたらしいが、無事に葬儀が



終わると、また、家に帰って来なくなった。



そんな時、彼女が俺に相談してきた。



こんなに不幸が続くなんて何かの呪いとしか思えないの・・・・。



そう言って、何とか助けて欲しいと頼まれた。



彼女への恩義もあった俺は、すぐにAさんに相談した。



相変らず、面倒くさそうにしていたAさんも、呪いという言葉を聞いてその時は



すぐに対応してくれた。



彼女の家に着くと、Aさんは仏壇にお参りしてから、彼女に夫の持ち物を



何か持って来て欲しいと頼んだ。



そして、彼女が持ってきた、以前夫が愛用していたスーツを見ると、今度は



彼女が愛用しているものを持って来て欲しいと言った。



そして、彼女が愛用しているブランド品のバッグを差し出すと、そのバッグ



に向かって指で文字を書きながら何やらブツブツとつぶやいている。



そして、それが終わると、



確かに呪いですね・・・。



それも、この呪いは間違いなく貴女1人を狙っている呪い・・・。



子供さんが亡くなったのも、貴女の巻き添えになっただけ・・・。



だから、今、その呪いを相手に返してみました。



呪いをかけた相手は、間違いなく恐ろしい思いをする筈です。



貴女に謝って許しを請いたくなるほどの・・・。



貴女にこれ以上、実害が及ぶことが無いようにしておきましたから、後は



相手の出方を待つだけですね・・・。



そう言って、さっさと帰ってしまった。



そして、それから数日後、彼女から電話がかかってきた。



呪いをかけた犯人が判ったから、Aさんと一緒に立ち会って欲しい、という



電話だった。



それにしても、呪いをかけた相手が判ったというのに、以前にも増して



暗い声だったのがとても気になった。



そして、俺とAさんは、指定された日時に彼女の家に向かった。



すると、もうその相手は彼女の家に来ており、今は客間で待たせている、



との事だった。



そして、3人で客間に行き、襖を開けると俺は唖然としてしまった。



そこには見知らぬ女性と、そして彼女の夫が座っていた。



訳が分からない俺に対して、Aさんは、



ああ・・・やっぱりね・・・。



と予想通りの展開のようだった。



そして、話を聞いて俺は更に驚いてしまった。



彼女の夫が家に帰らなくなったのは、好きな女性が別に出来たからだった。



それが、夫と一緒に客間に座っている女性。



それなのに、彼女はその女性に足して馬頭するどころか、敬語まで



使って話していた。



そして、最後まで話を聞いた俺はようやく話の内容を理解した。



どうやら、彼女の従姉妹に当たる、その女性が彼女の夫の事を好きになった。



そして、夫自身も、彼女との生活に嫌気がさしていた。



そうして、二人は相思相愛の関係になった。



その女性は、どうしても彼女の夫と結婚したかったらしく、彼女さえ



居なくなれば全てが上手くいく、と思い、彼女に呪いをかけた。



そして、その呪いは凄まじい効力を発揮して彼女を不幸の渦の中に巻き込んだ。



しかし、彼女ではなく、子供たちが死んでしまった事、そしてAさんによる



呪い返しで、先ずからも恐ろしい体験をする様になった事から、もう



逃げられないと思い、彼女に謝罪をしに来たのだという。



あれは、つい出来心だった、と。



魔が差したのだ、と。



だから、もう許してほしいと懇願した。



普通なら、彼女から全てを奪ったその女を許せる筈などない。



しかし、相手が悪かった。



相手の女性は、本家の1人娘であり、幼い頃から従姉妹同士とはいえ、彼女とは



全く身分が違うのだと言い聞かされてきた相手。



その女性を敵に回す事は、親戚から排除される事に直結していた。



だから、なのか、彼女は終始、穏やかな顔で対応し、挙句の果てには



自分の夫を彼女に差し出すとさえ言った。



その女性は喜んで、夫が勝手に名義変更した不動産を返すとともに、更に



多くの不動産を彼女に迷惑料として進呈すると告げた。



俺には、お金持ちの力関係というものは分からなかった。



何故、自分から全てを奪った相手に、それほど穏やかに対応出来るのか、が



全く理解出来なかった。



しかし、それは俺が口を挟むべき事ではなかった。



だから、俺は何も考えないようにその場を後にした。



帰り道の車の中で、俺はAさんに聞いてみた。



あのさ・・・Aさんの家もお金持ちじゃん?



だったら、ああいう結論って理解出来たりするの?と。



すると、Aさんは、



もしかして、Kさんは何か勘違いしてませんか?



あれはまだ全然終わってませんよ!



Kさんの友達の顔をちゃんと見てましたか?



あれは全てを許したっていう顔じゃありませんから・・・。



自分から全てを奪っていった相手をそんな簡単に許せるもんじゃないでしょ?



まあ、確かに相手の女性も絶対に幸せにはなれませんけどね。



一度でも他人を呪った者は一生、その業を背負っていかなければいけませんから。



だから、今回の件は決して解決したわけではありませんよ。



終わったんじゃなくて、これから始まるんです。



新しい呪いが、Kさんの友達によって・・・・。



今は、何起こっていませんから手の施しようもありませんけど・・・。



でも、近い将来、彼女が呪いに狂い、そして呪いに飲み込まれたら、その時は



Kさんは辛い選択をしなくてはいけませんよ・・・。



呪いの念とともに、彼女自身を消滅させるのかどうか・・・。



今は被害者である彼女が、いずれは加害者になるかもしれません。



その時には心を鬼にしてでも、彼女を止めるのか、それても見逃すのか・・・。



私はKさんの意思に従いますから・・・・。



まあ、その時までにしっかり覚悟だけはしておかなきゃいけませんね!



