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2018年11月10日

リサイクルショップ・・・・。

最近は衣服専門のリサイクルショップが増えた。



俺にしてみると、見ず知らずの誰かが一度着た服を着るというのは、



それなりに抵抗がある。



しかし、まあ、中古のギターを買ったり中古の車を買ったりという



経験はあるから、取り立てて否定も出来ないが。



確かに、これからのエコな世界を生きていく為には、古着のという選択も



必要なのかもしれない。



そして、これは俺の友人の話。



彼女は、若い頃はかなりファッションにお金を使っていたようだ。



周りの友人たちもそうだったし、それが人生の楽しみになっていた



部分もあるのだという。



しかし、結婚し、子供が出来ると、さすがに衣服に大金をつぎ込めなくなる。



そこで、目をつけたのが古着・・・なのだそうだ。



新品を買おうとしたら、とても手が出ないし、何より、周りから不評で



後悔してしまうという事もあるが、古着なら、少し派手かな?という



服にでも気軽に手を出せるらしい。



中には一着、数百円という服もあるらしいから、驚きである。



そんな彼女はある日、行きつけの古着屋で、かなり派手で珍しい



デザインのドレスを見つけた。



ドレスなど着ていく機会は無いのは分かっていたが、その値段の安さから



思わず衝動買いをしてしまったという。



血の様な赤と、黒色のコントラストがとても美しく、背中の大きく開いたドレスは



彼女にとっては初めての経験であり、少し恥ずかしさもあったが、どうせ



外に着ていく機会は無いだろうと自覚していたので、あくまでコレクション



として、その服を買ったのだという。



そして、家に帰り、さっそく、そのドレスに着替え、子供たちに見せると



子供たちは、



ママ、綺麗!



と大好評だったという。



しかし、夫が帰宅して、同じようにそのドレスを着て見せたところ、



お前、頭大丈夫か?



と冷たい目で見られたという。



彼女はそれが悔しくて、しばらくはその服を箪笥の一番奥にしまい込んだ。



もう、二度とあのドレスは着ない!



そう心に誓ったという。



しかし、しばらくすると、無性にそのドレスが着たくなってしまう。



誰も居ない時なら大丈夫かな、と思い、彼女はタンスからそのドレスを



取り出した。



何故か、買った時に見たよりも、どす黒い赤になっていた様に感じたという。



それでも、気にせず、彼女はそのドレスを着て鏡台の前に座った。



自分ではとても似合ってる様に見えた。



こんなに似合ってるのにな・・・・・・。



そんな事を考えながら鏡の前に座っていると、次第に頭がぼんやりとしてきた。



そして、軽い睡魔に襲われた。



そして、そのうちに、まるで鏡の前に座っているのが自分ではないような



感覚に襲われたという。



それでも気分自体は悪くは無かった。



綺麗・・・・・。



そんな事をぼんやりと考えている自分がいた。



それから、彼女はずっとその鏡台の前に座り続けていたのだろう。



突然、



キャー!



という悲鳴で我に返った。



そこには、青ざめた顔の子供たちが茫然と立ち尽くしていたという。



ハッと我に返った彼女は、



どうしたの?



何かあった?



と子供たちに聞いた。



すると、子供たちは、



今、ママじゃない女の人が鏡台に座ってた!



と震えた声で言った。



だから、彼女は、



鏡台の前に座ってたのはママだったでしょ?



だから、何も怖くないからね!



と返したのだが、子供たちは、



でも、さっき座ってたのは絶対にママじゃなかったよ!



と彼女に距離を取る様にして話した。



そんな事があってから、彼女自身も気持ち悪くなり、そのドレスを二度と



着ない、と心に誓った。



しかし、しばらくすると、ずくに又、そのドレスを着たくなってしまう。



だから、夫や子供たちが家に居ない時間帯を使って、1人でそのドレスを着て



鏡台の前に座るのが日課になっていく。



そんなある日、彼女は夫から、



なんか、最近、病的に痩せてきてるんじゃないか?



一度、病院に行って診て貰った方がいいぞ!



と言われてしまう。



しかし、痩せたと言われて彼女は逆に嬉しくなってしまう。



勿論、彼女はダイエットなどしてはいなかったし、ドレスを着るだけで



痩せられるのだとしたらこんなに嬉しい事はなかったから。



だから、彼女は夫や子供たちが家に居ない時には、ずっとそのトレスを着て



過ごすようになっていった。



そのドレスを着ていると、彼女が苦手だと思っていた事も、何故か簡単に



こなす事が出来たし、それを着ている間は、何故か悩みも全て



忘れる事が出来た。



まさに、最高のドレスだった。



しかし、ある日、彼女は、夫と子供たちに真剣な顔で心配されてしまう。



それは、その痩せ方が異常と言えるものだったから・・・。



元々は少しふっくらとしていた彼女だったが、既に見る影もなく



骨と皮だけという感じになっており、まさに、別人のようだった。



それでも、彼女自身、痩せていくという事が、嬉しかったし、



自分では、その痩せ方が異常だとは感じなかったらしい。



そんなある日、彼女が夜、トイレに行く為に1階へと降りて来ると



何か小さく鼻歌の様な声が聞こえてきた。



だから、彼女はその声が聞こえてくる鏡台の置いてある部屋をそっと



覗いてみた。



すると、そこには、見た事も無い女が、彼女のドレスを着て髪をとかしていた。



その顔はやせ細り、骨と皮だけになった手で、抜け落ちてまばらになつた



髪をとかしている。



その異様な姿に彼女は悲鳴を上げようとした。



しかし、声は出なかった。



ただ、恐怖で彼女の歯はカチカチと音を立てて鳴った。



すると、その女はゆっくりと彼女の方を向いて、こう言った。



こんばんは。



もうすぐ、迎えに来れるわね・・・・・と。



その声を聞いて彼女は意識を失った。



そして、彼女が倒れた音で起きてきた夫に助け起こされ、彼女は病院に



連れて行かれた。



体に異常は無かったが、精神が病んでいるという診断をくだされた。



彼女は結局、そのまま病院に入院する事になったが、その時、何かに



気が付いた彼女は自分の今の姿の異常さが、あの時の女の姿と



そっくりなことを自覚し、夫に、あのドレスを処分して欲しい、と



頼んだという。



しかし、彼女がそのドレスを買った店に持ち込んだが、何故かそのドレスを



引き取ってくれる事は無かった。



だから、夫と子供たちは、家の庭で、そのドレスを燃やすことは決めた。



しかし、ドレスを燃やそうとすると、突然、雨が降ってきたり、



マッチの火が消えてしまったりと、どうしてもそのドレスを燃やせなかった。



そこで、仕方なく、彼女は俺にそのドレスの処分を依頼してきた。



そして、処分と言う言葉が、大好きなAさんに、俺は協力を頼んだ。



いつもなら、面倒くさいといってなかなか協力してれないAさんも、



予想通り、すぐにやってきた。



そして、そのドレスを見るなり、



ああ…なるほど…これは危ない奴ですね。



こんなの着てたら命が幾つあっても足りませんよ!



それじゃ・・・・。



そう言って、嬉しそうにそのドレスに火をつける。



まるで、そのドレスにとり憑いているものをいたぶるように゛ジワジワ



と燃やしていくAさんを見ていると、どちらが被害者なのか、



分からなくなってくる。



そして、一気に火を点けると、そのドレスは在り得ないような燃え方をして、



ギャアー!



という叫び声が聞こえた後、跡形もなく燃えていった。



その後、彼女はすぐに体調も治り、しばらくして病院を退院した。



そして、それからは何も怪異は起こっていないという。

  


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2018年11月10日

ラジオ

これは友人が体験した話。



彼は今でこそ弁護士という仕事をしているが、以前はバイトで



生計を立てながら、夜はずっと司法試験の勉強という生活を



送っていた。



元々、能登の田舎の出身だった彼は、その頃は完全に



一人暮らし。



金沢市内の安アパートで、自炊生活。



朝、自分で弁当を作り、それを持ってバイトに行く。



そして、夜はバイトの帰りに買ってきた安い材料で適当なものを



造って食べる。



今のそれなりにリッチな生活からはとても想像出来ない。



勿論、彼は東京の大学の法学部を出たが、すぐには司法試験に合格



する事は出来ず、一時は一般の会社にも就職した。



しかし、やはり弁護士になるという幼いころからの夢を捨てきれず、



働きながら司法試験の勉強を続けていたが、やはり正社員として



働きながらの勉強に限界を感じ、結局、会社を辞めてバイト生活



を送るようになった。



勉強の邪魔にならないように部屋にはテレビも無く、唯一の娯楽といえば



ラジオを聴く事だった。



そして、ラジオを聴きながら、彼は夜の8時ころから翌朝の3時頃まで



司法試験の勉強をするのか日課になっていた。



司法試験の勉強と聞けば、暗記や法律の理解が主になるのだからラジオの



音というのは邪魔になるのではないか、と思ってしまうが、さすがに



深夜から夜明け近くまで、独りぼっちで勉強していると、まるで自分が



一人だけ取り残されたような気持ちになってしまい、そういう気持ちを



和らげる為にも、ラジオは欠かせないものになっていたという。



彼がいつも聞くのはある民放の深夜放送だった。



午前1時に始まり、午前5時まで続けられる放送。



パーソナリティの軽快な語り口もあって、彼は勉強の途中に笑わされる



事もしばしばであり、彼には欠かせない放送になっていた。



そして、その夜も彼はその放送を聴きながら、勉強に励んでいた。



外は生憎の雨模様であり、彼は窓を閉め切って机に向かっていた。



相変わらず、楽しく進められる放送内容に、彼はその日も順調に



勉強を進めていたという。



そして、ふと、異変に気付く。



いつもより、パーソナリティの男性の声が低く感じた。



いや、正確にいえば、まるでテープの再生速度を少し落とした様な



不思議な声だった。



電池切れ?



そう思ったが、今聞いているのはカセットテープではなくラジオである。



電池が少なくなってきたからと言って、再生が遅くなるという事も



在り得なかった。



あれ?おかしいな・・・・。



そうは思ったが、あくまでラジオはBGM代わりに流しているものであり、



彼は気にせず勉強に集中した。



そして、次に彼がラジオに耳を傾けた時、ラジオからは、とても人間とは



思えないような声が流れていた。



音声にエフェクトをかけ、それを更に大幅に遅く再生した感じ。



何を話しているのかも聞き取れなかった。



その時点で、彼は勉強そっとのけで、ラジオに集中してしまう。



きっと、ラジオ番組の企画で、何か面白い事でもしているのだろう。



そう思ったという。



しかし、どうも様子が違った。



音楽も流れず、ただ聞き取れない言葉を繰り返しているだけ・・・。



しかも、声の音量も大きくなったり小さくなったりと不安定で不快だった。



彼はしばらく、そのラジオから流れてくる声に聞き入っていたが、さすがに



これ以上は無理だと判断し、ラジオを別の放送に切り替えようと



チューニングのつまみを回した。



しかし、どこの放送局に合わせても、聞こえてくるのは先ほどと同じ



良く分からない声だった。



ラジオが壊れたのか?



そう思った彼は諦めてラジオの電源を切ろうとした。



しかし、ラジオの音は消えなかった。



ラジオの電源は切る事は出来たが、何故か声は聞こえ続けている。



どうして、電源の切れたラジオのスピーカーから、まだ声が聞こえてくるのか?



彼には全く理解出来なかった。



だから、彼は急いで、ラジオの電池を抜こうとした。



すると、その時、突然ラジオから聞こえてくる声が大きくなった。



彼は思わず、



うわぁ!



という声を出してしまう。



それでも、ラジオから電池を抜き取ると、ラジオからの声は消え、彼の



部屋には静寂が訪れた。



やっぱり壊れてるのか・・・・。



新しいラジオを買わなきゃ・・・・。



そう思った時、突然、彼の背後から、声が聞こえてきた。



それは、先ほど、ラジオから流れていた声と同じものだった。



そして、それと同時に彼は何かの気配を感じた。



それが何なのかは、分からなかったが、間違いなく彼の背後にそれは



立っている。



そんな確信があったという。



彼は完全に固まっていた。



今まで、そんな体験をした事など一度も無かった。



だから、彼は霊というものの存在を全く信じてはいなかった。



それが、彼の命を救ったのかもしれない。



彼は、いきなり、大声を出して、



おい・・・勉強の邪魔するな!



早く出て行け!



さもないと、痛い目に遭わせてやるからな!



そんな言葉を、語気を強めて言った。



そして、



今、後ろ振り返るからな・・・。



もしも、その時にまだ居る様なら、容赦しないぞ!



それは、恐怖で固まっている自分を勇気づける言葉でもあった。



そして、彼は思い切って後ろを振り返った。



すると、そこには、今にも消えていきそうに薄くなっていく大きな女



の姿があったという。



言葉では表現しずらいが、とても不気味で恐ろしい顔の女だったという。



それを見た時、彼は思わず叫びだしそうになったが、彼はそれを



必死に堪えた。



そして、その女の姿が完全に消えると、そのまま部屋を出て外に出た。



辺りには明かりのついた家がまだ数軒あった。



それが、彼にはとても心強く感じたという。



それから、彼は朝が来るまで、部屋の中には入らなかった。



まだ、部屋の中に、その女が居る様な気がしたからだという。



そして、朝になってから部屋の中に入ると、彼の部屋の中は壁も襖もズタズタに



引き裂かれていた。



そして、ラジオをつけると、既に



普通の放送に戻っていたという。



彼が、それ以後、その部屋で怪異には遭遇しなかったらしいが、それから



彼は夜の勉強の際には、ラジオを聴く事はしなくなったという事だ。
  


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2018年11月10日

守護霊がいなくなる

人間には守護霊というものが付いており、その人を護っている。



ずっと以前から、そう思っていた。



守護霊というのは、その人の先祖に当たる者だったり、何か縁のある者だったり、



という場合が多いが、それ以外にもその人に何処かに魅かれ、そして守護している



というパターンもあるのだと聞いた。



1人の人間に何体もの守護霊が付いている場合もあるし、最近では守護霊という



ものを持たない人間も増えているのだという。



ただ、守護霊というのはその人が安全に、そして楽しく幸せに暮らせる様に



守護している訳ではないらしく、その人が現世に生きている間に体験し積まなければ



いけない苦労や困難をきちんと乗り越えられる様に見守りながら寿命を全うさせる



という役目も担っているのだと聞いた。



だから、何でもかんでも、その人の為に助け船を出してくれたり危険から



回避してくれるというものではないらしい。



ただ、やりは現世を生き抜いていく為に、守護霊の力というものは大きいらしく、



守護霊無しでの人生は、その全てをその人が持つ予感や感性だけを頼りに



生きなければいけない事になるらしくなかなか大変なのだと聞いた。



そして、これから書く話はその守護霊に関する話。



俗にいう霊能者という人には必ずと言ってよいほど強い守護霊がついている。



逆にいえば、その守護霊の力によってその人自身も強い霊能力を身につけ



られていると言えるのかもしれない。



だから、守護霊というものを持たないAさんの存在は奇跡といえるのかも



しれない。



もっとも、Aさんは、自分の事を霊能者だとは思っていないが・・・。



そして、ある時、霊能者達の間で不可解な事が起こり始めた。



それは守護霊がいなくなってしまうという事だった。



そして、守護霊というものを失くしてしまった霊能者は例外なくその霊能力



を失っていった。



守護霊と言っても絶対的なものだはない。



悪霊に憑依された人は、元々その人についていた守護霊も悪霊の影響で



そのまま悪霊のしもべの様な存在になってしまい、除霊が困難になる、



というのは良くある話らしい。



そして、悪霊の中には、その人自身への攻撃よりも、守護霊に対する



攻撃に長けているモノも存在するのだという。



実際、その時起こっていた事はこんな感じだ。



悪霊に悩まされた依頼主が、霊能者に相談する。



勿論、それを生業としている霊能者はそれが、どんな相手かも分からないまま



その悪霊と対峙する。



それが罠だとも気付かないで・・・・。



霊能者達は、必死になつて、その依頼主に憑いている悪霊を祓おうとする。



しかし、その悪霊の目的は、その霊能者の守護霊を操れるようにする事。



だから、いくらお経を唱えようが、真言を唱えようが、効力など



在る筈はない。



そして気が付いた時には、その霊能者の守護霊はすっかりその悪霊に



操られるようになってしまい、そのまま、その霊能者から出て、



悪霊の軍門に下る。



そんなだったから、いつしか、その依頼に応える霊能者という者が誰も



居なくなってしまった。



そして、誰も受ける事の無くなったその依頼は、人づてに流され、そして



俺の所にやって来た。



その噂を知っていた俺は当然、断ろうとした。



しかし、予想外にも、Aさんと姫はその依頼を受けると言った。



危険だから止めた方がいいよ!



そういう俺に、Aさんは、不敵な笑みを浮かべて楽しそうだったし、姫はといえば、



いつもどおりにニコニコと笑っているだけ。



そして、当日、現地に一緒に行こうとすると、Aさんも姫も俺を制止した。



止めた方が良い・・・・と。



せっかく、身分不相応な強い守護霊を持っているのに、その唯一の長所が



無くなったら、存在価値が無くなるから、と。



しかし、やはり2人が心配だった俺は、頑として首を縦に振らなかった。



すると、Aさんから、



まあ、Kさんの守護霊なら大丈夫かもしれませんね・・・・・。



ご本人と違って、異常に強力だから・・・・。



と言われ、現地への同行を許された。



現地は郊外の古い旧家だった。



そして、そこの大きな蔵の中にその悪霊がいるということだった。



Aさん、姫、俺の順番で、その蔵の中に入っていく。



蔵は2階建てになっており、俺達が入ると、すぐに2階から何かが降りてくる



足音が聞こえてくる。



ほら・・・きたよ・・・・Aさんも姫も気をつけて!



そう言う俺に対して、Aさんも姫もいつもにも増してのんびりムードだった。



階段を降りていたモノの姿がはっきりと見えた。



年老いた老人の様な姿だったが、その不気味さは言葉では言い表せないほどで



しかも、その顔はニンマリと笑っている。



俺はすぐにAさんと姫の様子を確認するが、全く変わった様子は無かった。



いや、いつも以上にやる気がなさそうな2人。



白いモヤの様なものが蔵の中に充満してきて俺達を包んでいく。



早く何かしないと!



俺がそう叫ぶが、Aさんは、何もしようとはしなかった。



それどころか、まるで他人事の様に呑気にあくびまでしている始末。



俺は訳が分からないまま、1人で焦っていたが、そのうち、焦っているのは



相手の悪霊の方だと感じ始めた。



何か勝手が違うというか、とにかく、その悪霊の顔がどんどん引きつっていくのが



俺にも分かった。



そして、その悪霊が、再び階段を上っていこうとした時にAさんが初めて



動いた。



強い相手には逃げの一手ですか?



まあ、ここまで来たんだから逃がさないけど・・・・。



そう言うと、



まるで、ピストルでも撃つような恰好をしながら、引き金を引く真似まで



している。



俺には何をしているのか、分からなかったが、Aさんが、その動作をした瞬間、



その悪霊はまるで実弾にでも当たったかのように苦しみだし、そしてしばらくすると



そのまま消えてしまった。



呆気に取られて固まっている俺をよそに、



さっ、帰りましょ!