そう言われ、俺は背筋に冷たいものを感じてしまった。



  


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2019年06月09日

もうスマホは使えない

これは知り合いの女性が体験した話。



彼女は、いわゆるキャリアウーマンという人種である。



イベントプランナーとしての働きぶりは男性顔負けであり、



提案も的確で、仕事も速い。



そんな彼女が手放せないのが、スマートフォンとタブレット



なのだという。



会社で企画を立て、それをお客さんに分かり易いように具体的に



視覚化する。



そして、最終的な詰めは、客先へと移動途中に、タブレットを使い



スマートフォンで情報を集めて、より良く完成させる。



そうした方がより現在の顧客に合ったプランを提供出来るのだという。



そのためには、スマートフォンもタブレットもどうしても必要



であり、欠かす事の出来ないツールになっているそうだ。



そして、これから書くのはそんな彼女が体験した奇異な出来事である。



その日、彼女は、客先に向かうために電車に乗った。



あえて、特急には乗らず、普通列車で時間を掛けて移動する。



そうしていると、色々なアイデアが浮かんでくるのだという。



その時も電車に乗った彼女は、誰も座っていない座席を見つけて



そそくさと座った。



さすがに、隣に誰かが座っていると、仕事にも集中出来ない。



彼女はカバンからスマホとタブレットを取り出すと急いでその日、



プレゼンする予定の企画書に目を通した。



その日の天気が雨模様だったので、プレゼン用の背景の色を少しだけ暗くした。



そうした方が何故か顧客から受け入れられ易いそうだ。



そして、いつも通り、彼女は駅までの所要時間から少し前の時刻にスマホの



アラームをセットした。



いつも、つい仕事に熱中し過ぎる彼女は駅を乗り過ごす事の無い様に、そうして



いる。



そして、再び、タブレットの画面に視線を移す。



それから、どれくらいの時間が経過した頃だろうか・・・。



突然、彼女は電車が何かを乗り越えたような嫌な感覚に襲われた。



それは、紛れもなく、彼女自身が何度か体験した事のある、電車への飛び込み



自殺で電車が自殺者の上を乗り越えた時の様な感覚だった。



現実には、電車の様な重くて速い物体が、人間の体の上を通過したとしても、



座席のシートには体感出来る程の衝撃など伝わらないそうなのだが、そうした



体験をした人の何割かは、確かに電車が自殺者の体の上を通り過ぎている、と



感じるポイントがあるそうだから、あながち気のせいだけで片付けられる



ものではないのかもしれない。



うわぁ…電車が止まったら、どうしよう・・・・。



遅刻しちゃうよ・・・・。



そう思って思わず顔をあげた彼女だったが電車はブレーキをかける気配もなく



周りの乗客にも何ら変わった様子は無かった。



気のせい・・・・なの?



そんなはずはないんだけどなぁ・・・・。



そんな事を思っていると、ちょうど彼女と目が合うものがあった。



それは、隣の車両との接合部分に立ちながら彼女の方を見つめている女だった。



しかし、どう見てもおかしかった。



ワンピースは破れ、そして血まみれになっており、首があり得ない角度で



90度以上の角度で曲がっていた。



ただ、その女が不思議そうに彼女をただぼんやりと見ていた事、そして、



彼女よりも近くにいる乗客の一人としてその姿に驚いたり悲鳴を上げる



者がいなかった事で彼女は全く恐怖を感じなかったという。



大勢の人が周りにいる。



それが彼女に恐怖というものを感じさせない安心感を与えて



いたのかもしれない。



もしかして、何かの企画か、ホラー映画の撮影かな?



彼女はそう思って、再びタブレットの画面に目をやった。



しかし、やはりどうしても気になってしまうのか、すぐにその女の方へと視線を



戻した。



近づいていた。



明らかに、先ほどの距離が1/3ほど短くなっている。



え?どうして?



彼女は驚いた。



その女が近づいてきた音も聞こえなかったし、何よりそんなに長い時間、



タブレットを見ていたわけではなかった。



先ほどより近づいていたその女は、体の至る所から骨が露出し、右足の



足首から下が欠如していた。



あの足で動いたっていうの?



それしても、最近の特殊メイクって、凄いんだなぁ・・・。



そんな感じにしか思わなかった。



ただ、やはり、欠損した右足で、そんな短時間にその女が近づいてきたという事には



何か気持ち悪さは感じていたのだろう。



彼女は、試しにもう一度タブレットに目を戻して、瞬時に再び、



その女に視線を戻してみる事にした。



タブレットに目をやり、そして、すぐに視線を戻した。



時間にして、ほんの0.5秒ほどだった。



しかし、その女との距離は更に1/3まで短くなっていた。



その時、彼女は初めてその女が、映画の撮影をしている訳ではないのだと



確信する。



この女、私にしか見えていないの?



一瞬の間に数メートル・・・。



しかも、これだけ混み合った電車の車内で移動なんか出来るわけがない・・・。



それに、いくら特殊メイクでも、あんな姿で生きていられる筈がない・・。



彼女は恐怖で固まっていた。



それと同時に大きな悲鳴を上げようとしたが、声が全く出なかった。



彼女は完全にパニックになっていた。



その女は相変わらず、ぼんやりと彼女を見つめていたが、何故かその眼には



殺意というものが感じられた。



そして、近くで見ると、その女の体からはポタポタと真っ赤な血が滴り落ちて



いるのが分かった。



もう一度、タブレットを見たらどうなるの?



彼女は恐怖で頭が全く回らなかった。



ただ、絶対にタブレットに目をやってはいけない、という事だけは分かった、



という。



その時、突然彼女のタブレットにメールが着信し、それを告げるアナウンスが



流れた。



周りにいた乗客は、いっせいに彼女へ視線を向ける。



そして、きっといつもの癖になっていたのだろう・・・・。



彼女は思わず、一瞬、タブレットにめをやってしまった。



あっ!