Aさんが、そう言うと、姫も俺もその後に続いた。



そして、Aさんが嬉しそうに、



どうでした?



いつか、これをやってみようと思ってたんですけど格好良かったですか?



霊ガンみたいだったでしょ?



と嬉しそうにはじゃいでいる。



格好良かったです~



凄かったです~



と同調し褒めちぎっている姫の言葉を遮るように、俺はこう尋ねた。



Aさんも姫も守護霊・・・・大丈夫だったの?



何か秘策でもあったの?と。



すると、Aさんは呆れたように、



あの・・・ですね。



私には守護霊ってもんが付いていないんですよ。



知ってるでしょ?



そして、姫ちゃんは守護霊がちゃんと付いていますけど、レベルが違います。



あんな守護霊にちょっかいを出そうなんて考える奴は居ないでしょ?



それこそ、自殺行為というやつです。



蟻が象と喧嘩するみたいなもんですからね。



そして、何故かKさんにも身分不相応な強い守護霊がついている。



まあ、これは蟻とだんご虫程度の差でしょうけど・・・。



だから、あいつも面食らったと思いますよ。



どれ一つとして勝てそうな守護霊が見つけられない・・・。



それが分かった時のあいつの顔は結構楽しめましたけどね・・・・。



勝ち目が全く無いと分かったから、その場から逃げようとしたんです。



まあ、そうするしかないでしょうけど・・・。



でもね、守護霊がついているのも考えものです。



姫ちゃんみたいに規格外の守護霊なら安心なんでしょうけど、普通の守護霊は



それほど強いものではないから。



それにばかり頼ってたら、それを失った時、何も出来なくなる。



だから、場合によっては守護霊なんか居ない方が良い場合もあるんですよ。



私みたいに・・・・。



そう言っていた。



確かにそうだった。



守護霊がいないAさんに対して、あの悪霊が出来る事は何も無かっただろうし、



姫ちゃんについている守護霊なら、その姿を見ただけで、どんな奴でも



逃げていくだろうし・・・・・。



俺は改めて、凄い2人とチームを組んでいるのだと実感させられた事件だった。



ただ、思わず悩んでしまった事がある。



Aさんが例えにした、蟻とだんご虫・・・・。



どちらがどっちなのだろう、と。



姫の時には、対比として象を出してきたんだから、俺がだんご虫・・・なのか?



いや、そういう事になると、もしかして蟻の方がだんご虫よりも強いのでは



ないのか?



そして、後日、それを確認しようとAさんに聞いてみたのだが、



Kさんって、相変わらず暇・・・・なんですね?



と冷たく言われてしまった。
  


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2018年11月10日

トイレ

これは俺の友人から聞いた話。



彼は仕事でよく関西や名古屋に出張している。



以前は、一泊してから翌日のんびりと帰るという事が許されていたそうだが、



いつの頃からか、景気の悪化に伴い、関東、中京、関西までは基本的には



日帰り出張しか認められなくなった。



勿論、東京などの関東には車ではなく新幹線を利用するのだから、一日での



往復も苦にならないかもしれないが、やはり大阪・神戸・名古屋などへの



出張は基本的に営業者での出張になる訳で、一日で700キロ~800キロ以上



走っての往復は、本当に過酷なものであるらしい。



そんな彼が、ある時体験した話を聞かせてくれたので、此処に書き記したい。



その日、彼は早朝から車を走らせ神戸のメーカーへと向かっていた。



北陸自動車道は車も少なく走り易いのだが、名神高速に入ってからは、一気に



車の通行量が増え、運転していても疲れる。



結局、渋滞にも巻き込まれ、彼が神戸のメーカーに到着したのは午前10時を



回っていた。



それから、メーカーとの打ち合わせに入り、一緒に食事をしてから、今度は



別の顧客の所を回ったそうだ。



そこで、幾つかの問題が発生してしまい、結局、彼がその日のスケジュールを



全て完了出来たのは、午後8時を回っていた。



以前なら、その日は神戸に一泊、となるところだが、もうそんな事は



許されるはずもなく、彼はコンビニでパンとおにぎりを買って、再び



高速道路で帰路に就いた。



渋滞になる時刻とかなりずれていたので、行きよりも、帰りの高速は走り易かった。



気分よく走っていた彼だが、運悪く工事渋滞に掴まってしまう。



そこで、彼は仕方なく最寄りのICで高速を降りて国道を通る事にした。



確か、京都東iCだったという。



そこからしばらくは交通量も多かったが、滋賀県に入った辺りから車の量も減って



走りやすくなった。



渋滞のお蔭で時刻は既に午後10時近くになっていた。



彼は遅れを取り戻すべく、快調に車を走らせた。



国道とはいえ、此処から石川県に向かう道は、これからの時間帯はどんどん



車が減っていくのが彼には分かっていたという。



ところが、福井県に入る手前で、事故によって渋滞が発生していた。



本当に今日はついていない日だ・・・・。



そう思いながら彼は渋滞の列の中で事故処理が終わるのを待っていた。



そんな時、激しい腹痛が彼を襲った。



何を食べてそうなったのか、は分からなかったが、とにかくトイレを探す



ということが彼にとっての最優先事項となった。



渋滞の列を抜けて、細い脇道に入った。



しかし、この場所は民家など存在しない場所であり、コンビニのトイレを



借りるという事が無理なのを彼は知っていた。



だから、とりあえず、渋滞の車の列から離れて,どこかの道端で用を足そうと



彼は考えていた。



ところが、細い道に入ってみると案外、街灯のようなものが存在しているもので、



彼はとりあえず、明かりが無く真っ暗な場所を求めて知らない山道を登っていった。



すると、急に視界が開け、そこに公園があるのが分かった。



公演ならばトイレがあるかもしれない・・・・。



そう考えた彼は、車を公園の脇に停めて公園へと入っていった。



案の定、公園の中にはトイレがあった。



しかも、かなり大きく綺麗なトイレが暗闇の中で眩しい位に浮かびあがっている。



助かった・・・・。



彼は、急いでトイレに駆け込むと、個室に入り鍵を掛けた。



トイレの中はとても綺麗で明るかった。



まるで、出来たばかり、といった様子で、彼は無事に用を足す事が出来た。



無事に用を足すと気持にも余裕が出来たのか、彼は、



それにしても、こんな辺鄙な場所に公園とか、こんな綺麗なトイレまで作って・・・。



なんか、税金の無駄遣いなんじゃないの?



等と好き勝手な事を考えていた。



その時、突然、トイレの中に誰かが入って来る足音が聞こえた。



彼は一瞬、ビクッとなって固まったが、個室にいるのがバレない様に、息を



殺して聞き耳を立てた。



トイレの中に入って来た足音は、すぐに聞こえなくなった。



確かに誰かがトイレの中に入って来た筈なのに、どうして音が何も聞こえて



来ないんだろうか?



彼は沈黙に耐えられなくなり、個室の中に自分がいるのを知らせるように一度



ゴホン、と咳払いをしたという。



しかし、相変わらずトイレの中からは何も音は聞こえてこない。



完全に用を足し終えた彼は、トイレの水を流した。



静かすぎるトイレの中に水音だけが響いた。



そして、水が流れ終わると、また無音状態になった。



もしかして俺の勘違いか・・・・。



そう思ったが、確かに先ほど誰かがトイレの中に入って来る音を彼は聞いていた。



その時、彼は考えたという。



もしかして、変質者か何かがトイレの中で俺が個室から出てくるのを



待っていたとしたら・・・・・。



勿論、抵抗するだけの体力は持っているつもりだったが、それでも相手の姿が



確認できないというのはやはり不安だった。



だから、彼はトイレのドアの隙間から外の様子を窺った。



ひっ・・・・・・。



思わず声が出そうになった。



トイレのドアの向こうには、明らかに女が立ってこちらを向いていた。



ドアから50センチと離れていない場所に、直立不動で・・・。



帽子をかぶり、長い髪が、そこから垂れていた。



なんなんだ?・・・・・・この女。



彼はそう思い、もう一度聞き耳を立てた。



しかし、何の音も聞こえてこない。



聞こえるのは、自分の呼吸音だけであり、彼は嫌な予感を感じていた。



幽霊・・・・・・なのか?



でも、どうして・・・・・。



そんな事を考えていると、突然、トイレのドアが、ノックされた。



彼は恐怖で、完全に沈黙を守る事しか出来なかった。



すると、今度は、



ドンドンドン!



と大きくドアが叩かれた。



彼は再びドアの隙間から外の様子を窺った。



ドアの隙間からは、知らない女が顔をくっ付けるようにして隙間からこちらを



覗き込んでいた。



彼は思わず、



うわぁ!



と大きな声をあげて後ろへ後ずさる。



その時、彼は心臓が止まるかと思った。



彼がトイレの狭い個室の中で、後ずさりした時、彼の背中が、間違いなく何かに



触れた。



それは、人間の様に柔らかく、そして服の上からでも分かる程冷たい感触だった。



彼は、顔を後ろに向けて、それが誰なのかを確認しようとした。



ゆっくりと顔を後ろに向けていくと、視界の端に、女のワンピースが映った。



しかも、どう考えてもその方の高さは彼よりも遥かに高いものだった。



彼は後ろを振り返るのを止めて、ゆっくりと個室のドアのロックを解こうとする。



すると、突然、彼の頭上から女の声で、



ねぇ・・・・・・・・。



という声が聞こえた。



彼は、ドアを開けると一気に走ってトイレを抜けて停めていた車の所まで



戻って来た。



後ろを振り向いたが、追いかけてくる女の姿は無かった。



彼は慌てて車のドアを開けて、車内に逃げ込み、エンジンを掛けた。



そして、走り出そうとした瞬間、バックミラーを見た彼の眼にあり得ない



モノが映った。



それは、ワンピースを着て、大きな帽子を被った女の姿だった。



後部座席に姿勢よく座り、角膜の無い白色だけの眼でこちらを睨んでいた。



彼は、そのまま車から転げ落ちるようにして車外に出ると、そのまま



公園の一番明るい場所まで走り逃げた。



そして、いつその女が車から降りてくるかと恐怖しながら、その場に



立ち尽くしていた。



結局、その女が車から出てくる事は無いまま、朝になった。



朝になり、車に近づいた彼は、車内に女の姿が無い事を確認すると、そのまま



急いで国道まで降りて、帰路に就いたという。



その際、恐怖の為、車の窓は全て全開にし、大きな音でラジオを鳴らしながら



帰ったのは言うまでも無い。



ちなみに、それ以後、彼の周りで怪異は一切発生していない。







  


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2018年11月10日

業務用エレベータ

これは知人から聞いた話。



彼は大手デパートに勤めている。



大学を卒業してすぐにそのデパートに就職した。



当時は、出世や高給が見込める職種だったらしいが、現在は決してそうではなく



どちらかといえば、かなりブラック寄りの労働環境なのだという。



特に彼が以前勤務していたのは、催事場を管理してイベントをうまくまとめる



仕事。



毎週、週末前になると、それこそ徹夜でイベント業者が会場を設営し、出品



業者が品物を搬入する。



いつもは、夜になると真っ暗な催事場が、その時ばかりは、一晩中、照明が点き



活気に満ちている。



そして、デパートなどには必ず品物を搬入する為の専用のエレベータが設置



されている。



それは人間が乗るエレベータとは違い、奥行きがあり天井も高く、ドアの



開閉口も、比較にならない程大きく作られている。



そんな業務用エレベータだが、ある頃から不思議な噂が流れ始める。



それは、そのエレベータが夜中、勝手に動いているという噂だった。



当然、誰も乗っている筈もなかった。



昼間にはそんな事は起こらなかった。



だから、彼もそんな噂など信じていなかったようだ。



そんなある日、そのデパートで、ある展示会が開催されることになった。



それはかなり古い時代の中国の遺跡から出土した品々を展示するものだった。



昼間のうちに、出展物は全て搬入された。



しかし、何かの手違いで設営業者の手配が出来ていなかった。



急きょ、連絡すると、どうやら明日なら何とか現場に入れるとの事だった。



かといって、出展物をまた、搬出して保管する訳にも行かず、結局、その夜は



がらんとした会場に、そのまま出展物が置かれる事になった。



通常なら、それほどの出展物になれば、警備員が付随するそうだが、その時は



あくまで緊急的措置の為、警備員無しで一夜を明かす事になる。



ただ、誰も居ない催事場に、そのまま出展物を放置するわけにもいかず、彼は



責任者として、部下1人と、その催事場で、出展物が盗まれないように



警備し、夜を明かす事になった。



午後8時を回るとデパートの中にも他の従業員の姿は完全に無くなってしまい、



広い催事場はしんと静まり返り、不気味ですらあった。



そして、ちょうど午前0時を過ぎた頃、異変が起こる。



業務用エレベータの扉が開く音が聞こえてくる。



催事場から10メートル程しか離れていない暗闇が開いたエレベータのドア



から漏れる明かりで一瞬、明るくなる。



そして、しばらくすると、扉は閉まり、また、暗闇に支配される。



誰か来たのかな?



彼がそう言って待っていたが誰もこちらに来る者はいなかった。



ちょっと見た来てくれるか?



彼は部下にそう指示すると、その部下は、嫌そうな顔をしながら、渋々と



いった感じでエレベータがある暗闇の方へと歩いていく。



そして、しばらくして戻って来た部下は、



やはり誰もいませんでした・・・・。



それよりも、エレベータは上に行ったり下に行ったりと動いてるんです。



そう言われた彼は、



それじゃ、やっぱり誰かいるんじゃないのか?



と返すと、



先ほど、守衛さんが来たと思うんですけど・・・・。



もう、建物の中には誰も残っていないから火の元には気をつけてくださいって。



確かにそれは彼も知っていた。



ただ、エレベータが動いている以上、誰かが乗っているとしか考えられなかった。



そして、部下はボソッと小さな声で彼に聞いてきた。



○○さん、あのエレベータの話、ご存じですか?



ほら、幽霊が乗って一晩中、動いているって・・・・・。



真顔で怖がっている部下を見て彼は、不思議に思ったらしいが、



それじゃ、俺がもう一度見てきてやるから。



と言って、暗闇の中をエレベータに向かって歩いていった。



そして、エレベータの前に着き、階数表示を見てみると確かにエレベータは



上に行ったり、下に行ったりして動き続けていた。



誰かがいたずらしているに違いない・・・・。



そう思っていると、エレベータがスルスルと催事場の在る8階まで上がって来た。



これは好都合だ!



そう思った彼は、扉が開くのを待って、いたずらしているのが誰なのか、を



付き留めようとした。



そして、彼のいる階に停止したエレベータはゆっくりと扉を開く。



彼は、鬼の様な形相でドアの前に仁王立ちしていたが、扉が開いた途端に



拍子抜けしてしまった。



其処には、誰も乗ってはいなかった。



そして、そのままエレベータのドアが閉まり、今度は無人のままレストラン街が



在る最上階へとのぼっていった。



いったい、どうなってるんだ?



俺も、そして部下もエレベータなんか呼んでいないのに・・・・。



すると、今度は催事場からアラームの音が聞こえてきた。



彼は慌てて催事場に戻ると、部下がその場て立ち尽くし顔面蒼白になっている。



どうした?



彼が聞くと、部下はうわずった声で、



分かりません。



何故かセンサーが作動してしまって・・・。



そう言われ、彼は思い出した。



時価総額がとんでもなく高価な展示品に対して警備員をふたり用意しただけではなく、



展示品の四隅には人がある一定以上近づくとアラームで警告するセンサーが



設置されていたことを・・・・。



それにしても、どうして・・・・・。



彼が原因を考えていると、今度は立て続けにセンサーが作動し全てのアラームが



鳴りだした。



部下は既にパニックになり、



エレベータだけじゃなく、この催事場にも何かがいるんですよ・・・。



しかも、一人や二人じゃなくて、もつと沢山の何かが・・・・。



そう言うので、さすがにい彼も気味悪くなってしまい、1階にいる警備員を



呼びに行こうという事になった。



そして、1階に降りるには真っ暗な階段を手探りで降りていくか、それとも



いわくつきの業務用エレベータに乗るしか手段は無かったが、彼は迷わず、



業務用エレベータを選択した。



怖がる部下を諭すようにして一緒にエレベータへと歩く。



そして、エレベータを呼ぶ為に、ボタンを押そうとした瞬間、エレベータのドアは



暗闇の中で静かに開いた。



さすがに、彼も背筋か寒くなったが、そうなると少しでも早く1階へと



降り警備員に助けを求めたくなってしまった。



彼と部下は無言のままエレベータに乗り込んだ。



そして、1階の階数ボタンを押す。



エレベータのドアが閉まりゆっくりとエレベータは動きだした。



しかも、上へ上昇していく。



1階の階数ボタンを間違いなく押した筈なのに・・・・。



彼もそして部下も既に限界に来ていた。



得体の知れない恐怖に押しつぶされそうになっていた。



エレベータの上昇する音さえ不気味に感じた。



そして、エレベータは9階で停まり、誰もいない真っ暗なレストラン街



が目の前に現れた。



彼も部下も固まってしまい全く動けなかった。



すると、暗闇の中から、誰かが近づいてくる音が聞こえた。



カツン、カツン、カツン、カツン・・・・・。



それはゆっくりとした速度だが、間違いなくエレベータに向かって歩いて



来ていた。



彼は慌ててとあの開閉ボタンを押してドアを閉めようとした。



しかし、エレベータはまるで壊れてしまったかのように、何の反応もしなかった。



このボロエレベータが!



早くドアを閉めろよ!



恐怖から、言葉も荒くなった。



すると、その言葉が通じたのか、ドアはまた静かに閉じてくれた。



エレベータの中では、彼と部下の二人がぐったりとして入口のドア付近で



うなだれていた。



なんなんだ?・・・・・あの足音は?



彼がそう言うと、部下は震えた声で



ハイヒールの音に聞こえませんでしたか?



と返してきた。



彼も部下も恐怖で泣きそうになっていたが、それでもエレベータが動き出した



いじょう、1階へ降りるのをただ待っていれば良かった。



だから、彼も部下も少しだけホッとしていたのかもしれない。



何階ですか?



その声は突然、背後から聞こえた。



彼は固まったまま動けないでいると、また



何階ですか?