しかし、もう遅かった。



ゆっくりと顔をあげると、そこには彼女の顔を覗き込むようにして、その女の



顔があった。



悲鳴を上げようとして声にならなかったのまでは覚えているという。



そして、それから数分後、彼女はいきなり誰かにぶつかられた痛みで目が覚めた。



彼女は押し倒されるように駅のホームで倒れていた。



そして、凄まじいブレーキ音と共に、彼女の頭をかすめるように電車の車体が



通り過ぎていったという。



大丈夫ですか?



あんた、何考えてるんだ?



色んな声が彼女の耳に飛び込んできた。



そこで、初めて彼女は自分が電車に飛び込もうとしていたのだと分かったという。



自分はもう少しで確実に死んでいた・・・・。



そう思うと体中の力が抜けていった。



そして、彼女はそれから駅の執務室に連れて行かれて色々と事情を聞かれた。



顧客とのアポイントの時刻はとうに過ぎていたが、そんな事は全く



気にならなかったという。



そして、彼女が体験した事を必死で説明したらしいが、駅員は誰も



信じてはくれなかった。



ただ、一人だけ、年配の駅員さんだけが帰り際に、



電車とか駅って、ある意味、そういう事が起こり得る場所だから・・・。



これからは、自分の命はご自分で守らなきゃね・・・。



そう言ってくれたという。



ちなみに、それから、彼女はスマホも、そしてタブレットも全く使わなくなった。



使うのが怖いのだという。



もしも、またタブレットやスマホを使っていて、視線をあげたら、あの女が



すぐ傍に立っている気がして・・・・・。



そう言っていた。
  


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2019年06月09日

長い行列

彼は、亡くなった人が並ぶ行列というものを視た事がある。



それは街の不特定の場所に不定期で現れる。



初めて視た時は、興味本位で近づいたが列には加わらなかった。



その時、それが死者の行列なのだと本能的にはっきりと分かったから。



だから、時折、そんな長い列を視る事はあったが、すぐにその場から逃げる



様にして立ち去る事に決めていた。



そして、そんな列が視えてしまう、という事は自分だけの秘密として、誰にも話さない



事に決めていた。



しかし、昨日、彼は妻から、



不自然な長い行列を見つけてしまい、それに加わろうと



したのだと聞かされたという。



貴女が列に並べるのは、まだ3年先だから・・・・・・。



そう言われて彼女は断念したらしいが、その言葉の意味が分かる?



と彼は尋ねられたのだという。



不思議な事に遭遇した、と笑顔で笑っている妻。



残り3年の命・・・・・。



私には、その悲しい未来を妻に伝える勇気は今のところ持ち合わせていない。



そう言って彼は静かに眼をつぶった。
  


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2019年06月09日

百物語の検証

これは友人から聞いた話である。



彼は怪奇検証サークルなるものを立ち上げている変わり者。



日頃はべんごし大学の講師というお堅い仕事をしている反動なのか、彼の



怪異に対する探究心は尽きる事がない。



サークルといっても会費も取らなければ、定期的に集まる事もない。



彼が試してみたいと思った都市伝説などを実際に友人達に声を



掛けて、出来るかぎり忠実に実行し、それを検証している。



過去にも、こっくりさんや真夜中に合わせ鏡、ひとりかくれんぼ、



等も実際に行い、検証している。



ただ、やはり彼は頭が良いのだろう。



そんな不気味な実験を行いつつも、その時に起こった事を



出来る限り、科学的に検証している。



そして、子供の頃にやった時とはまた違う、大人ならではの



見方で発生した怪異と向き合っている。



まあ、俺にしてみれば、ろくでもない遊びにしか見えないのだが、



本人はかなり真剣なようだ。



そんな彼がある日、百物語を検証した。



本来、室町時代から続く正式なやり方というのは、かなり制限



された家の間取りがないと実行不可能であるらしく、その時は



簡易的な方法を採った。



とはいえ、人数は男3人と女一人の計四人で、わざわざ金沢市内の



温泉宿の離れを借りきったというのだから、かなりの熱の入れ様だ。



話は特に心霊系に拘らず、摩訶不思議な話やサイコ系の話も含めて、



各人が25話ずつ持ち寄って、本番に臨んだ。



本来は99話で止めるのが習わしらしく、よく怪談本などても、



百物語と謳っているものは、殆どが99話で終わっている。



それは、百物語の由縁である、100話目の話が終った時、必ず



怪異が起こるという結末を避ける為らしいのだか、その時の彼は



検証という性質上、完全に100話を話し終えるまで止めるつもりは



なかった。



しかし、これはとても危険な事だった。



実は以前、Aさんに百物語というものについて、聞いてみた事がある。



本当に・・・でるのか?と。



すると、Aさんは、そんな事も知らないのか?という顔でこう言った。



それは勿論、出るでしょうね?



百物語というのはれっきとした降霊術の一つなんですから・・・。



昔の人は、夏の暑さをしのぐという手段があまりにも少なかったから



苦肉の策として百物語をして気持ちだけでも涼しくなろう、という趣旨は



理解出来ますけど、こんなに快適な暑さ対策で溢れている現代において



百物語をするという事は、馬鹿な事としてか言えないですよ。



良く勘違いしている人がいますが、百物語というのは明らかに降霊術であって、



百の話を聞き終えたら、本物の怪異が起こるなんて言われてますけど、



実際には、1つの話をしている最中からどんどん霊が集まって来るんです。



そりゃ、そうでしょ?