と聞いてきた。



そして、



ヒッヒッヒッヒッ・・・・・。



という微かな笑い声が聞こえてきた。



彼は生きた心地がしなかったという。



1階まで降りるほんの数秒がとてつもなく長い時間に感じたという。



そして、エレベータが1階へ着き、ドアが開くと同時に彼らは我先にと



ドアから転がるようにして飛び出した。



その様子を見て、警備員も何事かと駆け寄って来たという。



そして、エレベータのドアは再び閉まると、また、不規則な動きでずっと



動き続けていたという。



ちなみに、そのまま警備員室で朝を迎えた彼と部下が、朝になってから



催事場に戻ると、展示品を含め、全ての物に何も異常は無かったという事だ。



そのエレベータは今も実在し、そして誰かを乗せたまま朝が来るまで



動き続けているのだろう。



・・・・・・・・・・・・・。



と、ここまでが、今回の話なのたが、実は以前、これと同じような経験が



在るので、その時の事を話そうと思う。



それは、知人から頼まれて、今回の話と同じように真夜中に無人のまま



動き続けるといういわくつきのエレベータをAさんと調べに行った時の話



である。



それはとあるマンションのエレベータであり、勿論、業務用ではないのだが。



その時も、やはりエレベータは無人のまま動き続けていた。



時刻にして午前0時を回った頃から、そのエレベータは異常な動きを始めた。



その為、住民の中で、それ以後の時間帯に帰宅した者は、いつしか



非常階段で、自室のある階までのぼらなければいけなかった。



俺とAさんは、そのエレベータが何の目的でそんな動きをするのか、



見極める為に、そのエレベータに乗り続けた。



そして、何度か、扉が開くうちに、ドアの外は、明かり一つ灯っていない



漆黒の闇になっていった。



そして、ちょうど最上階でエレベータが停まり、通常よりも長い間、扉が



開いたままになった。



すると、Aさんが、



いよいよ、犯人が乗って来ますよ・・・・。



Kさん、覚悟してくださいね・・・・。



そう言ってきた。



そして、エレベータの中が急に寒くなった。



俺はAさんに言われて、エレベータの出来るだけ前の方に立っていた。



そうする方が、霊が現れやすいから、とAさんに言われたから・・・・。



そして、。ドアが閉まる。



得体の知れない緊張感がエレベータ内に広がっていく。



Aさんも、一言も喋らない・・・。



やはり、緊張しているのだろうか?



そう思っていた時、突然、背後から、



何階ですか?



という声が聞こえた。



Aさんは反応しない。



心配になった俺が、横を見ると、Aさんが肩を小刻みに震わせている。



ちょっ・・・ちょっと、Aさん・・・大丈夫なの?



俺は、その時、かなり不安感を抱いていた。



すると、また、



何階ですか?



という声が聞こえてくる。



しかも、先ほどよりかなりビブラートがかかった低い声で・・・・・。



と、その時、



あはは・・・あっ、もう駄目・・・・・・限界・・・・あははははははは、



というAさんの高らかな声が聞こえてきた。



あんた、もうちょっとまともな事言いなさいよ・・・・。



しかも、ちゃんとビブラートまで使って(笑)



何階ですか?って、私達が前に立ってるのにどうやってボタン押すの?(笑)



普通に考えれば無理でしょ?(笑)



もっと、ちゃんと、TPOに応じた話術を身に付けないとね(笑)



こんばんは・・・とか、はじめまして、とか、色々あるでしょ?(笑)



それとね・・・・エレベータの中、急に寒くするの、止めてね!



心臓にも悪いし血圧だってあがっちゃうし・・・・。



だいいち、それで私が風邪でも引いて、仕事休んだら責任取れるの?



と、大笑いの後、言いたい放題。



後ろを振り向くと、コートを着た女の霊が立っており、どうしたらいいのか、



分からない、といった表情をしている。



そして、再び、Aさんが、



それで、このエレベータで何がしたいの?



退屈でエレベータで遊びたいんなら、誰にも気付かれないようにやらなきゃ!



生きていると、エレベータを使わずに高層階まで上るのって辛いのよ。



だから、そのうちに、私みたいに優しい人じゃなくて、問答無用な強い霊能者



でも呼ばれたら大変だよ?



だから、出来るだけ目立たないようにやらなきゃ!



わかった?



ちゃんと忠告はしたからね!



そう言って、エレベータを1階まで降りさせると、さっさとエレベータから



出ていった。



勿論、俺も・・・・。



そして、それからの帰り道、Aさんに聞いてみた。



いつも、あんな風に幽霊をからかってるんでしょ?と。



すると、Aさんは、



別に、どんな相手にもあんな対応するわけないじゃないですか?



エレベータにあの女性が入って来た時、あっ、この娘は良い子だ!って



思ったからですよ!



あの娘は、エレベータに乗ってるのが楽しいんです!



そして、出来れば、生きている人とも交流したがってる・・・・。



でも、それってなかなか難しいから・・・・。



だから、常に一定の距離を置いて、共存するしかないんですよ・・・。・



あの娘も分かってくれてると良いけど・・・・。



そう言っていた。



確かに、その女性は、ある意味ずっと無表情であり、茫然としている、



という感じだった。



しかし、それは取り越し苦労に過ぎなかった。



それから、そのエレベータでは、勝手に無人のエレベータが動き続けるという



事は無くなったらしい。



しかし、今でも、その女性はそのエレベータ、そしてマンションに存在



しているらしい。



Aさんが言うのだから間違いないのだろう。



だとすれば、きちんとAさんからの忠告を守っているということなのかもしれない。
  


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2018年11月10日

化け猫

化け猫と聞くと、どんなものを想像されるだろうか?



江戸時代に起きた化け猫騒動なる事件もそうなのだろうし、日本の古い



怪談映画などにも頻繁に登場しているモノも、まさに化け猫という



イメージなのだろう。



ただ、Aさんから聞いた話では、化け猫というのは案外身近に



いるものなのかもしれない。、



今回はそういう話である。



これは俺のバンド関係の友人であり、同時にAさんとも親しいという女性の



話である。



彼女は、昼間は事務員として働き、夜はスナックで働いていた。



目的はやはりお金という事になる。



昼間の仕事だけでは、良いマンションに住み、それなりの生活を維持出来ない。



それで、昼間の仕事と夜の仕事を両立しているという事だった。



ただ、良いマンションに住み、それなりの生活を維持したいというのは、



決して自分に対してではなかった。



彼女は独身であり、同居している家族はいなかった。



ただ、ずっと前から1匹の猫を飼っており、その猫こそが彼女の精神的な



支え、心の拠り所になっていた。



いつもは好き勝手に行動しているその猫も、彼女が落ち込んでいたり



悩んでいる時には、気が付けばいつも傍に居てくれる。



辛くて死んでしまいたいと思った時には、ベッドの中に入って来て一緒に



寝てくれる。



いつもは、決してそんな可愛い事はしないのに・・・・・。



そんな猫だったから、彼女にとって、その猫は、いつしか飼い主とペットという



関係を超越し、なくてはならない大切な家族、いや、それ以上のものに



なっていった。



そんな彼女に、ある日、彼氏というものが出来た。



どちらかというと派手なタイプで、同じバンド関係ではあったが、俺やAさんに



とっては、どちらかと言えば苦手なタイプ。



そして、どうやら、その猫もその彼氏の事が気に入らなかったらしい。



彼女がその彼氏を自宅マンションに連れて来ると、あからさまに嫌がらせの様な



事をした。



彼女が、その彼氏とのデートに出掛ける時には、何かと邪魔をして家から出ていかない



様にした。



彼女は、きっと、その猫が彼氏にやきもちを焼いているのだろう、と思っていたらしいが、



どうやら、そうではなかったようだ。



それから、しばらくして彼女はその男性と別れた。



暴力を振るわれた末の、破局だった。



俺もAさんも、あんな彼氏とは別れて良かったんじゃないの?



という程度に思っていた。



しかし、それから彼女の周りで怪異が発生する様になる。



彼女の自宅マンションに、一人の女が現れるようになった。



勿論、彼女にはその女に見覚えなど無かった。



そして、その見知らぬ女は、彼女が部屋でテレビを見ている時、食事を



している時、掃除をしている時、突然現れては、彼女を睨みつけ、そして



消えていった。



いつ、現れるかも分からないその女に彼女は恐怖した。



しかし、自宅マンションでの怪異はまだ軽い方だった。



彼女が会社で働いている時、突然、階段から突き落とされた。



振り返ると、まさに、その女が階段の上に立っていた。



駅の階段でも突き落とされ、バスの乗降口からも突き落とされた。



そして、極めつけは、彼女が路上を歩いている時、突然、彼女のすぐ前に



重たい鉄の棒が落下してきた。



そのどれもが奇跡的に軽症で済んだのだが、駅の時もバスの時も、そして



ビルの屋上にも、その女の姿があった。



さすがに、命の危険を感じた彼女は、俺とAさんに相談してきた。



その女はいったい何者なのか?と。



女性には優しいAさんは、すぐに彼女の自宅マンションへと向かった。



勿論、俺も雑用係として同行した。



そして、部屋の中を見回ったAさんは、



ああ・・・なるほどね。



確かに、そういう感じのする奴だからね・・・・。



と言ってきた。



そして、説明を聞くと、どうやら原因は、以前付き合っていた彼氏なのだという。



その彼氏がずっと以前、付き合っていた1人の女性が、暴力を振るわれた挙句、



自殺した。



その彼氏への想いを持ったままで・・・・。



そして、その自殺した彼女が、彼氏に近づく女性を恨み、そして呪い、自分と



同じ目に遭わせようとしているのだという。



それを聞いて、彼女は顔面蒼白になった。



そして、泣きながら、



何か手だてはありませんか?



私はまだ死にたくありません・・・・。



と訴えてきた。



すると、Aさんは、こう言った。



普通、こういうのにつきまとわれた場合には、除霊というのが一番てっとり早い



んだけど、でも、今回はちょっと、それは無理かもしれない。



はっきりいえば、その彼氏が生きている間は、何回除霊してもすぐに復活



してしまうから・・・。



かといって、その彼氏を殺すわけにもいかないし・・・・。



と言ってくるので、俺は、



それじゃ、打つ手無し?



と聞くと、Aさんは、少しだけクスッと笑ってこう言った。



あのね・・・・これは質問なんだけど、自宅マンションでその女の姿を見た時、



その女に何かされた?と。



すると、彼女は、



いえ、不思議なんですけど、自宅で、その女を見た時は、その女は絶対に



近寄って来ないんです・・・・。



すると、Aさんは、



やっぱりね・・・。



あのね…・打つ手はあるよ。



ほら、さっきからずっと貴女の傍を離れようとしない、その猫ちゃん。



きっとその女が現れた時も、ずっと貴女の傍を離れなかったでしょ?



それって、貴女を護っているって事!



その猫って、既に霊力的には化け猫になってるから・・・・。



だから、霊的なものはしっかりと見えてる。



そして、その女よりも遥かにつよい霊力を持ってるみたい。



それは貴女を護りたいという思いがそうさせてるの・・・。



だから、その猫が怖くて、その女は貴女に近づけない・・・・。



この私がこの部屋に来たから、貴女を護る為に、ずっと傍を離れないって



相当な強い想いだと思うよ。



元々、猫っていうのは霊とかそういうのが、はっきりと見えてるから。



その猫は、既にかなりの霊力を持った化け猫っていわれるものになってるから。



犬も猫も、そういう力が強いから・・・。



特に猫は護りに長けてる。



狐は妖狐になるまでに、かなりの年月が必要だけど、猫は案外早くて、飼い主の



愛情をしっかりと受けていると、10年かそこらで、化け猫になってしまう。



化け猫っていうと、妖怪ってイメージがあるんだけど、その殆どは普通の猫と



変わらないの・・・・。



でも、飼い主の危機の時には、しっかりとその霊力を使って、飼い主を護る。



そして、たとえ化け猫になっていなくても、その猫が死んだら、強い霊力を



持つようになって、それからも飼い主を守り続ける。



確かに飼っていた猫が死んでから、ずっとその猫の事ばかり考えて暮らしていると



それはその猫にとって負担にしかならないの・・・。



だから、



今までありがとう・・・・。



そして、これからも見守っていてね・・・・。



という感じで見送るのが一番良いのかな・・・。



そうしないと、猫はずっとあちらの世界に行けなくて辛い思いをしてしまうから。



肉体が亡くなって、あちらの世界に行かなくてはいけないのに、飼い主がずっと



悲しんでばかりいたら、その猫も、苦しまなければいけないから。



だって、それは、こちらの世界にもあちらの世界にも属せないという事に



なってしまうんだから・・・・。



勿論、我が子の様に大切に接してきた猫が死んでしまうと、その悲しみは



大き過ぎてなかなか立ち直れないのかもしれないけど、でも、それって



肉体が無くなったというだけで、その猫の魂とか思いというのは、必ず



この世に残されるから・・・・。



そして、飼い主に何かあった時には、その魂はすぐにこちらにやって来られる。



それだけの霊力を猫は持っているんだから・・・。



そう言うとAさんは、部屋の何か所かに、護符を貼って、



だから、私が何もしなくても大丈夫!



そのうち、その女も諦めると思うよ。



その猫に対して勝ち目が無いと分かったら・・・。



それまで、きっと、この猫ちゃんが貴女を護ってくれるから・・・。



これからも、ずっと・・・・。



そう貴女が死ぬまで・・・ずっと・・・・。



そう言って、さっさとその場を後にしてしまった。



その後、彼女に起こる怪異は少しずつ収まっていきやがて何も起こらなくなった



ということだ。
  


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2018年11月10日

増築を続ける家

ウインチェスター・ハウスというものをご存じだろうか?



まあ、こちらのブログを読みに来られる方なら、説明の必要も



無いと思うのだが・・・。



ウインチェスターといえば、有名な銃のメーカー。



西部開拓時代や南北戦争で、その名を馳せた、名銃と言って良いのかもしれない。



名を馳せたというからには、その銃で撃たれて命を落とした者も、凄まじい



数にのぼるのだろう。



だからといって、その銃を製造した者を恨んで死んでいった者が



本当に居たのかは分からないが、結局、会社の創業者をはじめ、



かなりの一族が、命を落としていった。



そして、残された未亡人は、霊媒師の助言に従って、死ぬまで38年間、



ずっと屋敷を増築し続けたという。



その助言というのは、銃で殺された者達の呪いによって、この家には



数多の悪霊が集まって来ている。



その悪霊から逃れるために、ずっと家を増築し続けなければいけない。



そういうものだった。



そのせいか、屋敷は、ただ増設を続けるのではなく、まるで忍者屋敷



もしくは、からくりの家の様に、その家を訪れた者が、わざと迷って



しまう様に、増築されていく。



行き止まりの階段、ドアを開けると、すぐに外になっている2階のドア、



そして、入り組んだ通路など、普通の感性ではとても作れないような



奇妙な家であり、現在は、アメリカの観光地の一つとして人気を



博しているという。



しかし、こんな奇妙な考えを持つ者は、アメリカだけではなく、



この日本にも実在するのだ。



その家は、北陸地方の片田舎にある。



勿論、アメリカのウインチェスター・ハウスなどと比べると、その規模は



比較にならない程小さなものだが、やっている事は同じ・・・。



悪霊や呪いからの防御に他ならない。



勿論、現在その家に住まわれている家族には関係のない事なのかもしれない。



しかし、ずっと昔の彼らの先祖が、大地主として、その地に君臨し、



農民たちを苦しめ、時には命さえも奪った事が、その呪いの始まり



なのだと教えられた。



その家では、現在、家主も普通の会社員であり、誰にも迷惑をかける



様な生活は一切していない。



しかし、現実として、その家は、今も毎日の様に増改築を繰り返している。



それは、廊下の突き当たりに隠し扉を作ったり、ダミーの窓やドアを



増設したり、玄関に見える場所が実は、家の中に入れない構造だったりと



本場アメリカに比べれば、簡素な増改築なのだが・・・。



中でも、家の中に地下へ続く階段を造り、その先が井戸の底へと続いて



いるという造りには驚かされた。



実は、その家の次男が、俺の知人の友人ということもあり、俺はこの事実



を知った訳だが、それなりに近所では有名な家らしく、その異様な



造りも相まってその家に近づく者はいない。



実際、その一族でも、全員がその呪いというものを信じている訳では



無いらしく、中には、そんな馬鹿げた事は止めてしまおう、と進言



する者もいるそうだ。



そして、実際に、その言葉に促されるように、一度、その家族はその家から



別の家に移り住んだ事があるそうだ。



だが、そうしたところ、やはり怪異が続き、原因不明の死を遂げる



者が出たそうだ。



それからというもの、その家族は、その家に戻り、増改築を続けている。



決して、裕福な生計ではないが、命を護るためには仕方のない事だと



諦めている。



そこで、俺は、いつものAさんにお出まし願った。



最初は、面倒くさそうに応じていたが、どうやらAさんもウインチェスター・



ハウスには興味があるらしく、詳細を話すと二つ返事でOKしてくれた。



そして、現地である、その家に伺ったのだが、知人の友人である次男は、



快く出迎えてくれたが、その他の家族の眼は冷たかった。



今更、何をするつもりだ・・・・。



余計な事は止めてくれ・・・。



そんな顔だった。



特に、その家の祖父母は、まるで敵でも見るような眼で俺達を



睨んできた。



俺は、何か、違和感を感じてしまったが、当のAさんはといえば、まるで



気にする様子も無く、まるで観光地にでも来たかのように、目をキラキラ



させて楽しんでいる。



そして、一通り、見終わった所で、俺と、その次男は、Aさんに聞いた。



本当に、こんな事で悪霊や呪いから逃れられるのか、と。



すると、Aさんは、笑ってこう言った。



そんな事少し考えてみればすぐに分かると思いますけどね。



この家には、呪いなんか存在していません。



それに、確かに悪霊は何体か存在しているみたいですけど、正直



外に出たがっている。



この家の構造自体が、悪霊を家の中から出られなくしてしまってるんです。



それに、地下に続く階段が井戸の底に繋がってるなんて、わざわざ



霊を呼び寄せているとしか考えられませんからね。



元々、誰に進言されて、こんな事を始めたのか、は知りませんけど、



もしも、呪縛というものが、この家に存在しているとしたら、それは



その誰かの進言を信じ込み、勝手に作りだした呪いというものに



縛られている事ですね。



だから、この家の霊を浄化する事はそんなに難しい事じゃありませんけど、



この家の住人達が、その呪縛から抜け出せない限り、何も変わらないし



空想の呪いは続いていくしかないんですよね。



人間って、気持ち次第でどうとでもなれるんです。



つまり、霊に常に狙われている。



だから、それから逃げなきゃ、と思っていたら、実際にそんな状態に



なってしまう。



でも、霊なんか、呪いなんか、受け止めて闘ってやる。



そんな気持ちを持てば、霊も呪いも、その殆どは近寄りません。



だって、悪霊だって、わざわざそんな厄介な相手を選びません。



そんな心の強い相手よりも、もっと簡単な相手を選びますから。



人間と同じですよ。悪霊だって・・・。



常に自分の目で見て、それだけを信じて、揺るぎない考えをしっかりと



持つ。



これは全ての事に言えるのかもしれませんけど、そうする事が出来れば、



迷いも恐れも無くなって、正しい道を進める。



誰かの言葉に動かされているようじゃ駄目でしょ?