わざわざ、怖い思いをする為に怪談をしている訳ですから、まさに



霊達をご招待しているのと同じなんです。



だから、百物語の本質は、1話目からどんどんと増えていき、霊気で



待たされていく部屋の中でどれだけ耐えられるか?という事なんです。



そして、百話が終われば、もうその場がお開きになってしまうと思って



霊達が姿を表します。



99話までの、気配を感じるというレベルではなくて、其処にいる



全ての人の前に姿を現わします。



霊感が有るとか無いとかは関係なく・・・・。



そして、そこに集まる霊の中には、害のないモノもいれば、明らかな



悪霊も集まっています。



その時に、逃げようと思ってももう遅いんです。



だから、百物語なんて絶対にやるべきではないんですよ。



そう断言していた。



そんな俺の心配をよそに、彼は当日を迎えた。



宿泊費として1人3000円だけ支払ってもらいそれ以外は全て彼が



1人で負担したというのだから、凄まじい熱の入れようだ。



離れを取ったのは正解だった。



なにしろ、現場には百本のロウソクと百話目が終わった時には霊が



現れるという前提で、お清めの塩やお経の類、お清めの日本酒、その他、



思いついた物は全てその部屋に持ち込んだというのだから・・・。



宿に全員が集まると、まず温泉に入り、夕食を食べてからいよいよ



百物語となった。



夕食のときにお酒を飲みたいという者もいたが、今夜の百物語はあくまで



科学的な検証であり、お酒が入っていては正確な判断が出来ない、という



理由で厳格に禁止されたという。



百物語が始まる頃には風が強まり、雨がぽつぽつと降ってきたという。



怖がる者もいたが、これこそが百物語にうってつけの状況だと喜んだ



というのだから、恐れ入ってしまう。



そして、最初の1話目は彼の話で始まった。



何所にでもありそうな良くある話だったが、それでも場の雰囲気は



じっとりと重い空気が立ち込めた。



それでも決めて会った通りに、100本あるロウソクの1本の火を消した。



少しだけ部屋が暗くなっただけで恐怖感がとてつもなく増してしまう。



そして、各自が持ち寄った話を次々に話し始める。



長い話、短い話など様々だったが、その場で聞くとどの話も



とても恐ろしく感じた。



そして、ちょうど50話程、話し終えたとき、トイレ休憩にしようと



いう事になり全員が一時、その場から立ち上がり一緒にトイレに行こうとした。



やはり、恐怖の為、1人でトイレに行くのは困難だったようだ。



しかし、そこで、最初の異変が発生した。



トイレのドアが開かないのだ・・・・。



確かに彼を含めた4人は部屋の中に揃っていた。



それなのに、いったい誰がトイレの中に入り鍵をかけているというのか?



そこで、彼らは部屋の外に在るトイレに行こうという事にした。



しかし、何故か部屋から出る襖がびくともしなかった。



これには、さすがにその場にいる者も固まってしまったが、彼だけは、



これこそ待ち望んだ怪異というものじやないか!



どうやら、さっさと百物語を終わらせないと部屋から出してもらえない



みたいだから、このまま続けよう!



と目を輝かせていたという。



まあ、其処にいる全員が特にトイレに行きたいというよりは少し気分転換



をしたいというだけだったから、そのまま百物語は続行された。



そしてそこから20話程話が進んだ時、その場にいた全員が強い耳鳴りを



感じたという。



更に、先ほどまで降っていたはずの雨がピタッと止み、風も全く吹かなくなっていた。



それなのに、何故か、残っている30本ほどのロウソクはユラユラと風に



吹かれた様に大きく揺れていた。



そこで、4人の中の一人である女性がギブアップ。



仕方ないが、残った3人でそのまま続行する事になった。



そして、それから数話目を話している時、明らかに女性の泣き声が聞こえた。



その場にいた男性陣は、



おいおい、これは科学的な検証なんだから、そういうのは止めてよ!



とその場で静観していた女性に言うが、女性は断固として自分の声では



ないと言い張った。



あまりにも女性が強く言うので、彼らも渋々、それを納得させた。



そして、それからまた数話進んだ時、突然、その場にいた女性が



ゆっくりと立ち上がり、そのままユラユラとロウソクの炎のように



揺れ出した。



彼らはその時、既にかなり恐怖に押しつぶされそうになっていたらしく、



それを横目で見ながらも、無視するように、話を続けた。



彼らにはもう科学的検証などどうでもよくなっていた。



早く、この場から解放されたい・・・・。



それしか頭には無かったようだ。



彼はその時思っていたという。



やるべきではなかった・・・と。



しかし、一度始めれば途中で止めてはいけないという事も知っていたのだろう。



彼は、目を閉じて次に自分が話す怪談をどれにしようかと考えていた。



しかし、彼の耳には誰の声も入っては来なかった。



そっと目を開けると、彼以外の者が全てその場に立ちあがり、最初の



女性と同じようにユラユラと揺れていた。



彼は、もうロウソクを消している余裕など無くなってしまい、ただ1人で



次々と怪談を話す事しか出来なかった。



聞いているものが一人もいないその場所で・・・。



それでも、彼が1話話し終えると、部屋が少しだけ暗くなった。



それは、誰かがロウソクの火を消しているとしか思えなかった。



彼は薄眼を開けて周りを見渡した。



すると、そこには、相変わらず他の3人が彼の方を向きながら立って



ユラユラと揺れている姿があった。



そして、彼らを挟むように座る、見知らぬモノ達の姿がはつきりと見えた。



そして、その中の一人の女は、ロウソクの火に顔を近づけて、いつでも



ろうそくが消せるように待っているのが見えた。



とても人間には見えなかったという。



古い怪談映画に出てくる様な不気味な姿だったという。



やせ細り、それでいて目だけがギラギラと光っている。



彼は思わず絶叫しそうになったが、必死にそれを堪えて話し続けた。



部屋中がまるで地震でも起こったかのようにガタガタと震え、部屋の中の



温度も、真冬の様に寒くなっていた。



更に、彼が話す声を遮るかのように、



念仏の様な声が聞こえてくる。



更に、誰かが彼の肩に顔を置いているのが分かった。



耳元から冷たい息がかかり、とても生臭い匂いに鼻が曲がりそうになる。



そして、それは話が100話に近づいて行くほど増えていくのも分かった。



沢山の顔が彼の顔を覗き込むように、すぐ近くにあるのが見なくとも



よく分かったという。



彼は心の中で必死でお経を唱えながら、それでも必死で怪談を話し続ける。



途中で話を止めてしまったら、それこそ命取りになる・・・。



そんな確信があったという。



そして、彼は何とか100話目を話し終えた。



1人も聞く者がいない部屋の中で・・・・。



彼は、ずっと目を閉じていたが、100話目が終わった途端、体が軽くなり



何故か部屋の中も明るくなっている気がしたという。



彼は恐る恐る目を開けた。



そして、そこで彼の記憶は途絶えてしまった。



結局、朝になり、宿の従業員がやって来て、初めてその部屋の異変に気づいた。



その従業員が来た時、彼を含めた全員が立ったまま、部屋の中でユラユラと



揺れていたのだという。



その後、彼らは正気に戻り、そして宿の主人に激怒された。



百物語をしていたという事がバレてしまったらしい。



その後、その会に参加した者には怪異は発生していない。



悪霊と言われるモノが来なかったのが不幸中の幸いだった。



しかし、彼は二度と百物語はやらないと公言しているが、まだ他の



危険な検証を考えているというのだから驚きである。
  


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2019年06月09日

コインパーキング

これは友人から聞いた話である。



友人の叔父は元々持っていた土地を利用してかなり大きめなコインパーキングを



経営している。



立地条件にも拠るとは思うのだが、叔父が所有しているコインパーキングは



駅に近く金額も安めに設定している事もあり、かなりの収入に



なっているそうだ。



ただ、やはり、不正に料金を踏み倒す利用者というのも存在するらしい。



叔父のコインパーキングというのは、入庫すると、タイヤ止めが持ち上がり



料金を支払うまでは車を動かせなくなるというもの。



それでも、大型のオフロード車などになると、いとも簡単にタイヤ止め



を乗り越えてお金も払わずに出庫されてしまうらしい。



だから、叔父のパーキングでは監視カメラというものが、設置されている。



そして、パーキングの看板に、「監視カメラ作動中」と書かれている



だけでも、不正防止の効果はかなり高いらしく、監視カメラを設置



してからというもの、一気に不正利用する客が減ったらしい。



そうして、その叔父のコインパーキングは順調に収益を上げていった。



しばらくの間は・・・・。



しかし、カメラを設置してから数ヶ月が経った頃、次第にそのパーキング



を利用するものが減っていき、そのうち、誰も利用しなくなってしまう。



叔父にはその理由が分からなかった。



その近くにあるパーキングは、相変わらず常に満車状態であり昼夜問わず



利用者の車で溢れかえっていた。



叔父は色々と近くの駐車場を見て周り、自分の経営するパーキングと



何処が違うのか、と調査してみた。



しかし、駐車スペースも利用金額も同じ。



そして、タイヤ止めの方式も監視カメラが付いている事も全て同じだった。



そして、何より、叔父が経営するコインパーキングが駅から一番近かった。



利用する側としては、もっとも利便性が良いパーキング。



だとしたら、どうして、自分のパーキングにだけ誰も車を停めようと



しないのか、と必死に考えた。



しかし、どれだけ考えても理由は見つからなかった。



そんな時、人づてに妙な噂を聞いたという。



それは、そのパーキングを利用すると、霊が乗ってくる、というものだった。



霊など信じない叔父は、



何を馬鹿な事を(笑)