だから、今の私には、この家に対して出来る事はありませんね。



そう言ってその場からさっさと立ち去っていった。



物事から逃げ続けると、更にややこしくなる。



誰かの言葉を鵜呑みにしない。



それは誰にとっても確かに大切なことなのかもしれない。



勿論、この世の中で生きていくうえでも・・・・。



俺はその時、そう感じていた。
  


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2018年11月10日

見守るもの

これは知人が体験した話。



彼女は小学生の時、両親が離婚した。



彼女の親権は母親が持つ事になり、母親との二人だけの生活が始まった。



どうやら、離婚した父親というのは、仕事はしっかりとするが、家に帰ると



彼女や母親に対してすぐに暴力をふるい、その暴力も酒が入ると更に



エスカレートしてしまい、命の危険を感じる事もあったらしい。



だから、母親との二人暮らしは貧乏ではあったが、彼女にとっては、



生まれて初めての平和で幸せな時間だった。



何もかもが手に入る様な生活ではなかったが、それでも彼女が一番欲していた



愛情というものを肌で感じる事が出来た。



しかし、それも彼女が中学生の時、終わりを告げる。



母親が突然、職場で倒れ、そのまま病院に搬送された。



そして、ICUに入れられてから、たった一日。



運命は彼女から母親まで奪ってしまう。



彼女は、東京に住む母親の両親が引き取る事になった。



しかし、彼女は完全に抜け殻のようになってしまい、更に祖父母も



郊外の小さく汚いアパートで生活していたらしく、彼女の生活は



更に厳しいものになった。



当然、中学校も東京の学校に転校する事になったのだが、それまでは決して



都会とはいえない地域にのんびりと過ごしていた彼女にとって、東京での



生活はまるで異次元のものだったという。



だから、学校にも馴染める筈も無く、彼女は学校で、出来るだけ目立たない



様に過ごそうとした。



しかし、祖父がかなりの貧乏だったこと、そして彼女のおどおどした態度は



格好の標的になってしまう。



そう、彼女に対するいじめが始まってしまった。



靴やカバンを隠される・・・・。



黒板に彼女に対する誹謗中傷が書き込まれる。



最初はそんな感じのいじめだった。



しかし、それでも、怒る事も泣く事もしなかった彼女に対していじめは更に



エスカレートした。



階段から突き落とされる・・・・・。



髪をハサミで切られる・・・・。



そして、体育の時間には偶然を装って彼女に対する暴力まで行われる様になった。



しかし、彼女は、やはり怒る事も泣く事も、そして先生に頼る事もしなかった。



先生に頼ったとしても、いじめをしている優等生達の言い分を信じるのは



目に見えていた。



それに、母親が死んだ時点で彼女は自分の人生に対して完全に自暴自棄に



なっていた。



自分の存在自体が周りに迷惑をかけているのだと自分に言い聞かせていた。



だから、彼女にはもう怒る気力も泣く気力も残ってはいなかったのかも



しれない。



そして、いじめに耐えて過ごした中学生活が終わり、彼女は高校に進学した。



彼女自身、成績はそれなりに良かったのだが、出来るだけ他の生徒と違う



高校に行けば、もしかしたら、いじめが回避出来るのかもしれない、と思った



彼女は、かなりランクの低い公立高校に進学した。



しかし、彼女のあては完全に外れてしまう。



やはり、ランクが低い高校の方がガラが悪い生徒が多かった。



それに、彼女と同じ中学からも数名がその高校に進学し、彼女の中学時代の



話を面白おかしく周りに話した。



すると、また彼女に対するいじめが、更に陰湿に、そして危険なものとして



始められてしまう。



制服のまま川に突き落とされた事もあった。



何人かの生徒に押さえつけられ、彼女を標的にしてドライバーをダーツ



よろしく、投げつけられた事もあった。



教室の2階の窓から無理やり飛び降りさせられた事もあった。



しかし、その頃から彼女の周りでは不思議な事が起こり場閉めた。



川に突き落とされた時、深い筈の川が、何故か彼女には足が着いてしまった。



まるで、水溜まりにでも落とされた様に・・・・。



バライバーを投げつけられた時も、彼女には1本のドライバーも当たる事は



なかった。



それは、どれだけ近い距離から投げ直しても結果は同じであり、彼女の体に



傷が着く事は無かった。



また、2階の窓から飛び降りさせられた時も、彼女は自分がそのまま死ぬのだと



確信していた。



しかし、足が少し痛かった程度でねん挫すらしなかった。



だから、いじめていた側も、意地になって、もっと高い所から無理やり



飛び降りさせたらしいが、それでも彼女が怪我をする事は無かった。



そのうち、



彼女は、呪われている・・・・。



悪魔に護られている・・・・。



だから、悪魔の子だ・・・・。



そんな噂が一気に広がったらしいが確かにそれだけの事をされて怪我ひとつ



しないのだから、そう思われても仕方無いのかもしれない。



そして、彼女は友達は相変わらず出来なかったが、それでも虐められる事は



無くなった。



それは、勿論、その噂のせいでもあったのだが、実はその他にも理由があった



のだという。



それは、彼女を虐めていた者達が、次々に悪夢を見たのだという。



その夢というのは、女性が夢の中に出てきて、じっとその者を睨んでいるという



夢であり、そして、それらの者は、自分が彼女に対して行ったいじめを夢の中で



体験させられた。



それも、いじめの被害者として・・・・。



川に落とされてそのまま沈みながら流されていき大きな滝に落ちていく場面



で目が覚めた者もいた。



ドライバーが自分の体にどんどんと突き刺さり、そして、最後に自分の目に



突きささる瞬間に目が覚めた者もいた。



学校の屋上から、突き飛ばされて地面へと落下していき、自分の骨と肉が



ひしゃげる音で目が覚めた者もいた。



そして、そのどれもが、その夢の体験者達に、凄まじい恐怖を植え付ける事になり、



それ以来、彼女には一切関わらなくなったのだという。



それからは、彼女は、孤独だが平和な高校生活を送る事が出来た。



そして、高校を卒業すると家計を助ける為に彼女はそのまま小さな会社に



就職した。



本当は事務職として働きたかったが、残業代で稼げる工場での勤務を希望して



それから毎日、彼女は工場で休むことなく真面目に働いた。



しかし、其処でも真面目に、そして寡黙に働く彼女を快く思わない者達がいた。



色々な蔭口を言い合い、在りもしない噂を流して彼女を孤立させようとした。



しかし、彼女は、それを知ってもやはり全く動じる事はしなかった。



これが自分に与えられた運命なんだから・・・・。



そう自分に言い聞かせて・・・。



ただ、彼女はそれまでの辛いとしか思えない人生で一度も自殺という事を



考えた事は無かった。



それは、母親がいつも言っていた事だったし、何より、もっと生きたい、と



言いながら死んでいった母親の姿を見ていた彼女にとって、自殺というのは



もっとも下劣な行為だと思えていたからだった。



実はその頃には彼女の祖父母は二人とも亡くなっていた。



つまり彼女は天涯孤独になっていた。



だから、彼女はその頃になると、いや、実はもっとずって以前から



なのかもしれないが、人間というものは、基本的に性悪なものであり、



友達も、そして結婚も、全てお互いを騙し騙されながら維持している



だけなのだと思っていたという。



だから、彼女は決めていたのかもしれない。



誰とも慣れ合わず、孤独に、そして目立たずに、この人生を生きていこう、と。



しかし、ある日、彼女は自分でも信じられない行動に出てしまう。



同じ工場内で働いていた先輩女性に怪我をさせてしまったのだ。



勿論、怪我自体はそれほど酷いものではなかったが、彼女の暴行事件は会社内で



問題になり、そして警察沙汰にまでなってしまう。



実は、彼女が暴力を振るったのには理由があった。



それは、休み時間、彼女が少し外に出掛けている間に、彼女の事を快く思って



いなかったその先輩女性が彼女の持ち物をロッカーから持ち出した。



そして、彼女が戻って来た時、それは、会社内の排水溝の中に投げ入れられていた。



そして、その持ち物の中には彼女にとっては最愛の亡くなった母親との写真が



入れられていた。



それを見た瞬間、彼女は自分でも訳が分からない程激昂し、気が付いたら



その先輩女性に怪我を負わせていた。



大袈裟に痛がり、泣き叫ぶ先輩女性の横で、彼女は放心状態で立ち尽くしていた。



それは、怒りから来るものもあったが、彼女自身にとって、自分がそれほど



感情を抑えられない人間なのだと、怒りに任せて他人を傷つけられる人間



なのだと知った事で完全に頭がパニックになっていたのだという。



警察から事情聴取をされ、そして家に帰る途中、彼女は決心したという。



自分の様な人間は生きている資格など無い、と。



だから、翌日、会社に行き、しっかりと謝罪し、そして辞職してから、1人で



誰にも迷惑の掛からない場所でひつそりと死のう、と。



しかし、翌日、会社に行くと、事情は大きく変わっていた。



同じ会社内で働いていた男性の1人が彼女を擁護する発言をしたらしく、それが



どんどんと広がっていき、その波は会社を飲み込んでいく。



そして、その流れの中で、実は彼女が真面目に働いていた事、そしてそれを



いじめていた者達がいた事、を見ていた者達がどんどんと声を上げた。



彼女はそれを見て唖然としてしまった。



どうして、この人達は私なんかを庇ったりするのだろうか?と。



結局、彼女は謝罪も、そして責任をとっての辞職もする必要が無くなり、そして



いじめていた者達は、別の職場へと移動させられた。



そして、その時、一番最初に彼女を擁護する発言をした男性からしばらくして



告白された彼女は、その男性と付き合いだした。



そして、交際は順調に進み、いつしか結婚の約束も交わす程になった。



その頃の彼女は、その男性の温かさに触れて少しずつ、他人を信じる気持ちを



持てるようになっていた。



そして、結婚式の前日、その男性は夢を見たという。



夢の中には、彼女にそっくりな女性が出てきて、深々と頭を下げて、



ようやく私の役目は終えられそうです・・・・。



娘を末永く宜しくお願いします・・・・。



と言ってから、スーッと消えていったのだという。



その話を男性から聞いた時、彼女は男性に母親の写真を見せた。



すると、夢の中に出てきたのは間違いなく母親だったという事が分かったという。



母親がずっと自分を守ってくれていた・・・・。



そう考えれば、それまでの不思議な体験は全て説明がついた。



それと同時に彼女は母親の死んでからも変わらない愛情に涙が止まらなかった。



それは、彼女のそれまで自分自身で作って来た殻を破るには十分過ぎる



ほどの涙だった。



それから、彼女は無事に結婚し、2人の子供も授かり、暖かく穏やかな



家庭を築いている。



それまでの辛い人生を取り返すように、これからも、彼女の人生が



幸せなものである事を願わずにはいられない。
  


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2018年11月10日

髪が伸びる人形

これは知人夫婦が体験した話である。



知人夫婦は俺の趣味関係の知り合いである。



趣味というのは写真撮影。



元々、彼らが出会ったのも偶然、撮影に出かけた土地だったというのだから、



まさにカメラが取り持つ縁というやつだ。



結婚してからも彼らのカメラ熱は冷める事は無く、いつも休みになると夫婦そろって



撮影旅行に出掛ける。



そして、持っているカメラや機材もプロ顔負けの高級な物ばかりだったから、



俺はいつもそんな彼らを羨ましく見ていた。



そんな彼らの撮影する写真にも、ごく稀に霊が写り込んでしまう事もあったが、



彼らは元々霊などというものは全く信じてはおらず、また、俺もそんな彼らの考えを



否定するつもりもなかったから、あくまで写真仲間という付き合いがずっと



続いていた。



そんな彼らにある日、子供が出来た。



元気な男の子だった。



それからというもの、彼らの撮影対象は風景や動物から、完全にわが子に



移っていった。



撮影旅行に出掛ける事もなくなり、家の中でわが子の愛らしい姿を撮影しては、



大きく引き伸ばし、家の中の至る所に貼っては、それを眺めるのが



何よりも幸せな時間になった。



そして、ある時、父親である彼が元気に育つようにと、大きな日本人形を



買ってきた。



それは、かなり高価な日本人形ではあったが、とても大きなものであり、早く



その人形を追い越す位に大きくなって欲しいという彼の願いが込められていた。



そして、そんな気持ちを知ってか、息子さんもその人形が気に入ったらしく、



それからは、スナップ写真はいつもその人形と一緒に写るようになつていく。



そして、そんな写真は、男の子が大きくなるに従って家の中を埋め尽くすほどに



なった。



彼ら家族は本当に幸せな時間の中にいたと思う。



そして、それはあまりにも突然だった。



小学校の2年生になっていた息子さんは、学校から帰り道、暴走した若者の



車に轢かれて亡くなってしまう。



それまで、全ての愛情を傾けていたものが、突然、消えてしまう。



その悲しみはとても計り知れないものだった。



彼らは仕事も手につかず、家の中でもお互いに会話すら交わさない生活に



変わっていった。



そして、母親は息子が大好きだったその日本人形をまるで我が子のように



可愛がるようになった。



食事の時も寝る時も、いつも一緒に過ごした。



そして、息子に語りかけるかのように、その人形にもいつも語りかけていた。



ただ、俺には一抹の不安はあった。



もしかして、その人形に邪悪な霊が入り込んでしまっていたら・・・。



そう考えた俺は、一度、その人形を見せて貰った事がある。



とても穏やかな顔をしていた。



まるで、彼らを温かく見守っているかのようだった。



それに、その人形が、ぎりぎりの所で彼ら夫婦の関係も維持出来ている力



になっていると感じた。



だから、俺は安心して、彼らの家を後にした。



しかし、ある時、一つの噂が耳に入る。



それは、その彼らの家にある人形が不気味すぎるというものだった。



髪が伸び、そして顔が以前とは違っているのだと・・・。



しかし、既に、その人形をこの目で見ていた俺は、何も心配などしなかった。



何故なら、その人形からは邪悪な気や、陰の気というものは一切感じなかった



のだから。



しかし、世の中にはお節介な人間もいる。



彼らの仕事上の知り合いの紹介という事で、とある霊能者という者が、



彼らの家に出向き、そしてその人形を霊視したのだという。



そして、その結果として、その人形は呪われており、悪霊が住み付いていると。



更に、そのままその人形を所有していると、彼らは命を落とす事になるのだ、と。



その人形を亡くなった我が子の代わりのようにして接していた彼らにとって、



それは寝耳に水といった感じだった。



全く信じられる話ではなかった。



そして、ちょうどその頃、時同じくして、彼らの息子さんを事故で死なせた



若者が、車を運転中に事故で亡くなってしまう。



そして、それは瞬く間に、その人形の呪いだと広まっていく。



さすがに、恐ろしくなった彼らは俺に誰か他の霊能者を紹介して欲しい、と



頼んできた。



そして、俺が紹介できる霊能者といえば、Aさんしか存在していない。



事情を話すと、Aさんは快く応じてくれた。



そして、彼らの家に行き、その人形を見た時、Aさんは、こう言った。



ふうん・・・・わかりました。



で、その霊能者という奴を此処に呼んで貰えますか?



と言ってきた。



2時間ほど待っていると、その霊能者という人物も彼らの家にやってきた。



そして、Aさんを見るなり、



ああ・・・あなたも霊能者ですか?



どうです・・・私の霊視に間違いは無かったでしょう?



と切り出した。



すると、Aさんは、笑いながら、



別に私は霊能者じゃありませんけどね。



でも、それでも分かりますよ。



この人形は呪われてもいないし、悪霊なんかが入り込んでもいませんから。



確かに、この人形の中には霊体がひとつだけ入り込んでいますけどね。



でも、それって、悪霊なんかじゃなくて亡くなった息子さんの霊ですから。



両親と離れたくなくて人形の中に入って一緒にいる。



そして、僕は此処にいるよ、と知って欲しくて髪を伸ばしたりする。



それって、何か悪い事なんですか?



亡くなっても子供が一緒に居たいと思うのは普通だし、そして現にこの人形の



中にいる息子さんが、こちらのご夫婦の中を取り持ってる。



それって、素晴らしい事じゃないんですかね?



人形の髪が伸びるから邪悪だ。



処分しないといけないって、どれだけ素人さんなんですか?



それに、本当にこの人形に悪霊がとり憑いているのだとしたら、貴方程度の



霊能者には絶対に祓えませんよ・・・。



人形っていうのは、それ程恐ろしいものなんですから・・・。



どうしても、悪霊がとり憑いた人形を祓ってみたいと仰るんでしたら、



今すぐに、そんな危険な人形を持参しますけど?



まあ、命の保証は出来ませんけどね・・・。



そう言うと、その霊能者はすごすごと退散していった。



そして、帰り道、俺はAさんに聞いた。



Aさんには、人形にとり憑いている息子さんが見えたの?と。



すると、Aさんは、呆れたようにこう返してきた。



あのですね。



あの男の子はとり憑いてなんかいませんからね。



ただ、両親の傍に居たいだけです。



だから、嬉しそうに笑ってましたよ。



きっと幸せなんだと思います。



そう言っていた。
  


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2018年11月10日

降霊術というもの

以前、俺の周りではこんなチャレンジが流行った事がある。



それは、、簡単な降霊術。



時刻は深夜1時~3時までの間ならいつでも良い。



ある物を机の上に置いて、部屋の明かりを消し、更に目をつぶってから、



独り言を喋るというだけ。



とても簡単であり、誰にでもすぐにトライする事が出来るというのが



ポイントだった。



ただし、必ず1人で行わなければいけないものであり、途中で止める事は



許されず、最後にはある物を、降りてきた霊の元に差し出し、お礼を言って



お帰り頂くという終わり方まで決められていた。



ある意味、こっくりさんに近いのかもしれない。



ただし、こっくりさんの様に間接的にコインなどを使って文字盤の上を



動かすというものではなく、霊と本当にコンタクトが取れるとかなり



噂になった。



しかし、その降霊術は、しばらくすると、すぐに誰もやらなくなって



しまった。



その理由は、はっきり言えば、その降霊術が本物であり、そして



危険極まりないものであったからである。



そもそも、その降霊術の話の元を辿ろうとしても、最初に言い出した者は



誰もいなかった。



その誰もが、



噂で聞いた。



という返答に終始した。



そして、結論として、それは、やってはいけない危険な行為として周知される



ようになったのだ。



そして、その降霊術が流行り出した頃、誰よりも早くそれを実践した者が



俺の友人の中にいた。



彼は、生粋の心霊マニアといえるほどの存在だった。



それまでに流行った、こっくりさん、を始め、深夜の合わせ鏡、ひとりかくれんぼ、



なども実際に実行したらしいが、結局、不思議な事が起きた程度で、実際の



例の姿を見る事は叶わなかった。



だから、自宅で深夜に暗闇で眼をつぶるだけ、という降霊術自体を、否定的な眼で



見ていたのだろう。



いわくつきの心霊スポットにいっても、なかなかお目にかかれない霊体と、そんなに



簡単に会える筈がないだろう・・・・と。



実はその降霊術で必要不可欠なものとされているのが、此処では品名は出さないが、



それなりに高価な物。



実際、安い物も存在しているが、使用する際には出来るだけ純度の高い



本物を使用しなければいけなかったのだが、彼はその点を疎かにした様だ。



彼は自室のアパートで、その日の深夜の決行に備えて昼寝をたっぶりとして、



夕方の6時に目覚めた。



そして、いつも心霊スポットに行く際に使用しているカメラやマイクを



部屋の中にセットした。



本来なら、映像や音声として記録する事は禁忌とされていたのに・・・・。



風呂に入り、夕飯を食べ、テレビを見ていたが、ふと思いついたように



Bという友人に電話をした。



それは、あくまで、自分がその日の深夜に件の降霊術を実行するぞ、と



いう宣言だったらしいのだが、どうやらBは本気で心配し止めたらしい。



それが、彼には滑稽だったらしく、つい悪戯心で、



もしも、明日の朝に俺から連絡が無かったら助けに来てくれないか?



その時にはもう手遅れかもしれないが・・・・。



と思わせぶりな事を言ったらしい。



かくして、時刻は午前1時を少しだけ回り、彼はいよいよ件の降霊術を



開始した。



カメラの録画をスタートさせ、彼は2人掛けのテーブルに座り、用意した



ある物をテーブルの上の自分の近くに置いた。



彼が用意したある物というのは、決して高価な物ではなかったが、それでも



この降霊術自体を全く信用していない彼にすれば、それなりに勿体ない



代物だったのかもしれない。



もしも、本当に何か現れたとしても絶対にこれだけは渡さないからな!



そんな事を思いながら、彼は部屋の明かりを消した。



一気に真っ暗になった室内は、それだけでも何かが現れそうな雰囲気だったが、



彼にしてみれば、



部屋を暗くして、あまけに眼までつぶって、そして眼を開ければ恐怖心から、



在りもしないものが見えるんじゃないのか?



と言いながら、自分も両目を閉じた。



ただでさえ暗い部屋の中で目を閉じた彼に見えているのは完全なる闇だけ。



そして、おもむろに彼は1人で喋り始める。



普通なら、ここでは日常の出来事などを話す事になっていた。



しかし、彼が話し始めたのは、霊というものに対して彼が常日頃から思っている



不満だった。



霊が頻繁に現れないのは人間を恐れているから・・・・。



霊の中で、人の前に現れるのは、レベルの低い低級霊だけ・・・・。



と好きな事を喋り続けた挙句、



そもそも、こんな降霊術で、霊など召喚出来るはずがない・・・。



という事まで1人で喋っていたという。



その時、彼の耳が酷い耳鳴りに襲われ、周りの音が全く聞こえなくなった。



そして、彼の経験上、そういう耳鳴りが発生するのは、リアルな心霊スポット



だけだと知っていた。



まさか・・・・・・。



そう思いながら彼はゆっくりと目を開けた。



そこで、彼の目に飛び込んできたのは、二人掛けのテーブルの向い側に座る



細い女の姿だった。



髪の毛は長く垂れ、そこから痩せこけた頬が覗いていた。



背筋を伸ばした座高は彼よりもかなり高く、その眼はギラギラとした嫌な



輝きを放っていた。



彼は、目の錯覚だと思い何度も目をぱちぱちとしたが、やはり、その女性は



間違いなく彼の向かい側に座り、彼の顔をじっと見ていた。



彼はさすがに恐怖を感じだが実は彼が霊というものを見たのは、その時が



初めてではなかった。



だから、彼は、こう思ったという。



これはチャンスかもしれない、と。



彼は、その女性に対して、



貴女は幽霊というものですか?



それとも、人間ですか?



どうやって、この部屋に入りましたか?



等と質問を続けたが、その女性は何も反応せず、ただ、彼の顔をじっと



見つめているだけだった。



勿論、彼にはその女性が生きている人間ではない事など既に理解していた。



何しろ、呼吸音どころか、呼吸している様な微かな動きも無く、ただ、蝋人形の



様にじっと動かなかったのだから。



そして、彼は次にこんな質問をしてしまった。



まだ死ぬには若い年齢に見えますが、どうやってお亡くなりになったんですか?と。



すると、その女性は初めて反応し、自分の手首を切る様な動きをしたという。



自殺か・・・・・・。



彼はヤバいと思ったという。



そして、その女性が自分の手首からもう一方の手を離したとき、ざっくりと割れた



様に切れた手首が彼の視界に入って来た。



ザクロの様に割れた手首からは血こそ流れてはいなかったが、そこにははっきりと



手首の骨が白く露出していた。



やはり、こいつ、手首を切ったんだ・・・・。



しかも、こんなに深く・・・・。



それはとても正視出来る傷口ではなかった。



こいつは、本当に自殺霊だ・・・。



そう思った彼は、すぐに、用意していたある物をテーブルの上で動かし、その女が



座るテーブルの向こう側に押しやった。



そして、



今夜はどうもありがとうございました・・・。



それでは、お帰りください!



とうつむき加減に言った。



そして、しばらく時間を置いてから再びテーブルの向こうへと視線を向けた。



これで、消えているはずだった・・・・。



ある物を差し出して、お礼も言った。



そして、帰ってくれるように頼んだ・・・・。



しかし、その女は間違いなく、まだそのテーブルに座っていた。



しかも、先ほどとは違い、顔が溶けたように腐乱していた。



彼は悲鳴を上げようとした。



しかし、その瞬間、その女の手は彼の手を掴んだという。



細く、ゴツゴツとした冷たい手。



その手が彼の手首を掴んで離さなかった。



逃げなければ・・・・・。



彼はそう思ったが、立ち上がろうとした瞬間、意識が遠のき、その後の記憶が



無いのだという。



結局、彼は、その翌朝、心配して彼のアパートまで見に来てくれた友人Bによって



発見され、救急車で病院に搬送された。



そして、Bが彼を発見した時、彼は風呂場の浴槽に手をダラリと垂らし、深くまで



切られた手首からは血が流れ続けていた。



手首には温かいシャワーがかかり続けていたという。



そして、病院で奇跡的に一命を取り留めた彼だったが、その後、警察からは自殺として



処理されたという。



ただ、彼の手首に付けられていた包丁による傷口は、骨まで達しており、医師からは



ここまで深い傷は見た事が無いと言われたそうだ。



結局、彼に関する話はここまでなのだが、その後もその降霊術を試した者達が



次々に自殺未遂として発見されることになり、そのうち、さすがに誰一人として



その降霊術に手を出す者はいなくなった。



文中に書いた『ある物』がなければ、この降霊術は絶対に実行不可能な為、


ここに書いてみた。



安易に降霊術をするべきではないという警鐘を鳴らす意味で。



だから、絶対にある物を調べたりして、実行する事が無いように願いたい。


その女に会いたくなければ・・・・・。
  


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2018年11月10日

天窓

これは知人女性から聞いた話である。



その女性は以前の勤務先の同僚であり、結婚して会社を辞めたのだが、



その後も仲の良かった数人での付き合いが続いている。



彼女が結婚したのは、小さいながらも住宅販売会社の社長さんだった。



そして、結婚すると、夫の方から二人の新居を建てようか、と提案があった。



勿論、彼女は大賛成し、土地探しと同時に家の設計に入った。



そして、その中で彼女がどうしても譲れなかったのが、寝室に天窓が



在る家に住みたいという事だった。



それは、彼女の幼い頃からの夢であり、天窓から星空を見ながら眠れたら



どんなに幸せだろう、という想いからだった。



土地探しも家の設計も全てが順調に進んだ。



そして、数ヵ月後には彼ら夫婦の新居が完成した。



そして、寝室の天井には、しっかりと天窓が備えられていた。



そして、実際に天窓から星空を見ながら眠ると、とても寝つきが良く



朝も幸せな気分で目覚める事が出来た。



そして、彼ら夫婦の新婚生活はとても楽しく幸せなものになった。



しかし、結婚生活にも慣れてきて仕事と火事の忙しさも重なってしまうと



なかなか天窓から夜空を見上げる余裕も無くなってしまう。



そのうち、彼女は寝ている時、いつも怖い夢ばかりを見るようになった。



いつも何か恐ろしいものに追いかけられる夢。



逃げて逃げても追いかけてくる。



そして、いよいよ追いつかれそうになった時、いつも夢から醒めた。



夫も心配してくれて、仕事を少し休んだらどうだ?と言ってくれた。



しかし、彼女はもしかしたら自分でも気付かないうちに生活の中で



ストレスを感じていたのかもしれないと思った。



そして、思い出したのが、例の天窓だった。



彼女は、その日、いつもより早めに1人で寝室に向かった。



1人きりで天窓から星を眺めていれば、きっとリラックスして眠れる。



そう思っていた。



ベッドに入り明かりを消す。



天窓からは綺麗な星空が見えるはずだった。



しかし、天窓は真っ暗で何も見えない・・・。



あれ?



そう思いながら、ぼんやりと天窓を見つめ続けた。



天気は晴れのはず・・・。



それならば、当然、綺麗な星空が見えるはず・・・・。



そう思って、彼女は半ば意地になって天窓を睨み続ける。



そうしているうちに、彼女の目が暗闇に慣れてきた。



すると、天窓の方で何かが動くのが見えた。



彼女は最初、猫でも屋根にいるのかな、と思ったらしい。



しかし、暗闇に目が慣れた彼女が見たものは決して猫などではなかった。



その天窓には、無数の顔が折り重なるようにしながら、窓の外から



ジッとこちらを見ていた。



彼女は思わず悲鳴をあげてしまった。



そして、その悲鳴を聞いて夫がバタバタとやって来た。



夫は明かりをつけて、妻の身を案じた。



しかし、彼女は夫の問いかけに対して、



窓!・・・・窓に何かいる・・・・。



そう返すのが精一杯だった。



そして、夫は彼女に言われたとおりに天窓を点検した。



しかし、何処にも何もいない・・・・。



きっと疲れてるんだよ・・・。



夫はそう言うと、そそくさとリビングに戻り、戸締りを確認して



2階の寝室に戻ってきた。



一緒に居てあげるから・・・・。



安心して眠るといいよ・・・・。



明かりはしばらく点けたままにしておくから・・・。



そう言われ、彼女はゆっくりと目を閉じた。



確かに疲れていたのかもしれない。



先ほどの恐怖も忘れてしまったかのように、彼女はすぐに深い眠りに就いた。



体はまるでベッドの中に深く沈んでいくかのように深い眠りだった。



しかし、彼女は夜中に目を覚ました。



部屋の電気は既に消されており、真っ暗になっていた。



時計を見ると、午前2時半を指していた。



頭がぼんやりとしていた。



どうしてこんな時刻に目を覚ましちゃったんだろう・・・・。



そう思いながら、彼女は再び、天窓のほうを見た。



天窓からは綺麗な星空が見えていた。



これこれ・・・これが見たかったのよ・・・。



そう思いながら、彼女はジッと目を凝らして綺麗な星空を見つめ続けた。



やっぱり私は疲れていたんだ・・・・。



だから、幻覚を見てしまっただけ・・・・。



そう考えていると、先ほどあれ程恐怖で固まっていた自分が滑稽に



感じられてしまう。



やっぱり天窓のある家にして正解だったな・・・・。



そんな事を思っていると、何処からか声が聞こえてきた。



こんな時間に誰だろ?



最初はそう思っていたが、どうやらその声はまるで自分の耳元で



囁いているように聞こえてくる。



あけて~・・・・・あけて・・・・あけて・・・・。



それは1人の声ではなかった。



男も女も、そして大人の声も子供の声も混じっていた。



ハッとして彼女が天窓を見ると、また先ほどの沢山の顔が天窓に



張り付いてガラスを指でコツコツと叩いている。



彼女は、急いで夫を起こそうとしたらしい。



そして、横を見ると、そこには寝たままの状態で顔を彼女の方に向け、



じっと顔を見つめている夫がいた。



彼女は、その顔が、いつもの優しい夫の顔ではない、と一瞬で感じ取った。



そして、そのまま固まっていると、夫はブツブツと言いながら



ベッドから起き上がった。



そして、



今開ける・・・・早く開けなきゃ・・・・。



そう言いながら、電動で天窓を開ける為のスイッチの方へと歩いていく。



ちょっと・・・ちょっと止めてよ!



そう叫ぶ彼女の顔を夫は一瞬振り返ってみたらしいが、何かとても



嬉しそうな顔をしており、それが逆に恐ろしく感じた彼女はそのまま



口を閉ざした。



すると、次の瞬間、夫が天窓のスイッチを押したのだろう・・・。



ウイーンという音とともに、天窓かゆっくりと開いていく。



その瞬間、幾つもの白い靄のようなものが部屋の中に入ってきて、



それはやがて人の形になった。



首から下はぼんやりと靄のようにかすれていたが、顔だけはどれも



はっきりとしており、それが、とても異様だった。



そして、それらの顔は、突然、スッと彼女が上半身を起こしている



ベッドのすぐ脇まで近寄り、彼女を取り囲んだ。



そして、何故か、その中に彼女の夫の顔もあり、彼女は恐怖のあまり



そのまま失神した。



次に彼女が目を覚ましたのは、明るい朝日が差し込んでいる部屋だった。



いつもの様に、彼女はベッドで寝ており、横には夫もスヤスヤと寝ている。



その後、彼女は夫を揺り起こし、昨晩の事を聞いてみたが、どうやら



全く何も憶えていないという事だった。



しかも、自分がいつ、ベッドに入ったかも憶えていなかった。



彼女は、夢であって欲しいと願った。



しかし、昨夜開いた天窓は、まだしっかりと開いたままになっていた。



結局、彼女は、夫に頼み込んで、その家を売りに出した。



そして、その家はすぐに売れてしまい、それから彼女たち夫婦は



アパートの一室で生活する事になった。



彼女はこう言っていた。



あいつらが、何物なのか、全く分からない・・・・。



でも、まだ、家の中に居る様な気がして・・・。



だから、家は売るしかなかった・・・。



次の購入者には、悪いけど・・・。



そう言って、申し訳なさそうな顔をしていた。
  


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2018年11月10日

キツネというもの

Aさんからこんな話を聞いた事がある。



それは今からかなり前になるらしいが、Aさんが修行をし、自分の能力に



覚醒する前の話だと言われた。



ただ、その当時も、人並み外れた霊力を持っていたらしく、実際、Aさん自身も



その能力に自信があったらしく、その筋では有名だったらしく、色々な



依頼が来ると、経験値を積む為なのか、そそくさと除霊に赴いていた。



そして、実際、その頃のAさんでも向かうところ敵無しの状態だったらしく



どんな悪霊が相手でも簡単に除霊出来る自信もあったらしい。



そんなAさんが、ある日、禁忌の場所に手を出してしまう。



其処は山の中にある古い祠であり、人が恐れ決して近付かない場所だった。



特にその祠が何か人に悪さをしたという訳ではなく、ただ、その近くを



人が通れず不便という理由だった。



しかし、その頃のAさんは、自ら進んで、その祠の浄化へと向かった。



知り合いに頼まれたというのもあったかもしれないが、もしかしたら、



自分の力に過信があったのかもしれない。



そして、浄化は簡単に終わる筈だった。



だが、ふたを開けてみれば、その祠にはとてつもない悪霊が数体棲み付いていた。



そして、Aさんは、その中の1体すら浄化出来ないまま、その祠から



逃げるしかなかった。



しかし、祠を荒らされた悪霊たちは、そんなAさんを許す筈も無く、不気味な



叫び声と笑い声を上げながら追いかけてきたという。



その時、既にAさんは、かなりの怪我をしていた状態であり、背後から迫りくる



悪霊たちの群れに、死を覚悟したという。



しかし、そんな山の中にお寺も無ければ安全な場所など存在しない。



いや、きっとどんなお寺があったとしても、きっさとそれは安全な場所と



なり得なかった。



それ程に、強力な悪霊たちだった。



そんな時、Aさんの耳に、



こっち・・・こっちにおいで・・・・。



という声が聞こえたという。



Aさんは藁にもすがる思いで、その声のする方へ走ると、そこには小さな神社



があったという。



Aさんの体力は既に限界に達していた。



だから、Aさんは、一か八かで、その神社に飛び込んだ。



そして、どんどんとAさんに近づいてくる悪霊たち。



しかし、次の瞬間、悪霊たちの動きが完全に止まった。



何かを恐れている・・・・。



そう感じたという。



確かに、悪霊たちは神社の敷地には近づいて来れないのがよく分かった。



そして、それらが恐れているものが何なのか?



Aさんは、じっと様子を窺っていたという。



すると、どうやら、その悪霊たちは明らかに2体の狐を恐れているように見えた。



もしかして、助かった?



と思った矢先、悪霊たちの中から、1体が凄まじい顔で突進してきた。



Aさんは、さすがに、マズイ!と思ったらしいが、その悪霊は狐に近付く事も出来ず



一瞬で消されてしまったという。



それを見た悪霊たちは、



あな・・・・悔しや・・・・。



と言いながら、何処かへ消えてしまったという。



そうやって難を逃れたAさんは、さずかにお礼を言わなければ、と思い、再び



その神社を探したらしいが、何処にもそんな神社を見つける事は出来なかったという。



そして、その話を聞いた時、俺は少し疑問を持ってAさんに尋ねてみた。



狐って悪いのばかりじゃないの?



それに、そんなに霊力が強いの?



もしかして、その神社だけが特別なんじゃないの?と。



すると、Aさんは、



いえ、私もそれから色々と調べてみたんですよ。



自分なりに・・・。



そして、今では色んな体験からそれが真実だと確信していますけどね。



狐って人間に悪さをするイメージが強いと思うんですけど、実はそうではないんです。



確かに、そんな悪さをしたり憑依したりする狐もいるのは事実ですけど、それって



全体から見れば、ごく僅かなんです。



ほら、いつも姫ちゃんにくっ付いてる狐がいると思うんですけど、まあ、あれは



規格外というか、ケタが違うんですけどね。



あれはもう神の領域にいるモノなので・・・・。



そして、まあ、その九尾の狐にしても、



良いモノもいれば悪いモノもいます。



その辺は人間も同じですよね。



それじゃ、稲荷神社にある2体の狐は、どうか、というと、狐の中でも結構な



地位にあって霊力も高いんです。



確か、白狐といわれる透明の狐だったと思います。



まあ、神社で祀られている神様の眷属として仕えている訳ですから、位が



低く弱い訳がないんですけどね。



そんなんじゃ神様をしっかりと護れませんから・・・・。



小さな神社でも良いんです。



ちゃんと神様が敬われ祀られている神社なら、そこにちゃんと眷属である



白狐もいますから。



だから、もしも、怪異で何かから逃げる時には、稲荷神社に逃げ込むのが



てっとり早いかもしれません。



殆どの悪霊は、神社にいる狐にはどうやったって近づけませんから。



実際、怖いですよ。



狐って・・・・。



狡猾でずる賢くて桁外れに霊力も高い。



出来る事なら対峙したくはない相手ですかね。



まあ敵に回すと・・・・ですけどね。



ただ、それが味方の場合はとても頼もしい存在に変わりますから。



そう説明された。



そして、俺は更にこんな質問をした。



Aさんがピンチだった時に現れた神社って、やはり神様が助け船を出して



くれたっていうことなの?と。



すると、Aさんは、



神様かどうかは分かりませんけど、でも、間違いなく何かが私を助けてくれた



のは間違いないと思いますよ。



まあ、今の私には必要ありませんけど・・・。



と返してきた。



だから、俺はこう聞き返した。



助けられた時に、神社が見つからなかったって言ったけど、その後、ちゃんと



お礼はしたの?と。



すると、Aさんは、少し不機嫌な顔になって、



いいえ、お礼は言えませんでしたね。結局・・・・。



だから、私は今でも狐とは相性が悪いのかもしれませんね?