と一笑に付した。



そして、もしかしたら、自分の経営するパーキングでは車上狙いが



起きているのかもしれない、と思い、パーキング内の監視カメラを



大幅に増やしたという。



しかし、それでも状況は変わらない。



仕方なく、叔父は駐車料金を大幅に下げた。



そうすると、さすがに利用客はわずかに増えたが満車には程遠い。



そんな時、叔父のもとに利用客だという男性から電話がかかってきた。



貴方のパーキングは呪われている・・・。



そのせいで、出庫してからすぐに事故に遭ってしまった・・・。



そういうクレーム内容の電話だった。



さすがに、そうなると、霊の存在というのも、いつまでも否定



している訳にもいかなくなった。



そして、過去の監視カメラの録画映像を確認した時、叔父は凍りついた。



そこには、はっきりと得体の知れないものが映り込んでいた。



最初は、ただの酔っ払いの女が駐車場内をうろついているのだと思った。



しかし、その女は、駐車されている車に近づくと、その車にドアを



開ける事無く乗り込んでいった。



ドアを通り抜けて車内に入ったと言った方が正しいのかもしれない。



そして、車の後部座席から、じっと監視カメラの方を見つめていた。



そして、それは録画された映像のいたるところに残されていた。



常に同じ女ということではなかった。



駐車している車が5台であれば、5人の女が何処からともなく現れて



それぞれの車に乗り込んでいく。



叔父は、も思わず自分の目を疑った。



しかし、映像に残っている以上、それは真実なのだろう・・・。



そう思った叔父は、自分の車を昼から夜にかけて、自分のパーキングに



駐車し、夜になるとその車の所へと向かった。



その時は叔父はまだ半信半疑であり、出来る事なら自分が幽霊の正体を



暴いてやる、と意気込んでいたのだという。



そして、車に乗り込んだ叔父はエンジンを掛けて後部座席を見た。



だが、そこには誰もいなかった。



それなら、ということで、叔父は車を発進させ、少し車を走らせてみる



事にした。



そして、走り始めて3分ほど経った頃、後部座席から女の声が聞こえた。



地獄から湧き上がってくるような低く太い女の声だった。



最初は何と喋っているのか分からなかった。



それよりも、恐怖でそれどころではなかったから・・・。



そして、恐怖でバックミラーも見られなかったという。



しかし、何度も同じ言葉を繰り返すのを聞いているうちに、



どうやら、その女は、



死んで・・・・死んで・・・。



と繰り返している事が分かった。



叔父は慌ててブレーキを踏んだが何故かブレーキは利かず、そのまま



勝手に動いたハンドルのせいで、対向車線にはみ出して対向車と



衝突してしまった。



叔父に大した怪我はなかったが、最後に車内には、その女の声なのだろう。



ゲラゲラゲラゲラ・・・・・。



という不気味な笑い声が響いていたという。



その後、叔父は色んなお寺や神社に頼んで御祓いをしてもらったそうだが、



そのパーキングに現れる女がいなくなることはなかった。



そして、今現在も、そのパーキングは駅の近くで閉鎖されたまま



残されているそうだ。
  


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2019年06月09日

劇団員

映画でも舞台でも、やはり役者さんの演技にはある意味圧倒される



部分がある。



コミカルな演技から殺人鬼まで・・・・。



そのどれもが、その役者さん本来の姿の様に見えてしまうのだから、演技



というのは本当に凄いものだと思ってしまう。



私の高校生の娘も演劇部で頑張っているのだが、いつものだらしないとしか



言えない姿からは想像も出来ないほど、舞台の時には、まるで自分の娘ではなく



どこかの役者さんを見ている気持ちになってしまう。



そして、これは俺の知人が体験した話である。



彼は俺の客先である会社に勤めながら、劇団に所属し1年に数回の舞台を



こなしている。



1度だけ舞台を観た事があるのだが、その時も日頃会社で見ている彼の姿とは



まるで違う鬼気迫る演技に圧倒された記憶がある。



だから、やはりプロの役者さんを目指しているのか?と問うと、彼は笑いながら



そんな大それた考えは今はもう微塵も持ち合わせていないと断言した。



それでも、舞台が近づいて来ると会社の仕事を早めに切り上げて夜遅くまで



稽古をしているようであり、そんな時には土日の休みも関係なく全て



舞台の稽古に費やす。



そして、自分達の舞台を見て貰う為に、チケットを苦労して売り、当日は



緊張の中、自分との闘いの中に身を置く。



舞台とは、きっと、それだけの価値と楽しさがあるものなのだろう。



そんな彼は過去に一度だけとても不思議な体験をしたのだという。



その時、彼は次の舞台で準主役といえる程の大切な役をもらっていた。



だからという訳ではないが、その舞台には特に力が入っていたという。



舞台稽古の日には、誰よりも遅くまで残って1人で台詞の練習をしていたという。



やはり自宅で一人、セリフの練習をしているのとは違い、舞台での練習はまるで



台詞が体の中に入って来るような感覚でとても貴重な時間だった。



そして、そのうち、彼は奇妙な事を感じ始める。



それは、自分の台詞と呼応するように、相手の女性の台詞がぼんやりとでは



あったが、彼の耳には聞こえるようになった。



最初は、囁き声のような小さな声だった。



しかし、練習を続けていると、やがて、その声はよりはっきりと聞こえるように



なっていった。



しかし、全員での舞台稽古の時にはその声は一切聞こえない。



確かに不思議ではあったが、その時の彼にはそれが誰の声なのかなど、



どうでもよい事だった。



その声と一緒に、1人で練習していると、まるで自分の演技が別人の様に



上手くなっていくのを感じたという。



そして、いつしか、その声はその舞台で1人で練習している時だけではなく、



自宅で練習している時、そして全員で舞台稽古をしている時にも、はっきりと



聞こえるようになっていった。



しかし、その声は他の共演者達には全く聞こえていないようだったが、



彼は、そうなっても全く気味悪くなど感じていなかったという。



それは、自分に演技の神様が降りてきてくれているのだと錯覚していたから



なのだという。



そして、これは自分にとってもチャンスであり、もしかしたらプロの役者への



道も開けるのではないか・・・・・。



そんな事さえ思っていたという。



しかし、一つだけ問題があった。



彼の演技は、その頃は相当な評価を得ていたらしく、誰もが彼の成長ぶりに



驚き、その才能を高く評価せざるを得なかった。



しかし、そのせいか、全員での舞台稽古の際、彼は共演者の女性の台詞が



何処からか聞こえてくる女性の声と比べて比較にならない程レベルが低い



事にいらだち、時にはその相手女性を酷い口調で罵ったという。



しかし、彼の演技自体は素晴らしかったので、彼にその事でクレームを



つける者などいる筈もなく、その劇団員たちは皆、ピリピリし雰囲気の中で



練習を続けることになった。



しかし、その緊張感事態は決して悪いものではなく、彼の気迫につられるように



他の演技者達の演技もどんどんと上達していき、何とか本番の日を迎えた。



その頃になると、彼はどんどんと痩せていき、まるで食事が食べられない



病人のような姿になっていた。



ただ、彼の役どころも、そんな感じだったから、周りの劇団員たちは、きっと



それは彼の役作りの一環なのだと妙に納得していたという。



そして、いよいよ本番がスタートした。



いつもより、かなりレベルの高い舞台に観客たちも圧倒された。



皆、役者達の演技に惹き込まれ、舞台から目が離せなかった。



他の劇団の関係者も、その場に居たらしく、彼らの演技、いや、特に彼の演技には



目を見張ったという。



しかし、観客たちは少しずつ、違和感を感じ始める。



劇の流れと関係無い台詞が、突然聞こえたり、舞台の小道具が突然倒れたりと



アクシデントが続いたのだから・・・・。



そして、いよいよ佳境に入ったところで、突然、大きな声で



お前じゃない・・・・お前じゃ駄目だ・・・。



という女の声が聞こえたという。



その声は観客だけてなく、彼ら劇団員全てに聞こえたという。



と、突然、会場の照明が全て消えた。



真っ暗になった会場に観客たちはざわめいた。



すると、突然、大きな音が聞こえ、それと同時に女性の悲鳴が聞こえた。



そして、それから10秒くらいすると、突然、照明が戻った。



明かりの戻った舞台には、大道具の下敷きになり流血している主役の女性と



彼の背中に張り付くようにおぶさっている女の姿があった。



最初は観客達も、それがきっと劇の演出なのだと思ってそのまま静かに見ていた。



しかし、突然、劇団員が舞台に入り、倒れている主役女性を助け起こし、



そのまま舞台の袖に消えていったのを見て、会場はざわつき始める。



それでも、彼は全く意に関せずといった様子で演技を続けており、そして



彼の背中には彼の2倍以上はあるような大きな女が背中に張り付いているのを



見て、観客達は悲鳴をあげて一斉に逃げ出したという。



結局、彼は誰も居なくなった会場で最後まで自分の演技を続けた。



他の劇団員が彼を止めようとしたが、何故か彼には近づけなかったという。



そして、彼の演技が全て終わったところで、彼はその場に倒れ込んだという。



急いで彼も病院に搬送されたが、かなり危険な状態だったという。



そして、病院での治療よりも、お寺での長いお祓いを受けた後、



彼はいつもの彼に戻ったという。



あれは演技の神様なんかじゃない・・・・。



あのままだと、きっと僕自身、死んでいたんだと思う。



だから、もうプロの役者になるのは諦めたんだ・・・。



だって、今でも僕には見えるから・・・・。



活躍している俳優や女優の背中に、大きな姿のあいつらが張り付いているのが・・・。



だから、もう、あんなのは御免だよ・・・。



そう言っていた。
  


Posted by 細田塗料株式会社 at 18:45Comments(0)

2019年06月09日

朗読

仕事関係のお客さんがYoutubeで私の話を朗読している。


別に今流行りのユーチューバーというものになるつもりもないらしが、



何かを世の中に向けて発信してみたいという思いを聞かされ、俺も



その気持ちに賛同し、その立ち上げから全ての面で協力してきた。



機材や編集用のソフトなど使っておらず、素人然とした動画に



なっているが、あくまで仕事の合間にやっている作業であり、



俺的にはそれで十分だと思っている。



最初は、



おいおい!大丈夫ですか?



と不安だった素人過ぎる朗読も、最近はかなり慣れてきた様であり、



聞いていても不快ではなくなった(笑)



朗読を担当しているのは、社長夫人である普通の主婦。



最初は、朗読の大変さに何度も挫折しかけたらしいが、現在では、



朗読している時間が楽しいと言ってくれているのが俺には嬉しい。



そして、先日、こんな事を頼まれた。



それは、Kさんの書いた話を朗読するチャンネルなんだから、



せめて1話だけでも、Kさん自身で朗読してみてよ!



そんな内容だった。



最初は、



とても朗読なんて出来るわけが無い・・・。



出来るくらいなら自分でチャンネルを持ってるでしょ?



と思っていたのだが、最近は、



まあ、1話くらいなら朗読してみても良いかも・・・・。



と思い始めている。



自分でも本当に不思議だ。



とりあえずは、自宅で朗読を試してみた。



録音には音楽用の物を利用し、編集無しの一発録り。



それにしても、活舌が悪すぎる。



まあ、その点はどうしようもないとして、問題は録音環境。



とにかく邪魔が入りすぎる。



妻は、部屋の外で洗濯物を干したり、掃除機をかけたり、そして娘は



いつものように、平気で部屋に突入してきては、何かとちょっかいを



出してくる。



やはり、家の中での録音は無理だ。



そう判断した俺は、車の中で朗読する事を思いついた。



ただ、家の前には大きな国道が通っており、雑音が多すぎる。



そこで、俺は車で20分ほど走った山の中の広場で朗読する事にした。



日当たりも良く、近くに民家もある。



車が近くを通る事も滅多になく、とても望ましい環境だった。



さすがに暑いので車のエンジンとエアコンをかけたまま、事前に用意した



音源を車のスピーカーから流し、その音源に合わせて朗読を開始。



少しだけ朗読したところで、一度ストップして、音源と声の大きさのバランスを



確認する。



音楽用の録音機材と、単一指向性のマイクを使ったのは正解だった。



バランスも良く、声と音源以外の音は、入ってはいない。



俺は、それを確認すると、果然やる気が出てきて、それから何度も



言葉が詰まったりと失敗を繰り返しながらも、3時間ほど掛けて



短い話を1話だけ朗読する事が出来た。



そして、自宅に帰った俺は、その朗読を確認した。



やはり、録音された自分の声というものを聞くのは嫌なものだ。



恥ずかしくて穴があったら入りたくなってしまう。



それでも、YOUTUBEにアップするとなれば、きちんと最後まで



確認してからでないと、さすがに気が引けてしまう。



俺は、1人部屋の中で恥ずかしさと闘いながら、自分が読んだ



朗読を聴き続けた。



そして、ちょうど半分ほど読み進んだ時に、ある音が混入してきた。



それは子供の声だった。



しかも、一人ではない。



何人もの子供がくすくすと笑うような声がしっかりと録音されている。



録音した場所は、とても子供達が遊びに来られる様な場所ではなかった。



しかも、それだけたくさんの子供が近くにいたのなら、俺もきっと気付く



と思うのだが・・・。



まあ、しかし、その子供の声は朗読用の効果音として使えない事も無く、



俺はそのまま朗読を聴き続けた。



すると、今度は、まるで俺の車の近くを、どこかの軍隊でも行進しているかの



様な、ザッザッザッという足音だった。



しかも、その足音は近付いたかと思えばまた離れていき、そしてまた近づいてくる。



まるで、俺の車の周りを回っているかのように・・・。



すると、今度は、何かが窓に当たる様な音が聞こえてくる。



バン!・・・・バン!・・・・バン!