まあ別に良いんです。



私はKさんや姫ちゃんみたいに強い仲間や守護霊がいなくたって何とかなりますから。



だいたい、霊力も無いKさんが、姫ちゃんに付いてるあんな凄い面々と会っても



無事でいられる事自体、奇跡なんですけどね。



それを、いつもヘラヘラしてぼーっとして、平気ですぐ傍にいる。



Kさんこそ、ちゃんと守護霊に毎日土下座手もしてお礼を言わないといけない



んじゃないですか?(笑)



と言われてしまった。



俺は改めてそんなに強力な守護霊に守られているのだと実感した。



そして、その時初めて理解できた。



どうして、姫に付いている狐が、Aさんに全く近寄ろうとしないのか、と



言う事を。
  


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2018年11月10日

生まれ来る命というもの

以前、こんな事があった。



俺の知人夫婦が、結婚してずっと出来なかった子供を授かった。



2人は毎日、その生まれてくる子供の事だけを考えて過ごしていた。



カレンダーにも出産予定日を大きく囲み、指折り数えてその子供が生まれて



来る日を待った。



性別が女の子だと分かった時には、二人で必死に勉強して良い名前を



用意した。



そして、予定日より少し早く帝王切開で取り出す事が決まった。



誰もが、その子供の誕生を疑わなかった。



しかし、運命というのは過酷なもので、その子供は出産中に亡くなってしまい、



生まれてきた時には、その子供は既に息をしていなかった。



何度も蘇生を試みる医師だったが、再び、その子供の心臓が動き出す事は



無かった。



夫も妻も、病院を責め、そしてお互いを責めた。



そうするしか、自分の気持ちを保ち続ける術が思いつかなかった。



夫は生活の為に、仕事には出掛けていたが、妻はとても働く気持ちになど



なれなかった。



それどころか、生活の為に、何とか自分を律して働いている夫を、冷たい



人間だと罵り軽蔑したという。



妻は毎日、家の中に籠り、生まれてくる筈だった子供の事ばかりを考えて



一日を過ごしていた。



そして、その頃からその家では不気味な現象が起こり始める。



家の中でラップ音が聞こえるようになった。



夜、寝ていると赤ん坊の泣き声が聞こえるようになった。



妻はまるで夢遊病者の様にその声が聞こえる方を探しまわったが、当然、何も



見つかる事は無かった。



そして、家の中をまるで赤ちゃんが這っている様な音が聞こえる事もあった。



その度に、家中を見て回ったが、そこには誰の姿も見つかる事は無かった。



そして、それからも家の中では、無言電話が鳴りだし、家の玄関のチャイムが



押された。



そして、その度に、



もしかしたら、私の赤ちゃんが戻って来てくれたのかもしれない・・・。



そう思い、電話にもすぐに出て、玄関のドアのすぐに開けるのだが、そのどれもが



悲しみを増加させるだけだった。



そして、ある日、家の中で、家事をしていた妻が階段から何者かに突き落とされた。



階段を落ちていく瞬間、妻ははっきりと赤ちゃんの姿を見た、と言い、かなりの



怪我を負いながらも、その出来事を喜んでみせた。



私の赤ちゃんが戻って来てくれた、と。



しかし、度重なる怪異に夫は、知り合いに紹介してもらった霊能者といわれる



人に、今、家の中で起きている事が一体何なのか、を診てもらったという。



すると、その霊能者が言うには、



この家を呪っている者がいます。



それは、この世に生れて来られなかった赤ん坊です。



このままでは大変な事になります。



大掛かりな除霊が必要ですが私が何とかしてみせます!



との事だった。



夫も妻も、その言葉を聞いた時、酷い衝撃を受けたという。



やはり、あの子は私達を恨んでいるのか、と。



しかし、その霊能者から提示された除霊費用が、数百万というものだった為、



即答は避けて、俺に相談してきたという事だった。



勿論、俺に何かできる筈も無く、いつものAさんに相談してみた。



すると、Aさんは、いつものように面倒くさそうに拒否を続けていたが、



俺の説明が進むにつれて、真顔で耳を傾け始める。



そして、全て聞き終えると、



本当に馬鹿な霊能者様がいるもんですね。



なんか、話を聞いてるだけでこっちが頭に来てしまいますね。



わかりました。



今すぐ行きましょうか。



そう言って、すぐに知人夫婦の家に同行してくれた。



そして、家に着くと、家の中を一通り見て回り、そして、彼らにこう言った。



本当に変な霊能者・・・いや、偽霊能者が多くて困りますよね。



でも、そいつの詐欺に引っ掛かる前に相談してきたのは正解でしたね。



いいですか?



この家は呪われてなんかいませんよ。



確かに、何かが怪異を起こしてるのは事実ですけど、それは死産した赤ちゃん



では断じてありませんから・・・。



きっと、失望のあまり生きる気力を失っていた奥さんに、悪い霊がつけこんだのだと



思います。



そういう負の空気をあいつらは好みますから・・・・。



そして、その悪霊から、この家を護っていたのが、亡くなられた赤ちゃんです。



大した力もないのに、お父さんとお母さんを守りたいという気持ちで・・・。



だから、私は、その赤ちゃんの手助けをしに来たんですよ。



その子の想いだけでは、護りきれそうにありませんからね。



そう言うと、バッグから水晶を取り出して、両手で上にかざした。



そして、



こういうのを私は絶対に許さないから!



と言うと、家の中が白い光に覆われていき、しばらくすると、その光は



静かに消えていった。



頭に来たので、浄化ではなく、消滅させました。



とAさんは、二人に告げると、その場に腰を降ろした。



そして、二人に説くように、ゆっくりと話し始めた。



この世に生れて来れなかった赤ちゃんが、自分達の事を恨んでるなんて間違っても



思わないでくださいね。



生まれてきてから誰かに殺された場合を除いて、そんな事はあり得ません。



だって、赤ちゃんだって分かってますから。



それが運命だって事を・・・・。



この俗世に生まれてくる前だからこそ、よりはっきりと運命を自覚しています。



それよりも、お母さんのお腹の中で幸せに過ごせた時間が、赤ちゃんにとっては



何より大切で貴重な宝なんです。



水子供養とか、そういうのも否定はしません。



ただ、生まれて来れなかった赤ちゃんに対して罪悪感を感じてずって悩み



苦しみ続けること。



それって、実は赤ちゃんも苦しめてしまうものなんです。



赤ちゃんも、早く転生の準備をしなくてはいけないのに、親がそんな感じだと



心配で上にのぼれません。



授かる筈だった我が子をずっと忘れずにいてあげる事はとても大切な事



なんですけど、必要以上に、その子の事ばかり考えていると、その子も



次のステップに進めません。



そして、そんな負の空気に満たされれば、今回の様に、悪いものに目を



付けられてしまう事にもなりますからね。



だから、冷たい言い方かもしれませんが、



今回は悲しい結果だったけど、次はちゃんと会おうね!



ごめんなさい。



それじゃ、また!



って、感じの方が良いのかもしれませんね。



そして、毎日一度は心の中で手を合わせて。その子の安らぎを祈ってあげる。



それで十分ですよ。



赤ちゃんも、お腹の中にいる時に、ご夫婦の愛情をたっぷり感じていますから、



普通なら次に生まれてくる子として、そのまま転生する場合も多いんです。



だから、お二人は次に授かった赤ちゃんにまた愛情を精一杯注いで



あげれば良いんですよ。



でも、普通は7日間で上にのぼらなければいけないんですけど、赤ちゃん、



特に生まれてくる前の赤ちゃんの場合には、もう少し長く母親の近くに



居る事が出来ます。



だから、その間に、元気な姿を見せてあげないと、赤ちゃんも上にのぼれず



困ってしまいますよ。



大丈夫です。



生まれて来れなかった赤ちゃんにも、ちゃんと次が用意されていますから。



そして、その子の魂が、そのまままた、同じ夫婦の元に来て欲しいと願うのなら、



少しでも、元気に明るく前を向いて進まないと・・・・。



そういう居心地の良い両親、特に母親の所になら、また、赤ちゃんも同じ



場所に生まれてきたいと思うでしょうからね。



それだけ言うと、Aさんは、その家を後にした。



そして、その帰り道、俺は聞いてみた。



本当に同じ両親の元に、その魂が生まれてくる事があるの?と。



すると、Aさんは、



勿論、ありまよよ。



それに見えませんでしたか?



あの母親に、ピッタリと赤ちゃんがくっ付いていたのを・・・・。


ちっちゃな手で必死にお母さんを護ろうとしていました。



だから、きっと、あの子はまたあのご夫婦の元に生まれてくることになるんだと



思いますよ。



そう言って少しだけ嬉しそうに笑った。
  


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2018年11月10日

初めて転倒した夜

大学時代は神戸で過ごした。



ただ、大学の2回生までは、借りていた寮の関係から、西区という



神戸という地名が持つ都会的なイメージとはかけ離れた場所で生活していた。



周りには緑が広がっており、はっきりと言ってかなりの田舎だった。



まあ、それでも、舞子からも近く明石駅からも近かったので、



全く不便の無い場所ではあったのだが・・・。



神戸で最初に驚いたのは、地震が多いという事だった。



実は金沢というところは地震がかなり少ない。



たまに、震度1くらいの地震があっただけで、翌朝の話題になってしまう



くらいだから、相当なものだ。



だから、最初に寮に入った時、頻発する地震に驚いてしまった。



思わず部屋から逃げ出して、寮の前にあるコンビニに飛び込んで、



今、揺れませんでした?



と聞くと、



え?揺れたけど、それがどないしたん?



と聞き返され、神戸恐るべし、と思わず思ってしまった。



それからの俺は、地震と金沢訛りによって苦しめられる事になった。



それはさておき、大学時代は、すぐにバイクの免許をとった。



今考えると、小学校、中学校、高校、大学といつも兄と同じ大学に



通っていた。



偶然と言えば、あまりにも不思議なものである。



再び、それはさておき・・・・。



バイクの免許は取得しのだが、やはり大きなバイクは高価であり、夏休みに



400ccのバイクを買うまでは、50ccのアメリカンに乗っていた。



確か、ヤマハのバイクだったと思うが・・・。



しかし、そんな俺とは対照的に、友達になった奴らは、すぐに400ccの



バイクを購入した。



実際、それはすごく羨ましかったのだが、一番困ったのは、そのバイクで



色んな所に行くのに、50ccの俺のバイクでは到底追いていくのがとても



大変だったという事。



ホンダCBX400、カワサキGPZ400、スズキGSX400R、ヤマハFZ400、



そして、ヤマハRZ350、という錚々たる当時のスポーツバイクに、50ccの



アメリカンバイクが追いていけるはずもなかった。



それでも、彼らは、文句を言いながらも、ペースを合わせてくれたり、ずっと



先の方まで行ってから、俺を待っていてくれたのだから、感謝しなければ



いけないが・・・・。



そして、俺が人生で初めてバイクで転倒したのは、ある夜の事だった。



その時、CBXに乗る友人が、夜景を見に行こうと誘ってきた。



時刻は既に、午前0時を回っていた。



エアコンの無い部屋の暑さに耐えかねていた俺は、その誘いに乗った。



バイクは駐車場から少し離れた所まで押していき、そこで初めてエンジンを



かけた。



50ccバイクの割にうるさい排気音の為に、いつも苦労させられる。



ギアをローに入れてゆっくりとバイクをスタートさせる。



田舎という事もあり、車の通りは殆ど無かった。



CBXに乗る友人も、目的はあくまで夜景を見に行くということなので、



俺の速度に合わせて走ってくれている。



住宅街を走っているか、やはり時刻が遅いせいなのか、道には誰一人



歩いていなかった。



自分のバイクのうるさいエンジン音だけが、やけに耳についた。



俺はかなり無理をして走っており、友人も決して速く走ろうとしていた



訳ではなかった。



しかし、排気量の差というのはやはり大きく、友人のバイクは少しずつ



離れて行ってしまう。



そして、閑静な住宅街を抜けて、いよいよ通り道にある、某大学の



近くを走っていた時、それは突然、俺の目の前に現れた。



ヘッドライトが照らす前方の道に突然、道路脇に一人の女が立っているのが



確認できた。



だから、俺は少しだけ右に寄ってその女から離れた場所を走り抜けるつもり



だった。



すると、その刹那、その女がおれのバイクに向かって飛び込んできた。



まさに一瞬の出来事だった。



その女は突然、俺の目の前の空中に浮かぶと、そのまま俺の前方に覆いかぶさる



様にしてハンドルにしがみついてきた。



俺はいったい何が起こったのか、全く分からなかった。



俺の目の前には、その女の顔が大きく視界を塞いでいた。



その女には眼球の無い眼と大きな口しか存在していなかった。



鼻も耳も眉も全てが欠落していた。



ただ、頭部には長い髪の毛が、ただ風になびいていた。



そして、その女の口が笑ったように見えた。



その瞬間、俺はヤバい、と思い、全力でブレーキレバーを握った。



タイヤのロックする音と、路面を滑るような音が聞こえ、次の瞬間、俺は



バイクとともに、路面の上を滑っていた。



焼けるように肌が痛かった。



暑いという理由でライダージャケットの腕の部分をまくっていたのを



俺は後悔した。



それと同時に、俺は恐怖していた。



まだ、その女はしっかりとバイクにしがみつくようにして前方視界を



塞いでいた。



それなりの速度で走っていたバイクは転倒してもその速度を落とすことなく



アスファルト路面の上を滑り続けていた。



俺は、体を無理やりひねると、バイクの蔭に身を隠すような体制をとった。



何故か、そうしなければいけないのだと思った。



そして、次の瞬間、突然、その女の姿が消え、俺の視界が開けた。



俺の目の前には、ガードレールの切れ目が迫っていた。



うわぁ!



ヘルメットの中でそう叫んだが、俺には滑り続けるバイクを止める事など



出来る筈も無かった。



バイクはそのままガードレールの下のコンクリート部分にぶつかって、そのまま



ガードレールに突き刺さる様にして止まった。



俺は痛みと恐怖で固まっていた。



ガードレールに突き刺さった自分のバイクを見て、涙がこぼれてきた。



前方を走っていた友人が慌てて戻ってくるのが分かった。



そして、俺に走り寄ると、



お前・・・よく死ななかったな・・・・。



まあ、生きててくれて良かった・・・。



あのバイクの様にガートーレールに突き刺さっていたのが、お前だったら、



間違いなく死んでたぞ!



そう言われて思わず、ぞっとした。



そして、ゆっくりと立ち上がった俺は、アスファルトの上に血の跡が続いている



事に気付いた。



ハッとして自分の腕を見ると、半袖のジャケットから出ていた部分が路面に



擦れて、俺の腕を削ったのだという事が理解できた。



結局、そのバイクはそのまま廃車になった。



そして、俺はといえば、アスファルトで削った腕には、路面の小石や砂利が



沢山入り込んでしまっていたらしく、それから、腕の肉が腐って削げ落ちて行き



腕の骨が露出する寸前までになってしまった。



その時の1日2回の病院での包帯交換と薬を塗る治療は、想像を絶する痛み



だったのを今も覚えている。



そして、俺はその後、ある噂を先輩から聞いた。



どうやら、その某大学の近くでは原因不明の死亡事故が多発しているらしく、



特にバイクに乗っている者は絶対に夜間は通らない道なのだということを。



勿論、その後、俺も二度とその道は通らないようにしていたが、やはりそれからも



原因不明の事故が多発しているのはよく耳に入ってきた。



そして、その事故はきっと、あの女が引き起こしているのだろう・・・・。



あの眼球の無い眼と大きな口しか存在していない顔の女が・・・・。



そう思えて仕方なかった。



そして、この話には後日談がある。



俺がその場所で人生初めてのバンクでの転倒を体験した日から1年も経たない



うちに、友人がバイクで亡くなった。



一緒に何度も六甲山へ走りに行ったりしていたが、とても速くそして何より



上手かった。



そして、その友人がバイクで事故死したのが、俺が転倒したのと同じ場所だった。



どうして、実家が灘区にあり、そこから大学に通っていた友人がそんな時刻に



その場所を走っていたのか、は分からない。



ただ、友人の葬儀に参列し、出棺前に最後の別れをさせて貰った際、友人の



顔を見た俺は愕然としてしまった。



その顔は大きくひしゃげ、そしてフルフェイスのヘルメットを被っていたにも



拘わらず、両目は潰れ、歪んだ大きな口が開いたままになっていた。



ただの偶然・・・なのかもしれない。



しかし、それ以来、俺の友人は誰もその道を利用する者は居なくなった。



それが、例え昼間であったとしても・・・・。



  


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2018年11月10日

トンネルで待ち合わせ

これは友人から聞いた話である。



その時、彼は心霊スポットとして有名な、とあるトンネルに



向かっていた。



そのトンネルは既に、離れた所に新しいトンネルが出来ており、車の



通行は全くと言って良いほど無かった。



実は、その時、彼は1人の友人とそのトンネルで待ち合わせをしていた。



やはり、1人きりで心霊スポットと言われているトンネルに行く勇気



など無かったし、動画の撮影も兼ねていたから、友人を誘ったのだという。



そして、時間帯は昼間にした。



実は、そのトンネルには照明という物が無かったから、さすがに夜に



行くには怖すぎる。



それに、その時は昼間の外の明るさと、トンネルの中の暗さを対比



させて撮影したかったのだそうだ。



そして、トンネルに到着した彼は車をトンネルの入り口近くの



空きスペースに停めた。



そして、友達が到着するのを待っていたという。



しかし、待てど暮らせど、友人はなかなかやって来ない。



もしかして忘れてるのかな?と思った彼は友人に電話を掛けた。



しかし、何度かけても何故か電話は繋がらす・・・・。



そして、彼が到着してから1時間ほどが過ぎた頃、彼は友人が



来ないものと諦めた。



そこで、彼は1人でトンネルの入り口へと近づく。



トンネルの中は予想通り真っ暗で彼の恐怖心を煽った。



やっぱり今日は止めておこう・・・・。



そう思って車に引き返そうとした時、突然、トンネルの向こうから



おーい・・・・おーい・・・・。



という声が聞こえた。



彼はハッとして振り返ると、トンネルの向こう側の入り口に誰かが



立っていた。



トンネルの長さは100メートル以上あったので、細かい部分は



分からない。



ただ、その声は、どう考えても約束していた友人の声だった。



相変わらず、こちらに向かって手を振りながら



おーい・・・・おーい・・・



という声が聞こえてくる。



あいつ、もしかしてトンネルの反対側から来たのか?



そう思った彼は、トンネルの向こう側に立つ相手に向かって、



○○か~?と聞いた。



すると、その声は、



あ~、そうだよ。ごめん・・・遅くなって・・・・。



ところで、怖いからお前が、こっちに来てくれないか~?



と言ってくる。



しかし、怖いのは彼も同じだったから、彼は



お前こそ、早くこっちに来いよ!



こっち側の入り口で待ち合わせしたはずだぞ!



と返した。



すると、向こう側の友人は、



それなら、二人同時に進んで、真ん中で落ち合うのはどうだ~?



と言ってくる。



彼は、仕方なく、



分かったよ!



これから、そっちに向かうから、お前もスタートしろよ!



そう言うと、トンネルの中へと入っていった。



向こう側から、返事は無かったが、目視で確認すると、どうやら



友人も向こう側の入り口からこちらに向かってきている様だった。



トンネルの中は、とても寒く、10メートルも進むと、辺りは



完全に闇の中になる。



彼は持参した懐中電灯を取り出してスイッチを入れた。



大金をはたいて買った業務用の懐中電灯はかなり明るく、恐怖心も



少しは和らぐ。



相変わらず向こう側からは友人がこちらに向かって歩いている。



しかし、彼はその時、不思議な事に気が付いた。



懐中電灯を持っているからこそ、こうして足元を確認しながら



歩いていけるが、友人は懐中電灯すら点けていない。



そんな状態で、歩いてこられるものなのか?と。



彼は既に入り口から30メートルくらいは進んでおり、友人との距離は



後50メートルくらいしか無かった。



そして、彼は友人に声を掛けた。



こんな暗い中を明かりも無しに、よく歩けるもんだな?と。



しかし、友人は黙ってこちらに歩いてくる。



何かとても嫌な予感がしたという。



そして、その時、彼の背後から車が止まる音が聞こえた。



そして、間髪いれずに、



ごめん・・・遅くなって・・・・。



連絡しようと思って何度も電話掛けたんだけど繋がんなくて・・・・。



それは紛れもなく友人の声だった。



そして、彼はそこで当然、進むのを止めた。



恐怖で固まってしまったと言った方が正しいのかもしれない。



彼の頭の中には、



今、声を掛けてきたのは間違いなく友人だった。



だとしたら、前から歩いて来るのは一体誰なんだ?