その音はとても大きく俺の声が良く聞こえない。



いったい何なんだ?



俺はそう思いながら、その朗読した話をそのままお蔵入りさせることにした。



ただ、その時、聞こえた音は、現場にいる俺には全く聞こえてこなかった



音ばかりであり、俺はその不可思議さに、少しだけ気味悪くなった。



だから、もう、その場所では朗読をしないことを決めた。



だが、この話はこれで終わりではなかった。



実は、仕事先で俺は、その話をしてみた。



勿論、そういう話題が大好物なお客さんに。



すると、その会社の従業員さんは、その時ちょうど定点観測というものに



凝っているらしく、是非その場所に行って撮影してみたいから詳しい場所



を教えてくれと言われた。



勿論、断る理由も無いので俺は、その彼に、俺が朗読に利用した



場所を詳しく教えた。



そして、彼は、その週の週末に、その場所に行ったようだ。



さすがに夜は怖すぎるという事で、俺がその場所にいた時と同じくらいの



午後2時頃にした。



現地に到着すると、早速、カメラを、その広場一面が見渡せる場所に



設置した。



そして、彼のいつものパターンで、カメラが万が一にも盗まれる事の



無い様に、その広場から500メートル位離れた、広場の入り口が



見える場所に車を停めて、ひたすら時間が経過するのを待った。



勿論、車のエンジンはかけたままで、エアコンもしっかりと作動させて。



いつも、定点観測の際には、車の中で読書をして凄ず彼だが何故かその時は



強い眠気に襲われてしまい、知らぬ間に寝てしまっていたという。



そして、突然、酷い揺れで目が覚めた。



強い地震が発生したのでは・・・・。



最初はそう思ったという。



しかし、車の揺れ方がおかしかった。



まるで、車が横から持ち上げられては手を離されている様な奇妙な揺れ方。



彼はその時、どこかの若者グループがふざけて、そんな事をしているのでは?



と思ったらしい。



だから、彼は身を起して、それを確認しようとしたが、すぐに止めた。



そこには、窓に張り付くようにして車内を覗き込む子供たちの顔があった。



その顔は、確かに子供の顔だが、一つだけおかしい部分があった。



それは、異様に顔が大きいという事。



まるで、一つの顔が、ドアガラス1枚を埋めてしまう様な大きな顔。



それが、いくつも並んで窓に張り付き、車内を覗いていた。



彼は、そのまま寝たフリを続けるしかなかった。



恐怖で体が固まり、歯が噛み合わない程ガチガチと震えていた。



それでも、必死で彼は眼を閉じ続けた。



外からは子供たちだと思われる声や笑い声が聞こえていたという。



それでも、そのまま必死に耐えていると、車の揺れも、外から聞こえる



子供の声もピタッと収まった。



彼はそっと体を起こすと、その場にカメラを残したままで、一気に



その山から駆け降りた。



そして、翌日になってから友人たちに頼んで一緒にそのカメラを回収



する為に、その場所に戻ったという。



だが、その時には何も怪異は起こらず、そして、まだ定点観測用のカメラは



その場所を映し続けていた。



彼は、そこで撮影したものを観るつもりはなかったという。



しかし、その時一緒に行ってもらった友人たちに、本当にそんな事が



起こったのならカメラに何かが映り込んでいるかもしれない・・・・。



だから、その映像を見せて欲しい、とせがまれて、仕方なくその映像を



友人たちと一緒に再生し、大型ディスプレイで確認した。



結果からいうと、気分が悪くなる者が続出し、最後まで観る事は



出来なかったという。



そして、それを見た彼と友人達は、それから悪夢に悩まされる日々が



続いた。



どうにか、鑑定して欲しいと言われた俺は、それを検収するべく、その



映像データを預かった。



そして、当然、一人では見る事など出来ないので、Aさんに協力を依頼した。



結論からいうと、俺もAさんも一応、最後まで映像は確認できた。



ただ、Aさんいわく、



これは、絶対に見てはいけないものですよ・・・。



霊観が有るとか無いとか、関係なしに・・・・。



これって、本当の呪われた映像です。



Kさんは勿論、私でも危ないかも・・・。



一刻も早く処分しないと・・・・。



そう言われた俺は、



それじゃ、映像を消去しなきゃいけないんだ?



と聞くと、Aさんは真面目な顔で



いえ、それくらいの事ではこの呪いは解けませんね。



私が預かっても良いですか?



責任を持って処置しますから・・・・。



そう言ったが、どれだけ聞いても、どんな処置をするのかは、絶対に



教えてくれなかった。



ただ、その後、彼らは悪夢を見る事も周りで怪異が発生する事も



無くなったのだから、きっとAさんが的確な処置を施したのだろうと思う。



結局、俺には何も起こらなかった。



だから、俺はAさんに聞いてみた。



あのさ・・・俺に何も起こらなかったのは、やっぱり強い守護霊が



憑いているってことなのかな?と。



すると、Aさんは、冷たい目で



あの・・・ですね。



あの映像をKさんと二人で確認していた時に、同じ部屋にいた沢山の



子供の姿が見えてなかったんですよね?



本当にお気楽な人です。



羨ましいですね。



それくらい、ぼーっとしてれば人生もさぞ楽しいでしょうね?



そう冷たく言われてしまった。



本来ならば、その映像に映っていたものが、どんなものだったのか、



ここで書きたいところではあるが、呪いの拡散を止める意味でも、



その映像の中身については、このまま墓場まで持っていく事に決めた。
  


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