そして、



そういえば、確かに、先ほどから違和感を感じていた。



友人は暗闇の中を無用心に歩いてこられる奴ではない。



そして、そんなに無口な奴では決してなかった。



そんな思いが頭の中で、ぐるぐると駆け巡っていた。



そして、次の瞬間、彼は、



うわぁ~



という大声を上げて、今歩いてきた入り口の方へと走り出していた。



トンネルの入り口では、友人が、



どうした?・・・・何があった?



と叫んでいる。



そして、その声に混じって、彼の背後からは、



タッタッタッ・・・・・・。



という何かが背後から追いかけてくるような足音が聞こえてくる。



ヤバイ!逃げろ!



彼は友人に叫んだ。



しかし、友人には何も見えていない様で、ポカンとした顔をしている。



彼はやっとの思いでトンネルから外に出ると、友人の元に駆け寄った。



後ろから誰かが追いかけてきてたんだ!



見えなかったか?



彼は友人にそう言った。



しかし、友人は、何も見ていないと言う。



そこで、彼は友人に撮影の準備をするように告げた。



そして、二人でカメラやライトを車から取り出していると、背後で



何かが動いた気配がした。



ハッとして二人が振り向くと、そこには、目の前にいる友人の顔に瓜二つの顔が



あった。



”顔があった”、と書いたのは、そっくりなのは顔だけで、首から下は、



黒い靄のようになっていたから・・・・。



うわぁ~



彼らはその場から走って逃げた。



車は、その場に置いたままだったが、そんな事を気にしている余裕は無かった。



そして、そこからしばらく走って振り返ると、そこには誰もいなかった。



彼らは恐る恐る、自分達の車の場所まで戻ると、車に乗ったまま、トンネルの



入り口までやって来た。



そして、前方をライトで照らす。



すると、向こう側のトンネルに誰かが立っており、



お~い・・・・お~い・・・・。



と大声で叫んでいた。



彼らはそのままバックして、各々の車に乗って、その場から急いで



走り去ったという。



そのトンネルで見たモノが一体何なのか、は分からないが、少なくとも



彼ら二人が一緒に見た、もう1人の友人の顔は、まるでコピーでも



したかのように、友人に瓜二つだったという。



ちなみに、友人が約束の時間に遅れたのも、そのトンネルに向かっている



途中、急に車が動かなくなってしまったということだった。



そして、何度も彼に電話を掛けたが、何故か、圏外表示になって



つながらなかったという事だ。



そして、どうして、ソレが友人の顔をして、彼の前に現れたのか・・・。



今でも分からないという事だ。
  


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2018年11月10日

無視し続ける男

彼の特技は絶対に相手に視線を合わせない事だそうだ。



そんな彼は常に霊というものを無視する事に徹している。



霊感が無い訳ではない。



むしろ、普通の人よりも霊感はかなり強い方だと思う。



では、何故、霊を無視するのか?



それは、彼の考え方に依るものらしい。



つまり、霊というものは決して物理的攻撃が出来る訳ではない。



だから、目を合わせない。



無視し続けてさえいれば安全だ・・・・。



そういう考えらしい。



まあ、確かに彼の考え方にも一理ある。


(ただ、実際に物理的な攻撃をしてくるモノも確かに存在するのだが・・・・。)



特に彼の場合、よく霊を引き寄せてしまう事も多いらしく、その経験



から、彼なりに考えだしたのが、霊が現れても徹底的に無視し続ける、



という事なのかもしれない。



そんな彼は、よく金縛りにあう。



最初の頃は思わず目を開けてしまったりして、怖い思いをいた事も



あるらしいが、最近では完全に寝たフリに徹している。



確かに、自分の体の上に誰かが乗っているのが分かったり、自分の



足を掴んで引っ張られる様な感覚があるらしいが、それも、為すがまま



になっていると、やがて収まるのだという。



執拗に自分が寝ている周りを歩き回ったり、耳元で囁きかけたりも



してくるらしいが、それも寝がえりを打ったりする動作で難なくクリア



出来るのだという。



外出した際にも、よく霊を見てしまう事があるらしい。



最初は思わず目が合ってしまったりして、後を憑いてこられる事もあったらしいが、



最近では、すぐに視線を逸らす癖がしっかりと身に付き、余程でないと



危険な目には遭わないという事だ。



そんな彼がある日曜日の午後、とるあ用事を済ませ、帰宅の途についていた時の事。



いつも使う国道は渋滞で全く動く様子がなかったので、彼は脇道に入り、



裏通りを走る事にした。



その道は裏通りとは言っても、道幅も広く、人の往来もかなり在るという見通しの良い



道。



一本、道を入るだけでこんなに空いてるのに、渋滞になんか巻き込まれていられない、



と思いつつ、車を快調に走らせていた。



すると、前方の歩道に誰かが車に向かって手をあげていた。



それが男性だったら気にも留めなかっただろう・・・。



しかし、そこに立っていたのは女性であり、スタイルもよくそして



顔もまさに彼の好みにピッタリの美人だったという。



彼は思わずブレーキを少しだけ踏んでスピードを落とした。



まさか、そんな綺麗な女性が自分に対して手を挙げる筈は無い、と思って



いたが、そんな美人は滅多に見られるものではなかったから、しっかりと



顔を見てやろう、と思ったという。



しかし、車が近づいていくと、どうやら、その女性は彼に対して手を挙げて



いるのだと分かった。



彼は不思議な気持ちで車を停めて、助手席の窓を開けて、その女性に声を



かけた。



どうかしましたか?と。



すると、その女性は、



すみません、何か急に酷いめまいに襲われてしまって・・・。



タクシーを拾って病院に行こうと思ってるんですが、タクシーが1台も



来なくて・・・・。



それで、駄目もとで、貴方の車に乗せて行ってもらえないか、と



思いまして・・・。



と言ってきた。



どうして酷いめまいがしているのに、平然と立って手を挙げていたのか?



という疑問は彼には浮かばなかった。



何しろ、彼の好みにピッタリの女性だったのだから・・・。



彼は二つ返事で、



良いですよ・・・・。



どうぞ、乗ってください。



病院まで送らせて貰いますから!



と返したという。



すると、その女性は、本当にすみません、と言いながら彼の車の助手席に



乗ったという。



彼は、乗るとしてもきっと後部座席だろう、と思っていたから、とても嬉しかった



という。



まるで、こんな綺麗な女性とドライブデートしてるみたいじゃないか、と喜び、



車を発進させた。



女性が告げた病院はそれほど遠くはなかった。



だから、彼は少しでも長くその女性を助手席に乗せて走っていたかったので、



出来るだけスピードを出さないように走った。



すみません…本当に助かりました・・・・。



女性にそう言われるて、彼も悪い気はしなかった。



いや、むしろ、これを機会に、この女性と付き合えたりしたら最高だろうな、



と思っていたほどだった。



だが、彼が思っていたよりも案外早く、女性が指定した病院が見えてきた。



その時、その女性が突然、



あの・・・すみません。



ちょっと急いで貰えますか?



と言ってきた。



彼は、



もう目の前なのに、どうして?



と思ったらしいが、その女性の言うとおり、車の速度を上げた。



その時、突然、助手席から、



視えてるし、聞こえてるんだね・・・・やっぱり・・・・。



そう聞こえてという。



先ほどまでの女性とは違う野太い声だったという。



思わず、助手席の方を見た彼の眼には、ボロボロに汚れた服を着た顔面の



割れた女が助手席に座り、こちらを見ているのが映った。



彼は固まった。



そして、その女の手が、彼が持つハンドルまで手を伸ばすと、一気に



ハンドルを助手席側に大きく切った。



彼の眼にはそれがまるでスローモーションのように映った。



そして、車が病院の敷地の壁に激突した瞬間、その女は助手席から消えたという。



彼は、そのまま、その病院に事故による怪我で入院した。



そして、事故による怪我とは別に、ずっと高熱にうなされ続ける事になった。



結局、彼はそのまま2か月以上、入院してようやく退院出来た。



相変わらず、彼は霊を無視し続けているが、道端で女性を見つける事が



あっても、それ以来、決して停まらない様にしているという事だ。
  


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2018年11月10日

彼女が遺したもの

これはAさんから聞いた話である。



Aさんの友達に幼稚園の保母さんをしている女性がいた。



同じ小学校、そして中学、そして高校を卒業して、同じ大学に入った。



しかし、それまでは彼女の事は意識した事が無く、初めて話したのは



大学に入ってからだという。



そして、話してみると、何故か2人は不思議と馬が合ったのだという。



どちらかといえば、冷たい印象のAさんだが、何故か彼女の前では



素直になれたという。



彼女自身は、おっとりしたタイプで誰にでも優しく接して、決して他人を



罵倒したりはしない。



まさに、Aさんとは真逆の人間性といえるのかもしれない。



それでも、二人はいつも一緒に居たのだという。



お互いが決して依存せず、それでいて繋がりは強い。



まさに理想的な関係かもしれない。



彼女とAさんは、大学でもかなり成績は優秀だったらしい。



スポーツをしても芸術面でも、そして勉強でも二人はまさに好敵手だった



らしい。



そして、好敵手といえるのはそれだけではなかった。



実は、その彼女というのが、霊感、いや飛び抜けた霊能力を持っていた



のだという。



それこそ、Aさんでも一目置くほどの霊能力を・・・・。



それは、Aさんもそうだったように、彼女も家系全体に霊感や霊能力に長けた



女性が多かったらしく、そんな能力があるという事自体、何も不自然に



思ってはいなかったようだ。



そして、やはり彼女もAさんと同じように永い家系の中でも、ずば抜けて



霊能力が強かった。



Aさんは、それをこう表現していた。



私達はまさに盾(たて)と矛(ほこ)の関係でしたね、と。



私が霊的な攻撃に長けているのとは逆に、彼女は防御に長けていたんです。



彼女の真似は私には出来ないし、私の真似も彼女には出来ない。



どちらが強いかなんて馬鹿な事を試した事は無いですけど、私と彼女が



タッグを組めば、それはもう怖いもの無しでしたね、と。



あのAさんに、そこまで言わせるのだから、きっと凄い能力の持ち主だった



に違いない。



勿論、大学を卒業してから、彼女は幼稚園の保母さんを目指して改めて



勉強を始め、Aさんは、そのまま教師の道に進んだ。



そして、お互いが別々の道を進むようになってからもAさんと彼女には



親交が続いていたようだ。



その後、Aさんは霊的な修行に励み、力をどんどんと増していき、彼女は



結婚して幸せな家庭を持った。



そして、すぐに彼女は妊娠した。



ただ、妊娠というものは女性の体質をも変えてしまうものなのかもしれない。



それまでは、絶対的な護りの力を有していた彼女の霊能力がどんどん弱まって



いった。



その原因が何なのか、全く分からなかった。



それでも、Aさんは、自分の時間を全て彼女に掛けるようにして、必死に彼女を



護った。



Aさんは言った。



それまで、付け入る隙を全く見せなかった彼女だから、その能力が弱まっていく



という事は、それまでに近寄る事が出来なかった悪霊たちが一斉に彼女を



ターゲットにしてしまうのだ、と。



そして、Aさんの言うとおり、彼女の体は悪霊に浸食され、そして



蝕まれていく。



それはAさんの力をもってしても防ぎようがない程に・・・・。



それまでは決して怪奇現象など起こった事も無い病院が明らかな心霊スポットと



化してしまった。



昼夜問わず、霊を目撃する者が続出し、夜ともなれば、当たり前の様に廊下を



歩いているだけで人外のモノにすれ違った。



それが原因なのかは分からないが、窓から飛び降りて自殺する事件まで起きてしまう。



そして、彼女の周りには、いつも何かがやって来たという。



それは看護師の姿をしている事もあれば、医師の姿、患者の姿をしている事もあった。



また、カーテンを閉めている窓からは、一晩中、ノックをする音が聞こえてきた。



だから、Aさんは、彼女の為に、ずっと病院に泊まり込むようになった。



しかし、それでも怪異は収まるどころか増え続ける一方だった。



その時、Aさんは自分の無力さを痛感したという。



いつも、悪霊を攻撃し撃退する事ばかりに専念し、防御というものを



学んでこなかった自分の愚かさを責めた。



そして、自分は彼女がいてこそ、初めて力を振るえていたのだと実感した。



彼女の体はどんどんと弱っていき、出産すら出来ないのではないか、という



状態になった。



しかし、彼女は頑として、子供を産むという選択をした。



それは、自分の命と引き換えになってしまう事なのかもしれないというのに。



そして、予定日より早く彼女は分娩室に入った。



かなり早すぎる時期ではあったが、彼女は医師たちを説得して出産に臨んだ。



そして、Aさんに、こう頼んだという。



無事に生まれてきたら、その子を護ってね、と。



もしかしたら、彼女自身が自分の死期を予感していたのかもしれない。



その言葉の通り、彼女はそれから間もなくして亡くなった。



無事に出産を終えると同時に・・・・。



その時、Aさんは、自分に言い聞かせたという。



これからは何があっても、ずっと彼女の子の傍を離れない・・・。



そうしなければ、生まれてきた子供まで悪霊たちに連れて行かれてしまう、と。



しかし、初めて、彼女の子を見た時、Aさんは、それが要らぬ心配だった



と気付いたという。



とにかく、生まれて間もない赤ちゃんが、それこそ凄まじい程の霊気を



漂わせていた。



悪霊など、全く寄せ付けない程の・・・・。



それはきっと彼女が自分の子供に託した力だと思うんですよ。



自分の死期を悟った彼女が、自分の子供に残してあげられる最大の遺産。



だから、彼女の子供は私なんかが護ってあげる必要なんて無いんです。



Aさんは、嬉しそうにそう言っていた。



その時の子供は今は父親と東京に住んでいるという。



だから、東京は何があっても大丈夫です!



だって、あの彼女の子がいるんですから!



そう言っていたのが印象に残っている。
  


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2018年11月10日

廃線路を走るモノ

これは知人から聞いた話。



知人とは仕事上の付き合いなのだが、何かと気が合って、たまに



一緒に飲みに行ったりしている。



そして、彼は能登に住んでいる。



能登は残念ながら交通の便が良いとは言えない。



車があれば全く問題無いのだが、バスや電車で行こうとするとその不便さには



閉口してしまう。



彼自身は、当然車を所有しているから問題無いのだが、彼の家は七尾市の



郊外に新築で購入したものらしく、喫煙家の彼としてはなかなか不便な



思いをしているそうだ。



それはやはり、家族の手前、家の中では煙草を吸う事が出来ないということ。



もっとも、そんな事はよくある話なのだが・・・。



ただ、彼の状況が少し他の人と違うのは、家のすぐ横に廃線になった列車の



線路がいまだに残されているということである。



確かに、能登に行くと、いまだにはっきりと線路が残されている場所が



多いのは以前から知っていた。



元々、七尾市で生まれ育った彼にとって、それまではそんな事など気にした



事は無かったという。



しかし、廃止された線路の近くに住んでみると、やはり少々不思議な事が



起こるのだという。



彼はもしかしたら霊感が強いのかもしれないが、よくベランダに出て



煙草を吸っているとかなり向こうの線路を列車が通っているのを何度も目撃



した事があるという。



勿論、それは夜間に限っての事なのだが、それでも、どこか頼りない明かりを



残しながら列車が走り過ぎていくのを見ると、まるで自分が別の世界にでも



紛れ込んでしまったかのように感じて恐ろしくなる。



そして、その話を家族にしても、誰も彼の話を信じてはくれなかった。



ただ、過去に何度か寝ている時、彼は振動の様なものを感じて目を開けると、



家の近くの線路を走っていく列車の音と振動がはっきりと分かったという。



そして、思わず蒲団から起き上がった彼が見たのは、蒲団に包まりながら



恐ろしそうな顔で目を開けている妻の顔だった。



その時、彼は感じた。



妻も列車の話を信じてはくれないが、間違いなく、その時は列車が通り過ぎていく



音と振動をはっきりと感じていたのだ、と。



それからは、少しだけ気が楽になったそうだが、一度だけ本当に恐ろしい体験を



したのだという。



そして、それはこんな内容だった。



その日、彼は仕事から帰宅し、いつもの様に食事と風呂に入って、いつもより



早い時間に床についた。



特別疲れていたという訳ではなかったが、何か気持ちが落ち着かなかったという。



そして、蒲団に入り目をつぶっていたがなかなか寝付けない。



それでも、2時間ほど布団の中でぼんやりと過ごしていると知らないうちに



寝てしまったそうだ。



そして、何故か真夜中に目が覚めた。



時計を見ると、午前2時半くらいだった。



彼は一度寝ると朝まで起きないというのが、自慢だったらしいのだが、



その時には何故かはっきりと目が覚めてしまったという。



妻は隣でいつものように寝ていた。



彼は、仕方なく煙草を持つと、そのまま寝室の横にあるベランダに行った。



勿論、煙草を吸う為に・・・。



ベランダに出ると、さすがに車が1台も走っていなかった。



それにしても、秋だというのに虫の音が全く聞こえてこない。



虫も寝てるのかな・・・・。



そんな事を考えながら彼は煙草に火を点けた。



肺の奥まで煙を吸い込んで、そして思いっきり吐き出す。



まさに至福の瞬間だった。



煙草の白い煙が秋の冷たい空気に溶けていく。



そして、その時、彼はずっと遥か向こうを走っていく列車の明かりの様なものを



見つけた。



もう、この地域には列車など走ってはいない筈だった。



いつもは気持ち悪く感じる、正体不明の列車も、その時の彼には、どこか



懐かしいものに感じられた。



あの列車は何処から来て、何処まで行くんだろうか・・・・・。



そんな事をぼんやりと考えながら彼は、その遠ざかる明かりを見ながら煙草を



吸い続けた。



その時、突然、彼は何かの視線を感じて、その場に固まった。



誰かに見られている・・・・。



しかも、一人や二人ではなく、もっと大勢に・・・・。



彼は恐る恐る視線を落とすと、そこには真っ黒な列車が線路の上で停車していた。



1度、視線をその列車に向けてしまうと、もうそこから視線を外す事は



出来なかった。



怖い筈なのに、どうしてもその列車を見てしまう自分がいた。



すると、列車の中には沢山の人が乗っており、乗客の殆どが彼を



凝視していた。



睨んでいるというのではなく、ただ、じっと見つめている様に見えた。



羨ましそうな眼・・・。



そんな表現がピッタリくる顔だった。



そして、列車に乗っているそれらの乗客は皆、同じ服装をしていたという。



藁の袋に穴を開けて着ている様な服装。



それが、まるで囚人服の様に見えて、彼は更に恐怖した。



それでも視線はどうしても外す事は出来なかった。



そして、そうやって列車の車内を見ているうちに、彼はある事に気付いた。



それは、列車の乗客の中に、周りのモノ達とは様子が違う人間がいる、



という事。



他の乗客たちはまるで生気の無い、死人の様な顔をしていたのだが、その中の



ごく少数の人間は、まるでその列車から逃げ出そうともがいている様に



見えた。



彼はとっくに煙草を吸い終えて、火が消えた煙草をただ口にくわえている



だけだったが、彼にはその煙草を口から離す事も、そして体を動かす事も



出来なかった。



そのまま、そんな時間がどれくらい過ぎただろうか・・・。



突然、その列車は静かにゆっくりと動き出した。



離れていく列車の窓からは沢山の顔がいつまでも彼の顔を見つめていた。



そして、もう列車の窓すら分からない位の距離まで離れた所で彼の体は



金縛りが解かれたかのように自由になった。



しかし、彼は体の力が抜けてしまい、そのまま茫然とその列車が見えなくなる



まで、見つめ続けていたという。



そして、そのまま彼は寝室に戻り布団に入ったが、朝まで一睡も出来なかった。



その時の恐怖で頭の中が混乱していた。



そして、無事に朝になったが、彼はその夜見た列車の事は家族には一切



喋らなかった。



別に信じてくれないから、という理由ではなかった。



何故か、その列車の事は、他の人に話してはいけないのだと感じたからだった。



ただ、その事があってから、彼は何度か同じような体験をした。



真夜中に目が覚めて、ベランダで煙草を吸おうと思い窓に近づいた時、何か違和感を



感じてカーテンの蔭から外を見ると、そこにはあの列車が停まっていた。



同じように生気の無い人達を乗せて、そして逃げ出そうと足掻いている



人を乗せて・・・・・。



そんな事が数回続いてから、彼はもう2度とベランダで煙草を吸うのを



辞めて、今では台所の換気扇の前だけが彼の喫煙場所になっている。



そして、彼は最後にこう言っていた。



きっとあの列車は俺の事を迎えに来ているんだと思う。



だから、今度またベランダで煙草を吸っていて、あの列車に出会ってしまったら、



その時には今度こそ、あの列車に連れて行かれてしまうような気がする、と。



そして、あの時見たように自分も、その列車から必死で逃げだそうと足掻いたまま



何処かへ連れて行かれるんだろうな、と。
  


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2018年11月10日

激流

これは友人から聞いた話。



彼は山や川などの動画を撮影するのが趣味だ。



しかも晴天だけではなく大雨や雷雨の中での撮影がとても好きなのだという。



人の力など全く及ばない程の凄まじい迫力を撮影していると、静かな時に



見せる表情とは違った自然本来の姿が見えるからだという。



自然とは本来、畏敬の存在であり、決して優しいばかりではない、というのが



彼がいつも言っている事。



そして、それはもしかしたら、以前、彼が撮影したこんな動画のせいなのかも



しれない。



その日は数日前から激しい雨が降り続いており、彼は増水し激しい流れに



なった大きな川を撮影しに行った。



良い場所を探して山の中を車で移動していた彼の前に、突然、川の中に



取り残された人が必死に流れに逆らいながら立ち続ける姿が現れた。



それは、どうやら前日からキャンプに来ていた二人組の男性であり、



既に現場には通報を受けたレスキューと警察が到着していたという。



そして、必死に救助活動を続けるレスキュー隊員達だったが、二人の男性は



なかなかその場から救い出される事が出来なかった。



様々な方法で二人を助けようと懸命に動き回るレスキュー隊員の甲斐も無く、



何度やっても、二人の男性を川から救い出す事が出来ない。



川の水面もどんどんと上昇していき、彼が見ているうちに、二人の男性の



胸元まで届きだした。



そのうち、男性2人は動くのを止めて川の流れの中にじっと立ち尽くすだけで



精一杯になった。



彼は必死にカメラのファインダーを覗きながらも、心の中で



頑張れ!・・・・頑張れ!



と、二人を応援し続けた。



彼は少し小高い丘の上から、その様子を撮影していたが、其処から見ていると



まるで二人の男性が川の中で何かを待っている様にも見えたという。



そんな筈はない、と思い、カメラをズームして二人の表情を見ていると、



諦めと、そして何かに陶酔している様な顔に見えた。



こんな状況でどうしてあんな表情が出来るんだろう?



彼はそう思いながら、ファインダーを覗いていたが、ある瞬間、二人男性が



少し笑ったような顔になったのだという。



そして、上流を見つめる二人。



彼も思わず、彼らが立ち尽くしている川の少し上流をカメラで追った。



え?



どうして?



彼はそう思ったという。



川の中を大きな着物のようなものが流れて来ていた。



それは、激流の中をまるで優雅に舞うかのように、川の中をヒラヒラと



流れてくる。



その場にいた全員の動きが止まった。



だから、彼はきっとレスキュー隊員や警察にも、その着物のようなものが



視えているのだと思った。



どうして、あんな着物が川の中を流れて来るんだ?



彼はそう思ってじっと、その着物をカメラで追っていたが、どうやらそれは



着物ではなかった。



着物を着た誰がが川の中を泳いでいる。



しかも、激流の中、ゆっくりと、そして確実にその着物を着たモノは、



彼ら2人の方へとユラユラと近づいていく。



女に見えた。



着物を着て優雅に舞っている女の姿に見えた。



少なくとも、彼の眼には・・・・。



だから、彼は、その姿を茫然とカメラの中に追った。



そして、それは彼がカメラを通して見ている前で、ゆっく撮り彼らに近づき、



次の瞬間、彼ら2人を水中に引っ張り込んだ。



嬉しそうに笑う女の顔。



そして、観念し絶望した様な2人の男性の顔。



二人は声を上げる暇も無く、一気に水中へと消えていき、そしてその着物と



一緒に下流へと流されていった。



まさに一瞬の出来事だった。



ずっとカメラで二人を追っていた彼は、カメラを通して起こった事実に



恐怖し体が固まってしまったという。



そして、すぐに下流が捜索されたが、結局、二人の水死体はそれから



2週間程経った頃、海へと続く河口付近で発見されたという。



そして、実は俺もその時撮影したというビデオを見せて貰った事がある。



すると、そこには、彼が話してくれた通り、明らかに人間の女に見える何かが



はっきりと映っていた。



激流に飲み込まれる男性の顔とは対照的に、本当に嬉しそうな顔をした女が・・・。



きっと、あの二人は何か川に悪さをした為に、連れて行かれたに違いない・・・。



山の主である、あの女に・・・・・。



彼はそうこわばった顔で、言っていた。



そして、これは後日談なのだが、その後、数ヶ月後に改めてそのビデオを



友人に頼まれて見せたところ、ビデオの映像からは、すっかりその女の



姿が消えてしまっていたそうだ。

それは、まるで、不自然な特撮映像の様に見えたという。



やはり、その姿を映像に残す事は禁忌なのかもしれない。
  


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2018年11月10日

危険なバイト

友人に危険なバイトばかり好んでやっている男がいる。



それは自殺や殺人が起こったいわくつきのアパートやマンションに



一定期間住み込むというものだったり、立ち退きを巡って争っている



場所に住みこんでヤ○ザさんと対峙したり、また何日間も泊りがけで



薬の治験のドナーになったり、と枚挙に暇が無いほどだ。



では、何故そんなに危険なバイトばかりを選んでいるのかといえば、



勿論、バイト料が破格なのだという。



実際、そんなバイトでかなり危険な目に遭った事も一度や二度ではないが、



それでもほんの数日間で、下手をすれば数か月分のバイト料が稼げる



危険なバイトというのは、彼の生活には無くてはならないモノになってしまっていた。



そんな彼がかつて経験した中で一番怖かったという話を聞かせてくれた。



それが、これから書く話になる。



ある時、彼の元に奇妙なバイトの話が舞い込んできた。



そこは係争地でもなく、心霊スポットでもなく、ただの古い洋館。



その洋館自体は既に空家になっているらしく、其処へ行って建物の窓を



全て開けてくるというだけ。



しもか、其処に行く人数には制限はなく何人で行っても構わない、という



ものだった。



それでいて、そのバイト料は破格。



彼はすぐにそのバイトに飛びついたという。



しかし、バイト料を独り占めしたい彼は、単独でそのバイトに出向いた。



彼も一瞬、嫌な予感はしたらしい。



なにしろバイト料が破格過ぎる。



しかし、そのバイトの依頼主が大手観光業者だったこともあり、バイト料自体は



確実に手に入る事。



そして、彼自身が霊感というものがまるで無く、たとえその洋館が心霊スポットだったと



しても、きっと自分には何も感じられず見る事も無いだろう、という確信が



あったのだという。



しかし、彼もわざわざ危険を楽しむ事はしない。



だから、夜を避け、ある日の午前中にその洋館に向かった。



その洋館は、街から少し離れた小高い丘の上にあった。



彼はその洋館の前に車を停めた。



しかし、その場所にはバイトの依頼主である大手観光業者も、仲介業者も



誰一人として来てはいなかった。



こんなんじゃ、本当にバイト料がもらえるんだろうか?



だいたい、俺が窓を開けて、そして後からそれを確認しにくるとしても、



本当に俺が窓を開けたのだと信用して貰えるのだろうか?



本当にいい加減だな・・・・。



そう思ったという。



しかし、そのバイトの仲介をしてくれた者は、いつも彼に仕事を回してくれ、



そして、その支払いに関しても信用できる相手だった。



だから、彼はそのまま洋館へと入っていく事にした。



事前に渡されていた大きなカギで、玄関の大きな扉の鍵を開けた。



とても重たいそのドアは、ギィーッと嫌な音を立ててゆっくりと開いた。



建物の中からは、かび臭い匂いがした。



洋館には電気の供給が止められている事を自然に聞かされていた彼は



背中のリュックから大きな携帯用のライトを取り出して、それを点けた。



ライトが建物の中を照らしだすと、そこには視界不良になる程の埃が



舞っているのが確認できた。



彼はすかさず、業務用のマスクを取り出すと、それを口にあてがった。



玄関のドアは万が一の為に開けたままにしておいた。



そして、ゆっくりと歩き出した。



歩を進める度に床からは大量の埃が舞いあがった。



彼は思った。



明かりも無く、埃で視界も確保できない・・・。



こんな危険な状態だから、きっと高価なバイト料が支払われるんだろうな、と。



1階は洋館らしく、応接セットが置かれ、シャンデリアが天井から下がる



広間の様になっていた。



彼はその広間の窓から順に開けていこうとした。



しかし、窓は異常に固く締められており、暗闇なのもあってか、なかなか



要領を得なかった。



そこで、彼は2階から窓を開けていく事にした。



2階なら少しは視界も確保できるかもしれない、と。



そして、絨毯が敷き詰められた階段をゆっくりと上っていく。



それにしても、こんな古い洋館の窓を開けるのがそんなに重要な事なのか?



そもそも、依頼主はこの洋館をどうしようというのか?



そんな事を考えながら階段を上っていくとちょうど階段の真ん中辺りまでのぼった時、



突然、バターンという大きな音がした。



彼は固まった。



そして、ゆっくりと振り返ると、やはり玄関のあの大きな扉が閉まっていた。



あんな重く大きなドアが勝手に閉まるものなのか?



彼はそう考えたが、それ以上に深刻な問題があった。



それは、建物の中が完全に真っ暗になってしまったという事だった。



右も左も分からない程の暗闇の中に彼が持っているライトの光だけが



伸びていた。



彼はそのままその洋館から逃げ出したくなっていたが、やはりお金の力



というのは凄いものだ。



彼の恐怖を一瞬にして払拭してしまう。



彼はそのまま階段を上っていった。



いざとなれば、階段を駆け下りてあのドアから飛び出せばいいだけ・・・。



自分にそう言い聞かせながら・・・・・。



階段をのぼりきると、そこには長い廊下が真っ直ぐに伸びていた。



そして、その一番奥に窓らしきものが見えた。



彼はゆっくりと歩を進める。



しかし、その刹那、ライトが突然消えてしまう。



うわっ!



彼は思わず声を出してしまった。



彼はライトのスイッチを何度も押したが全く反応が無い。



どうして、こんな時に・・・・。



辺りは完全に漆黒の闇となり視界は全く効かない。



これでは、前にも巣城にも進める筈が無かった。



だから、彼は必死に恐怖と闘いながら、自分の目が暗闇に慣れてくるのを待った。



視界が全く駄目になると不思議なもので人間というのは聴覚が異常に敏感に



なるらしい。



彼が暗闇の中で必死に我慢していると、何処からか囁くような声や、何かが



床の上を這っている様な音が聞こえてきた。



彼は必死になって自分に言い聞かせた。



気のせいだ・・・・・どうせおれには霊感なんか無いんだから、と。



すると、彼の目の前で信じられない事が起こった。



暗闇の中で、ゆっくりとドアが開き、そして、その部屋の中から漏れてくる



弱い明かりが廊下をぼんやりと照らしたのだ。



彼は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。



この洋館は空家になっているんじゃないのか?



確かに依頼された時も、そう説明されていた。



だとしたら、今、ドアを開けたのは誰なんだ?



そして、この洋館で何をしているというのか?



考えれば考える程答えは見つからなかった。



彼はしばらくその場に茫然と立ち尽くしていたがそれでも明かりが見えているのが



その部屋だけなのだとしたら、そちらに行ってみるしかない、と



覚悟を決めた。



視界が見えない中で唯一ぼんやりと浮かび上がったドアから漏れる部屋の明かり



を頼りにして、少しずつゆっくりと彼は進んだ。



誰かいるのかもしれない・・・・。



そんな気持ちが彼に出来るだけ音をたてないような歩き方をさせていた。



彼は何かにつまずきそうになりながらも、ようやくその部屋のドアまで



辿り着く。



部屋の中からはまるでレコードでも聴いているかのようなクラシック音楽が



聞こえてきた。



やっぱり誰かいるんだ・・・・・。



彼はドアのノブに手を掛けると、そのままゆっくりと、そして少しだけ



ドアを開いた。



部屋の中は、ぼんやりとした明りに包まれており、その中に一つだけ木製の



リクライニングチェアーが置かれており、そして、その椅子には誰かが



背中を向けて座っていた。



彼はまるで吸い寄せられるように、部屋の中に体を半分だけ入れると



あの・・・・すみません・・・・。



と声を掛けた。



しかし、反応が無かった。



彼は、ゆっくりと部屋の中に入ると、その椅子に向かってフラフラと



近づいていく。



そして、その椅子までちょうど2メートル位の距離まで近づいた時、突然、



リクライニングチェアーがくるりとこちらを向いた。



彼は絶叫していた。



それまで出した事の無いほどの大声で。



喉が潰れるのではないか、と思える程の絶叫で彼は叫び続けた。



その椅子には人間らしきものが座っていた。



最初は老人に見えたがすぐにそれは間違いだと気付いた。



まるでミイラのようにしわがれた女が、だらりと在り得ない角度まで首を



横に曲げながら彼を見て笑った。



まるで獲物がようやくやって来たとでも言わんばかりのギラギラした、そして



殺人鬼の様な眼で、それは間違いなく笑っていた。



そして、次の瞬間、その女の口が開き、何かを言おうとした。



と、その瞬間、彼の体は弾かれた様にその場から走りだした。



もう視界がどうこうと言っていられる状況ではなかった。



彼は自分を鼓舞する為なのか、うおーっと大きな声を出しながらドアを



飛び出し廊下へと転がり出る。



先ほどまで一切の視界が確保できなかった廊下がぼんやりと明るく



なっているように思えた。



そして、それと同時に彼は見てしまう。



廊下の両端に、立っている男女の姿を・・・。



その男女は、まるで、その洋館に仕えている使用人のように、真っ黒な服



を着こみ、まっすぐに立っている。



ただし、その顔は、腐乱したかのように、所々が緑色に変色しており、



その眼だけが彼の動きを追う様に動いていた。



彼は急いで起き上がると、そのまま階段めがけて走った。



怖かったが、それ以上に助かりたい気持ちが強かった。



廊下に並んだ男女は階段にも並んでおり、彼はその間を通り抜けて1階



へと駆け降りた。



そして、玄関のドアに向かって必死に走った。



途中、何度か転んだが、すぐに立ち上がりまた走り出した。



それくらいに命の危険を感じていた。



とにかく、この洋館から出なければ・・・・。



彼の頭の中にはそれしかなかった。



玄関のドアまで辿りついた彼はドアノブを掴んで力いっぱい回した。



しかし、ドアノブは全く動かない。



まるで何かで固められたかのようにびくともしなかった。



くそ!・・・・くそ!くそ!・・・・・。



彼は怒鳴るようにして渾身の力でドアノブを回す。



しかし、やはりドアノブは1ミリも動かなかった。



こんな事をしていたら捕まってしまう・・・・。



いや、殺されてしまうかもしれない・・・・。



そう考えると、彼は心臓が破裂しそうなほど早く波打っているのが分かった。



ここが駄目なら、他に脱出出来るところは?



彼は必死に考えた。



そして、先ほど広間の窓を開けようとした時、窓こそ開かなかったが、その造り



自体はそれほど頑丈なものには見えなかった事を思い出す。



そして、彼は窓の方へ移動しようと振り返った。



心臓が止まりそうになった。



其処には彼の目の前に立ち並ぶ様に、先ほどの女と、そして廊下に立っていた



男女が彼の顔を覗き込んでいた。



彼は再び絶叫しそうになったが、それよりも先に、彼の意識は一気に



失われた。



そして、それから、どれくらいの時間が経過したのだろう。



彼は暗闇の中で目を覚ました。



彼は何が起こったのかという事も考えようともせず、そのままドアノブに



飛びついた。



ドアノブは軽く回った。



彼は重い扉を一気に開けると、そのまま洋館の外に出た。



そして、急いで乗って来た車に乗り込むと、エンジンをかけ、



中からドアをロックした。



考える余裕など無かった。



早くこの場から逃げなければ・・・・。



それだけを考えていた。



すると、突然、前方がぼうっと明るくなった。



彼は思わずその明かりを見た。



そこには、窓から彼を見つめる無数の朽ち果てた顔があった。



どの顔も気持ち悪いくらいの満面の笑みを浮かべていた。



彼は、急いで車を発進させるとそのままその場から走り去った。



しかし、恐怖のあまりスピードを出し過ぎていたのかもしれない。



丘を下っている途中、ガードレールを突き破って、そのまま崖の下まで



車は落ちて行った。



彼は、その後、大きな音に気付いた近くの住民によって警察に連絡され、



そして、数時間後に救助されたが、体にはかなりの大怪我をしていた。



ただ、医者によると、事故による怪我とは到底思えない不可解な傷が体中に



付いていたという。



まるで、何か鋭利なもので体中をなぞられたように深い1本線の傷が



体中を埋め尽くしていたということだった。



彼は結局、バイト先から何故か慰謝料として、満額ではなかったが、かなりの



金額の見舞金をもらった。



そのせいか、彼は退院した後も、いまだに危険なバイトを続けている。



そして、体の怪我は治ったが、何故か体に付けられた1本線のの深く太い



傷跡だけはいつまで経っても消えないそうだ。



まるで、何かの目印の様に・・・・。
  


Posted by 細田塗料株式会社 at 09:27Comments(0)
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